9 / 69
第3章:あたたかな灰の中で
第9話:灰に眠る記憶
しおりを挟む
台座の銘文を見つけたその夜。
リオたちは、崩れかけた家屋の一角を片づけ、焚き火を囲んでいた。
炎は小さく、やさしく揺れている。
リサは膝を抱え、その光を長い間じっと見つめていた。
「……わたしね、両親をここで失ったの」
ぽつりと漏れた声は、灰のように重かった。
リオとミナは黙って耳を傾ける。
リサは焔に照らされた横顔を崩さず、語り始めた。
「十年前、この街に大きな火事があった。塔が崩れて、鐘が落ちて……広場に集まっていた人たちは、ほとんど逃げられなかった」
彼女の瞳には、まだあの夜の炎が焼きついている。
焦げた木の匂い、悲鳴、崩れゆく家。
その記憶が、彼女をここに縛りつけていた。
「母は、最後に“灰を集めなさい”って言った。灰は、消えたものの証。忘れないために残すものだって」
リサの腕の中にある木箱。
そこには燃え残った布切れや破片、名前の刻まれた欠片が収められていた。
「でも……こんなことして、意味あるのかな」
リサは自嘲するように笑った。
「誰も帰ってこないし、誰も覚えてなんかいない。それでもわたしは、ここを離れられない。だって、忘れるのは……裏切ることだから」
沈黙。
火のはぜる音が、会話の代わりに夜を満たす。
『……彼女の想いは、灰と同じ。冷たく見えて、その奥には熱が残っている』
アウラの声が、リオの胸で囁いた。
リオは焔に手をかざし、静かに言った。
「……僕も、同じだよ。炎で大事なものを失った。でも、だからこそ忘れたくないんだ。忘れないで、守りたいって思うから――ここにいる」
その言葉に、リサは初めてリオの方をまっすぐ見た。
炎を背負う少年の瞳には、同じ痛みと願いが宿っていた。
「……君も、怖いのに、それでも?」
「うん。怖いままでも、歩いていける」
ミナが微笑み、そっと風を送り込む。
焚き火の炎が揺れ、柔らかな光が三人を包んだ。
「……なんだろう。少しだけ、楽になった気がする」
リサが呟いた。
灰に眠る記憶が、ようやく声になった瞬間だった。
リオたちは、崩れかけた家屋の一角を片づけ、焚き火を囲んでいた。
炎は小さく、やさしく揺れている。
リサは膝を抱え、その光を長い間じっと見つめていた。
「……わたしね、両親をここで失ったの」
ぽつりと漏れた声は、灰のように重かった。
リオとミナは黙って耳を傾ける。
リサは焔に照らされた横顔を崩さず、語り始めた。
「十年前、この街に大きな火事があった。塔が崩れて、鐘が落ちて……広場に集まっていた人たちは、ほとんど逃げられなかった」
彼女の瞳には、まだあの夜の炎が焼きついている。
焦げた木の匂い、悲鳴、崩れゆく家。
その記憶が、彼女をここに縛りつけていた。
「母は、最後に“灰を集めなさい”って言った。灰は、消えたものの証。忘れないために残すものだって」
リサの腕の中にある木箱。
そこには燃え残った布切れや破片、名前の刻まれた欠片が収められていた。
「でも……こんなことして、意味あるのかな」
リサは自嘲するように笑った。
「誰も帰ってこないし、誰も覚えてなんかいない。それでもわたしは、ここを離れられない。だって、忘れるのは……裏切ることだから」
沈黙。
火のはぜる音が、会話の代わりに夜を満たす。
『……彼女の想いは、灰と同じ。冷たく見えて、その奥には熱が残っている』
アウラの声が、リオの胸で囁いた。
リオは焔に手をかざし、静かに言った。
「……僕も、同じだよ。炎で大事なものを失った。でも、だからこそ忘れたくないんだ。忘れないで、守りたいって思うから――ここにいる」
その言葉に、リサは初めてリオの方をまっすぐ見た。
炎を背負う少年の瞳には、同じ痛みと願いが宿っていた。
「……君も、怖いのに、それでも?」
「うん。怖いままでも、歩いていける」
ミナが微笑み、そっと風を送り込む。
焚き火の炎が揺れ、柔らかな光が三人を包んだ。
「……なんだろう。少しだけ、楽になった気がする」
リサが呟いた。
灰に眠る記憶が、ようやく声になった瞬間だった。
4
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる