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鶺鴒鳴(せきれいなく)
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「あの~……マシロ~……?」
チカは己の腰に手を回し、コアラかナマケモノのように抱き着くマシロを呼んだ。
ここからマシロの顔は見えないが、声の様子からして真剣な表情をしていることには違いない。
どうしてこんなことになったのだろう……。チカはため息をつきたくなった。
ことの発端は――あれはセキレイの鳴き声なのだと教えてもらった日の晩のこと。チカはアマネに抱きしめられた。
無論、許可は取られた。突然のことではあったが、いきなり抱きしめられたというわけではない。アマネは割とそういうところはしっかりしている印象があるので、そのこと事態に意外性は感じなかった。
意外なのは「抱きしめたい」だなんて唐突に言い出したことだ。
当然、チカの脳裏に「なんで」「どうして」という言葉がよぎる。
だがあまりにもアマネが真剣で、思いつめた様子だったので、チカは理由を聞かずに許可を出してしまった。
アマネはチカよりも背が高いし、肩幅もあるし、顔には幼さがまだ残っているが、その手はごつごつとした男の手をしていた。
チカは肩に腕を回され、そのままアマネの胸に飛び込むような形で抱きしめられた。
なんとなく体温の低い印象があったアマネだったが、その腕の中は熱く感じられた。それはチカが緊張していたからかもしれないし、アマネもそうだったから、相乗効果で熱をことさら感じたのかもしれない。
アマネの腕に抱かれた時間は、一分程度というところが妥当だろう。チカはもっと長く感じたが、実際は恐らくそんなところだ。
「……もういいの?」
アマネの手が、熱が離れて行ったあとで、チカは思わずそんなことを口走ってしまった。
言ってしまったあとで、これでは己がアマネに気があるか、そうでなければ欲求不満に聞こえたのではないかと恥ずかしくなった。
けれどもアマネはチカの言葉については、なにも言わなかった。もともとアマネは揚げ足取りなどはしないタイプではあったが、それにしてはいつにも増して言葉少なであるとチカは感じた。
……というようなことをチカはほとんどそのまま、信頼できるマシロに相談したのだ。
もちろん、内容は「なぜアマネはそんなことをしたのか」ということである。
「それは当然、チカのことが好きだからだよ」
マシロは目を輝かせてそう言い切った。
けれどもチカはその言葉をそのまま吞み込めるはずもなく、懐疑心に満ちた目を向けてしまう。
「納得いかないって顔だけど、じゃあチカはどう思ってるの?」
するとマシロからそう返されてしまった。
チカはしばらく考え込んだあと、結論を出す。
「欲求不満だから?」
「つまり……アマネはチカとアレコレしたいと考えてるってことだよ」
「いや、そうじゃなくて……。欲求不満をこじらせて女だったらだれでもいい、的な……」
「……チカはアマネをそういう風に見てるの?」
「そういうわけじゃないけど。でも性欲が一番強いのは思春期、みたいな話はあるし」
「ふ~ん……。じゃあチカも?」
今日のマシロはいつもと様子が違うとチカは感じた。妙に返しが鋭く感じられる。しかしそれはチカがなんとなくうしろめたい思いを抱えているからかもしれない。
「そりゃ、私も人間だから性欲くらいはあるよ」
「じゃあさ、アマネに抱きしめられてドキッとした?」
「……わかんない」
嘘だ。チカはアマネに抱きしめられて、たしかにときめき、みたいなものを感じた。その体温をいつまでも感じていたいとぼんやりと考えた。けれども相談しておいてなんだが、その事実をそのままマシロに伝えるのはなんだか恥ずかしく感じられたので、誤魔化した。
そう、チカにだって性欲はある。だから、アマネに抱きしめられてときめいたのは、発散されていない性欲から生じたものの可能性もある。チカは必死にそう考えようとした。
「じゃあオレが抱きしめてあげる」
「……え?」
マシロは急にそう言うや、チカの腰に腕を回して抱き着いた。
「あの~……マシロ~……?」
「どう?」
「どうもこうも……。マシロはあったかいね」
「子供体温ってよく言われる」
それを言うのは恐らくコーイチかアオか、それか両方だろうとチカは思った。
そしてその三人の顔を思い浮かべると、自然と彼らは「そういうこと」をしているのだという事実も、芋づる式に思い出してしまった。
本格的に欲求不満なのかもしれない。チカはなんとなく気恥ずかしい思いをする。
「アマネ以外に抱きしめられてもときめかないかもしれないよ」
マシロの言葉に、まずアマネ以外が己を抱きしめる機会なんてゼロだろうとチカは思った。
そもそも、仮に想像しろと言われても、まったく脳裏で思い描けない。
現にマシロは今チカに抱き着いてはいるものの、じゃれつかれているという印象しか持てなかった。きっと、他の五人が相手でも似たり寄ったりの印象しか抱けないだろう。
それはつまり――。
「ね? チカにとってアマネは『特別』なんだよ」
「……まあ、一緒の部屋で暮らしてるからね」
苦し紛れにそう言えば、マシロは「またそういうこと言う」と呆れた声を出した。
しばらく問答は続いたが、マシロを捜しにやってきたアオによってそれは打ち切られた。マシロがチカに抱き着いている場面を見られたせいで、当然のようにアオにウザ絡みされてしまったのは、わざわざ言うまでもないことだろう。
チカは己の腰に手を回し、コアラかナマケモノのように抱き着くマシロを呼んだ。
ここからマシロの顔は見えないが、声の様子からして真剣な表情をしていることには違いない。
どうしてこんなことになったのだろう……。チカはため息をつきたくなった。
ことの発端は――あれはセキレイの鳴き声なのだと教えてもらった日の晩のこと。チカはアマネに抱きしめられた。
無論、許可は取られた。突然のことではあったが、いきなり抱きしめられたというわけではない。アマネは割とそういうところはしっかりしている印象があるので、そのこと事態に意外性は感じなかった。
意外なのは「抱きしめたい」だなんて唐突に言い出したことだ。
当然、チカの脳裏に「なんで」「どうして」という言葉がよぎる。
だがあまりにもアマネが真剣で、思いつめた様子だったので、チカは理由を聞かずに許可を出してしまった。
アマネはチカよりも背が高いし、肩幅もあるし、顔には幼さがまだ残っているが、その手はごつごつとした男の手をしていた。
チカは肩に腕を回され、そのままアマネの胸に飛び込むような形で抱きしめられた。
なんとなく体温の低い印象があったアマネだったが、その腕の中は熱く感じられた。それはチカが緊張していたからかもしれないし、アマネもそうだったから、相乗効果で熱をことさら感じたのかもしれない。
アマネの腕に抱かれた時間は、一分程度というところが妥当だろう。チカはもっと長く感じたが、実際は恐らくそんなところだ。
「……もういいの?」
アマネの手が、熱が離れて行ったあとで、チカは思わずそんなことを口走ってしまった。
言ってしまったあとで、これでは己がアマネに気があるか、そうでなければ欲求不満に聞こえたのではないかと恥ずかしくなった。
けれどもアマネはチカの言葉については、なにも言わなかった。もともとアマネは揚げ足取りなどはしないタイプではあったが、それにしてはいつにも増して言葉少なであるとチカは感じた。
……というようなことをチカはほとんどそのまま、信頼できるマシロに相談したのだ。
もちろん、内容は「なぜアマネはそんなことをしたのか」ということである。
「それは当然、チカのことが好きだからだよ」
マシロは目を輝かせてそう言い切った。
けれどもチカはその言葉をそのまま吞み込めるはずもなく、懐疑心に満ちた目を向けてしまう。
「納得いかないって顔だけど、じゃあチカはどう思ってるの?」
するとマシロからそう返されてしまった。
チカはしばらく考え込んだあと、結論を出す。
「欲求不満だから?」
「つまり……アマネはチカとアレコレしたいと考えてるってことだよ」
「いや、そうじゃなくて……。欲求不満をこじらせて女だったらだれでもいい、的な……」
「……チカはアマネをそういう風に見てるの?」
「そういうわけじゃないけど。でも性欲が一番強いのは思春期、みたいな話はあるし」
「ふ~ん……。じゃあチカも?」
今日のマシロはいつもと様子が違うとチカは感じた。妙に返しが鋭く感じられる。しかしそれはチカがなんとなくうしろめたい思いを抱えているからかもしれない。
「そりゃ、私も人間だから性欲くらいはあるよ」
「じゃあさ、アマネに抱きしめられてドキッとした?」
「……わかんない」
嘘だ。チカはアマネに抱きしめられて、たしかにときめき、みたいなものを感じた。その体温をいつまでも感じていたいとぼんやりと考えた。けれども相談しておいてなんだが、その事実をそのままマシロに伝えるのはなんだか恥ずかしく感じられたので、誤魔化した。
そう、チカにだって性欲はある。だから、アマネに抱きしめられてときめいたのは、発散されていない性欲から生じたものの可能性もある。チカは必死にそう考えようとした。
「じゃあオレが抱きしめてあげる」
「……え?」
マシロは急にそう言うや、チカの腰に腕を回して抱き着いた。
「あの~……マシロ~……?」
「どう?」
「どうもこうも……。マシロはあったかいね」
「子供体温ってよく言われる」
それを言うのは恐らくコーイチかアオか、それか両方だろうとチカは思った。
そしてその三人の顔を思い浮かべると、自然と彼らは「そういうこと」をしているのだという事実も、芋づる式に思い出してしまった。
本格的に欲求不満なのかもしれない。チカはなんとなく気恥ずかしい思いをする。
「アマネ以外に抱きしめられてもときめかないかもしれないよ」
マシロの言葉に、まずアマネ以外が己を抱きしめる機会なんてゼロだろうとチカは思った。
そもそも、仮に想像しろと言われても、まったく脳裏で思い描けない。
現にマシロは今チカに抱き着いてはいるものの、じゃれつかれているという印象しか持てなかった。きっと、他の五人が相手でも似たり寄ったりの印象しか抱けないだろう。
それはつまり――。
「ね? チカにとってアマネは『特別』なんだよ」
「……まあ、一緒の部屋で暮らしてるからね」
苦し紛れにそう言えば、マシロは「またそういうこと言う」と呆れた声を出した。
しばらく問答は続いたが、マシロを捜しにやってきたアオによってそれは打ち切られた。マシロがチカに抱き着いている場面を見られたせいで、当然のようにアオにウザ絡みされてしまったのは、わざわざ言うまでもないことだろう。
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