君はぼくの婚約者

まめだだ

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オレが婚約者とはじめて顔を合わせたのは中学の時だ。
同級生と聞いたが頭ひとつ分以上大きいあいつを見上げて、すげえなと思うと同時に、やっぱりオレが女役か、と納得と諦めが同時にやってきたのを覚えている。


「智史」

「直孝」


振り返ると、スーツの似合う男前に成長した長身の婚約者が立っている。


「早く来いよ。もうパーティーはじまるぞ」

「うん、わかった」



***
地元では名の知れた櫻宮の息子は二次性徴でオメガであることが判り、男の婚約者を探すことになった。

なんでだよ、オメガだって女抱けるだろ――と反論したのは当事者であるオレだけで、家族も会社の人間も、婿を迎えることに賛成していた。
年齢的にも家の規模でも、ちょうどいいと選ばれたのが直孝だった。遠藤直孝。オレとしてはなかなかのイケメンだと思うけど、世間的には平凡と言われるような男前。平凡な男前ってすでに矛盾がひどい。

はじめて顔を合わせて、なんだ中身は案外普通の男だなと思ってからこれまで、ずっと友人のような距離を保ち続けている。


それでもオレのファーストキスの相手は直孝だ。

婚約者なんだからそれなりの関係を築かなければ、と思っていた最初の頃に一度だけキスをした。


でも、オレが反論したのと同じように、直孝だって突然男の婚約者をあてがわれたわけで。
制服姿の直孝が同じ学校の女の子といっしょにいるところを偶然見かけたときに気付いてしまった。オレは男の婚約者なんてと言いながら、相手からは愛されるものだと思い込んでいた。なんて矛盾だ。


直孝に合わせる顔がなくて、本当は同じ高校に行く予定だったが、もっと偏差値の高い、寮のある進学校を選択した。
卒業後もわがままを言って海外に留学した。
本当はとくに夢もやりたいこともないのに。


「あんた、いい加減帰ってきなさいよ。直孝くんずっと待ってるのよ」


しびれを切らしてそう言ったのは母親だ。

直孝は国立の大学に進み、婿養子として櫻宮の会社を手伝っていると聞いた。若様とか呼ばれて従業員からの信頼も厚いのだと。

会社もいまではすっかり大きくなった。
本当の若様は国外で放蕩生活を送っているが、直孝は周囲に「智史も海外でがんばっているから」と好意的に話しているという。なんていい奴。


「それにあなたもオメガなんだから、いくら抑制剤を使ってても何かあってからでは遅いのよ。はやく番っちゃいなさいよ」

「ううん、そればかりはなんとも」


母の心配は当然のことだ。
オレは少し強めの抑制剤を服用していたが、オメガのヒートに振り回されることはやっぱりあった。
ただ、番というのは一人で決めるものじゃない。

別に直孝を嫌いになったわけではない。
国外にいても用があればふつうに連絡をとっていた。けれど何年も前に感じた負い目が消えず、オレはずっと逃げ続けている。


「――さくらちゃん」


そんな状況を変えたのは親友の一言だった。


「そろそろ留学も終わりでしょ、帰っておいでよ。早く会いたいな。それにさくらちゃんの婚約者、最近女連れでパーティーに出てるんだよ。いいの?」

「なんだそうか!」


そのときのオレの声はやたらと明るかったとか。
親友は驚いていたが、オレはやっと帰国する決心がついた。
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