122 / 162
7月
お礼…ってなんだそれ!
しおりを挟む「で、出来た……」
それからも俺の手が止まる度に的確なアドバイスをしてくれる男に導かれ、次々に問題を解いていくと、もう一生終らないんじゃないかと思えたテキストはあっという間に終っていた。今までにない達成感とともに、自分でも考えながら解答までたどり着いたことで、ただの暗記よりもしっかり自分の力になっているような気がする。
「あのっ、ありがとうございます!」
電波系だなんて思ってごめんなさい、と心の中で全力で謝罪をしながらお礼を言うと、眼鏡イケメンは笑顔を深めた。
「同じ学年だから敬語じゃなくていいよ」
「え? あ……」
「2-Fの仁紫孝宏」
にし、たかひろ……にし、仁紫!?
その名前なら友達の少ない俺でも知っているぞ!!
「仁紫くんって、いつも試験で学年一位の……?」
そりゃ毎回毎回張り出される試験結果で、不動の一位を取り続けている猛者がいたら、嫌でも名前を覚えるでしょうよ。同じ学年にその名前を知らない奴なんかいないんじゃないの? っていうくらいの有名人だと思う。進学クラスであるF組に在籍している学生は、同じ学年でも棟が違うから会うこともほとんどなかった。だからこそ名前は知っていても顔は分からなかったんだけど……まさかこんなイケメンだったとか。頭も良くてイケメンってまじでこの世界の腐女神はチートキャラ作りすぎじゃね?
「あれ、噂の乙姫に認知いただけているとは。光栄だな」
すげーなぁ……と呆けていると、仁紫は再び俺のことを変なあだ名で呼ぶ。いやいや乙姫って。俺男ですし? 乙までしか合ってないし……って、もしかして俺の名前を覚え間違えてるとか? そうだとしたら今この場で訂正してあげないと、後で真実を知って恥をかくのは可哀想だよな。
「あの……仁紫くん、僕の名前は乙成だよ?」
「うん、知ってる」
いや、じゃあなんでだよ。明らかに戸惑った顔をしているだろう俺に何を言うでもなく、ニコニコと若い続ける仁紫。秀才の考えることは凡人にはよく分からん……。
「えっと、ありがとう。仁紫くんのおかげで、数学はなんとかなるかも」
「数学は?」
「あ、うん……他にも覚えないといけないことが山積みで……」
学年一位にそんなことを言うのは恥ずかしかったが、事実なんだから仕方がない。ははは……と乾いた笑いを浮かべながら、次は何を進めようかなぁなんて考えていると、仁紫から思わぬ提案をされる。
「他の教科も俺が教えようか?」
「えっ! いいの?!」
なんという嬉しいお話でしょうか! 一人じゃどうにも進められなかったし、仁紫に教えて貰えるなら、他の教科もなんとかなりそうな気がする。喜びのあまりすごい勢いで喰いついてしまったけど、本当にそんなことお願いしても良いのだろうか。
「それはとても有難いんだけど、仁紫くんは平気なの? 自分の勉強とか……」
「今から勉強しないと困る内容は特に無いし、人に教えるのって復習にもなるからね」
さすが、学年一位はいうことが違いますね。テスト直前に焦っているのは、日頃の勉強が足りないせいだって分かってはいるんですよ……。本当ですよ……。
「でも僕、たいしたお礼も出来ないよ……?」
そもそも仁紫が、知り合っても間もない相手に勉強を教えるメリットって何?
タダより怖いものはないっていうし、安易にお願いしてフラグを立てることになっても困るしな。ここはしっかり対価の確認をしておかなければ。お小遣いには上限もあるんだから。
「んー……そうだな。それじゃあ、まず目を瞑ってもらえる?」
「え? う、うん……?」
何か準備が必要な事なのだろうか。そう言われて素直に目を閉じると、ちゅっと小さな音と共に唇に何かがあたる感触がした。
「?!」
驚きに目を開ければ、びっくりするほど近くに仁紫の顔がある。
「ふふ。だめだよ、そんな無防備に」
「えっ、え? い、いま……キス……?」
のけ反って椅子から転げ落ちそうになる俺の身体を、仁紫がさっと支える。
いや、いやいやいや! 近い、とにかく近いから、離れてくれ!!
「お礼、ご馳走さま♡」
くすりと口角を上げて、キザったらしく言う男に俺の中の危険信号がガンガンに鳴り響いていた。いや、もう手遅れかもしれないんだけどさ。
「っぼ、僕! 帰る……っ」
とにかく、このままここにいては危ない。俺は急いで荷物を纏めると、バタバタと帰り支度をした。慌てすぎて静かな図書室で大きな音を立ててしまった気もするけど、周りの人はこちらを見ていないようだし、きっとさっきのキスも見られてはいない、はず。
ぐちゃぐちゃにテキストを詰め込んだ鞄を掴んで、席を立った俺の背中に、仁紫は相も変わらず、僅かに笑いを含んだ声で話しかけてくる。
「またおいで。放課後は大体ここにいるから」
誰が来るか!!!!
悪魔の誘惑に流されそうになっていた俺は、その時再び、一人で勉強をすることを心に誓うのだった。
16
あなたにおすすめの小説
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
できるかぎり毎日? お話の予告と皆の裏話? のあがるインスタとYouTube
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!
ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。
牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。
牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。
そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。
ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー
母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。
そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー
「え?僕のお乳が飲みたいの?」
「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」
「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」
そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー
昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!
「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」
*
総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。
いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><)
誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる