君はぼくの婚約者

まめだだ

文字の大きさ
2 / 9

2

しおりを挟む
「おかえり、智史」

「おー直孝、ただいま!」


空港まで迎えに来てくれたのは直孝だった。
久しぶりに見る婚約者はすっかり大人の男になっていた。10人いたら7人はすれ違いざまに視線を送る。おいおい十分男前じゃん。


「直孝が運転するんだ?会社の車?」


大きなキャリーケースを奪われ、そのままごろごろと駐車場まで転がしていく男の後ろを追いかけて声をかける。


「ちがう、オレの」

「自分で買ったの?すごい!大人になってる!」

「智史も同い年じゃないか」


年月の経過をまじまじと感じたのだから仕方ない。
笑いながら助手席でシートベルトを締め、隣でハンドルを握る婚約者を目を細めてしげしげと眺めた。


「日本に戻ってきたし、オレも教習所通うかなー」

「智史はいらないだろ」

「なんで?運転できたら便利だし、仕事でも使うだろ?」


直孝の運転は慣れたもので、始終穏やかな空気のまま懐かしい場所に戻ってきた。

土産もあるからと先に会社に寄ってもらう。
話には聞いていたが、新社屋ができて従業員もたくさん増えている。もう知らない会社のようだ。直孝と並んで歩くオレはあちこちから物珍しげな視線に晒された。


「おや坊っちゃん、おかえりなさい!」


そんな中、古株の役員に声をかけられ会釈を返す。


「おひさしぶりです。帰ってきました」

「本当にお久しぶりだねえ。直孝くんも坊っちゃんの帰りを首を長くして待ってたんだよ、なあ?」


水を向けられた直孝も「ええ」と頷く。


「直孝がいてくれるからオレも好きなことができるんです。感謝しています」

「おっ、言うねえ!」


役付きの彼はオレと直孝を見てにこにこしていた。
けれど隣からは物言いたげな気配が向けられる。なんだか不穏な気配だ。こんなときは先手必勝、話を逸らすに限る。


「なあ。父さん、社長室にいるのかな?それとも先に家に行った方がいい?」

「いや、恵さんも待ってるし、自宅の方がいいんじゃないか?智史も帰ってきたばかりで疲れているだろう?」


恵さんとはオレの母親のことだ。
じゃあそうしよう、とオレたちは会社から歩いて行ける距離の実家に足を向ける。


「ただいまー」


気の抜けた声で玄関を開けると、長く勤めてくれているお手伝いさんのミヨさんが「おかえりなさい」と出迎えてくれた。キャリーケースひとつで戻って、後の荷物は全部送ったことを告げていると。


「やっと帰ってきたのね、このドラ息子!」

「おかえり、智史」


奥から母と父があらわれる。


「何年か帰っていないうちに本当いろいろ変わったよね」


「まったくよ、一体何年ぶり!?あんた高校で寮に入ってからろくに帰ってきてなかったからね!」

「時差さえ考えれば、ネットで顔を見て話できるもん。便利だよねえ」


それからオレと両親、直孝で食卓を囲んだ。
ミヨさんが張り切ってくれたそうで懐かしい好物がたくさん並んでいる。

料理を口いっぱいに詰め込んで堪能していると、向かいで父がお猪口を傾けて言った。


「直孝くんがね、いずれ智史が継ぐ会社だからっていろいろがんばってくれてるんだよ」

「いえ。オレなんて若輩者のくせに余計な口を挟んでばかりで逆に申し訳ないです」


父のご相伴に預かっているのは婚約者である直孝で、いやいやそんな、いえ滅相もない、と終わらない謙遜を続けながら慣れた様子で酒を酌み交わしている。


「でもさあ、実際のところ次の社長は直孝だろ?」


父と直孝の顔を交互に見る。
直孝はなんとも言えない顔をして、そして父は苦笑いを浮かべた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

知らないだけで。

どんころ
BL
名家育ちのαとΩが政略結婚した話。 最初は切ない展開が続きますが、ハッピーエンドです。 10話程で完結の短編です。

βな俺は王太子に愛されてΩとなる

ふき
BL
王太子ユリウスの“運命”として幼い時から共にいるルカ。 けれど彼は、Ωではなくβだった。 それを知るのは、ユリウスただ一人。 真実を知りながら二人は、穏やかで、誰にも触れられない日々を過ごす。 だが、王太子としての責務が二人の運命を軋ませていく。 偽りとも言える関係の中で、それでも手を離さなかったのは―― 愛か、執着か。 ※性描写あり ※独自オメガバース設定あり ※ビッチングあり

【完結】何一つ僕のお願いを聞いてくれない彼に、別れてほしいとお願いした結果。

N2O
BL
好きすぎて一部倫理観に反することをしたα × 好きすぎて馬鹿なことしちゃったΩ ※オメガバース設定をお借りしています。 ※素人作品です。温かな目でご覧ください。 表紙絵 ⇨ 深浦裕 様 X(@yumiura221018)

俺が番になりたくない理由

春瀬湖子
BL
大好きだから、進みたくて 大切だから、進めないー⋯ オメガの中岡蓮は、大学時代からアルファの大河内彰と付き合っていた。 穏やかに育み、もう8年目。 彰から何度も番になろうと言われているのだが、蓮はある不安からどうしても素直に頷く事が出来なくてー⋯? ※ゆるふわオメガバースです ※番になるとオメガは番のアルファしか受け付けなくなりますが、アルファにその縛りはない世界線です ※大島Q太様主催のTwitter企画「#溺愛アルファの巣作り」に参加している作品になります。 ※他サイト様にも投稿しております

ひとりのはつじょうき

綿天モグ
BL
16歳の咲夜は初めての発情期を3ヶ月前に迎えたばかり。 学校から大好きな番の伸弥の住む家に帰って来ると、待っていたのは「出張に行く」とのメモ。 2回目の発情期がもうすぐ始まっちゃう!体が火照りだしたのに、一人でどうしろっていうの?!

八月は僕のつがい

やなぎ怜
BL
冬生まれの雪宗(ゆきむね)は、だからかは定かではないが、夏に弱い。そして夏の月を冠する八月(はつき)にも、弱かった。αである八月の相手は愛らしい彼の従弟たるΩだろうと思いながら、平凡なβの雪宗は八月との関係を続けていた。八月が切り出すまでは、このぬるま湯につかったような関係を終わらせてやらない。そう思っていた雪宗だったが……。 ※オメガバース。性描写は薄く、主人公は面倒くさい性格です。

恋と脅しは使いよう

makase
BL
恋に破れ、やけ酒の末酔いつぶれた賢一。気が付けば酔っぱらいの戯言を弱みとして握られてしまう……

籠中の鳥と陽色の君〜訳アリ王子の婚約お試し期間〜

むらくも
BL
婚約話から逃げ続けていた氷の国のα王子グラキエは、成年を機に年貢の納め時を迎えていた。 令嬢から逃げたい一心で失言の常習犯が選んだのは、太陽の国のΩ王子ラズリウ。 同性ならば互いに別行動が可能だろうと見込んでの事だったけれど、どうにもそうはいかなくて……? 本当はもっと、近くに居たい。 自由で居たいα王子×従順に振る舞うΩ王子の両片想いBL。

処理中です...