羽衣伝説 ー おじさま達に病愛されて ー

ななな

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5. 決意

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 次の日の朝、僕はどこか重い足取りで先生の元へ向かいました。どうしてこうも気分が晴れないんだろう…せっかくお話ができるようになったのに。
 とぼとぼしながら教室に入ると、沢山の子供達に囲まれた先生の姿が目に飛び込んでくるのです。また寂しさを覚え、よく分からない気持ちに首を傾げてしまいました。

 先生に話しかけられるのを待っていよう。そう思って、隅の方の席にちょこんと腰かけることにしました。しかし、待てども待てども先生は来てくれず、思わず大きなため息が出てしまいます。そうしていた時のこと。
 ふと、僕のように隅で座っている男の子が目に止まりました。先生の方をチラチラと見ていて、筆は進んでいないようです。みかけは僕くらい…か、もう少し歳下でしょうか。まぁ、僕は自分の年齢もわからないのですが。

 なんだか自分の姿と重なって、僕はそろそろとその子に近づいて行きました。それで隣に座って、「どこか分からないところがあるの?」と尋ねました。「え…ぁ、うん」と遠慮がちに答える彼の手元の紙を見たところ…こりゃ酷い。まるでなっちゃいない。

「ここはこう書いた方がいいよ。それからさ…」
 名前も知らない彼の手を掴み、僕は調子に乗ってしまいました。そもそも自分の下心のために、先生を欺いていた罰が下ったのだと思います。

「おいおいおい、そこっ!駄目だろぉ 友達同士で教え合いっこなんてしちゃあ!」

 ハッ。顔を上げると…僕は息が止まりました。先生の怒った顔がそこにはあったのです。僕はパッと手を離して、うつむきました。
 それでどうしたかって…走って逃げ出したのです。


「ハァっ、はアッ、はあっ」

 どうしよう、どうしよう、どうしようどうしよう!
 すっかり混乱して、頭の中はぐちゃぐちゃになっていました。辺りが歪んで見え、記憶の中の先生が僕を睨み付けています。
 そんな僕がぶつかったのは、小さな川のほとりでした。

「ゥゥ…ぁっ、ぐっ…ひっく」
 流れる涙で僕の方が川になってしまいそうでした。先生に嫌われちゃった、あの子を置いてけぼりにしちゃった…!
 けれど、今さら教室に戻る勇気なんてありません。だからといって、仙界にいるお師匠様に会わせる顔もありません。羽衣で身体を包み込み、僕はダンゴムシのように丸くなりました。


 そうして何日か過ぎ、僕はようやく起き上がりました。「…戻ろう、仙界に」そう決意したのです。
 お師匠様に謝って、それで…また前のようなお師匠様と僕でありたいと、頭を下げて頼んだらきっと大丈夫…だって、お師匠様はとてもお優しいお方だもの。
 戻る前にあの子に謝って、それから先生にもお礼を言って…うん、そうしよう。

 羽衣から顔を出し、日のまぶしさに僕は目を細めます。人づてにどうにかあの子の元へたどり着くと、再び顔を合わせた彼は目を満月にしていました。それはじきに三日月になり、「心配してたんだよ。あれから見かけなかったから…もう、来ないの?」と尋ねてきました。僕は視線を落として、自分に言い聞かせるようにうなずきました。
 すると彼の「どうして?」という問いに上手い理由が見つからず、「通うだけのお金がないから」と伝えることにしました。

「そっか…ねぇ、先生にはあれから会った?」
「ううん」
「あの後ね、先生から君のことを色々聞かれたんだ。とっても心配していたよ。会いに行った方がいいと思う」

 先生が僕のことを…!?消えかかっていた火がまた噴き上がるような思いでした。お礼を伝え、教えてくれた通りに向かうと、村から少し離れたところに先生の家はありました。

 …大丈夫、何を言われてもこれで最後なんだから。大丈夫、大丈夫。コンコンと戸を叩き、僕はどきどきしながら待ちます。大丈夫、きっと平気。…のはずだけど。
 じきに「はい、どなたです?」と待ち焦がれていた声が聞こえてきました。僕の緊張はお山のてっぺんにまで登りつめます。「ぼっ、ぼっ、ぼむ、」と声が震えて喉元に言葉を引っ掛けていたら、中から騒々しい音が聞こえてきて、戸は勢いよく開きました。


「ボムギュッッ すまなかった!!」

 僕の身体は宙に浮いていました。先生に…抱きしめられている…?
 カアッと顔が熱くなり、血が滞りなく全身を駆け巡ります。それは僕の決意をも緩やかに解いていくようでした。 

「ぼっ、僕の方こそ、すみませんでした…心配をおかけして、申し訳ございません」
 ようよう言ってのけると、先生は「まぁ とにかく中に入れっ」と僕の背を押してくれました。その笑顔に心底ホッとし、嬉しさを感じている自分がいたわけで。僕は躊躇いながらも、足を踏み入れることに致しました。
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