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告白
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昔売っていた『ミルクフレンド』というミルクチョコレート菓子が最近復刻されましたね。それで思い出したことをここにしたためます。
もう二〇年近く前の話になります。当時、子供だった私の頭を悩ませていたことはたくさんありました。今思えばくだらないことばかりです。しかし、子供の私にとっては、どれもこれもため息をつきたくなるようなおおごとばかりでした。
ひとつはいじわるな友達のA子のこと。
もうひとつは近所に住んでいるBさん(男性です)のことでした。
当時の私の話からしましょう。私はそれはもう、絵に描いたような大人しい、引っ込み思案で思っていることをうまく言葉にできない、そんな子供でした。
ですから気の強いA子に引っ張られるようにして、私は彼女と「友達」をしていたのです。
今振り返ってみれば、の話です。当時は本気でA子を親友だと思っていましたから。考えるとおかしな話ですね。
A子はとてもワガママで大人でも手を焼くようなかんしゃく持ちの子供でした。
ささいなことで怒りを爆発させるので、周囲はいつもヒヤヒヤしていました。私も、そうしてびくびくとA子の顔色をうかがっていた子供のひとりです。
あれは図工の時間のことでした。私とA子はいつものように隣り合って座って、カラーペンで絵を描いていました。
私はカラーペンのフタを取ろうとしたのですが、なかなか取れません。力を入れてやっと取れたのですが、勢いがついてひじが隣のA子の腕に当たってしまいました。
お陰で、A子がカラーペンで描いていた絵は不格好になってしまったのです。
もちろん、私はすぐに己の失態を悟りましたが、なにせ口下手で臆病な子供だったので、すぐには謝罪の言葉が出てこなかったのです。
A子は、烈火のごとく怒りを爆発させ、私をののしりました。
私が怒られているという恐怖(私は大人しかったのであまり怒られ慣れていなかったのです)で固まっているあいだに投げつけられたカラーペンが顔に当たりました。
私はなぜかそれを大げさに痛がるふりをして、泣き出したようにその場にしゃがみ込みました。
するとクラスにひとりふたりは必ずいた、正義感の強い女子が出てきてA子をいさめます。
不思議なことにひとりがA子を悪者のように扱うと、周囲も自然とそういう空気になりました。
A子もそれはわかったのでしょう。ますます怒りを爆発させて(それはもう頭の血管が切れるんじゃないかというくらい)、かんしゃくを起こして地団太を踏んでいましたから。
それがきっかけで、私はA子と仲たがいをしたのです。
いえ、直接なにか言われたわけでも、言ったわけでもないんです。ただ、そういう空気になって、私はこれ幸いとばかりにそのまま流された。おおむね、そのような感じです。
私はすぐに同じように大人しい女子のグループの一員になりました。
ときおりA子がジトッとした目で見ていることに気づいていましたが、知らないふりをしました。
そうして気づいたのは、私が離れてしまうとA子はひとりぼっちだということです。
けれども当時の私はそのことになんの呵責も抱きませんでした。
そうやってA子との交流が途切れて、話はそれでおしまい、となるはずでしたが、そうはならなかったのです。
Bさんの話をしましょう。
Bさんは当時私(たち家族)が住んでいた一軒家から徒歩で一五分程度先にあるところに住んでいた男性です。
当時の私からすればじゅうぶんおばあさんのお母さんといっしょに住んでいたと記憶しています。
まだ、「ニート」という言葉が出る前か、出たばかりくらいのころでしたが、Bさんはいわゆる「ニート」だったようです。
Bさんの部屋には一度だけ入ったことがありましたが、カーテンを閉め切って、雨戸を半分だけ閉めていた部屋は薄暗く、妙なにおいが鼻についたものです。
今振り返ると色々と危ないですね。当時の私もなんとなく不安を抱いていました。
けれども(繰り返しになりますが)絵に描いたような大人しい子供でしたから、明確に拒絶の意思を示したりなんてことは、私にはできなかったのです。
そしてBさんの部屋へ入った次の日か、数日後かくらいからでしょうか。学校の帰り道にBさんが待ち伏せするようになったのは。
今だったらすぐにおおごとになるでしょう。けれども二〇年近く前の、都会でもなく田舎でもない、そんな地域でしたので、すぐにおおごとにはならなかったのです。
何度も言うように私は口下手で、家族が相手でもそれは変わりませんでした。
ですから待ち伏せをしてはどうでもいい会話を試みようとするBさんの存在に頭を悩ませつつも、私は家族にも先生にもそのことを言えなかったのです。
子供心にBさんの部屋へ入ったことは軽率だという意識はありました。ですから、自分も怒られるのではないかという恐れもありました。
もっと危機感を持つべきでしょうが、当時は子供でしたから、残念ながらそんなものでしょう。
再び、BさんにBさん宅へ誘われたのは夏休み中のことでした。
学校にある朝顔の鉢(だったような違ったような)の水やりをした帰り道のことです。
その日直の相手はA子でした。先生は私たちのあいだのトラブルを認識していなかったのか、していても特に気を払わなかったのか、定かではありません。
とにかくその日はA子といっしょに帰宅の途についていたのです。
そこへ、Bさんが現れて、「暑いから家に行こう。お菓子もあるよ」とかなんとか言ったのです。
私はいつものようにあいまいな笑みを浮かべてそれをかわそうとしました。そうしているとBさんはそのうちあきらめてくれるからです。
けれどもA子が突然「行こう」と言い出したのです。私はびっくりしてA子を見ました。
A子の表情は覚えていません。けれども私は直感的に「いやがらせなんだ」と思いました。
実際にA子がそういう顔をしていたのか、単なる私の被害妄想なのかは、今はもうわかりません。
口下手な私はうまく断ることができず、結局A子と共にBさんの家へ行くことになりました。
以前おとずれたときに出迎えてくれたBさんのお母さんは、そのときは家にいなかったように思います。
Bさんは話した通りにジュース(たしかオレンジジュースでした)とお菓子を出してくれました。A子の家ではジュースはめったに出ないものだった(と以前A子が話していた気がします)ので、彼女がとても喜んでいたことを覚えています。
私は緊張のせいか、それとも冷たいジュースを飲んだせいか、おなかが痛くなりました。
恥を忍んでBさんにトイレの場所を聞き、部屋を出たあと、薄暗い廊下に立っている自分を俯瞰して、ふっと馬鹿馬鹿しくなりました。
なぜだか今でもわかりません。ただ、その日から私は開き直ることを覚えました。もしかしたら、神様みたいな存在は本当にいるのかもしれませんね。
とにかく私は薄暗い廊下に出た瞬間、自分がイヤだと感じていることに対し律儀に付き合うことの馬鹿馬鹿しさに気づいたのです。
私は黙ってBさんの家を出ました。学校へ水をやりに行くだけでしたから、荷物などは持っていませんでした。
A子を置いて行くことになんの呵責も抱きませんでした。
それどころかしつこく待ち伏せするBさんのターゲットがA子に移ればいいとさえ思って、私は彼女をひとり置いて行ったのです。
A子が家に帰ってこない、という連絡を私の母が受けたのはその日の夕暮れどきのことです。
母はA子が日直で私といっしょだったことは知っていましたから、当然私にたずねました。
私は「知らない」と言いました。声はまったく堂々としていて、内心自分でおどろいたくらいです。
母は私の言葉を疑いませんでした。私の気が弱い性格をだれよりも知っていて、だれよりも気にかけていたのが母でしたから。そんな母にうそをつくのは、少しだけ胸が痛みました。
A子がいなくなったことは、とんでもなくおおごとになりました。
早い段階で「誘拐されたのではないか」という話になり、我が家にも二人組の刑事さんがやってきました。
私はそのときも「知らない」と言いました。「学校で別れてからは知らない」と。真っ赤なうそでした。
大人たちはだれも私の言うことを疑ってはいないようでした。もしいたとしても、あの空気の中で私がうそをついている、などと言い出すことはできなかったとは思いますが。
ダムを囲む山の中でA子の腐乱した遺体が見つかったのは、夏休みも終わりという週の半ばのことです。
大人になってからネットで知ったのですが、A子の遺体には暴行されたあとが残っていたそうです。ただ、当時の私にはその言葉のまま伝えられても、なんのことか理解できなかったでしょう。
親たちも控え目にA子が亡くなったということだけを私たちに伝えるのみでした。
Bさんがまた私を待ち伏せたのは始業式の日でした。
当時の私からも古いお菓子という認識だった『ミルクフレンド』というチョコレート菓子を渡して、「家に来ないか」と誘ってきたのです。
私は「習い事があるから」と言って断りました。当時、実際に習い事はしていましたが、その日に習い事の予定はありませんでした。
けれどもBさんは「そっか」とだけ言って微笑み、去って行ったのです。
Bさんに貰った『ミルクフレンド』は結局食べませんでした。しかし家のゴミ箱に捨てれば母に問い詰められるかも知れません。母は私が出すゴミの中身を見ているようでしたから。
結局私は習い事の帰りに母の運転する車がロータリーへやってくるのを待つあいだ、近くのゴミ箱に『ミルクフレンド』の個包装を捨てたのです。
食べられる物を食べずに捨てたという罪悪感がありました。なので『ミルクフレンド』の一件は結構鮮明に覚えていたのです。
Bさんが亡くなったのは冬ごろだったか、春ごろだったか。調べれば出てくるのでしょうが、不精をお許しください。
とにかくBさんが亡くなったのは事実です。自殺だったそうです。遺書などは残されていなかったようです。
そのあといつのまにかBさんの家は取り壊されていましたから、Bさんのお母さんはどこかへ引っ越してしまったのでしょう。
A子を殺したのがBさんなのかはわかりません。
決定的な場はだれも見ていないようですし、A子もBさんももうこの世にはいませんから、この謎が解明される日は来ないでしょう。
でも、そのことにどこかほっとしている私もいます。
あの日、A子をBさんの家にひとりで置いて行かなければ、A子は今も生きていたのかもしれませんから。
ところでこの手紙を読んでいるということは、あなたはあの封筒を拾ったのですね。
実はここのところ肩こりがひどく、同僚の勧めで霊媒師(表向きは占い師で通っているらしいです)の方に霊視?をしてもらったところ、私には二体の霊が憑いているのだそうです。
その霊媒師の方は霊を祓うことはできないらしく、代わりに他人へ霊を移す方法を提案されました。
詳しいことは聞いたものの理解できなかったのですが、この封筒を拾った方に私に憑いている霊が移動するとのことです。
本当かどうかは私にもわかりません。ただ、あなたの肩がこったり、肩こりがひどくなったらごめんなさい。
ありがとうございました。
もう二〇年近く前の話になります。当時、子供だった私の頭を悩ませていたことはたくさんありました。今思えばくだらないことばかりです。しかし、子供の私にとっては、どれもこれもため息をつきたくなるようなおおごとばかりでした。
ひとつはいじわるな友達のA子のこと。
もうひとつは近所に住んでいるBさん(男性です)のことでした。
当時の私の話からしましょう。私はそれはもう、絵に描いたような大人しい、引っ込み思案で思っていることをうまく言葉にできない、そんな子供でした。
ですから気の強いA子に引っ張られるようにして、私は彼女と「友達」をしていたのです。
今振り返ってみれば、の話です。当時は本気でA子を親友だと思っていましたから。考えるとおかしな話ですね。
A子はとてもワガママで大人でも手を焼くようなかんしゃく持ちの子供でした。
ささいなことで怒りを爆発させるので、周囲はいつもヒヤヒヤしていました。私も、そうしてびくびくとA子の顔色をうかがっていた子供のひとりです。
あれは図工の時間のことでした。私とA子はいつものように隣り合って座って、カラーペンで絵を描いていました。
私はカラーペンのフタを取ろうとしたのですが、なかなか取れません。力を入れてやっと取れたのですが、勢いがついてひじが隣のA子の腕に当たってしまいました。
お陰で、A子がカラーペンで描いていた絵は不格好になってしまったのです。
もちろん、私はすぐに己の失態を悟りましたが、なにせ口下手で臆病な子供だったので、すぐには謝罪の言葉が出てこなかったのです。
A子は、烈火のごとく怒りを爆発させ、私をののしりました。
私が怒られているという恐怖(私は大人しかったのであまり怒られ慣れていなかったのです)で固まっているあいだに投げつけられたカラーペンが顔に当たりました。
私はなぜかそれを大げさに痛がるふりをして、泣き出したようにその場にしゃがみ込みました。
するとクラスにひとりふたりは必ずいた、正義感の強い女子が出てきてA子をいさめます。
不思議なことにひとりがA子を悪者のように扱うと、周囲も自然とそういう空気になりました。
A子もそれはわかったのでしょう。ますます怒りを爆発させて(それはもう頭の血管が切れるんじゃないかというくらい)、かんしゃくを起こして地団太を踏んでいましたから。
それがきっかけで、私はA子と仲たがいをしたのです。
いえ、直接なにか言われたわけでも、言ったわけでもないんです。ただ、そういう空気になって、私はこれ幸いとばかりにそのまま流された。おおむね、そのような感じです。
私はすぐに同じように大人しい女子のグループの一員になりました。
ときおりA子がジトッとした目で見ていることに気づいていましたが、知らないふりをしました。
そうして気づいたのは、私が離れてしまうとA子はひとりぼっちだということです。
けれども当時の私はそのことになんの呵責も抱きませんでした。
そうやってA子との交流が途切れて、話はそれでおしまい、となるはずでしたが、そうはならなかったのです。
Bさんの話をしましょう。
Bさんは当時私(たち家族)が住んでいた一軒家から徒歩で一五分程度先にあるところに住んでいた男性です。
当時の私からすればじゅうぶんおばあさんのお母さんといっしょに住んでいたと記憶しています。
まだ、「ニート」という言葉が出る前か、出たばかりくらいのころでしたが、Bさんはいわゆる「ニート」だったようです。
Bさんの部屋には一度だけ入ったことがありましたが、カーテンを閉め切って、雨戸を半分だけ閉めていた部屋は薄暗く、妙なにおいが鼻についたものです。
今振り返ると色々と危ないですね。当時の私もなんとなく不安を抱いていました。
けれども(繰り返しになりますが)絵に描いたような大人しい子供でしたから、明確に拒絶の意思を示したりなんてことは、私にはできなかったのです。
そしてBさんの部屋へ入った次の日か、数日後かくらいからでしょうか。学校の帰り道にBさんが待ち伏せするようになったのは。
今だったらすぐにおおごとになるでしょう。けれども二〇年近く前の、都会でもなく田舎でもない、そんな地域でしたので、すぐにおおごとにはならなかったのです。
何度も言うように私は口下手で、家族が相手でもそれは変わりませんでした。
ですから待ち伏せをしてはどうでもいい会話を試みようとするBさんの存在に頭を悩ませつつも、私は家族にも先生にもそのことを言えなかったのです。
子供心にBさんの部屋へ入ったことは軽率だという意識はありました。ですから、自分も怒られるのではないかという恐れもありました。
もっと危機感を持つべきでしょうが、当時は子供でしたから、残念ながらそんなものでしょう。
再び、BさんにBさん宅へ誘われたのは夏休み中のことでした。
学校にある朝顔の鉢(だったような違ったような)の水やりをした帰り道のことです。
その日直の相手はA子でした。先生は私たちのあいだのトラブルを認識していなかったのか、していても特に気を払わなかったのか、定かではありません。
とにかくその日はA子といっしょに帰宅の途についていたのです。
そこへ、Bさんが現れて、「暑いから家に行こう。お菓子もあるよ」とかなんとか言ったのです。
私はいつものようにあいまいな笑みを浮かべてそれをかわそうとしました。そうしているとBさんはそのうちあきらめてくれるからです。
けれどもA子が突然「行こう」と言い出したのです。私はびっくりしてA子を見ました。
A子の表情は覚えていません。けれども私は直感的に「いやがらせなんだ」と思いました。
実際にA子がそういう顔をしていたのか、単なる私の被害妄想なのかは、今はもうわかりません。
口下手な私はうまく断ることができず、結局A子と共にBさんの家へ行くことになりました。
以前おとずれたときに出迎えてくれたBさんのお母さんは、そのときは家にいなかったように思います。
Bさんは話した通りにジュース(たしかオレンジジュースでした)とお菓子を出してくれました。A子の家ではジュースはめったに出ないものだった(と以前A子が話していた気がします)ので、彼女がとても喜んでいたことを覚えています。
私は緊張のせいか、それとも冷たいジュースを飲んだせいか、おなかが痛くなりました。
恥を忍んでBさんにトイレの場所を聞き、部屋を出たあと、薄暗い廊下に立っている自分を俯瞰して、ふっと馬鹿馬鹿しくなりました。
なぜだか今でもわかりません。ただ、その日から私は開き直ることを覚えました。もしかしたら、神様みたいな存在は本当にいるのかもしれませんね。
とにかく私は薄暗い廊下に出た瞬間、自分がイヤだと感じていることに対し律儀に付き合うことの馬鹿馬鹿しさに気づいたのです。
私は黙ってBさんの家を出ました。学校へ水をやりに行くだけでしたから、荷物などは持っていませんでした。
A子を置いて行くことになんの呵責も抱きませんでした。
それどころかしつこく待ち伏せするBさんのターゲットがA子に移ればいいとさえ思って、私は彼女をひとり置いて行ったのです。
A子が家に帰ってこない、という連絡を私の母が受けたのはその日の夕暮れどきのことです。
母はA子が日直で私といっしょだったことは知っていましたから、当然私にたずねました。
私は「知らない」と言いました。声はまったく堂々としていて、内心自分でおどろいたくらいです。
母は私の言葉を疑いませんでした。私の気が弱い性格をだれよりも知っていて、だれよりも気にかけていたのが母でしたから。そんな母にうそをつくのは、少しだけ胸が痛みました。
A子がいなくなったことは、とんでもなくおおごとになりました。
早い段階で「誘拐されたのではないか」という話になり、我が家にも二人組の刑事さんがやってきました。
私はそのときも「知らない」と言いました。「学校で別れてからは知らない」と。真っ赤なうそでした。
大人たちはだれも私の言うことを疑ってはいないようでした。もしいたとしても、あの空気の中で私がうそをついている、などと言い出すことはできなかったとは思いますが。
ダムを囲む山の中でA子の腐乱した遺体が見つかったのは、夏休みも終わりという週の半ばのことです。
大人になってからネットで知ったのですが、A子の遺体には暴行されたあとが残っていたそうです。ただ、当時の私にはその言葉のまま伝えられても、なんのことか理解できなかったでしょう。
親たちも控え目にA子が亡くなったということだけを私たちに伝えるのみでした。
Bさんがまた私を待ち伏せたのは始業式の日でした。
当時の私からも古いお菓子という認識だった『ミルクフレンド』というチョコレート菓子を渡して、「家に来ないか」と誘ってきたのです。
私は「習い事があるから」と言って断りました。当時、実際に習い事はしていましたが、その日に習い事の予定はありませんでした。
けれどもBさんは「そっか」とだけ言って微笑み、去って行ったのです。
Bさんに貰った『ミルクフレンド』は結局食べませんでした。しかし家のゴミ箱に捨てれば母に問い詰められるかも知れません。母は私が出すゴミの中身を見ているようでしたから。
結局私は習い事の帰りに母の運転する車がロータリーへやってくるのを待つあいだ、近くのゴミ箱に『ミルクフレンド』の個包装を捨てたのです。
食べられる物を食べずに捨てたという罪悪感がありました。なので『ミルクフレンド』の一件は結構鮮明に覚えていたのです。
Bさんが亡くなったのは冬ごろだったか、春ごろだったか。調べれば出てくるのでしょうが、不精をお許しください。
とにかくBさんが亡くなったのは事実です。自殺だったそうです。遺書などは残されていなかったようです。
そのあといつのまにかBさんの家は取り壊されていましたから、Bさんのお母さんはどこかへ引っ越してしまったのでしょう。
A子を殺したのがBさんなのかはわかりません。
決定的な場はだれも見ていないようですし、A子もBさんももうこの世にはいませんから、この謎が解明される日は来ないでしょう。
でも、そのことにどこかほっとしている私もいます。
あの日、A子をBさんの家にひとりで置いて行かなければ、A子は今も生きていたのかもしれませんから。
ところでこの手紙を読んでいるということは、あなたはあの封筒を拾ったのですね。
実はここのところ肩こりがひどく、同僚の勧めで霊媒師(表向きは占い師で通っているらしいです)の方に霊視?をしてもらったところ、私には二体の霊が憑いているのだそうです。
その霊媒師の方は霊を祓うことはできないらしく、代わりに他人へ霊を移す方法を提案されました。
詳しいことは聞いたものの理解できなかったのですが、この封筒を拾った方に私に憑いている霊が移動するとのことです。
本当かどうかは私にもわかりません。ただ、あなたの肩がこったり、肩こりがひどくなったらごめんなさい。
ありがとうございました。
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