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「おかえり、智史」
「おー直孝、ただいま!」
空港まで迎えに来てくれたのは直孝だった。
久しぶりに見る婚約者はすっかり大人の男になっていた。10人いたら7人はすれ違いざまに視線を送る。おいおい十分男前じゃん。
「直孝が運転するんだ?会社の車?」
大きなキャリーケースを奪われ、そのままごろごろと駐車場まで転がしていく男の後ろを追いかけて声をかける。
「ちがう、オレの」
「自分で買ったの?すごい!大人になってる!」
「智史も同い年じゃないか」
年月の経過をまじまじと感じたのだから仕方ない。
笑いながら助手席でシートベルトを締め、隣でハンドルを握る婚約者を目を細めてしげしげと眺めた。
「日本に戻ってきたし、オレも教習所通うかなー」
「智史はいらないだろ」
「なんで?運転できたら便利だし、仕事でも使うだろ?」
直孝の運転は慣れたもので、始終穏やかな空気のまま懐かしい場所に戻ってきた。
土産もあるからと先に会社に寄ってもらう。
話には聞いていたが、新社屋ができて従業員もたくさん増えている。もう知らない会社のようだ。直孝と並んで歩くオレはあちこちから物珍しげな視線に晒された。
「おや坊っちゃん、おかえりなさい!」
そんな中、古株の役員に声をかけられ会釈を返す。
「おひさしぶりです。帰ってきました」
「本当にお久しぶりだねえ。直孝くんも坊っちゃんの帰りを首を長くして待ってたんだよ、なあ?」
水を向けられた直孝も「ええ」と頷く。
「直孝がいてくれるからオレも好きなことができるんです。感謝しています」
「おっ、言うねえ!」
役付きの彼はオレと直孝を見てにこにこしていた。
けれど隣からは物言いたげな気配が向けられる。なんだか不穏な気配だ。こんなときは先手必勝、話を逸らすに限る。
「なあ。父さん、社長室にいるのかな?それとも先に家に行った方がいい?」
「いや、恵さんも待ってるし、自宅の方がいいんじゃないか?智史も帰ってきたばかりで疲れているだろう?」
恵さんとはオレの母親のことだ。
じゃあそうしよう、とオレたちは会社から歩いて行ける距離の実家に足を向ける。
「ただいまー」
気の抜けた声で玄関を開けると、長く勤めてくれているお手伝いさんのミヨさんが「おかえりなさい」と出迎えてくれた。キャリーケースひとつで戻って、後の荷物は全部送ったことを告げていると。
「やっと帰ってきたのね、このドラ息子!」
「おかえり、智史」
奥から母と父があらわれる。
「何年か帰っていないうちに本当いろいろ変わったよね」
「まったくよ、一体何年ぶり!?あんた高校で寮に入ってからろくに帰ってきてなかったからね!」
「時差さえ考えれば、ネットで顔を見て話できるもん。便利だよねえ」
それからオレと両親、直孝で食卓を囲んだ。
ミヨさんが張り切ってくれたそうで懐かしい好物がたくさん並んでいる。
料理を口いっぱいに詰め込んで堪能していると、向かいで父がお猪口を傾けて言った。
「直孝くんがね、いずれ智史が継ぐ会社だからっていろいろがんばってくれてるんだよ」
「いえ。オレなんて若輩者のくせに余計な口を挟んでばかりで逆に申し訳ないです」
父のご相伴に預かっているのは婚約者である直孝で、いやいやそんな、いえ滅相もない、と終わらない謙遜を続けながら慣れた様子で酒を酌み交わしている。
「でもさあ、実際のところ次の社長は直孝だろ?」
父と直孝の顔を交互に見る。
直孝はなんとも言えない顔をして、そして父は苦笑いを浮かべた。
「おー直孝、ただいま!」
空港まで迎えに来てくれたのは直孝だった。
久しぶりに見る婚約者はすっかり大人の男になっていた。10人いたら7人はすれ違いざまに視線を送る。おいおい十分男前じゃん。
「直孝が運転するんだ?会社の車?」
大きなキャリーケースを奪われ、そのままごろごろと駐車場まで転がしていく男の後ろを追いかけて声をかける。
「ちがう、オレの」
「自分で買ったの?すごい!大人になってる!」
「智史も同い年じゃないか」
年月の経過をまじまじと感じたのだから仕方ない。
笑いながら助手席でシートベルトを締め、隣でハンドルを握る婚約者を目を細めてしげしげと眺めた。
「日本に戻ってきたし、オレも教習所通うかなー」
「智史はいらないだろ」
「なんで?運転できたら便利だし、仕事でも使うだろ?」
直孝の運転は慣れたもので、始終穏やかな空気のまま懐かしい場所に戻ってきた。
土産もあるからと先に会社に寄ってもらう。
話には聞いていたが、新社屋ができて従業員もたくさん増えている。もう知らない会社のようだ。直孝と並んで歩くオレはあちこちから物珍しげな視線に晒された。
「おや坊っちゃん、おかえりなさい!」
そんな中、古株の役員に声をかけられ会釈を返す。
「おひさしぶりです。帰ってきました」
「本当にお久しぶりだねえ。直孝くんも坊っちゃんの帰りを首を長くして待ってたんだよ、なあ?」
水を向けられた直孝も「ええ」と頷く。
「直孝がいてくれるからオレも好きなことができるんです。感謝しています」
「おっ、言うねえ!」
役付きの彼はオレと直孝を見てにこにこしていた。
けれど隣からは物言いたげな気配が向けられる。なんだか不穏な気配だ。こんなときは先手必勝、話を逸らすに限る。
「なあ。父さん、社長室にいるのかな?それとも先に家に行った方がいい?」
「いや、恵さんも待ってるし、自宅の方がいいんじゃないか?智史も帰ってきたばかりで疲れているだろう?」
恵さんとはオレの母親のことだ。
じゃあそうしよう、とオレたちは会社から歩いて行ける距離の実家に足を向ける。
「ただいまー」
気の抜けた声で玄関を開けると、長く勤めてくれているお手伝いさんのミヨさんが「おかえりなさい」と出迎えてくれた。キャリーケースひとつで戻って、後の荷物は全部送ったことを告げていると。
「やっと帰ってきたのね、このドラ息子!」
「おかえり、智史」
奥から母と父があらわれる。
「何年か帰っていないうちに本当いろいろ変わったよね」
「まったくよ、一体何年ぶり!?あんた高校で寮に入ってからろくに帰ってきてなかったからね!」
「時差さえ考えれば、ネットで顔を見て話できるもん。便利だよねえ」
それからオレと両親、直孝で食卓を囲んだ。
ミヨさんが張り切ってくれたそうで懐かしい好物がたくさん並んでいる。
料理を口いっぱいに詰め込んで堪能していると、向かいで父がお猪口を傾けて言った。
「直孝くんがね、いずれ智史が継ぐ会社だからっていろいろがんばってくれてるんだよ」
「いえ。オレなんて若輩者のくせに余計な口を挟んでばかりで逆に申し訳ないです」
父のご相伴に預かっているのは婚約者である直孝で、いやいやそんな、いえ滅相もない、と終わらない謙遜を続けながら慣れた様子で酒を酌み交わしている。
「でもさあ、実際のところ次の社長は直孝だろ?」
父と直孝の顔を交互に見る。
直孝はなんとも言えない顔をして、そして父は苦笑いを浮かべた。
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