聖女召喚された俺、嫌われスローライフを送っていたらいつの間にか好かれてました。

神崎ロクス

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聖女、慰められる

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 その日の晩、セイラさんが夜になって去ってからベッドで考えていた。買い物は城の経費から出るそうだし、あんまり負担のかかるものはあげられない。それに形に残りすぎるものも、あんまりなあ。

 だから、花を一輪贈ることにした。セイラさんに聞いて、サスランという白い花を買ってきてもらって、渡すことにした。

 テオ様の部屋は、一番奥にあるトパーディオ陛下とライラ王妃殿下の部屋の二個手前にある。つまり、俺の隣だ。公務が終わった夕方の時間を狙って花を持っていくと、ちょうど部屋に侍女さんと一緒にお茶を飲んでいる最中だった。

「タケル、どうした」
「この前のお礼に……。花とか、好きですか」
「嫌いではないが……それが?」
「ええ。もっとあったほうがいいかとも思ったんですけど、かさばるといけないと思って」

 花を手渡す。テオ様は嫌がらずに受け取ってくれて、まっすぐに俺を見る。

「タケル」
「はい?」
「俺はお前が嫌いだ」
「は、はい」

 祈りが効いていると思ったのに、効いてなかった。落ちこむとともに、安堵する。テオ様は俺の祈りでおかしくなったんじゃないんだって。

「しかし、ミレーヌも困ったものだ。お前の恋心を煽りに煽っておいて、自分が満足した結果になったから捨てられたんだろう」
「……見てたんですか」
「だてに家族をしていない。ミレーヌは他人の恋に敏感で自分の恋には鈍感だからな。変な小説を読んでるせいだと思うが……」
「あの、叱らないであげてください。ただ夢見てるだけっていうか、若いだけだと思うんで」

 これは俺の本心だった。たとえバカにされて騙されていたとしても、前を向くことはやめない。騙された俺が悪いのであって、ミレーヌ王女殿下は年頃だ。そんなことがあってもいいんじゃないかと今は思うから。

 テオ様は椅子に座りながら、そういうところが嫌いなんだ、と言って立ち上がった。そして俺の目の前に立つ。あまりの身長差に見上げると、電魔法でついている照明と逆光になってテオ様の顔があまり見えなくなる。

「俺の体と精神のことだからな。お前が俺に対して小細工をしていたことは知っている」
「うっ……!」

 バレてた。じゃあ、優しくなったのはなんで? 術にかかったからじゃないのか?

「だったらなぜ態度が軟化した? という顔をしているな。お前があまりにも不憫で仕方なかったからだ。ミレーヌに叶わぬ恋をしていたから、黙って見ていただけだ。どういう結末になるか興味があったからな」

 うわっ、やっぱり性格わるっ! 花はあげたんだし、さっさと帰って──。

「待て、話はまだ終わってない。……そんな甲斐甲斐しいお前を見ていると、なんだか不憫でな。あのときの無礼も異世界に召喚された動揺と混乱からきているのだと考えた。その証拠に、お前は儀式はきちんとこなすし、勝手に外に出るようなお転婆でもなかった。だから、優しくしようと思った。あまりに不憫すぎてな」
「そうなんですか……!? 俺、テオ様ってもっと冷たい人かと思ってました!」
「そういうところは嫌いだ。調子に乗るな」

 ぺちん、と額を指ではじかれて、ちょっと痛い額を押さえると、ふ、と小さく笑った気配がした。あのテオ様が、笑った……!? ちょっと、写真撮らなきゃ! そうじゃないとこれもったいないよ!

「わ、笑った!」
「バカを言うな、俺だって笑うときはある。今回はお前の滑稽さにだがな」
「うーっ、意地悪!」
「意地悪で結構。……今後は騙されないことだ。ミレーヌには俺から言っておく。花は……しばらく飾っておこう。せっかくの花だからな」
「なんで」
「ん?」
「なんで優しくしたんですか? 冷たくすれば、俺はもっと傷ついてたのに」

 そうだ、いくらポジティブ人間の俺でも、そうされたら心も折れる。ポジティブにも限界はある。でも、テオ様はそうしなかった。そこには理由があるはずだ。テオ様は逡巡してから、ぽんぽんと俺の頭を叩いた。

「お前が実直に仕事をこなしているから、見直した。これだけで十分だろう」

 俺は、それだけでちょっと泣きそうになった。嫌いだと言う、でも、優しい。痛んでいる心にはそれだけで十分だった。俺、頑張ってテオ様に好かれるように頑張ろう。BLとかじゃなくても、仲良くなれるように実直に仕事頑張ろう。

「……わかりました。あんまり長居するのもあれなので、これで。おやすみなさい」
「ああ」

 セイラさんと一緒に部屋を出てから、俺は深呼吸をして両手でぱんぱんと頬を叩いた。もう大丈夫。ポジティブ全開の俺でいられる。とにかく今は、みんなに対等に接しよう。そうすればテオ様もわかってくれるはず。

 これから個人的に祈りを捧げるとするなら。みんな平和に、健やかに過ごせますように。そんなことを、祈ろうと思う。そうすればテオ様も認めてくれると思うし。

 夕食を部屋で取って、メイドさんたちが食器とかを下げるのにもありがとうを言ってみる。メイドさんは初めて言われた言葉にびっくりしていたけど、ありがたいお言葉です、と嬉しそうにはにかんだ。うん、これでいいんだ!

 セイラさんともお別れの時間がきて、俺はパジャマに着替えさせられたまま靴を脱いでベッドに入る。この欧州式な生活にも慣れてきた。手を組んで祈りを捧げる。俺の体から魔力が抜けて、霧散していく。今度は、テオ様に拒否されないといいけど。そう願いながら、俺は眠りについた。テオ様と仲良くなって笑いあう夢を見ながら。

 それから、俺はテオ様に嫌味を言われながらも仕事に励んだ。進んで祈祷するようになって、疲れるけど、毎日が充実していた。テオ様の目がどうなっているか、気が付かないまま。

 ある日、俺はテオ様の部屋に呼び出された。怒られるのか、と思ったけど。テオ様の顔は冷たいながらも目は冷たくはなかった。テーブルには俺が食べられないような高級なケーキが二つ置いてあって、俺は目を丸くする。

「これは……?」
「最近、頑張っているだろう。その褒美だ」
「褒美なら、陛下から十分……」
「休みだろう? 食事は城仕えのシェフが作る。栄養を考えた、それなりにうまい食事が。だが、こういったものは外から入ってきたシェフが作ったものでしか味わえない。……一緒に食べるのは嫌か?」
「……っ! 喜んで!」

 俺は一瞬で浮かれてしまった。テオ様が、ちょっと俺を認めてくれた。それが嬉しくて、手前の椅子にセイラさんが椅子を引いてくれるのに座る。様々なフルーツが乗ったケーキは甘酸っぱい匂いがして、おいしそうだ。

 テオ様の侍女さんがお茶を注いでくれる。テオ様の顔を確認すると頷いてくれたので、お茶を飲んでから小さめなデザート用のフォークを持って一口食べる。

 フルーツの甘いものと酸っぱいもの、生クリームと甘いスポンジが合わさって、とてもおいしい。でも、なんでこんないいものを食べさせてくれる気になったんだろう。視線を上げると、相変わらずひんやりした目をしたテオ様がそこにいる。

「うまいか」
「お、おいしいです。でも、こんないいもの……」
「お前を……タケルを認めたから招いた。近頃、頑張っているな。色欲にまみれず仕事に励む姿は、好ましい」
「あ……ありがとうございます!」

 テオ様に褒められた! やったぁ! 陛下と王妃殿下には常に褒められてるけど、嫌われてる人に褒められるってものすごく嬉しいんだなぁ! 初めて知った!

 俺が喜んでいると、テオ様は逡巡したようだった。なんだろう。まだなにか言いたいのかな? お説教なら、まあ、テオ様なら仕方ないかぁ。聞く姿勢になった俺を見て、テオ様が口を開く。

「お前はよくやっている。帰りたいなら、調べてやらないこともないぞ」
「えっ! それって、本当ですか!?」
「ああ。手がかりを探していてな。大規模な儀式が必要だし、必ず帰れるという保証もないが、空間を転移する禁術が最近見つかった。どうしても帰りたいなら、役目を終えたあと返してやらなくもない」

 俺は考えた。元の世界に今帰れば、何事もなかったように過ごすだろう。警察も家出で済ましてくれるだろうし、会社は探し直しかもしれないけど、まだ就職できないわけじゃない。でも。ここで聖女になって、生活して。楽しいって思ってしまったから。だから、俺もライラ王妃殿下のように帰らない。

「……いえ、いいです。その気持ちだけで」
「……合格だ」
「え?」
「ここで帰りたいと言っていたら、俺はまたお前を軽蔑するところだった。だが、ここにいると決めたんだな。その気概は、相当のものだろう。よって、お前を嫌っていた俺は、嫌いではなくなった。お前のこのアストレアへの献身を、好ましいと思う」

 今まででは考えられない賛辞だった。俺は顔をぱあっとさせる。

「ありがとうございます!」
「で、だ。俺ももう一つ気付いたことがある」
「なんでしょう」
「……非常に癪なんだが。お前を監視してるうちに、その。ミイラ取りがミイラになっていたみたいだ」

 それって、どういう……。考えて、すぐわかった。テオ様が俺のことが、好き? え、なんでそうなったの? 俺はなにもしてないのに。

「これは父上にも母上にも内密にする。だから、タケルも秘密を守れ。……そうすれば、優し
くしてやる」

 デレたあああ! テオ様がデレたあああ! うわあああ、どうしよう。告白こそ謎かけみたいなもんだったけど、俺、本当に告白されちゃったんだ……。で、でも俺の気持ちが追いつかない。だって、男同士だし……。

「男同士なのに、という顔をしているな。問題ない。元から聖女が女だったらそのまま結婚する流れだったのだ。今さら困惑するもなにもあるまい」

 覚悟が決まりすぎてて、俺はフォークを取り落とした。カタン、とテーブルに落ちたフォークがきらきら輝いているのが祝福してるようでなんか嫌だ。それから、遠回しな愛情表現が始まったんだ。
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