君はぼくの婚約者

まめだだ

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「ふ…、んん、ん、んぅ……っ」


重ねるだけだったキスは、いつの間にか直孝の舌を受け入れてしまっていた。離れようとしても執拗に追いかけてくる。

息が上がって、思考に靄がかかる。
濡れた唇がいやらしい。知らない。あのときはこんなキスしなかったのに。


「――なんでキスした?」

「え……?」


吐息が触れる距離で問いかけられる。
唇を合わせてきたのは直孝の方だというのに。


「あのとき、オレたちがまだ子供だった頃。智史おまえオレにキスしただろ?」

「………!!」


かあっと頬が熱くなった。
直孝も覚えていたのかとか、重ねただけの拙さとか、あのときの甘酸っぱさとか、とにかく恥ずかしくて居た堪れなくて、ぱっと目を反らす。

すると「くそっ」と直孝が毒づいた。


「え、直孝?」

「くそ、まただ!またあの甘い匂いがするっ」


らしくない暴言に驚いて視線を戻せば、乱暴な言葉遣いとはちぐはぐな、頬を染めて目を泳がせて、子供みたいな表情で戸惑う直孝がそこに。かわいい。


「え?」


けれど、ぐっと押しつけられた腰にあるものはちっともかわいくなくて顔が引きつった。


「あのときも同じ匂いがした!あれからオレはずっと忘れられなくて、ずっと気になってて、ずっと――智史に夢中だ」


身体全部でのし掛かられて、ふわりとあたたかい香りに包み込まれる。直孝のフェロモンだ。あたたかくてやさしくて懐かしい匂い。それに気付いて、つんと涙がこみ上げる。

大きな背中に腕を回してぎゅうとしがみついた。


「だってお前、女の子といっしょだったじゃん」

「は?」

「オレだっておまえとうまくやってこうと思ってたんだよ。だからキスした。でも、その後すぐ直孝が女の子といるところを見て、おまえの隣に立つのはオレじゃないんだと思って――」

「はあ!?」


ぐいっと肩を押されて身体を離される。

あ、と思ったら、次の瞬間にはさみしくて辛くてぼろぼろ涙が落ちてきた。


「オレがおまえ以外に目を向けるわけが!!」

「っ、でも、オレだってオメガだってわかる前はふつうに女の子が好きだったんだ。直孝だってそうだろ?だからオレ、おまえといっしょにいられないって、いちゃだめだと思って、だから」


無様に声が震える。

直孝のフェロモンに一度でも触れてしまったら、もう離れられないと思った。それがオメガだからなのか、オレが直孝に惹かれているからなのかはわからないが、手を離してやることはできないと思った。だから。


「ばかだろ、お前」


直孝の呆れ返った声にぐっと言葉を飲み込む。


「オレだってただの中学生だったんだ、同級生の女と話すくらいはするだろ。そんなことでお前は、そんなことでオレは、」


大きな手で目元を覆った直孝は唇を噛んだ。


「――おまえとの大切な時間を何年も無駄にしたのか」


オレは息を飲んだ。あまりにも後悔の滲んだ声だったから。


「いや、それはちが…っ!」

「違わない」


ゆらりと手を下ろした直孝の目は据わっていた。


「何も違わない。智史の意思を尊重するといってオレが逃げなければ、ちゃんと智史に伝えていれば、離れる必要のない数年間だったんだ。そうすればおまえも」


きゅっと目尻を撫でられて、そのまま頬を手のひらで包まれる。


「身体にあわない強い抑制剤を使い続ける必要もなかったし、オレ以外の他人に身体を触れられることもなかった」

「直孝、知ってた…?」

「番と出会ったオメガは発情が強くなる。オレが智史を番だと認識してたんだから、智史もそうだと思ってた。それに薬が変わる度に主治医から連絡がきていたし、ご両親もずっと心配してた」


ぽろりとまた涙が落ちる。


「……智史、オレにはいまも昔もお前だけだから。安心してオレのところに戻っておいで」
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