聖女召喚された俺、嫌われスローライフを送っていたらいつの間にか好かれてました。

神崎ロクス

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聖女、邪な祈りをする

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 今日の夜は歓迎パーティが場内の一部の人間だけで行われる予定だ。そのころには俺も陛下とかカーテシーとか覚えて、識別できるようになっていた。チート漫画にある鑑定とかの魔法は使えなかったけど。くそっ。

 夜になってセイラさんにパーティ用の白い服に着替えさせられると、先導されて二階の一般階段があるところまで連れてこられて、豪勢で大きな扉がある前に立たされる。

 金の装飾に宝石をあしらった部屋の扉は盗む人がいるんじゃないかと思うほど豪勢で、でも入り口には衛兵さんがいた。衛兵さんは俺を見ると頷いて扉を開く。大臣夫妻や宰相さんなどお偉い人たちが楽しんでる中、セイラさんに先導されて玉座のかなり脇のほうにある席に座らされた。それでも豪華だけど、椅子。

 そうするとみんな口々にあれが聖女殿か、とか、女性ではないのか、とか口々に言い始める。やめて! 俺が男だからって聖女似合わないとか言うのやめて! 誰も言ってないけど!

 俺がそわそわしていると、ざわ、と空気が一変する。玉座の後ろのほうにある扉から王家一族が入ってきた。かわいいミレーヌ王女殿下もいる。久しぶりに見たなあ。でも俺では手が届かないんだろうなあ。

 玉座にトパーディオ陛下が、その隣に王妃殿下、第一王子のディーノ王子殿下。その両脇にどんどん座っていき、ミレーヌ王女殿下が俺の隣に座って、俺に向かって微笑んでくれる。め、女神だ。女神はこの世にいたんだ。

 一同に豪華なグラスに入ったワインが配られると、トパーディオ陛下が立ち上がって朗々とした声で告げる。

「皆の者。聖女祝福のパーティに足を運んでもらって大儀である。本日はめでたく、男性ではあるが若い聖女が我が国にも再び現れた。儀式ももう三回ほど済ませている。彼の働きに今後も期待しつつ、今夜は楽しい夜にしよう。乾杯!」
「乾杯!」

 部屋にいる全員が乾杯の合図をしたと思うと、ワインを一口飲む。俺も慌てて飲んだ。外国には貴族制度が残ってるなんてテレビで見たことはあるけど、実際見るとすごいんだなあ。親父とお袋も連れてこれたらよかったんだけど。仕方ないね。

 そんなことを考えていると、視線を感じた。そこには美しい微笑みを浮かべた、十六、七くらいのミレーヌ王女殿下がいた。俺はどきっとする。こんなかわいい子に笑いかけられたのはここに来てからだ。それがただ微笑んでるだけでも、かわいい子はかわいい。

「緊張してらっしゃるの?」
「い、いや。ミレーヌ王女殿下がかわいいなあって……!」
「まあ。でも、あなたにはテオお兄様がいるでしょう? 浮気はダメよ」
「え?」
「毎日通ってるって評判よ。どうやって氷の貴公子なんて言われているお兄様の気持ちを手に入れたのかしら。聞いてみたいわ」

 ちょ、ちょっと待て。テオ王子とは仲良くなりたいとこっちが思ってるくらいで、実際は嫌われてるんだけど。ミレーヌ王女殿下の向こうに身を乗りだしてこっちを見ているテオ王子殿下の姿が見える。絶対に恋をしている顔じゃない。すっごい睨んでる。

「すごく睨まれてますけど……」
「うふふ。きっとあなたがなにか気を引くようなことをしたからね。お兄様ったら、同性に恋だなんて……。ああ、今読んでいる小説の続きを早く読みたいわ。ちょうどいいところなの」

 え、ミレーヌ王女殿下って……腐女子だったの!? こっちの世界ではそんな単語浸透してないから言わないけど、マジかよ……腐女子かよ……玉の輿に乗れると思ったのに……。いやね、そう簡単に俺みたいな聖女以外は平凡マンがこんないい女の子と結婚できるとは、まあ、ちょっと期待してたけどさあ。

 そんな腐女子ミレーヌ王女殿下はヒートアップして、すぐそばの台にこの世界では貴重なジュースを置くと、俺の左手を両手で取って、目を輝かせて聞いてくる。

「ねえ、お兄様とはどこまでいったの? さすがにキスが最大でしょうけど。ねえ、意地悪しないで教えて?」
「いやいや、嫌われてるだけですって! そういう話になりませんか?」
「テオお兄様、あなたの話になると黙りこんでしまうから、てっきり……。ごめんなさい。わたしが考えているような関係ではないのね……」

 完全に落ちこんでしまったミレーヌ王女殿下を見て、俺は年甲斐もなく慌てた。テオ王子殿下は二十二歳。それも、貴族学園を首席で卒業するという超エリート。そんな男に失礼な態度を取ってしまって、暗殺計画が立てられるのも時間の問題なんです……。

 ……とは言えるはずもなく。とにかくミレーヌ王女殿下を笑顔にしたくて、俺は先手を打つ。

「大丈夫! 俺、テオ王子殿下と仲良くなりますから!」
「どうやって?」
「それは……そうだな……。なんかバーン! と仲良くなります! 大丈夫! 愛想笑いは得意ですから!」

 必死になって言うと、ミレーヌ王女殿下は笑って俺を見る。父親譲りの緑色の瞳は、輝いて見えた。

「本当ね? テオお兄様と仲良くしてくれるのね? よかったわ! 身内にこんなことを望んでしまうのはいけないとわかっているんだけど、貴方たちお似合いの気がするから……。絶対、絶対結ばれてね!」

 花が咲くような笑顔で言われるとどきっとする。かわいい。仲良くするならミレーヌ王女殿下とがいいなあ。でも、そのミレーヌ王女殿下が望んでるんだから、なんとかしてテオ王子殿下と仲良くしないと!

 俺は持っていたワインを台に置いて考える。そして思いつく。召喚されたとき、トパーディオ陛下から人の感情も操作できると聞いた。祭壇に立ってないから祈りが届くかわからないけど、やってみる価値はありそうだ。これも、これもミレーヌ王女殿下と仲良くなるため! 俺はロリコンではないけどな!

「俺、祈ってみます。テオ王子と仲良くなれるように」
「まあ。でも祈りには大量の魔力が必要だと……」
「ここは祭壇じゃないから効かないかもしれないけど、とにかくやってみるしかない! ミレーヌ王女殿下のためなら俺、なんでもできますよ!」
「まあ、嬉しい!」

 ミレーヌ王女殿下が大輪の笑顔を咲かせたのにデレデレしたあと、俺はやんわりミレーヌ王女殿下の手を離して、両手を組んでテオ王子のことを思い浮かべながら祈ってみる。テオ王子殿下の気持ちが変わりますように。

 瞬間、少量の魔力が体から抜けていく感覚がした。祭壇以外では祈ったことがなかったから、成功したのかもわからない。テオ王子殿下のほうを見ると、驚いた顔をしていた。そして俺を睨み、前を向いてしまう。……これ、失敗してない? ミレーヌ王女殿下はそれを見て、にっこりした。

「貴方の祈り、案外効いたのかもしれないわよ。テオお兄様は素直ではないから……。毎日お祈りをすれば、なにか変わるかもしれないわ」
「本当ですかねえ……」
「本当よ。聖女は奇跡を起こす存在。嫌われてる人を振り向かせることだって、できるかもしれないわ! そして……うふふふ」

 最後の笑いに若干引きつつも、俺は笑顔を浮かべておいた。なにが悲しくて男同士でちちくりあわなきゃならんねん!

 でも、ミレーヌ王女殿下の気を引くためだ。多少は仕方ない。最終的にはミレーヌ王女殿下と……うふふふ。

「なにか考えてない?」
「いいえ、なんにも」

 勘のいいミレーヌ王女殿下にバレないようににやりと笑って、テオ王子殿下を見る。すると視線が合って、ひえっと思って視線を逸らすと、珍しいものを見るようにじろじろ見られる。い、今は、今は見ないでください。男とちちくりあうのはごめんなんです。ミレーヌ王女殿下とおしゃべりしたいんです! 男! ノーセンキュー!

「あとで交換日記をしましょ。毎日なにがあったかお互いに書きあうの。素敵だと思わない?」
「すごく素敵だと思います!」

 ミレーヌ王女殿下と交換日記……ぐへへ、玉の輿の匂いがしてきたぜ。俺がミレーヌ王女殿下と結婚していい暮らしするんだ……。公爵家になるのもいいかもしれない。俺、まだここに来て二週間しか経ってないけど。

 とにかく、テオ王子殿下に効いているかどうかは明日確認しよう……と思っていたら、パーティの終わり際テオ王子殿下に呼び止められた。

「ミレーヌとなにを話していた」
「仲良くしましょって話をしてました!」
「お前の嘘は下手すぎる。そんなに目を右往左往させていたら隠すものも隠せないぞ?」
「えっ、うそっ!」
「冗談だ」
「テオ王子殿下の嘘つき!」

 それは置いておいても、なんの用だろう。ミレーヌ王女殿下はわくわくとした表情でこちらを見ている。くっ! ミレーヌ王女殿下のためだ!

「ミレーヌとなにを話していた。事と次第によっては……」
「テオ王子殿下と仲良くなれますように、って」
「……は? そのために、祈りまで使ったのか?」
「ミレーヌ王女殿下のたっての願いですから」
「ミレーヌ……余計なことを」

 余計なことじゃないやい! ミレーヌ王女殿下と玉の輿になるにはこうするしかなかったんだい! テオ王子殿下は軽く俺の頭を小突くと、言いながら扉のほうに戻っていく。

「ほどほどにしておけ。ミレーヌはああ見えて小悪魔だぞ」
「え……」
「二度は言わん。ゆっくり休め」

 なんか……。テオ王子殿下が優しくなった……? いやでも、ミレーヌ王女殿下を守るためともとれるし。機嫌がよかったのかもしれない。そうだ、そう思わないとやってられない。間違っても、祈りの効果とかじゃないと思う。だって、テオ王子だって魔法が使えるわけだし。

 俺の祈りの力を魔力で弾いてくれー! そうじゃないと俺の尻が、尻がぁ! ミレーヌ王女殿下と結ばれるために、尻の純潔はとっておかないと。

 そうして始まった交換日記。毎日ミレーヌ王女殿下が追加で部屋を訪れるようになり、そのたび祈りを強要される。俺の明日は……どっちだ……?
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