君はぼくの婚約者

まめだだ

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直孝はパーティーの後に休むための部屋を事前に押さえていたらしく、オレはそのままホテルの一室に連れこまれた。どさりとベッドの上に投げ出される。


「わっ!?」


そして直孝がオレを組み敷いてくる。
ずしりとのしかかるアルファの威圧フェロモン。けれど直孝自身の体重はひとつもかけられていない。変なところで気をつかってくれている。


「ねえ智史、オレのことどう思ってる?」

「は?」


難しい顔でオレを見下ろす直孝。
こんな近くでお互いの顔を見るのもはじめてかもしれない。その精悍な顔にじわっと背中の辺りが熱くなる。


「ど、どうって、お前はオレの婚約者だろ?」

「じゃあどうして智史はそんなにオレから離れたがる?」

「離れたがるだなんて、そんな……」


目を泳がせてもごもご口ごもる。
実際にオレは直孝と距離を置こうとしていたわけだから、下手な言い訳もできない。


「智史には智史の意思がある、オレはそれを尊重したい。でもオレはやっぱりアルファなんだ」


そうだ、直孝はアルファでオレはオメガ。
だからオレたちは婚約者になったんじゃないか。いまさらなんだと視線を上げれば、直孝の瞳が妙にぎらと光って見える。


「自分の番が他の雄を頼っていたら嫉妬するのは当然だろ?」

「つ、つ、番!?」


―――直孝がオレを番って言った!?

ぎょっとして裏返った声を出せば不機嫌そうに眉を寄せる直孝。


「なに?オレたちは婚約者だろ?」

「こ、婚約者だけど、それとこれとはちがうっていうか…」

「何も違わないでしょ」


直孝が低い声で言う。


「オレは智史のことをオレのオメガだと思ってる。おまえはオレの番だろう?」


ずしっと重くなる空気。
息苦しさすら感じる中でオレは喘ぐように口を開いた。


「たしかに、オレはオメガだけど……男だぞ?」

「それが?」

「オレたちが婚約したのも家同士で決めたことだし」

「はじめはね。もう何年経ってると思ってる?」

「だって!いきなり男と婚約して戸惑っただろ!?おまえだって女がよかったんだから!」


わあっと声を上げれば直孝は冷静な顔で頷く。


「ああ、そういえば智史は女が好きだったもんな。でもアルファにとっては男か女かより――雄か雌かが重要かな」


大きな手でするりと頬を撫でられ「ひっ」と声が漏れた。


「オレが智史の通う学校に下見に行ったこと、知らないだろ?」

「えっ?」

「オレはアルファだから在校生たちに声をかけられてさ、新入生かって聞かれて、入学するのはオレの婚約者だって話したんだ」


入学早々、婚約者持ちと噂されていたのはそれが理由か。まさか直孝が直接バラしていたとは。


「強い雄ほどわざわざ番のいる雌に手を出さないんだ。智史、お前はオレの片割れだよ」


胸がどきどきと変に高鳴っている。
さっきまでは血の気が引いて寒いくらいだったのに、やたらと暑くてじわじわ汗が浮かぶ。


ぎしりとベッドを軋ませて直孝の鼻先が首に寄せられた。


「……甘い匂いがする。これをオレ以外が知っていると思うと腹が立つな」


どっ、と強く鼓動が脈打った。
同時になにやらいろんなものが吹き出した気がする。汗とかフェロモンとか――粘液とか。


「そんな相手は、オレには…!!」

「あのオトモダチは?」

「まてまて、あいつはそんなんじゃないっていうか、や、ちがうんだけど…っ!」

「言い訳ならもっと上手にしてくれる?」


ばたばた暴れるオレの手首を押さえつけて直孝が真上から睨んでくる。怖い。怖いのに男前だ。


「あいつは同級生で、寮の部屋が隣同士でっ」

「そんな前からの付き合いだって?」


ちがうんだ。――いいや、違っていない。
オレがオメガとして困ったときに助けてくれたのはいつも親友だった。言ってしまえば、挿入以外のことはほとんどしてる。でも、でもそうじゃなくて。


「オメガ!あいつもオメガなの!」

「だから?」


直孝の声は低いままだ。


「オメガだろうが女だろうが関係ない。智史に手を出す時点でオレの敵だし、オレ以外が触れるのを認めた智史も――許すわけにはいかないよな」

「んむっ!?」


顎を掴まれ口を重ねられる。

それはやわらかくてあたたかくて、中学生のとき一度だけ触れたものと少しも変わっていなかった。
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