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魔力が強ければ強いほど、魔法使いとしての格は高くなる。
しかし、魔力が強ければ強いほど、その人物の性格には難が出る――ということは、魔法貴族のあいだでは常識だった。
コンスタンスの、血を分けた双子の弟であるクラレンスがまさにそうで、彼は姉を愛するあまりにしばしば非常識な言動を取る。
今回の――義妹となる予定であったミアの一件もそうだ。
クラレンスは、コンスタンスが「そういう目」で見られることに耐えられない。
「そういう目」というのは、恋愛感情であったり、またそうでなくても純粋な好意や劣情からの視線であろうと、クラレンスは耐えられない。
そして激情に身を任せて、クラレンスがもっとも得意とする火の魔法で「そういう目」をコンスタンスに向けた人間を、火で炙ったことは一度や二度の話ではなかった。
幸いと言うべきか、たいていその場にはコンスタンスが居合わせる。
ル=ヴァーミリオン家の血を色濃く持つコンスタンスが得意とするのは治癒魔法だ。
クラレンスが激情に任せて相手を炙っても、コンスタンスが即座にその強力な治癒魔法で治してしまっていたから、今のところ、かろうじて、大事には至っていない。
しかし当たり前だが、コンスタンスが癒せるのは目に見える傷跡だけで、心についたそれはどうしようもない。
義妹になる予定だったミアもそうだ。
クラレンスの姿を見るとひどく取り乱して、幼子のように泣きわめくようになったので、当主は仕方なく実家に帰してしまった。
メイスンもあれきりで、コンスタンスは彼の姿を見てはいないものの、死んではいないはずだ。
コンスタンスは、ふたりには悪いことをしたと思う。
コンスタンスからすると、ミアもメイスンも下心あって、軽率な真似をしたという認識ではあったが、しかしだからといって生きたまま火で炙られてもよいとは思えなかった。
クラレンスは、まったく違う意見のようだが。
当主も当主だと、コンスタンスは実の父に思いを馳せる。
ミアを教育すればル=ヴァーミリオン家の嫁として、駒として使えると考えたのかもしれないが、まったく軽率な行いだった。
そして魔力の強い魔法使いの例に漏れず、クラレンス同様に、当主もミアに悪いことをしたとはまったく考えていない様子だ。
ル=グリーンヒル家のエリザベスもそうだ。
クラレンスの「コンスタンス狂い」とも呼べる行状を彼女が知らないわけがない。
エリザベスやその取り巻きたちは否定したものの、恐らくミアとメイスンを引き合わせたのは十中八九彼女だろうとコンスタンスは見ていた。
プライドが高い彼女が、数年前にル=グリーンヒル家からの縁談をけんもほろろに蹴ったクラレンスに対して、恨みを抱いていることはコンスタンスとて知っている。
クラレンスは、まったくそんなことは気にしていないようだが。
とかくクラレンスはコンスタンスを「狂ったように」愛していて、なにかのきっかけでそのタガが外れるのは、珍しいことではなかった。
だからコンスタンスは大人しく、地味に、静かに暮らしていた。
だというのに、今回はそれが悪く働いて、義妹になるはずだったミアからひどく憎まれてしまった。
ミアがル=ブルールトン家のジョンからの手紙を使用人から奪って、捨てたことや、数々の嫌がらせをコンスタンスは確信していたが、結局その罪を追及しはしなかった。
手紙の一件のとき、クラレンスがとりなしたように見えたのは、単純にル=ブルールトン家のジョンがかねてよりコンスタンスに秋波を送ってきていたからだ。
そんな手紙は、クラレンスからするとゴミなのだ。
別にミアを信じたわけでも、助けようとしたわけでもない。
クラレンスの中には、コンスタンスか、それ以外か、という分類しかないのだ。例外はない。
そして「それ以外」の中にコンスタンスの敵が混じっていれば、クラレンスはまたお得意の火魔法で相手を炙るだろう。
今のところ国は平和で、間違ってもル=ヴァーミリオン家は戦場ではない以上、クラレンスを人殺しにするのはコンスタンスとしては不本意なことだった。
「クラレンス、軽率に人間を燃やすのはやめろと、何度も言ったはずだ」
「ゴミを燃やしてなにが悪いの?」
人間ふたりを殺しかけたあとですら、けろりとした顔で答えるクラレンスに、コンスタンスは頭痛がした。
「コンスタンスに色目を使うなんて大罪だよ」
「……誤解かもしれないだろう」
「誤解じゃない。わかるよ。だって俺もコンスタンスのことを愛しているから」
「だからって――」
「わかったわかった」
「それはわかっていないときの答えだ」
「ううん。どうしたらコンスタンスに俺の愛が伝わるのかな?」
クラレンスは芝居がかった態度で腕を組み、首をひねった。
そんなクラレンスを見て、コンスタンスは小さくため息をついた。
「――もうじゅうぶん伝わってるよ」
コンスタンスがそう言えば、クラレンスはにやりと悪く笑った。
「でも、俺はもっと伝えたい」
クラレンスがコンスタンスの手を引けば、体勢を崩したコンスタンスの体が広いベッドへと飛び込む。
続いてクラレンスがベッドに乗って、ふたりぶんの体重でスプリングがかすかに音を立てた。
魔力が強ければ強いほど、魔法使いとしての格は高くなる。
しかし、魔力が強ければ強いほど、その人物の性格には難が出る――ということは、魔法貴族のあいだでは常識だった。
コンスタンスの、血を分けた双子の弟であるクラレンスがまさにそうで、彼は姉を愛するあまりにしばしば非常識な言動を取る。
今回の――義妹となる予定であったミアの一件もそうだ。
クラレンスは、コンスタンスが「そういう目」で見られることに耐えられない。
「そういう目」というのは、恋愛感情であったり、またそうでなくても純粋な好意や劣情からの視線であろうと、クラレンスは耐えられない。
そして激情に身を任せて、クラレンスがもっとも得意とする火の魔法で「そういう目」をコンスタンスに向けた人間を、火で炙ったことは一度や二度の話ではなかった。
幸いと言うべきか、たいていその場にはコンスタンスが居合わせる。
ル=ヴァーミリオン家の血を色濃く持つコンスタンスが得意とするのは治癒魔法だ。
クラレンスが激情に任せて相手を炙っても、コンスタンスが即座にその強力な治癒魔法で治してしまっていたから、今のところ、かろうじて、大事には至っていない。
しかし当たり前だが、コンスタンスが癒せるのは目に見える傷跡だけで、心についたそれはどうしようもない。
義妹になる予定だったミアもそうだ。
クラレンスの姿を見るとひどく取り乱して、幼子のように泣きわめくようになったので、当主は仕方なく実家に帰してしまった。
メイスンもあれきりで、コンスタンスは彼の姿を見てはいないものの、死んではいないはずだ。
コンスタンスは、ふたりには悪いことをしたと思う。
コンスタンスからすると、ミアもメイスンも下心あって、軽率な真似をしたという認識ではあったが、しかしだからといって生きたまま火で炙られてもよいとは思えなかった。
クラレンスは、まったく違う意見のようだが。
当主も当主だと、コンスタンスは実の父に思いを馳せる。
ミアを教育すればル=ヴァーミリオン家の嫁として、駒として使えると考えたのかもしれないが、まったく軽率な行いだった。
そして魔力の強い魔法使いの例に漏れず、クラレンス同様に、当主もミアに悪いことをしたとはまったく考えていない様子だ。
ル=グリーンヒル家のエリザベスもそうだ。
クラレンスの「コンスタンス狂い」とも呼べる行状を彼女が知らないわけがない。
エリザベスやその取り巻きたちは否定したものの、恐らくミアとメイスンを引き合わせたのは十中八九彼女だろうとコンスタンスは見ていた。
プライドが高い彼女が、数年前にル=グリーンヒル家からの縁談をけんもほろろに蹴ったクラレンスに対して、恨みを抱いていることはコンスタンスとて知っている。
クラレンスは、まったくそんなことは気にしていないようだが。
とかくクラレンスはコンスタンスを「狂ったように」愛していて、なにかのきっかけでそのタガが外れるのは、珍しいことではなかった。
だからコンスタンスは大人しく、地味に、静かに暮らしていた。
だというのに、今回はそれが悪く働いて、義妹になるはずだったミアからひどく憎まれてしまった。
ミアがル=ブルールトン家のジョンからの手紙を使用人から奪って、捨てたことや、数々の嫌がらせをコンスタンスは確信していたが、結局その罪を追及しはしなかった。
手紙の一件のとき、クラレンスがとりなしたように見えたのは、単純にル=ブルールトン家のジョンがかねてよりコンスタンスに秋波を送ってきていたからだ。
そんな手紙は、クラレンスからするとゴミなのだ。
別にミアを信じたわけでも、助けようとしたわけでもない。
クラレンスの中には、コンスタンスか、それ以外か、という分類しかないのだ。例外はない。
そして「それ以外」の中にコンスタンスの敵が混じっていれば、クラレンスはまたお得意の火魔法で相手を炙るだろう。
今のところ国は平和で、間違ってもル=ヴァーミリオン家は戦場ではない以上、クラレンスを人殺しにするのはコンスタンスとしては不本意なことだった。
「クラレンス、軽率に人間を燃やすのはやめろと、何度も言ったはずだ」
「ゴミを燃やしてなにが悪いの?」
人間ふたりを殺しかけたあとですら、けろりとした顔で答えるクラレンスに、コンスタンスは頭痛がした。
「コンスタンスに色目を使うなんて大罪だよ」
「……誤解かもしれないだろう」
「誤解じゃない。わかるよ。だって俺もコンスタンスのことを愛しているから」
「だからって――」
「わかったわかった」
「それはわかっていないときの答えだ」
「ううん。どうしたらコンスタンスに俺の愛が伝わるのかな?」
クラレンスは芝居がかった態度で腕を組み、首をひねった。
そんなクラレンスを見て、コンスタンスは小さくため息をついた。
「――もうじゅうぶん伝わってるよ」
コンスタンスがそう言えば、クラレンスはにやりと悪く笑った。
「でも、俺はもっと伝えたい」
クラレンスがコンスタンスの手を引けば、体勢を崩したコンスタンスの体が広いベッドへと飛び込む。
続いてクラレンスがベッドに乗って、ふたりぶんの体重でスプリングがかすかに音を立てた。
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