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Who Owns You?(第3章として読んでもらうのがいいかも)
⑤誓約書(追記しました)
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カーテンの隙間から、朝の日差しが差し込んでいた。
ソファの上でそのまま、眠ってしまっていたようだ。体の上には毛布がかけられていた。
一晩眠っても、十分すぎるほど余韻が残っている。
頭がふわふわする。全身がまだ雲の上にあるようだった。
────ひたすらに気持ちよかった。
そして
──────何かから解放されたような気がした。
今までの自分なら、ここまでプライドを傷つけられたなら、怒りや屈辱で心が爛れただろう。
しかし、不思議とそんな感情は湧かなかった。
ただただ、満たされていた。
黒崎啓という存在に。
公安警察として背負っているすべてを捨てて、生身の一人の男に戻ることができた。
きっとこれを────幸せというのだろう。
ふと、身体を見る。
ローションと体液でドロドロだったはずの身体は、綺麗になっていた。シャツと下着もきちんと着せられていた。
────黒崎くん。
彼がきっと後処理をしてくれたんだ。
まるで愛する人にするみたいに。丁寧に。
その事実が、胸をざわつかせた。
ぼんやりと黒崎のことを考えていた時、本人が部屋に入ってきた。
「目が覚めましたか」
まるで何事もなかったような、穏やかな声。
スーツ姿に戻った黒崎は、まるでさっきまでとは別人のように整っていて、どこまでも“理性的な男”の顔をしていた。
「少しだけ……お話をしましょう」
「お話し?」
テーブルの上に白い封筒が置かれた。
紙の擦れる音が、やけに耳に残る。
「……僕は、榊原孝之さん────あなたがほしい」
「……え」
「これは誓約書です。僕の“所有物”になるという契約書。サインさえしてくれれば、あなたはもう──考えなくていい」
榊原は言葉を失う。
机に置かれた“誓約書”には、こう書かれていた。
『私は以下の内容に同意し、以後、黒崎啓に対し、誠実に従属することをここに誓います。
一 私は、自身の判断よりも黒崎啓の指示・命令を優先し、いかなる状況においても従います。
二 私は、今後一切の抵抗・拒否・反論を放棄し、服従する立場にあることを自覚します。
三 私の身体的自由、思想、判断、尊厳のすべてを黒崎啓に委ね、それを以て、自己の存在を証明します。
四 いかなる羞恥、苦痛、屈辱を伴う行為であっても、それが黒崎啓の意向である限り、私は甘受します。
五 私は、黒崎啓に対する所有関係を認め、以後、自らを「黒崎啓の所有物」として扱います。
本契約は、私の自由意志により作成され、いかなる強要・脅迫を受けた事実も存在しません。』
顔が引き攣るのが、自分でもわかった。
「冗談じゃない」
こんな誓約書────サインなんかできるわけがない。
これは、完全な“奴隷契約書”だ。
公安警察として、いやそれ以前に、一人の人間としてこんなものを受け入れることなどできない。
ぼんやりとした頭でも流石にそこは冷静だった。
しかし、黒崎はこちらの様子に構わず続ける。
「榊原さんは今まで、たくさんの人を“支配してきた”でしょう? 部下も、敵も、協力者も────そして時には恋人のような相手すら。支配するということはつまり、自分で全てを決定するということ。そしてその決定は全て“正しい”ものでなければならない」
「…………黒崎くんは──何が言いたいのかな?」
黒崎の意図を理解した上で、わざとそう問いかける。
「誰かの人生がかかった決断をするという責任は重いでしょう。間違えられない。失敗できない。────あなたはその重圧に苦しんできた」
「へぇ?」
────随分とわかったような口を利くね。
榊原はぎゅっと拳を握った。
黒崎の言葉は、ナイフのように鋭利で────榊原が見ないふりをしてきた心の中の本音を言い当ててくる。
そう。
ずっと目を背けていた、自分の心の“痛み”に。
「でもね、榊原さん────あなたがこれから“支配される側”になったら……」
黒崎は榊原の隣に腰を下ろし、さらりと囁いた。
「もう、考えなくていい。迷わなくていい。決めなくていいんです。────何もかも、僕に命令されるだけでいい。気持ちいいかどうかも、正しいかどうかも、全部僕が決めてあげる」
榊原は何も言えないまま、黒崎の瞳を見つめた。
「あなたはとても優秀だ。立派な公安刑事だ。そして常に公安刑事として正しくあり続けようとした。だからこそ、“責任”という呪いから離れられなかった。そんなあなたを、僕が────解放してあげます」
黒崎の指が、頬に触れる。
ひんやりと冷たいのに、どこか温かい。
何故かそう感じた。
「僕に飼われれば、あなたはもう“選ばなくていい”。全部僕が、あなたの代わりに決めてあげる。あなたはただ、僕に従って、気持ちよくなって、甘えていればいい」
「ぼく、は────」
榊原の中で、理性がぎりぎりの境界で踏みとどまっていた。
──────でも、その理性こそが、今まで自分を縛ってきた鎖だった。
榊原はもう、疲れていた。
他人を支配することに伴う責任に。
常に正しい選択を自ら行わないといけないという重圧に。
────自分はずっと、それらから解放されたかったのかもしれない。
「ねぇ、榊原さん」
黒崎は、耳元で囁いた。
「全部捨てましょう? もうあなたは────正しくあろうとしなくていい」
黒崎が万年筆を優しく握らせてくる。
「僕に抱かれた時、解放されてたんじゃないですか? 支配される快感を、感じてたんじゃないですか? 誓約書にサインしたら────あなたは自由になれるんです」
──────自由、か。
気づいたら、名前を書いていた。
榊原 孝之
そのサインが、インクに沈みきるのを見届けて、黒崎は小さく微笑む。
「……これからは僕が全部、決めてあげますよ。──────榊原孝之さん」
ソファの上でそのまま、眠ってしまっていたようだ。体の上には毛布がかけられていた。
一晩眠っても、十分すぎるほど余韻が残っている。
頭がふわふわする。全身がまだ雲の上にあるようだった。
────ひたすらに気持ちよかった。
そして
──────何かから解放されたような気がした。
今までの自分なら、ここまでプライドを傷つけられたなら、怒りや屈辱で心が爛れただろう。
しかし、不思議とそんな感情は湧かなかった。
ただただ、満たされていた。
黒崎啓という存在に。
公安警察として背負っているすべてを捨てて、生身の一人の男に戻ることができた。
きっとこれを────幸せというのだろう。
ふと、身体を見る。
ローションと体液でドロドロだったはずの身体は、綺麗になっていた。シャツと下着もきちんと着せられていた。
────黒崎くん。
彼がきっと後処理をしてくれたんだ。
まるで愛する人にするみたいに。丁寧に。
その事実が、胸をざわつかせた。
ぼんやりと黒崎のことを考えていた時、本人が部屋に入ってきた。
「目が覚めましたか」
まるで何事もなかったような、穏やかな声。
スーツ姿に戻った黒崎は、まるでさっきまでとは別人のように整っていて、どこまでも“理性的な男”の顔をしていた。
「少しだけ……お話をしましょう」
「お話し?」
テーブルの上に白い封筒が置かれた。
紙の擦れる音が、やけに耳に残る。
「……僕は、榊原孝之さん────あなたがほしい」
「……え」
「これは誓約書です。僕の“所有物”になるという契約書。サインさえしてくれれば、あなたはもう──考えなくていい」
榊原は言葉を失う。
机に置かれた“誓約書”には、こう書かれていた。
『私は以下の内容に同意し、以後、黒崎啓に対し、誠実に従属することをここに誓います。
一 私は、自身の判断よりも黒崎啓の指示・命令を優先し、いかなる状況においても従います。
二 私は、今後一切の抵抗・拒否・反論を放棄し、服従する立場にあることを自覚します。
三 私の身体的自由、思想、判断、尊厳のすべてを黒崎啓に委ね、それを以て、自己の存在を証明します。
四 いかなる羞恥、苦痛、屈辱を伴う行為であっても、それが黒崎啓の意向である限り、私は甘受します。
五 私は、黒崎啓に対する所有関係を認め、以後、自らを「黒崎啓の所有物」として扱います。
本契約は、私の自由意志により作成され、いかなる強要・脅迫を受けた事実も存在しません。』
顔が引き攣るのが、自分でもわかった。
「冗談じゃない」
こんな誓約書────サインなんかできるわけがない。
これは、完全な“奴隷契約書”だ。
公安警察として、いやそれ以前に、一人の人間としてこんなものを受け入れることなどできない。
ぼんやりとした頭でも流石にそこは冷静だった。
しかし、黒崎はこちらの様子に構わず続ける。
「榊原さんは今まで、たくさんの人を“支配してきた”でしょう? 部下も、敵も、協力者も────そして時には恋人のような相手すら。支配するということはつまり、自分で全てを決定するということ。そしてその決定は全て“正しい”ものでなければならない」
「…………黒崎くんは──何が言いたいのかな?」
黒崎の意図を理解した上で、わざとそう問いかける。
「誰かの人生がかかった決断をするという責任は重いでしょう。間違えられない。失敗できない。────あなたはその重圧に苦しんできた」
「へぇ?」
────随分とわかったような口を利くね。
榊原はぎゅっと拳を握った。
黒崎の言葉は、ナイフのように鋭利で────榊原が見ないふりをしてきた心の中の本音を言い当ててくる。
そう。
ずっと目を背けていた、自分の心の“痛み”に。
「でもね、榊原さん────あなたがこれから“支配される側”になったら……」
黒崎は榊原の隣に腰を下ろし、さらりと囁いた。
「もう、考えなくていい。迷わなくていい。決めなくていいんです。────何もかも、僕に命令されるだけでいい。気持ちいいかどうかも、正しいかどうかも、全部僕が決めてあげる」
榊原は何も言えないまま、黒崎の瞳を見つめた。
「あなたはとても優秀だ。立派な公安刑事だ。そして常に公安刑事として正しくあり続けようとした。だからこそ、“責任”という呪いから離れられなかった。そんなあなたを、僕が────解放してあげます」
黒崎の指が、頬に触れる。
ひんやりと冷たいのに、どこか温かい。
何故かそう感じた。
「僕に飼われれば、あなたはもう“選ばなくていい”。全部僕が、あなたの代わりに決めてあげる。あなたはただ、僕に従って、気持ちよくなって、甘えていればいい」
「ぼく、は────」
榊原の中で、理性がぎりぎりの境界で踏みとどまっていた。
──────でも、その理性こそが、今まで自分を縛ってきた鎖だった。
榊原はもう、疲れていた。
他人を支配することに伴う責任に。
常に正しい選択を自ら行わないといけないという重圧に。
────自分はずっと、それらから解放されたかったのかもしれない。
「ねぇ、榊原さん」
黒崎は、耳元で囁いた。
「全部捨てましょう? もうあなたは────正しくあろうとしなくていい」
黒崎が万年筆を優しく握らせてくる。
「僕に抱かれた時、解放されてたんじゃないですか? 支配される快感を、感じてたんじゃないですか? 誓約書にサインしたら────あなたは自由になれるんです」
──────自由、か。
気づいたら、名前を書いていた。
榊原 孝之
そのサインが、インクに沈みきるのを見届けて、黒崎は小さく微笑む。
「……これからは僕が全部、決めてあげますよ。──────榊原孝之さん」
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