シンネン様

やなぎ怜

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シンネン様

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 シンネン様と言うんです。どういう漢字をあてていたのかは、今をもってわかりませんけれども。

 初めて母方の実家に連れて行かれたのは、小学生のときでした。

 もともと母子家庭で、母方の実家があるのとは別の県で暮らしていて、祖父母や親戚とは顔を合わせたことはありませんでした。

 ところがとつぜん母が亡くなって、母方の親戚のおじさん一家に引き取られた冬、年末、初めて母の生家に足を踏み入れました。

 そのときの居心地の悪さったら、今思い出しても背中に嫌な汗をかきます。

 母の両親、つまり祖父母は健在でしたが、私に対して歓迎の言葉を述べてもそれは上っ面だけで、その隙間から冷淡さがはみ出しているような始末でした。

 年末年始、入れ代わり立ち代わりやってくる母方の親戚も似たようなものでした。

 味のしない年越しそば、洋食に迎合しないおせち料理。それらは眠るときに見る夢みたいに、当時からおぼろげでした。

 ですから、母屋から離れた場所に建つ、土蔵の二階へ押しやられたときは、少しだけの安堵と喜びを感じました。

 新年一月一日の夜から、一月二日の朝まで土蔵の二階へ上がり、ひと晩「シンネン様」のお相手をする。

 その役割を与えられて私はほんのりとした誇りに胸を膨らませました。

 同時に、居心地の悪い母屋から出られることに安堵したわけです。

 恐怖はありませんでした。幼くとも私は、この世に神様なんてものはいないと思っていましたから。

 土蔵の二階で、私は恐怖よりも寒さに震えました。

 赤い光を放つ古臭いヒーターがわずかばかり寒さを慰めてくれたので、私は火傷に注意しながらその前に張りつきました。

 母方の実家があるのはあまり寒い地方ではありませんでしたが、なにぶん一月頭の夜なんて寒いに決まっています。

 ヒーターの光を見つめながら、凍死という言葉が脳裏をよぎったのは、あのときが初めてだったかもしれません。

 土蔵の二階は、私ではとても背が届かないような位置に、横に細長い窓のようなものがありました。

 それから、二階の床の半分を埋めるほどの雑多な荷物も。

 思ったよりは不潔感のない空間でしたが、お世辞にも綺麗に掃き清められているとは言えないようなところでした。

 幼いながらに、こんなところでシンネン様とやらを仮に出迎えるとして、それは失礼ではないか、と懐疑心が浮かんで消えませんでした。

 時計もない土蔵の二階で、冬の寒さに震えながら、時が経つのをじっと身を縮こまらせて待って、どれほど経ったか。

 不意に、二階に置かれた荷物のうち、埃をかぶった黒塗りの玉手箱のようなものが音を立てて動きました。

 私は飛び上がらんばかりにおどろいたあと、きっとネズミかなにかが土蔵にいるのだろうと決めつけて、大きな音を立てる心臓を鎮めようとしました。

 埃をかぶった黒塗りの箱の蓋が、おごそかに思えるほど緩慢に持ち上がり、やがて冷たい床板に落ちました。

 暗闇の中で、箱からなにかが這い出てくるのが見えました。

 明らかに、箱よりも大きな身体をそなえたそれは、頭があり、胴体があり、二本の腕を持ち、両脚がありました。

 それはあたかもミイラのようでした。

 黒ずんだ肌に、浮かび上がる骨。ざんばらの髪。

 私は寒さではない、恐怖に打ち震えると同時に、目の前に現れたそれがシンネン様だと直感的に理解しました。

 同時に、シンネン様を出迎えるしきたりが、私が来るまで途絶えていた理由を察しました。

 私は息を詰め、身をますます縮こまらせて、逃げ出そうともせず、まんじりともせず、ヒーターの前に座り込んだままでした。

 やがてシンネン様が、這いつくばるような姿勢でゆっくりと私のほうへとずるずると向かってきたときは、本当に息が止まるかと思いました。

 けれども、それだけでした。

 シンネン様はじっと背を丸めてうつむいたまま、先ほどの私と同じように、ヒーターの光を見つめているようでした。

 それだけでした。

 気がついたらじりじりと太陽が昇り始める時間になっていて、シンネン様はまた冷たく固い床板を這って、あの玉手箱のようなものの中に戻って行きました。

 母屋に戻され、シンネン様を見たと言うと、祖父母やおじさんたちはとても喜んでくれました。

 帰りに車で寄ったファミリーレストランで、おじさんは「なんでも好きなものを選んでいいよ」と言ってくれました。

 初めて聞いたおじさんのそんな言葉に、心は少し浮つきましたが、同時にシンネン様がなんなのか、私があの夜見たものは本当にシンネン様なのか、気になりました。

 おじさんはそのときはご機嫌だったので、私の疑問に少しだけ答えてくれました。

 曰く、シンネン様はえらい神様で、丁重に祀れば家に富や名声を与えてくれる、座敷童のような存在なのだそう。

 わかったのは、それくらいでした。

 おじさん自身もシンネン様について詳しく知っているわけではないらしいことは、なんとなくの空気でわかりました。

 私はえらい神様を土蔵に閉じ込めて、どうして富を得られるのか、その仕組みがよくわからず、曖昧にうなずいた覚えがあります。

 おじさんは上機嫌に、「来年以降も頼むよ」と言いました。

 そのときはまだ幼かったので、大人に頼られるのが誇らしく、うれしかった覚えがあります。

 そうして私が嫌がらなかったからなのか、その次の年末にも母方の実家へ連れて行かれました。

 祖父母を中心とした、母方の親戚たちの話題は明るいものが多かったように思います。

 どれだけ儲かったとか、昇進しただとか、良縁に恵まれたとか、あの病気が治っただとか。

 「シンネン様のお陰だね」とだれもかれもがうれしそうに口にしていたことを、よく覚えています。

 本当に「シンネン様のお陰」なのかは、私には判断がつきませんでした。

 一月一日から一月二日へと変わる夜に、私はまたあの寒い土蔵の二階へと上がり、シンネン様を迎えることになりました。

 用意されたあの古ぼけたヒーターだけでは心もとがなかったため、私は安物のブランケットを持ち込みました。

 シンネン様が這い出てきた、黒塗りの玉手箱のようなものは、相も変わらずうっすらと埃をかぶっていました。

 そうしてブランケットを羽織り、また寒さに震えながらヒーターに当たっていると、箱の蓋が動く音がしました。

 木と木がぶつかる、硬くもどこか心地の良い音がして、箱の中からまたシンネン様が這い出てきました。

 やはり昨年と同じく、シンネン様の肌は黒ずんでいて、骨の浮いた痩身をしており、手指などはまるで枯れ枝のようでした。

 昨年とまったく同じ光景でしたが、さすがに怯えが湧きます。

 一年という歳月が経過し、一夜の記憶が朧気になっていたこともあり、やはりシンネン様のとうてい生きているひとのようには見えない容姿は、私が息を詰めるにはじゅうぶんなものでした。

 けれども去年とはまた違った心境にもなりました。

 とてもえらい神様だとは思えないようなシンネン様の見目は、私に哀れみを抱かせました。

 恐怖と憐憫がないまぜになったまま、私は這いつくばって近づいてくるシンネン様へ、ヒーターの正面を向けました。

 見る限りシンネン様はなにも身にまとってはいなかったので、この季節はきっと寒かろうと思ったのです。

 ヒーターの明かりが、シンネン様を照らしました。しかしシンネン様は終始うつむいたままでした。

 そうして夜が明けるころになると、またシンネン様は玉手箱のような箱の中へと戻って行きました。

 その年はおじさんの娘さんが結婚しました。お相手は会社経営者だとかで、おじさんはずいぶんと上機嫌で「シンネン様のお陰だ」としきりに言っていました。

 その次の一月一日から一月二日へと変わる夜。例年通りに私は土蔵の二階へと送り出されました。暖を取れるのは相変わらずあの古ぼけたヒーターだけで、私は薄いブランケットと使い捨てのカイロを持ち込みました。

 ヒーターの赤い光を見つめながら、心に灯るのは多少の不満でした。

 私がシンネン様を迎えることによって、よいことが起こったのであれば、もう少し優遇されてもいいのではないか。

 しかし私は幼年で、母は亡く立場が弱いこともよくわかっていたので、その不満は心の中にしまっておいたものです。

 その年も、シンネン様はあのうっすらと埃をかぶった玉手箱のようなものから出てきました。

 けれどもその年のシンネン様の肌は、ミイラのように黒ずんだものではなかったのです。

 相も変わらずその肌から瑞々しさという言葉は遠く、骨に直接皮を貼り付けたかのような痩身ではありましたが、アイボリーに近い肌の色になったことで、私の知る人間らしい姿には近づいていました。

 暗闇の中で、シンネン様が這うようにして私とヒーターに近づくと、白いざんばら髪がバサバサと揺れたのがわかりました。

 私がヒーターの前から少し体をずらすと、シンネン様はその空いたスペースに収まるように這ってやってくると、私の隣にぺたんと座り込みました。

 得体の知れないものが近くにいるという恐怖心はまだあったものの、シンネン様から害意を感じたことはなかったので、しばらくしてから、私は肩に入っていた力を抜きました。

 そのとき改めて、シンネン様をまじまじと見ました。ヒーターの光に照らされていはしたものの、うつむいた顔にざんばらの髪がかかって、その表情を見ることは叶いませんでした。

 ただそのざんばら髪に隠れた横顔から、私は寂寥感のようなものを読み取りました。

 今振り返るにそれは恐らく、私の気持ちが投影されたものであって、シンネン様の感情が読み取れたわけではないのでしょう。

 けれどもそんな区別が当時の私にはつかず、私は一方的にシンネン様へ同情心や、親近感に似た感情を覚えたのです。

 その年もなにごともなく、シンネン様は夜明け前にあの玉手箱のようなものの中へと、這いながら戻って行きました。

 次の一月一日から一月二日にかえての夜が来る前に、私は初潮を迎えました。

 だからなのかはわかりません。その年のシンネン様は、前年と同様にヒーターの前まで這ってくると、初めて私の体に触れました。あの、枯れ枝のような手指で。

 私はその接触に嫌悪感を抱きませんでした。

 シンネン様の姿が、前よりもずっと人間に近づきながらも、私の知る人間ではないということがわかっていたからかもしれません。

 むしろ、私はその接触によってひと恋しさというような感情を慰められたような気さえしました。

 そのときシンネン様の顔が、ぐっと私に近づくと、なぜかラズベリーのような香りがしました。

 そういうこともあり、嫌悪感が湧いてくることもなく、私は初めて見たシンネン様の瞳が、金の色をしていることを知りました。

 しばらく、私とシンネン様は見つめ合いました。

 やがてシンネン様は顔を背けると、私の肩にシンネン様の剥き出しの肩をくっつけるようにして、少しだけ寄りかかってきました。

 シンネン様にも寂しいと思う気持ちはあるのだろうと、そのときの私は思い、ますますシンネン様に対して親近感のような感情を深めました。

 私がシンネン様とそうして過ごしているからなのか、おじさんの事業は順調で、親戚のひとたちもそれぞれ順風満帆な人生を歩んでいるようでした。

 他方、シンネン様と唯一会っているはずの私はと言えば、ろくに友人を作ることもできず、青春などといった言葉からは遠い日々を送っていました。

 それでもシンネン様を迎える役割をただひとりで担っているという事実は、私の浅ましい虚栄心をどうにか満足させていました。

 いずれにせよ、内気で引っ込み思案な私が、たとえばシンネン様を迎える役目をしたくないとは、おじさんや祖父母に言えるわけもなかったのです。

 その次の年にあの玉手箱のようなものから出てきたシンネン様は、また少しだけ私の知る健康的な人間の姿に近づいていました。

 アイボリー色の肌が骨に張り付いたような指の先、その爪は硬そうでしたが、前の年よりも血色がよくなっているように思えました。

 シンネン様が近づいてくると、やはりまたフルーティーというよりは甘ったるい、砂糖をたっぷり加えたラズベリージャムのような香りが鼻をかすめました。

 ヒーターのじりじりとした熱波と、赤い光に照らされて、また私とシンネン様は並んで座っていました。

 そのときふと思ったのは、このようなことがいったいいつまで続くのか、ということでした。

 私が死ぬまで続けられるのでしょうか。それともいつか卒業とでも言えるべき日は来るのでしょうか。

 仮に私が死んだら、だれかが代わりを担うのでしょうか。

 取り留めもなくそんなことを暇に飽かせてつらつらと考えていれば、不意にシンネン様のざんばら髪が揺れたのが、視界の端に映りました。

 私はそのときに恐らく初めて、土蔵で声を出しました。と言っても、「え」という一音が、吐息のように出ただけでしたが。

 シンネン様が私の体に触れました。

 その硬そうな指先で、私の薄い腹をつつくようにして触れると、そのまま線を引くように、すーっと下腹部まで指を移動させたのです。


 ▼▼▼


 ――ぐにぐに♡

(え……? シンネン様、どこ触ってるの……?)

 ――くにくに♡

(お股のここ、柔らかいけど、なんか硬いところもあって……シンネン様の硬い指の先がぐにぐに? って押してる……)

 ――くりくり♡

(やだ……なんかぐにぐにしてたところが変……硬くなってきて……なに……? なんか、くすぐったい……)

 ――カリカリ♡

「――きゃんっ♡」

(え? なに、今のかすれて高い声……勝手に出ちゃった……。それよりも、なんかシンネン様の指が、お股の上のところを触ってきてから……私、おかしい)

 ――カリカリ♡ クリクリ♡

「んっ……♡ んぅ♡ ふぅうう♡ ぁっ♡」

(おかしいよ……声止まらないし、なんかあそこが硬くなって……じんじん熱い気がする……。それになんか、おしっこしたいような……?)

 ――すりすり♡

(え? 今度は胸も……乳首も指の先で……? くすぐったい……。お股のあそことは違うけど……なんだか柔らかいところを触られてると、お腹の奥がざわざわする……)

 ――クリクリ♡ カリカリ♡ すりすり♡

「あっ♡ あぅう~~~♡♡♡」

(変に高い声ばっかり出る……! お股の硬くなった、芽みたいなところクリクリされると、変な声が出ておしっこしたくなる……! どうしよう……なんか顔も熱くて、息が苦しい。それに蔵が寒いから、乳首が硬くなって……)

「んぅ♡ あうぅ♡ シンネンさまぁ♡ あっ♡ ぁあっ♡ ヘン……だよっ♡ わ、私っ、お、おしっこ出そう……! や、やめ――」

 ――クリクリクリクリ♡♡♡ カリカリ♡♡♡
 ――ぎゅ~~~~~~~~っ♡♡♡

「――んお゛っ♡ お、おっ、おしっ……♡ おっ、お゛ほぉっ~~~♡♡♡」

(な、なに……? お股の上のところをぎゅーってされたら、目の前がチカチカ白くなって……おしっこは漏らさなかったけど……なにこれ、お股からお腹の奥にかけてじんじんして、びくびくして……漏らしてないはずなのに、なんかお股がスースーする……?)


 ▲▲▲


 シンネン様がそのように私の体を弄んだのは初めてのことでした。

 私はシンネン様の手で性に目覚めると同時に、自分が思い違いをしていたことにも、うすうす気づきだしました。

 「シンネン様を迎える」。

 その言葉の意味に含められたものを、幼い私は読み取ることが出来ていませんでしたが、シンネン様にそのようなことをされて初めて、理解が及び始めたのです。

 けれどもその年のシンネン様は、それ以上私に無体を働くような真似はしませんでした。

 私はシンネン様にされたことをおじさんや祖父母、親戚のだれかに口外するようなことはしませんでした。

 あのとき人生で初めて感じた、明確な性的快感は私に否応なく後ろめたさを与えたのです。

 単純に、小学生になってしばらく経つのに、下着を濡らして汚してしまったという事実も、私に羞恥心を与えました。

 けれども、喉元過ぎればなんとやら。母方の実家からおじさんの家へ帰った私は、じきに隠れて自慰行為に耽るようになりました。

 隠れてとは言いはしましたが、そのころのおじさんは事業の拡大に伴い、家を何日も留守にすることが当たり前になっていましたので、私は自慰をする場所や、タイミングについて困ることはありませんでした。

 シンネン様に触れられた場所を、あの一夜のことを思い起こしながら、自らの手で何度も触れ、幾度となく達しました。

 そのころの私の頭の中は、いつ自慰行為に及ぶかでいっぱいでした。一日のうちに数度行為に及ぶこともしばしばでした。

 インターネットは私に、偏ってはいながらも多くの知識をもたらしました。

 クリトリス、ヴァギナ、オーガズム、ペニス。それからセックス。

 次の年、シンネン様を迎える役目をこなす晩までに、私は毎日のように自慰をしました。

 既に私の頭はひとつの言葉でいっぱいでした。

 すなわちセックスです。

 「シンネン様を迎える」という言葉は、そういう意味だと、私はもう理解していました。

 その年の一月一日から一月二日にかけての晩、私は薄いブランケットの他に、ドラッグストアで買ったティッシュペーパーとウェットティッシュを持ち込みました。

 寒い土蔵の二階で、古ぼけたヒーターにあたり、その光を見つめながら、私の頭の中はセックスという言葉でいっぱいでした。

 どうしようもなく、自分の性欲が強いことも自覚し出していました。

 未知への恐怖は快楽への期待が制圧し、私は股のあいだを少し濡らしながらシンネン様を待ちました。

 夜が更けると、またあの黒塗りの玉手箱のようなものの蓋が動き、床板に落ちるとシンネン様が這い出てきました。

 今やシンネン様の姿は最初に見たときよりも、遥かに健康的でした。

 張りを取り戻し始めた白い肌。老人のような白でありながら、艶やかさを持った髪。最低限の肉が付き出した四肢。

 そして、ペニス。

 私は初めてシンネン様に男性器がそなわっていることに気づき、まじまじと見てしまいました。

 既に私は知識として、それが硬くなり勃起すると、セックスが出来るのだということを知っていました。

 シンネン様の男性器は、勃起状態になる前で、すでに長大でした。

 私の心のうちに、にわかに恐怖が湧き出ましたが、それはやはりすぐに快楽への期待感の下に沈んで行きました。

 例年通りのその晩を迎えるまで、私は期待から三度も自慰行為に及んでいました。

 私がシンネン様を呼ぶ声は、どこか媚びるようにかすれて、それからわずかに震えているように聞こえました。

 ヒーターの光が私とシンネン様を照らす中、私はズボンと下着を脱ぎ捨てました。下着のクロッチ部分は、水染みができて、暗く濡れていました。

 私は次いで上着を脱ぎ、冷たく固い床板に敷くと、その上に寝転がり、大胆にもシンネン様の眼前で開脚しました。

 「シンネン様を迎える」ことの意味を既に理解していましたし、なによりも交わりを期待するそのときの私に、羞恥心は欠片ほどしかありませんでした。

 私の、期待から来る熱い吐息は、蔵の闇の中で白くなり、やがては溶けて消えることを繰り返しました。

 ただの期待だけで私は股ぐらを濡らし、寒さゆえではなく乳首を硬くさせていました。

 シンネン様は這いつくばった姿勢のまま、じりじりと私に近づきました。

 シンネン様が体を動かすたびに、長大な男性器が股のあいだで左右に揺れていました。

 やがてシンネン様は寝転がった私に覆いかぶさり、例の甘ったるいラズベリージャムのような香りが鼻をくすぐったことを覚えています。


 ▼▼▼


 ――ぴちゃぴちゃ♡
 ――ちゅうちゅう♡

(シンネン様……私のおっぱい吸ってる……♡)

「んぅっ♡ ふぅ……♡ ふぅう……っ♡」

(乳首にざらざらした舌が当たって……♡ ほじくるみたいに動かされると気持ちいい……♡)

 ――レロレロ♡
 ――ちゅうちゅうちゅう~~~♡

「シンネンさまぁ♡ あぅ♡ あっ♡ ぁああっ♡」

 ――ふにふに♡
 ――カリカリ♡

(あ♡ 今度は乳首、爪の先で優しくカリカリしてくれてる……♡ 真ん中のとこカリカリされるとっ♡ お腹の奥がずんって重くなる♡)

 ――ちゅうちゅう♡ ちゅうちゅう♡
 ――カリカリ♡ カリカリ♡

(片方の乳首吸われながら、もう片方カリカリされるのすごいいい♡♡♡ クリがじんじんしてきて……♡ おまんこびしょびしょになってる♡♡♡ 子宮がうずいてるのがわかっちゃう……♡)

「ん゛ふぅっ♡ あぅうっ~~~♡♡♡」

(んっ♡ 乳首しかいじられてないのに……♡ 甘イキしちゃった……♡ おまんこの奥からドロって……♡ 愛液出てきてるのわかる……♡)

「あっ♡ シンネンさまぁ……♡♡♡」

(触って欲しい……♡ クリもおまんこも♡♡♡ ぜんぶ、ぜんぶいっぱい触ってぐちゃぐちゃにして欲しい……♡♡♡)

「シンネンさま……♡ いっぱい、触って……ください♡」

 ――ちろちろ♡
 ――ぺろぺろ♡

「――お゛っ♡♡♡ おほっ♡♡♡ ひっ♡」

(腰跳ねちゃった……♡ シンネン様がぺろぺろ舌でクリ舐めてる♡♡♡ 指で触るのと違って……あったかくて、ざらざらしてて、肉厚で……舐められるの気持ちいい……♡♡♡)

 ――ちゅうっ♡
 ――ちゅううう~~~♡♡♡

「んお゛っ♡♡♡ シンネンしゃまっ♡♡♡ クリ吸い上げるのっ♡♡♡ あっ♡ あ゛うううぅ~~~っ♡♡♡」

 ――ち゛ゅうううううう~~~~~~♡♡♡

「イ゛グっ♡♡♡ いぎましゅっ♡♡♡ シンネンしゃまにっ、クリ吸われながらぁ♡ イ゛グぅううう~~~~~~っ♡♡♡」

 ――ぷしゅっ♡ ぷしっ♡

(え? おしっこ漏らしちゃった……? あ、でも、これって潮吹きってやつなのかな……♡ シンネン様のクリ吸い気持ち良すぎて一瞬意識飛んじゃった……♡ まだ目の前が白っぽくチカチカしてる……♡ クリが痛いくらいじんじんして……♡ おまんこぱくぱくしちゃってる♡)

 ――ぱくぱく♡
 ――どろぉ……♡

(愛液……お尻が濡れちゃうくらいびしょびしょ♡ 挿れて欲しい……♡ シンネン様のおちんちん♡♡♡ クリも、おまんこから子宮までも、じんじんしててちょっと痛くて苦しい……♡ シンネン様のおちんちん挿れられちゃったら、どうなるんだろう♡♡♡)

「シンネンさま……♡♡♡」

(あ……♡ シンネン様のおちんちんも勃起してる♡♡♡ 私で興奮してくれたのかな……♡ おっきくて長くて、ちょっと怖いけど……でも、シンネン様のおちんちんでおまんこゴシゴシ♡ ってして、子宮ずんずん♡ ってして欲しい♡♡♡)

「あ……わた、私っ……♡ じゅんび、できてます♡♡♡ おちんちんいれる準備……♡ だから……♡」

 ――どろぉ♡

(おまんこの奥から愛液あふれてくる♡ どろどろ止まんない……♡)

 ――ぱくぱく♡

(おまんこが、おちんちん欲しいって言ってる♡♡♡ 我慢できない……はやく、はやくおちんちんで子宮突き上げるくらい激しくして欲しい♡♡♡)

 ――くちゅっ♡

「あ♡ シンネン様のおちんちん……♡」

(おちんちんの先っぽで、おまんこの入り口くちゅくちゅしてる♡ まだ入ってないのに、気持ちいい♡ クリ痛いくらいじんじんしてきた……♡)

 ――くぽくぽ♡

(亀頭で浅いところほじられてる♡ カリがすごく張ってるの、わかる♡♡♡)

「んぅ♡ ふぅ♡ くぅ♡」

(まだぜんぜん入ってないのに、興奮すごい♡ シンネン様のおちんちん入って来てるんだって思うと、声出ちゃう♡)

 ――じゅぷっ♡
 ――ずずっ♡
 ――ずぷぷぷぷ♡♡♡

「お゛っ♡♡♡ ほぉん♡♡♡ シン、ネンしゃまっ♡♡♡ お゛っ、おちっ♡ お゛ちんちん~~~っ♡♡♡」

(あああ♡♡♡ 入ってきた♡♡♡ シンネン様のおちんちん♡♡♡ おまんこのひだひだえぐって……♡ 壁をずりずりってカリで削ぐみたいにこすって……♡ おちんちん長くておっきいから、子宮の入り口まですぐに届いちゃう……♡♡♡)

 ――ずぶぶぶぶ♡♡♡

「お゛っ♡ おほっ♡ おっ♡」

 ――どちゅどちゅどちゅ♡♡♡

「ん゛ほっ♡♡♡ おちんちん♡♡♡ おまんこおちんちんでいっぱ……♡♡♡」

 ――ずぽずぽずぽ♡♡♡

「お゛お゛っ♡♡♡ おまんこずぼずぼ気持ひぃ……っ♡♡♡ はぅ♡ イきそ♡ ぬるぬるおまんこ♡♡♡ ちんぽでずこずこしゃれてっ♡♡♡ イ゛ぅっ♡」

 ――ごちゅごちゅごちゅ♡♡♡
 ――じゅぽじゅぽじゅぽ♡♡♡
 ――パンパンパンパンパン♡♡♡
 ――ずこずこずこずこ♡♡♡

「――イ゛グぅ♡♡♡ イ゛ってましゅ♡♡♡ シンネンしゃまぁあ♡♡♡ ずっとイ゛ってましゅうううう~~~♡♡♡ イ゛っでおりてこらんにゃっ♡♡♡ イ゛グっ♡♡♡ またイ゛グぅ♡♡♡ イ゛グぅうううううう~~~♡♡♡ シンネンしゃまのおぢんぢんでっ♡♡♡ まんここわれりゅっ♡♡♡ お゛っ♡ イ゛グっ♡♡♡ またイ゛グっ♡♡♡ おちんちんに子宮突かれてイ゛グぅううううううううう~~~~~~♡♡♡♡♡♡」

 ――ぷしゃっ♡ ぶしゃっ♡
 ――ぴゅっ♡
 ――しょろろろろろろ~~~♡♡♡

「んお゛♡ おしっごぉ♡♡♡ しお吹いてぇ♡ おしっごしながりゃイ゛ってりゅぅうう~~~♡♡♡」

 ――どちゅどちゅどちゅどちゅ♡♡♡
 ――ずこずこずこずこ♡♡♡

 ――びゅ~~~~~~~~~~~~♡♡♡


 ▲▲▲


 「シンネン様を迎える」。その真の役目を果たし、私は純潔を失いました。

 失禁してもなお、シンネン様とのまぐわいは終わりませんでした。

 気が狂う、と思いました。

 シンネン様がようやく満足したのはいつごろのことだったでしょう。

 シンネン様の長い長い射精を受け止めているあいだにも、私は浅く達しました。

 そのような扱いを受けてなお、私は「シンネン様を迎える」という役目をどうにか降りよう、という考えを抱くには至りませんでした。

 いえ、むしろ、空想ではない、本物の男女の交わりを知った私は、以前にも増して性欲が亢進しました。それは、異常なほどに。

 それでも私の、内気で引っ込み思案な性格が一朝一夕で変わるはずもありません。

 次の年の、一月一日から一月二日の夜を待ちわびて、私は日々自慰行為に精を出しました。

 私の中に入っていたシンネン様の男性器を思い起こしながら、幾度となく達しました。ほとんど毎日、それは欠かしませんでした。

 次の年も、その次の年も、その次の次の年も。

 「シンネン様を迎える」という名目で、私はシンネン様とひと晩じゅう交わりました。

 胸が大きく膨らみ、臀部に肉がつき、腋毛と陰毛が生え、おおよそ二次性徴を終えましたが、私が妊娠するようなことはありませんでした。

 シンネン様は年を経るごとに、いえ、私と交われば交わるほどに、健康的な人間の容姿に近くなって行きました。

 白っぽいアイボリー色の肌。老人のようでありながら、艶やかな白髪はくはつ。ほどよく筋肉のついた肉体から伸びる四肢の若々しいこと。

 私はシンネン様の長大な男性器を入れられながら、既に何度も彼とキスを交わしていました。

 錯覚だと知りながらも、私はシンネン様と愛し合っているような気持ちになり、しかしそれを性欲を高めるための餌ていどにしか思っていなかったこともまた、確かです。

 月経が来ないというような妊娠の兆候もなく、またシンネン様と言葉を交わしたこともなかったので、私と彼とは別の生き物だと思っていました。

 母方の実家の土蔵の二階。そこに閉じ込められたままで、決して、私の領域には入ってこないだろう存在。

 私はそのように考えていました。

 しかしそれもまた、浅はかな思い違いだったのです。

 一年前の、一月一日から一月二日の夜明け前。

 シンネン様は初めて私の名前を呼びました。

 私は固まりました。

 なぜって、シンネン様が私の名前を知るはずなんてないのですから。

 私は、初めてシンネン様という存在に対し、恐怖の欠片のようなものを見ました。

 その日のことです。母方の実家から帰る途上、私とおじさんを乗せた車が事故を起こし、ガードレールの向こう側の崖の下へ落ちたのは。

 残念なことに、おじさんはそのときに亡くなりました。

 幸いと言うべきか、私は無傷でしたが。

 母方の実家でおじさんの葬式を出すことになり、そのときには、年末年始には顔を出さないような遠い親戚の方もやって来ました。

 そこで、普段は来ないような親戚の方と、祖父母らが揉めている声を聞きました。

 「シンネン様を迎える」。そのならわし、いえ、儀式を続けていることについて揉めているようでした。

 「シンネン様を迎える」。その儀式を行えば行うほどにシンネン様は元の力を取り戻してしまう。そうなれば家中に不幸が起きると言うのです。

 一方、力を取り戻したいシンネン様は、現世利益を餌に人間の欲をかき立て、儀式を遂行させようとする……。

 「シンネン様を迎える」儀式にはそのような綱引きがあり、しかしあまりにシンネン様の得体が知れず、儀式や、それに伴う富貴のあれこれも健全ではないとして、祖父母の代ですべて取りやめることになったのだそうです。

 しかし、一部の親族がそれを復活させた。そのことを知った一部の親戚たちが、抗議をしている声を私は聞いたのでした。


 それから私はおじさんの遺産の一部が手元に来たこともあり、現在はひとり暮らしをしています。

 もう母方の実家へ行くつもりはありません。

 そう心に決めて、今もマンションの一室でこれを書いているわけです。

 けれども今、マンションの借りている部屋の玄関扉。その前にだれかがいるんです。

 女性専用のオートロック式のマンションです。にもかかわらず、玄関扉の前に二〇代ごろに見える男性が立っているんです。

 ドアスコープを覗いたら、老人のような白髪はくはつの青年が立っていました。

 ドアスコープのレンズで歪んで見える顔には、金の目がありました。

 扉越しなのに、甘ったるいラズベリージャムの香りが漂ってくるようでした。

 もう間もなく、一月二日へと日付が変わります。

 たぶん、私は扉を開けないといけないのだと思います。

 それでは。
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