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◆一章 ◆ 始まりの場所

火球。

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 再開を果たした4人は一路港を目指していた。


 将成の腕の中で理巧はその温もりを何百年振りに感じ取っていた。



「理巧…具合は悪くないか? 」


 将成は舵を握りながら理巧を気に掛けた。その表情は今まで誰にも見せたことがない穏やかで優しい表情で、理巧のみならず石田もキュンキュンしていた。


「清ちゃ~ん!ちょっと…何あの感じ~!少女漫画みたいでトキメクんですけど~ 」

  石田はなぜかお姉言葉でモジモジしている。そんな姿を清兵衛は鳥肌を立てながら見ていた。

「な…何故……女言葉おなごことば…? 」


 そんな事は二人には聞こえない…もう二人の世界が出来ていた。



「僕は……大丈夫… 」

 理巧は将成の側に居るのが幸せな半面、尊富との一件が心に大きく傷を付けていた。

 そんな理巧を一層強く抱き寄せ将成は言葉少なに慰める。

「俺だけ見てろ… 」

「うん…… 」


 厚い熱い胸に身体を預けた理巧は、それ以上は何も言わずこれから先も将成だけ見ていこうと強く誓った。


 岸が見えてくると将成が異変に気が付く。



「んっ?おい!オッサン!今日は市場は休みじゃ無かったのか? 」


「おっ…おぉ!今日は休みだ!どーした? 」


 将成は市場の方を指差し声を荒げる。



「い…市場が燃えている!!? 」

「えっ?そんなバカな!?んっ?あああー!?  」


 将成が指差す方を見ると、市場の方から火の手が上がっているではないか!
 そこには既に消防車や救急車、そしてパトカーの赤灯がキラキラしていた。

「何が…起きてる? 」


「またあのバ…バ…バケモンか?? 」 

 一同嫌な予感しかしない…。


 将成は慌てて市場の関係者に電話を入れた。

『ププ…ププ…ププ…プッ……もしもし!?社長!!大変ですよ!どこに行ってるんですか!? 』


 電話に出たのは漁協組合の副組合長の橘と言う将成より一回り年上の男だった。


「何が起こってる!? 」


『分からないが、急に事務所付近で爆発が起こったらしい!?近くの住民が爆発音で目が覚め、慌てて外に出ると怪しい車が目の前を走り抜け消えた……って言ってるんだよ!?車が消えるって!? 』


 橘は軽くパニックを起こしている。


 将成は嫌な予感が当たった様でモヤモヤしている。


「……わかった、関係者をすぐに集めろ!俺もすぐに行く! 」



『はい!では市場横の集会所に場所を構えます! 』

「頼んだ! 」


 短いやり取りだったが事の重大さに各々急速な対応が求められた。

 理巧は、岸に近づくにつれガタガタと震え始めていた。



「どうした!?理巧!?寒いのか? 」


 震える理巧を暖めようと強く抱き締める将成に理巧は怯えるように話し始めた。



「怖い……何か恐ろしいものが近づいてくる…… 」


「恐ろしいもの? 」


 その時だった、回りを警戒していた清兵衛は声を上げた。


「アレは何だ!?火球が数体近付いてくるぞ!  」


 皆がいっせいに清兵衛の指差す方を見ると、そこには火の玉が船に近寄ってくるではないか。



「全員、装備を固めろ!身を守れ! 」


 将成はそう言うと立ち上がり、理巧を背中に隠し、刀を構えた。


「おい…お…おい!どーすんだよー!俺なにすりゃいいんだよー?! 」

 石田は突然の事でパニックになっていた。
 慌てながらさっき出してきた木箱をガタガタ漁っていると大きな鎌と鎖で繋がった鉄球が付いた武器を手に取っていた。

「ど……ど…どーやって使うんだコレ!? 」

 そんな石田に将成は大声を上げた。


「いい加減に覚醒しろ!!十兵衛!! 」

「!?!? 」


 その言葉に清兵衛はハッとした。


 将成の家来には、清兵衛を含む数名の腕利きが居た。そのうちの一人、『鎖鎌の十兵衛  』と言うおっちょこちょいだが、腕の立つ男の事を思い出した。


 十兵衛は身長こそそんなに高くないが、相撲の力士の様な筋肉と脂肪を纏った力強い体格で性格は温厚で陽気、農家の出だったか、戦で功績を上げるとその腕と力をかわれ大出世をし、清兵衛ともう一人の家臣と十兵衛で鷹我の「三本刀」と名が通っていた。

 普通なら考えられないことだった。


しかしまだ石田は覚醒どころか意味が分かってなかった。


 そして、一行の船は火の玉に包囲された。


「くっ…どうする?! 」

 清兵衛は船首に立ち、火の玉を睨みながら様子を伺っていると理巧が立ち上がり将成に抱きつきキスをすると、微笑みながら、その手を離した。


「り…理巧!?どうした!?何処へ行く!?や…やめろ!ここに居ろ!  」


 訳が分からない将成は理巧の腕を掴んだ。


すると理巧は振り向かず話し始めた。



「ごめん…迎えの火球がやってきたみたいだ…このまま手を離して…お願い… 」

「何の迎えだ!ここに居ると約束したじゃないか!もう離さない! 」

 必死に理巧を説得する将成に理巧は声を上げた。


「分かってくれよ!あなたを不幸にしたくないんだ!ほら……見てごらん… 」

 そう言い理巧は山の方を指差す。


「!?!? 」

 将成は言葉を失った。

 鷹我家付近が燃えているのが見えたからだ。


 山からも火の手が上がり、市場も燃えている。


「ど……どうして… 」

 石田も、清兵衛も呆気に取られている。


『鷹我 将成!お前の兄、儀則は我らの手中にあり…鷹美 理巧と八咫の鏡をこちらに寄越せば儀則とお前の街は無事に返そう!』



 急に火の玉がひとつにまとまり人の形……。それは尊富の姿になり、将成を脅した。


「ふざけるな!!儀則をどうした!!?お前は何をするつもりだ!!  」

 将成は理巧を掴んでいる手を引き自分の背後に隠した。

『ホホホ…分からない様ですね、あなたは昔から頭もカチカチ何ですよ!ホホホ!さぁ、理巧…こちらに来なさい! 』

 尊富はパンッと手を叩くと理巧の瞳がスーッと微睡み死人の様に力が抜ける。


「理巧!?どうした? 」


 理巧はフラフラと立っている。

『さぁ…おいで私の優月…こちらに来るのです 』


 理巧は将成の手を払いのけるとフラフラ尊富に向かい歩き始める。

「やめろ!!理巧に何をした!術を解け!! 」

『フフフフ…ホホホ!なぜあなたの指示に従わなくてはならないのです!?優月は私の妻になりこの世を私の物にするのです!最後に教えてあげましょう!ホホホ…三種の神器と優月の力と大王の魂があれば宇宙すら支配できる兵器が動き始める…あなた方はもう跪き私に平伏し滅びるしかない人達なのですよ!フフフフ…アハハハハ!!おいで…優月、先程の続きをしよう!君を快楽へ導けるのも私だけなのだから!ホホホ!! 』


 その言葉に将成は一気にキレると、今まで感じたことがない力が足の先から頭の先へみなぎり炎の様にその身体に立ち込めた。

「おのれ…尊富…よくも優月に…!! 」

『フフフフ…美しく美味でしたよ!ホホホホホホ!!これからも私だけの物ですけど!!ハハハハ!!』


 理巧が尊富から差し伸べられた手を取り掛けた瞬間、何かが尊富の腕をシュッと一瞬で切り落とした。


『ギャアァァァ!? 』


 尊富は斬られた腕を庇いながら悶え苦しんでいる。その間に将成は理巧を自分の方へ抱き抱えた。


「おっと!変なもん斬っちゃったかな?親方!!ちょっと出遅れましたが、仮は作っときましたで! 」


「……!? 」

「十兵衛…殿!? 」


 将成は驚き言葉を失い、清兵衛も突然の再会に息を飲んだ。


「遅いぞ!!十兵衛!!どれ程待ったと思ってんだ!さっさと片付けろ! 」


 将成は嬉しそうに十兵衛(石田)に命令をした。また十兵衛も嬉しそうにその命令に従った。

「ハイハイ!相変わらず強引だべーあんたは! 」

 そう言うと、十兵衛は船からヒョイッと飛び上がり尊富に鎌を振り回した。

 鎌は尊富の身体をバラバラに切り裂いた。


 すると、その身体は散り散りと散らばり、また多数の火の玉になった。

 その火の玉の一つが将成に叫んだ。


『儀則がどうなるか覚えておれ!我が主君に背いた事後悔させてやるぞ!必ずや優月も我が主君の生け贄に!!  』


 次の瞬間、多数の火球は一塊になり、船に向かってくるや、体当たりをし船は大破した。

 間一髪の所を全員海に飛び込み事なきを得たが、理巧は気を失ったまま目を覚まさない。


 そんな時、ちょうど、近くで夜の漁をしていた船が爆発に気がつき将成達を見付け救助し港へ向け走り出した。
 
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