わたしの好きなひと(幼馴染)の好きなひと(わたしの姉)から惚れ薬を渡されたので、

やなぎ怜

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 維月に惚れ薬を盛った――。

 その事実を告げた風花は、自業自得だということをよく理解しながらも、泣きたい気持ちになった。

 幼馴染という絆がある中で、風花は我欲から、維月のその信頼を裏切る行為に走ったのだ。

 維月を愛していたから。……けれども、愛しているなら惚れ薬を盛るだなんて行為は選ぶべきではなかったのだ。

 そのことを今さらながらに、痛いほど実感しながら、風花は維月の言葉を待った。

 雪子の言っていたことが正しければ、風花の宣言によって維月にかかっていた惚れ薬の効能は解けたはずだ。その機序は、未だにまったくわからなかったが。

 しかし維月は黙り込んだままで、風花は恐る恐る伏せていた目を彼へと向ける。

 維月は――

「……惚れ薬盛るほど俺のこと好きだったの?」

 と、ほのかに赤みが差した顔を手で覆ったまま、言った。

 風花は、維月が怒っているのだと思った。けれども優しい彼のことだから、そのまま怒りをぶつけるようなことはしないのだと考えた。

 風花はもうここまできて嘘をつくのはよくないと思い、静かにうなずいた。

 目の端には涙が浮かびそうだった。己が招いたこととは言えど、情けなさと、恥ずかしさと、絶望感でいっぱいだった。

 けれども、惚れ薬の効能を解かないという選択肢も取れなかったことは、事実。

 惚れ薬の効能を利用してセックスまでするほどの度胸は、風花にはなかった。

 いっときの夢から覚めて、残ったのはひどい虚脱感。

 これから維月にどう言われるのか、風花は恐ろしくも受け止めなければならないとも思った。

「……風花、さ」
「…………」
「――本当に、惚れ薬なんてものが存在するって、信じてたの?」

 風花は目を丸くした。

 同時に、もう一度夢から覚めた気持ちになった。

 状況理解すると、維月に惚れ薬を盛ったという事実とは別種の恥ずかしさが込み上げてくる。

 ……風花は――雪子に担がれたのだ。

 しかも、維月の様子からして彼は雪子からことの次第を一から一〇まで知っている。

「はあ……惚れ薬を信じるなんて、将来ヘンな羽毛布団とか絵画とか買わされそうで心配」

 維月の言葉に、風花は小さな唸り声を上げることしかできなかった。

 しかしハタ、と思い当たることがあった。

「……なんで、維月は……騙されてくれたの?」

 悲観的に考えるのであれば、風花を騙して笑いものにする目的くらいしか思い浮かばない。

 しかし、風花の知る維月はそのような悪趣味な真似事はしないという信頼があった。

 だがそれ以外の理由も思い当たらなくて、風花は再び泣きそうになった。

 そんな風花を見て、維月が慌てる気配がする。

「普通に考えてさ、わからない?」
「……わからない」
「……好きだからに決まってるじゃん」
「決まってるの?」
「そっち? うん……まあ、そう。好きじゃなきゃキスしようなんて思わないから」

 風花は、出来事の性急な推移について行けず、ぼんやりとした頭で「そうなのか」と納得した。

 納得したあとで、維月の言葉を反芻して、驚きの事実に気づく。

「え? 維月ってわたしのことが……その、好きなの?」
「さっきからそう言ってるじゃん……」

 維月は呆れた様子で言うが、視線は風花に向いておらず、どこか気恥ずかしそうに膝に肘を立て、頬杖を突く。

「雪子さんから『惚れ薬』の話を聞いたときはまさか風花が使うなんて思ってなかったけど」

 風花はまたしてもぐうの音が出ない状況に陥る。

「風花ってあんまりひとの目見て話せないのに、二週間前だけは俺のことじーっと見てたから、『ああ惚れ薬盛ったんだな』って判断した。雪子さんから惚れ薬の『設定』については聞かされてたから……」

 風花は、「普通に好きなら好きって言えばいいじゃん」という言葉が頭をよぎったが、どうにか口から出すことはしなかった。それは、風花にも思い切り当てはまってしまう文句だからだ。

 けれど風花よりも敏い維月は、こちらの考えていることをなんとなく見抜いたのか、言い訳めいた言葉を口にする。

「……俺は、散々雪子さんが好きだってアピールしてたから……だから、言いづらかったんだよ。なんか、すぐに言ったら風花に乗り換えたみたいな感じになっちゃうかなって」

 そう、維月は雪子が好きなのだ。……その、はずだった。

 風花は自分に都合のいい夢を見ているような気持ちになって、ぼんやりと維月を見る。維月はやはりどこか気恥ずかしそうにして、明後日の方向に視線を向けている。

 かと思えば、急に維月の目が動いて風花の視線とかち合った。

「でも……風花が俺に惚れ薬を使ったから。――なあ、俺たち両思いってことでいいんだよな?」

 風花は、顔に熱が集まるのを感じた。

 そして、無言のまま静かにうなずいた。

「やった……!」

 維月の、万感の思いがこもった、静かな歓声にも似た言葉を聞き、風花の顔にはますます熱が集まった。

「あー……なんか無駄に遠回りした気分だけど……うれしい」
「ほんとにね……。……それで」

 風花は、恥ずかしさから維月を見れず、うつむいたまま言う。

「……さっきの続きって……どうなるの?」

 維月は「お前ってさあ……」と額に手を当てて、困った顔をしながらも、頬を赤く染めたのだった。
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