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◆一章 ◆ 始まりの場所
昔馴染み。
しおりを挟む一方、救急車で理巧と石田は街では一番大きい病院に運ばれた。
石田はオロオロと落ち着かない様子で待合室で歩き回っていた。
すると、診察室から呼ばれた石田は心配な様子で慌てて行くと理巧は一通り検査を行い怪我の処置をされていて腕にはギプスと点滴がされていた。
「この方のご家族の方ですか? 」
医師に問われると石田は友人だと答えた。
「かなり身体が傷付いて居ます。あばら骨と足の骨は骨折していますし、擦り傷も全身にあります。何より寒さで衰弱していますし、2、3日入院して様子を見てはいかがでしょうか? で、差し支えなければどの様な状況でこの様なケガをなさったのか教えてもらいたいのですが… 」
石田は困った顔をして答えた。
「いやぁ…俺もわからんのですよ…見つけた時にはこんな状態だったもんでよ… 」
「そうですか…まぁ、本人が良くなったら聞いて見ましょうかね! 」
医師はあっけらかんと話を戻した。
「でわ、お部屋に案内致しますので、お連れの方もどうぞ…で、詳しい説明はナースがしますので、困り事などは追々聞いて下さい 」
医師の説明が終わると足早に部屋に通された。
たまたま個室が空いていたので、そこに通されるとナースからの説明やら聞き取りが行われた。
しかし石田では限界があり困っていると理巧がゆっくり目を覚ます。
「痛ててて…っ、あっ石田さん…すいません…迷惑かけたみたいですね…将成は? 」
「おぉ!起きたか!?具合はどうだ?将は今、集会所で緊急集会やってるよ!市場が燃えてただろ?てか、今、病院なんだ!お前は色々身体がボロボロになっててさ手当てしてもらったんだが、入院する事になってよ、看護婦さんに色々聞かれてんだけど、俺だけではもう限界なんだよ!しゃべれるならナースの相手よろしく頼んだよ!! 」
石田はホッとして理巧に託すと、飲み物を買ってくると言い席を外した。
理巧はナースに必要事項を伝え、怪我の経緯もそれらしく伝えた。
「はい…住所は……で、たまたまこちらの街に古い友人を訪ねて来ましたが、街の観光がてら、うろうろしてたら景色の良い場所を見付けスマホで写真を撮ってた所で足を滑らせ崖から転落し海に落ちました……はい……確かです。はい?側で、見ていた友人が船で探しに来てくれてこんな状態です… 」
「分かりました…でわ、入院手続きをしますので、こちらに記入お願いします。ご家族にご連絡はどうされますか? 」
「あっ、それは大丈夫です!自分でしますので… 」
「でわ、また変わったことがあれば直ぐにコールを押して知らせて下さい!また朝、検温に回ってきますのでそれまでゆっくり休んで下さい!あと、当院の面会時間は午後9時までと、なっておりますが、今日は救急だったので、もうしばらくは構いませんがあまり騒がない様にお願いします…で、お連れ様は静かにお帰りになります様にお伝え下さいませ 」
ナースは忙しそうに話をまとめると、一礼して部屋を出ようと理巧に背中を向けた時だった。
「……うっ……うぅ… 」
「!? 」
急に呻き声を出し始めるとガクッと首と肩の力が抜けダランと腕が垂れ落ちた。
「どうされました? 」
理巧は心配そうに声をかけると、ナースは何かに取り憑かれた様に目の色が赤くなり理巧に飛び掛かり馬乗りになって襲いかかった。
「ウギャアァァー!!シャァァー!! 」
ナースは人ではない声を出し理巧に噛み付こうとした時に石田が異様な気配を感じ取り部屋に戻った。
「理巧!! 」
石田は持っていたジュースの缶をナース目掛け投げつけると、ナースはゆっくりと首を180度回転させ、石田に標的を代え襲いかかってきた。
「うおっ!こんにゃろ!! 」
ドタン!バタン!と石田とナースが揉み合いになっている最中、物音を聞き付けた病院関係者が部屋に駆けつけると、ナースは目をギラリと光らせ、関係者に飛び掛かり馬乗りになり首筋を嚙みちぎった。
「ギャアアアー!? 」
病院関係者の男性は悲鳴を上げるとそのまま息を引き取った。
「なんて…事だ…… 」
石田も理巧も落胆した。
すると今度は先程の医師がやってくると、凶暴化したナースは医師の足元に飼い犬が媚を売るようにまとわりついた。
「おや…違う人を嚙んではダメじゃないか…、そんな子はお仕置きですよ! 」
医師はそう言うと、ナースの頭を鷲掴みにし軽く捻り首をへし折って見せた。
ナースは真顔のまま絶命しその場に崩れた。
「さて、こんな所を見られては…生かしておけませんね……クックックク… 」
「な…なんて事しやがった!お前!医者じゃ無いのか!?正体を見せろ!! 」
「石田さん!下がって!彼は人間ではない! 」
理巧が声を上げると、医師は嬉しそうに話し出した。
「ハハハ!優月殿はやはり素晴らしい!見抜きましたね!そう、私は人ではない存在…何百年振りですかね優月殿!! 」
するとバンッと腕を一振し石田を払い飛ばした。
石田は部屋の壁に叩き付けられ身動きが取れなくなっしまった。
朧気な意識の中、石田は理巧を助けることができずに小さく踠いている。
「さぁ、優月殿!私と来て下さい!貴方さえ言うことを聞けば、この男も、この町も、鷹我 儀則も無事に返すと誓いますよ…ホホホホ!貴方を連れて帰らないと私…尊富様に叱られますのでね…!アハハハハ!あの方、優月殿を犯したくてウズウズムラムラしておりましてね…私らもお手上げなんですよ…我が主君ながら困った欲の塊なのです!そして優月殿をモノにしたらこの世も我が物にするのだと言い張っておりますよ!まっ、私はおこぼれが頂けたらそれで良いんです!貴方なんて興味ないですし…主君とは利害が一致しただけですしね! 」
悪びれもせず、両手を広げ理巧にゆっくりと近づくが理巧は堂々とその場に立ち相手の気を読み取っている。
「り…理巧…うぅ… 」
その時理巧は条件を再確認するため医師に聞き直した。
「本当ですか?妖魔「曉」私さえそちらに行けば皆を解放してくれるのですね?約束出来ますか? 」
その医師に取り憑いて居たのは、妖魔「曉」だった。
妖魔「曉」は800年程前より生まれた妖魔で、人の欲を喰らい、争いを好み、生き血を飲み肉を食い生きてきた。
見た目には人と何ら変わりなく、実体は知られていない。その時々で男にも女にも子供にも年寄りにも変貌し人を喰らう。
過去にこれ以上の非道な妖魔は居ない。
優月は何度となく「曉」と対峙してきたが、いつも逃げられた。
「当たり前ですよ!主君の命令ですし従うまで…まぁ、いずれにせよ、お前と、鏡さえこちらに来れば遅かれ早かれ人類は滅びるのですから、それまで他の人間はアホのように生きていたら良いんじゃないですかね! 」
理巧はぐっと拳に力が入った。
「おやおや…そんな反抗的な態度は良くありませんねぇ…さぁ、こちらに来なさい! 」
「い…いく…行くな…!!理巧!! 」
石田は必死に声を上げるが理巧はゆっくり「曉」の前まで歩み出た。
「言う事聞けるじゃないですか!アハハハハ!! 」
『バンッ 』
「……っ」
「曉」は理巧に平手打ちすると、理巧は曉を睨み付け痛みを堪えた。
「憎たらしいその顔をめちゃくちゃに刻み付けたい!だけど、それは尊富様に止められてるから感謝しな!何でお前が皆の愛を一身に受けて、私は憎まれなくてはならんのだ!大王様まで虜にしやがって…お前のせいで私は……私は……!?うっ!? 」
「!? 」
曉が嫉妬の炎を燃やし隙が出来たのを見計らってか、たまたまなのか、刑事の樫本が現れるた。
彼はうんも言わさないタイミングで拳銃で曉を撃つと、曉はその場にガクリと床にひざを付いた。
「大丈夫ですか!? 」
樫本はとっさの判断で理巧を「曉」の側から離し石田の前まで下がり二人を庇った。
「あなた…は? 」
「今は説明している時ではありません!嫌な気が蔓延していたので寄り道してみれば…十兵衛は役に立ってないし、優月様を奪われかけているし…全く、いつも十兵衛はおっちょこちょいだ!」
「!?」
「お…お前!? 」
理巧も石田も心当たりがある様子で驚いていると、立ち上がった曉はイラだち三人を睨む。
樫本は二人を後ろに下げると、背中からスルスルッと弓の様な物を出し身構える。
「おやおや…あなたも鷹我の手下でしたか…揃いも揃っておっちょこちょいばかり…フフフフ…しかし残念でしたね!!アハハハハ!そろそろ薬が回ってきたんじゃないですかね? 優月にはこちらに戻って貰いますよ!さぁ!来い!お前に選択の余地はないのだから! 」
すると測ったらようなタイミングで理巧は眩暈をおこしその場に倒れた。
「理巧!?しっかりしろ! 」
「曉!!理巧に何を仕込んだ!! 」
「アハハハハ!!滑稽ですね!アハハハハ!ただの誘導薬ですよ!しばらくは私の言う事しか聞かないでしょう!フフフフ…アハハハハ!!無様です!美男子が台無し!!アハハハハ!さぁ、ヨダレを滴しながらこちらに来なさい! 」
理巧は、ゆっくり立ち上がると点滴を無理やり引きちぎり、血塗れの腕をダランと落とし曉の呼ぶ方へ歩きだした。
曉の言うように口からはダラダラとヨダレを垂れ流し、目付きは虚ろ…。美しく舞う優月の姿には程遠く、ユラユラと樫本を払い退け前へ進もうとする。
樫本は、とっさに理巧の腕を掴むも、ものすごい力で叩き退けられ、近づく事さえ出来ない。
「そろそろ十兵衛…動けるか? 」
倒れている石田に樫本は小声で問いかけた。
「多分…行ける気がする…もう、若くないんで当てにはならんがなぁ… 」
石田もゆっくり静かに体制を直しに来た。
「無駄ですよ!お二人とも!そこで止まってなさい!動くと他の人間の為にはならない!この病院ごと吹き飛ばすなど簡単なのですよ……フフフフ… 」
「クソッタレ!! 」
「十兵衛!!はしたない言葉は止めなさい! 」
「だってよー!」
「あぁ、良い子!もう少しよ!アハハハハ!とても惨めな顔してる!そんな顔は安成には見せられないね!きっと気持ち悪がって離れていく!ククク…アハハハハ!不細工!スゴく不細工よ!」
「…… 」
理巧は何を言われても聞こえていないのか虚ろな状態で曉の前に立った。
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