魚人イゥヤと龍人ヒタラウカ

あせき

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魚人イゥヤと龍人ヒタラウカ

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 龍人ヒタラウカはまだ三度しか役目を終えていない、若い龍だ。
 だから世界を造る、海を駆ける水龍である彼が、三度目の役目を終えて暫くし、その魚人に出会って、恋をしたのは少々運が悪かったと、ヒタラウカを知る龍や竜は後に語った。

「イゥヤ!イゥヤ!今日は一緒に過ごせるか?」

 若いとはいえヒタラウカは龍人だ。
 まだ三度しか役目を終えていないとはいえ、姿は幾らでも変えられる。
 魚人として成人を迎えているイゥヤに合わせて、ヒタラウカもそれに見合った人型に姿を変えた。
 残念ながらイゥヤのように鱗の生えた尾を残すことはできないが、二本の腕も、顔の造りも人の造りになっているので問題はない。

「毎日毎日、よく飽きないわねあなた」

 イゥヤはここ数週間、毎日広い海を群れで移動しているのにも関わらず、自分を見つけて真直ぐ来るヒタラウカに驚きを通り越して呆れていた。
 数週間前、海を泳いでいたら突然目の前に大きな大きな偉大なる龍が群れの魚人たちを吹き飛ばしながら迫ってきたときには恐れ震えてしまったけれど、今は龍ではなく人型を取っていることもあり、こうも常といっていいほど近くにいれば偉大なる龍といえどさすがに慣れる。
 仲間の魚人たちはといえば、ヒタラウカが迫ってくる時はサッと散り彼がイゥヤに会いやすいよう道を作っている。

「飽きる?なぜ?なにに飽きると言うんだ?なに、それよりも日が昇った!今日はどうだイゥヤ、私と一緒に過ごせるか?」
「いつ来ても無理だと言っているでしょう。あなた、毎日毎日、お役目がない時の龍人様は何をしているの?生憎わたしは忙しいの」
「そうか、それは残念だイゥヤ。それならせめて君の近くを泳いでいていいかい?」
「わたしたちの仕事の邪魔をしないのなら、いいわ」
「やった!ありがとうイゥヤ!」

 ヒタラウカは喜び跳ねた。
 そのいつもの様を見ると、イゥヤは思うのだ。なんて若々しい子供なのだろうと。
 イゥヤはこの群れの中では年寄りだ。
 人としての見た目はまだ若いけれど、鱗も肉もが艶も張りも失せてしまっている。尾鰭なんてボロボロだ。
 そんな自分をこんな若い、しかも偉大なる龍が相手にしたいと思っているとはどうも信じきれない。
 いや、それ以前の問題だ。

「いいじゃない、それでも番たいとおっしゃったのでしょう、あの若様は」
「きっと素敵な子ができるわ。どうして番ってあげないの?」
「泡になる前に早く番った方がいいわ」
「みんな知っているでしょう?もう嫌なのよ」
「そうだったわね、ごめんなさい」
「でも、あの若様なら、龍人様ならあなたを置いて逝かないわ」
「あの若様との子もそうよ。龍人様の血を引く子よ?きっと元気に、健やかに育ってくれるわ」
「……でも、わたし……」
「そうねイゥヤが嫌なら、しょうがないわ」
「望まれない子はいない方がいいわ」
「番の話は最初の一度だけ。きっと偉大なるお方の気まぐれよ」
「終わるイゥヤは気にしなくていいわ」
「さあ、お喋りはここまで。行きましょう」

 毎日毎日、ヒタラウカが来るたび同じ会話が繰り返される。
 仲間たちの気持ちもわからなくはないイゥヤは、それでも嫌だと幾人もの仲間が乗り越えた悲しみを乗り越えることができずにいた。
 ヒタラウカが嫌というわけではない。
 ヒタラウカでも、嫌なのだ。
 かつて愛した人と、愛した子らが一瞬でいなくなってしまった日が過り、恐ろしくなる。

「あなたはわたしを好きだと言った。わたしの青い髪、青い目、青い鱗が美しいと、そう言った。嬉しかったのよ。老いたわたしをそう言ってくれる人なんてもういないから。本当に、嬉しくて、恥ずかしくて、嫌だった。ねぇ、どうしてもっと早くわたしに会いに来てくれなかったの?」

 イゥヤはそんな言葉をいつも飲み込んでいる。
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