5 / 12
5. 決意
しおりを挟む
次の日の朝、僕はどこか重い足取りで先生の元へ向かいました。どうしてこうも気分が晴れないんだろう…せっかくお話ができるようになったのに。
とぼとぼしながら教室に入ると、沢山の子供達に囲まれた先生の姿が目に飛び込んでくるのです。また寂しさを覚え、よく分からない気持ちに首を傾げてしまいました。
先生に話しかけられるのを待っていよう。そう思って、隅の方の席にちょこんと腰かけることにしました。しかし、待てども待てども先生は来てくれず、思わず大きなため息が出てしまいます。そうしていた時のこと。
ふと、僕のように隅で座っている男の子が目に止まりました。先生の方をチラチラと見ていて、筆は進んでいないようです。みかけは僕くらい…か、もう少し歳下でしょうか。まぁ、僕は自分の年齢もわからないのですが。
なんだか自分の姿と重なって、僕はそろそろとその子に近づいて行きました。それで隣に座って、「どこか分からないところがあるの?」と尋ねました。「え…ぁ、うん」と遠慮がちに答える彼の手元の紙を見たところ…こりゃ酷い。まるでなっちゃいない。
「ここはこう書いた方がいいよ。それからさ…」
名前も知らない彼の手を掴み、僕は調子に乗ってしまいました。そもそも自分の下心のために、先生を欺いていた罰が下ったのだと思います。
「おいおいおい、そこっ!駄目だろぉ 友達同士で教え合いっこなんてしちゃあ!」
ハッ。顔を上げると…僕は息が止まりました。先生の怒った顔がそこにはあったのです。僕はパッと手を離して、うつむきました。
それでどうしたかって…走って逃げ出したのです。
「ハァっ、はアッ、はあっ」
どうしよう、どうしよう、どうしようどうしよう!
すっかり混乱して、頭の中はぐちゃぐちゃになっていました。辺りが歪んで見え、記憶の中の先生が僕を睨み付けています。
そんな僕がぶつかったのは、小さな川のほとりでした。
「ゥゥ…ぁっ、ぐっ…ひっく」
流れる涙で僕の方が川になってしまいそうでした。先生に嫌われちゃった、あの子を置いてけぼりにしちゃった…!
けれど、今さら教室に戻る勇気なんてありません。だからといって、仙界にいるお師匠様に会わせる顔もありません。羽衣で身体を包み込み、僕はダンゴムシのように丸くなりました。
そうして何日か過ぎ、僕はようやく起き上がりました。「…戻ろう、仙界に」そう決意したのです。
お師匠様に謝って、それで…また前のようなお師匠様と僕でありたいと、頭を下げて頼んだらきっと大丈夫…だって、お師匠様はとてもお優しいお方だもの。
戻る前にあの子に謝って、それから先生にもお礼を言って…うん、そうしよう。
羽衣から顔を出し、日のまぶしさに僕は目を細めます。人づてにどうにかあの子の元へたどり着くと、再び顔を合わせた彼は目を満月にしていました。それはじきに三日月になり、「心配してたんだよ。あれから見かけなかったから…もう、来ないの?」と尋ねてきました。僕は視線を落として、自分に言い聞かせるようにうなずきました。
すると彼の「どうして?」という問いに上手い理由が見つからず、「通うだけのお金がないから」と伝えることにしました。
「そっか…ねぇ、先生にはあれから会った?」
「ううん」
「あの後ね、先生から君のことを色々聞かれたんだ。とっても心配していたよ。会いに行った方がいいと思う」
先生が僕のことを…!?消えかかっていた火がまた噴き上がるような思いでした。お礼を伝え、教えてくれた通りに向かうと、村から少し離れたところに先生の家はありました。
…大丈夫、何を言われてもこれで最後なんだから。大丈夫、大丈夫。コンコンと戸を叩き、僕はどきどきしながら待ちます。大丈夫、きっと平気。…のはずだけど。
じきに「はい、どなたです?」と待ち焦がれていた声が聞こえてきました。僕の緊張はお山のてっぺんにまで登りつめます。「ぼっ、ぼっ、ぼむ、」と声が震えて喉元に言葉を引っ掛けていたら、中から騒々しい音が聞こえてきて、戸は勢いよく開きました。
「ボムギュッッ すまなかった!!」
僕の身体は宙に浮いていました。先生に…抱きしめられている…?
カアッと顔が熱くなり、血が滞りなく全身を駆け巡ります。それは僕の決意をも緩やかに解いていくようでした。
「ぼっ、僕の方こそ、すみませんでした…心配をおかけして、申し訳ございません」
ようよう言ってのけると、先生は「まぁ とにかく中に入れっ」と僕の背を押してくれました。その笑顔に心底ホッとし、嬉しさを感じている自分がいたわけで。僕は躊躇いながらも、足を踏み入れることに致しました。
とぼとぼしながら教室に入ると、沢山の子供達に囲まれた先生の姿が目に飛び込んでくるのです。また寂しさを覚え、よく分からない気持ちに首を傾げてしまいました。
先生に話しかけられるのを待っていよう。そう思って、隅の方の席にちょこんと腰かけることにしました。しかし、待てども待てども先生は来てくれず、思わず大きなため息が出てしまいます。そうしていた時のこと。
ふと、僕のように隅で座っている男の子が目に止まりました。先生の方をチラチラと見ていて、筆は進んでいないようです。みかけは僕くらい…か、もう少し歳下でしょうか。まぁ、僕は自分の年齢もわからないのですが。
なんだか自分の姿と重なって、僕はそろそろとその子に近づいて行きました。それで隣に座って、「どこか分からないところがあるの?」と尋ねました。「え…ぁ、うん」と遠慮がちに答える彼の手元の紙を見たところ…こりゃ酷い。まるでなっちゃいない。
「ここはこう書いた方がいいよ。それからさ…」
名前も知らない彼の手を掴み、僕は調子に乗ってしまいました。そもそも自分の下心のために、先生を欺いていた罰が下ったのだと思います。
「おいおいおい、そこっ!駄目だろぉ 友達同士で教え合いっこなんてしちゃあ!」
ハッ。顔を上げると…僕は息が止まりました。先生の怒った顔がそこにはあったのです。僕はパッと手を離して、うつむきました。
それでどうしたかって…走って逃げ出したのです。
「ハァっ、はアッ、はあっ」
どうしよう、どうしよう、どうしようどうしよう!
すっかり混乱して、頭の中はぐちゃぐちゃになっていました。辺りが歪んで見え、記憶の中の先生が僕を睨み付けています。
そんな僕がぶつかったのは、小さな川のほとりでした。
「ゥゥ…ぁっ、ぐっ…ひっく」
流れる涙で僕の方が川になってしまいそうでした。先生に嫌われちゃった、あの子を置いてけぼりにしちゃった…!
けれど、今さら教室に戻る勇気なんてありません。だからといって、仙界にいるお師匠様に会わせる顔もありません。羽衣で身体を包み込み、僕はダンゴムシのように丸くなりました。
そうして何日か過ぎ、僕はようやく起き上がりました。「…戻ろう、仙界に」そう決意したのです。
お師匠様に謝って、それで…また前のようなお師匠様と僕でありたいと、頭を下げて頼んだらきっと大丈夫…だって、お師匠様はとてもお優しいお方だもの。
戻る前にあの子に謝って、それから先生にもお礼を言って…うん、そうしよう。
羽衣から顔を出し、日のまぶしさに僕は目を細めます。人づてにどうにかあの子の元へたどり着くと、再び顔を合わせた彼は目を満月にしていました。それはじきに三日月になり、「心配してたんだよ。あれから見かけなかったから…もう、来ないの?」と尋ねてきました。僕は視線を落として、自分に言い聞かせるようにうなずきました。
すると彼の「どうして?」という問いに上手い理由が見つからず、「通うだけのお金がないから」と伝えることにしました。
「そっか…ねぇ、先生にはあれから会った?」
「ううん」
「あの後ね、先生から君のことを色々聞かれたんだ。とっても心配していたよ。会いに行った方がいいと思う」
先生が僕のことを…!?消えかかっていた火がまた噴き上がるような思いでした。お礼を伝え、教えてくれた通りに向かうと、村から少し離れたところに先生の家はありました。
…大丈夫、何を言われてもこれで最後なんだから。大丈夫、大丈夫。コンコンと戸を叩き、僕はどきどきしながら待ちます。大丈夫、きっと平気。…のはずだけど。
じきに「はい、どなたです?」と待ち焦がれていた声が聞こえてきました。僕の緊張はお山のてっぺんにまで登りつめます。「ぼっ、ぼっ、ぼむ、」と声が震えて喉元に言葉を引っ掛けていたら、中から騒々しい音が聞こえてきて、戸は勢いよく開きました。
「ボムギュッッ すまなかった!!」
僕の身体は宙に浮いていました。先生に…抱きしめられている…?
カアッと顔が熱くなり、血が滞りなく全身を駆け巡ります。それは僕の決意をも緩やかに解いていくようでした。
「ぼっ、僕の方こそ、すみませんでした…心配をおかけして、申し訳ございません」
ようよう言ってのけると、先生は「まぁ とにかく中に入れっ」と僕の背を押してくれました。その笑顔に心底ホッとし、嬉しさを感じている自分がいたわけで。僕は躊躇いながらも、足を踏み入れることに致しました。
11
あなたにおすすめの小説
陥落 ー おじさま達に病愛されて ー
ななな
BL
眉目秀麗、才ある青年が二人のおじさま達から変態的かつ病的に愛されるお話。全九話。
国一番の璃伴士(将棋士)であるリンユゥは、義父に温かい愛情を注がれ、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。
そんなある日、一人の紳士とリンユゥは対局することになり…。
父と息子、婿と花嫁
ななな
BL
花嫁になって欲しい、父親になって欲しい 。すれ違う二人の思い ーー ヤンデレおじさん × 大学生
大学生の俺は、両親が残した借金苦から風俗店で働いていた。そんな俺に熱を上げる、一人の中年男。
どう足掻いてもおじさんに囚われちゃう、可愛い男の子の話。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!
夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。 ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公
お兄ちゃんができた!!
くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。
お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。
「悠くんはえらい子だね。」
「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」
「ふふ、かわいいね。」
律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡
「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」
ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。
カエルになったら幼なじみが変態でやべーやつだということに気づきました。
まつぼっくり
BL
カエルになったけど、人間に戻れた俺と幼なじみ(変態ストーカー)の日常のお話。時々コオロギさん。
え?俺たちコイビトなの?え?こわ。
攻 変態ストーカーな幼馴染
受 おめめくりくりな性格男前
1話ごとに区切り良くサクサク進んでいきます
全8話+番外編
予約投稿済み
ムーンさんからの転載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる