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第5章 REACT【榊原と他キャラの行為あり】
②再会
しおりを挟む喫煙所を出て、都内のとある地下道を一人で歩いていた。
数十メートル離れた距離から、しばらく誰かに尾行をされている。
素人ではない。
尾行に慣れた人間だ。
────そろそろ正体を明かしてもらった方がいいだろう。
榊原は角を曲がったところで待ち構えた。
すると、一人の男が姿を現す。榊原は、その男の腕を掴み捻り上げ、そして壁に押し付けた。
「やぁ。君はどこの誰かな────」
「──ぐっ!」
その男の顔を見て、榊原は目を見開いた。
そしてぱっと、押さえつけていた手を離す。
「羽賀くん──⁈」
「どうもお久しぶりです。榊原さん」
相変わらず強いですね、なんて苦笑しながら、肩をぐるぐると回すこの男は────
羽賀樹。
警視庁組織犯罪対策部──暴力団事件担当部署所属の刑事。
三十二歳という若さでノンキャリアながら警部補にまで上り詰めた、組対の若きエース。
三年前、そんな羽賀と榊原は、親密な関係にあった。
羽賀は榊原の“庁内エス”────いわゆる、警察内部の公安協力者だった。
「なんで君が、僕を────?」
「黒崎ですよ」
どき、と心臓が跳ねた。
まさか。
自分と黒崎の関係を────?
「僕ら組対二係は、黒龍会を監視中なんです。特に、若頭の黒崎啓をね」
「なるほど。そしたら公安の僕が黒崎と接触しているところを偶然知った、ということかな」
羽賀が一瞬、目を伏せた。
そして再び、こちらをしっかりと見つめて言う。
「榊原さん。あなた────黒崎と一線、超えてますよね」
「…………なんのことかな? たしかに僕は公安の任務で、彼に接触はしてるけど……」
「────奴に抱かれるのも任務なんですか」
「僕は……任務のためなら手段は選ばない。君だって知ってるでしょう?」
羽賀の瞳を見つめる。
彼の鋭い瞳にはしっかりと怒りが滲んでいた。
「奴は……黒崎は危険です。榊原さん、手を引いてください」
「──君に、公安の任務に口を出す権限はないと思うけど?」
「任務じゃない!」
羽賀の怒鳴り声が、無音の地下道に反響した。
「あなた、今、本当に任務のために抱かれてますか? それで何を得ているんです? ────奴に呑み込まれていませんか?」
ぎゅっと、心臓を掴まれたかのような衝撃。
必死に目を背け続けていた事実を、羽賀に眼前に突きつけられ、言葉に詰まる。
────ああ、そのとおりだ。
奴を手中に納めるために関係を持ち始めた。
しかし、逆に自分は今、まさに黒崎の手中に堕ちようとしている。
わかっている。
この状況が危険であると。
だからこそ自分は────自分の身体を絡めとる蜘蛛の糸から逃れようともがいているのだ。
榊原は思考を振り解くように、ふぅと小さく息を吐いた。
「……君は、変わってないね。相変わらず真っ直ぐだ」
小さく笑ったつもりだった。
だが、きっと笑えていなかった。
羽賀は、一歩だけ踏み出す。
「あなたも変わってませんね。────だからこそ、心配なんです」
「……心配してくれてるんだ? そういう優しいところも相変わらずだね」
静かなやりとりの中に、どこか壊れたような乾いた音が混じる。
「公安の人間は、任務のために誰かを利用する。三年前の俺がそうされたように」
羽賀の声は、少しだけ低くなった。
そう。
三年前、自分はこの羽賀樹を利用するために、恋人のような関係になった。そして目的を達成した直後、自分はすぐに連絡を絶った。
「榊原さん、あなたは、あのときの俺と同じように黒崎を利用しようとしている」
「…………そうだね。それは否定しないよ」
「だけど────黒崎はそんな簡単なタマじゃない。むしろ今、あなたは黒崎に主導権を奪われている──違いますか?」
榊原は答えることができなかった。
ただ、真っ直ぐに羽賀の瞳を見つめた。
羽賀もまた、何も言わずに、こちらを見つめている。
「……雨、降ってきたね」
視線を上げると、地下道の出入口の向こうに雨雲が見えた。
「榊原さん」
羽賀が、もう一歩近づく。
「もし、ほんの少しでも……俺のこと、覚えててくれてたなら……今夜だけでいい。話がしたいんです」
その言葉に、榊原はふっと目を細めた。
────黒崎との関係は、やはり終わりにするべきだ。
代わりに目の前にいるのは、かつての自分を「好きだ」と言ってくれた男。
そして、裏切り者の自分をまだ見捨てずに信じてくれている、優しくて愚かな人間。
「そうだね。僕も君と────少し話したいかな」
「ここのすぐとなり、ビジネスホテルがあります。二人きりで話しましょう」
二人は、無言のまま────雨の中へと歩き出した。
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