羽衣伝説 ー おじさま達に病愛されて ー

ななな

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6. 御浄土

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 先生の家の中は実に殺風景なものでした。こう言うのもあれですが…少々貧相といいますか。でも、どこか懐かしい気がするのは気のせいでしょうか。それに不思議と心地良いのです。

 先生は来客用の座布団に自分の分まで重ねて、僕に座らせてくれました。先生の分が、といくら言おうにもふにゃふにゃ笑うばかりなので、僕は大人しくその厚意を受け取ることにしました。

「ボムギュ、訪ねてきてくれて本当に嬉しいよ。ありがとう」
 先生の顔は酷く嬉しそうに映りました。僕はドキリとして、目をそろそろとそらしました。
 すると、「朝飯は食ったのか?」と聞かれます。そういえば下に降りてきてから何も食べていないなぁと思い、首を横に振りました。上にいた時と違ってまるでお腹が空かないのです。
「そっ、そうか。じゃあ用意してやるから食ってけ!」
 先生はドタバタと奥の方へ入って行きました。それがなんだか尻尾を振って駆ける犬の姿を彷彿とさせ、くすりと密かに笑いました。


「ほらっ、遠慮することはねぇ。いっぱい食べなっ」

 にこにことしている先生を目の前に、僕は目を…ひん剥いたものです。下の人達はなんて豪快なのでしょう。

「せ、先生…流石に、こんなには…」
「お前 男だろ?いっぱい食って体力つけな」
 さぁさぁと勧められ、僕はついキョロキョロしてしまいます。先生は僕を太らせて食べるつもりじゃなかろうか…いや、まさかね。
 山盛りのご馳走の上で箸を迷わせつつ、シャケに手をつけてみることにしました。僕の好物です。では…一口。

「どっ、どうだ…?」

 とっても美味しゅうございます…!その証拠に、あっという間にペロリと平らげてしまったのですから。「げふっ」僕はそれでお腹いっぱいになったのでした。

「本当に…それだけでいいのか?遠慮することねぇんだぞ」
「ありがとうございます。あの、食が細いので…」
 とはいえ これだけ作って頂いたにも関わらず、残す上に何も返すあてがないとは。
 何か自分にできることはないかと僕は尋ねました。けれど先生は目を丸くして、それからにやにやというのでしょうか。

「いいよ そんな、お前は客だ。それよりボムギュ、あんなに達筆な字が書けるんじゃないか。なんで俺の前ではミミズが這いつくばったような字になるんだ?」
 突然に痛いところを突かれ、僕はお茶を噴きこぼしてしまいました。「げほげほっ」着物に緑のシミが広がってゆきます。
 先生は慌てた様子で「おワッ、ボムギュっ!それすぐ脱げっ、洗ってやるから」と代わりの着物を用意して下さいました。僕は恥ずかしいやら申し訳ないやら、そそくさ着替えていると先生の視線を感じました。

「それ…随分と綺麗な織物だな」
 しげしげと眺めるその姿に、邪なそれはないようでした。僕はにこりと笑い、「祖父が作ってくれたものです」とだけ返しました。

 それから話は僕が脱走した後のことに戻り、あの子の書いていた紙を先生が見たそうです。
「はっきり言うけど、俺はお前のことを阿保だと思っていた。だから怒ったんだよ、間違ったことを教えてんじゃねぇかって。
 でもお前は俺よりも達筆な字で見事に直してやっていた…お前そっくりな奴がもう一人いるのかね」

 僕は赤くなるやら青くなるやら、笑顔の先生にジーッと見つめられ、とうとう観念することになりました。
「ごっ、ごめんなさいっ、僕、本当は読み書きができるんです。その子が困っているように見えて、可哀想だと思って、つい」
「いやいや、それはいいんだ。けどそうじゃなくてだな…ん?」
 先生の言わんとしていることを察した僕は、自分が崖の淵に立たされていることに今さら気づいたのです。前には先生…後ろには大海原が広がっております。

「なんで読み書きができるのに、わざわざ俺の元に通いに来たんだ?」

 ドンッ、と崖から勢いよく突き落とされてしまいました。「ぼぼっ僕ッ…そのっ」ぱくぱくと口を動かすのですが、わずかに残っていた決意が僕の本心を濁してしまいます。
「先生とお話したくて…でも勇気がなくて…だから、その…」
 そう、ただそれだけで…それだけなんです。消え入るような声で紡いだ己の言葉に、僕は首を横に振りそうになりました。先生の顔がまるで見れません。
 自分の手ばかりをもじもじ見つめていますと、先生の腕がするする伸びてきて、僕の手に…絡みついてきました。

「せ、先生」

「俺の手は…あったかいか?」

 あったかい。…なんてものではありませんでした。あまりにも、心地良い。けれども全身がゾクゾクして、くらりとめまいを覚えるのです。身体は熱く、火照っております。
 こくりと小さく頷くと、先生は「俺にどこを…触って欲しい?」と崖のその下、またその下へと引きずり込むように囁きました。これは…血が身体中を勢いよく掻き乱しているせいでしょうか。

「し、下…下がむずむずします…」

 僕は一体、何を言ってるのか。先生は目を細め、「ボムギュ…お布団に行こうか」と頬を撫でて下さいました。その温かな御手にきゅうぅぅと胸が締め付けられ、罪深い妄想を頭の中に描いてしまう始末です。
 布団の上に共に腰を下ろし、先生に「おいで」と手招きされると、僕は光に群がる蛾の如くに引き寄せられました。

「下がどうなっているのか、先生に見せてごらん」
 僕は言われるがままにそうしました。着物をはだけさせると、僕の貧相なそれが先生の方に顔を向けており、驚いて隠そうとしました。けれど先生は、「駄目だろボムギュ、先生に隠し事は。手をのけなさい」とおっしゃいます。おずおずと着物を持ち上げますと、「そうそう、良い子だ…良い子だぞ、ボムギュ」先生は僕のそれを温かい御手で撫でて下さいました。「ぁっ…」漏れた声がなんだか自分のものではないようで、とても恥ずかしい…

「ボムギュ、脚を広げろ。よく…見てあげよう」
 恥ずかしい…恥ずかしいのに、見て欲しい。自分はこのように淫らな性の人であったのだろうか。でも先生が…先生になら、何を言われても構わない。おずおずと膝を離し、期待と興奮でどうにかなってしまいそうでした。身体が熱を帯び、熱くて堪りません。

「お前は本当に…可愛い子だな。俺のことがそんなに好きか」
 先生は僕の太ももをゆっくりと撫で上げ、その快楽に僕は飲まれながら、ただひたすらに頷きます。
「こんなにおっ立てて…え?お利口さんのボムギュくんは、どうしてこうなるのかを知ってるのかね」
 僕のそれをツツツー…と人差し指でなぞるのです。僕は堪りかねて、「せっ、先生ぇっ、意地悪しないで…っ」と叫びました。苦しくて苦しくて壊れてしまいそうなのです。すると先生は、「悪い悪い。いいか ボムギュ、大好きな相手を前にするとな、男はみんなこうなっちまうんだ…先生も一緒」パサリと着物を脱ぎ捨てました。その腰元には…これは僕と同じ…もの?

「ははっ、俺の方がボムギュのことを好きってわけだ」
 先生は楽しそうに笑っています。腰元のそれはパンパンに膨れ上がっており、今にも僕に飛びかかりそうでした。…信じられません。罪深い妄想が現実にまで侵食しているのでしょうか。

「先生が、僕のことを?」
「あぁ。嬉しいよ…お前も俺のことを想ってくれていたなんて」
 でれでれと締まりのない顔で腕を伸ばしてくる先生に、僕はダンゴムシのように小さく丸まりました。「大丈夫だぞ。優しくしてあげるからなぁ」となんだか鼻の下まで伸びていますが、そうではありません。僕には納得のいかないことがありました。 

「ぼっ…僕の方が先生を愛しておりますのに…よよっ、陽物の大きさは…身体の大きさですっ」
 息も絶え絶え、僕は先生に訴えておりました。言った、言ったぞ、言っちゃった…!
 広がる大海原の如くにお慕いしておりますのに、僕の小さな陽物程度だと思われることが釈然としなかったのです。先生はポカンとなっていましたが、じきに我に返ったらしく、くぐもった声を出しながら飛びかかってきました。

 僕は少し後悔をしました。唇を奪われ、先生の大きな舌が僕の全てを欲するように蹂躙するのです。「んっ、ふっ、はぁっ、ンンッ」離れることを許さないとでも言わんばかりに何度も何度も吸い付かれ、先生の愛の重さははたして自分のものに劣るのだろうか、と。うっとりと熱を孕んだ瞳には、僕以外は映っていないようでした。

 やがてそのことは…後悔は決定的なものとなりました。「初めてだとちーっと辛いんだ。ようく慣らしておこうな」と僕に頬擦りをしながら嬉しそうに言う先生に、一気に頭が冷えかえってしまったのです。あぁ…僕はなんて愚かなのか。
 先生の「どうした…?」という言葉が追い討ちとなり、嫌な汗までかき始めていました。身体がガタガタ震え上がり、僕は信じられないことを口走っておりました。 


「僕っ、や、やっぱり…先生のことなんか好きじゃないっ」

 嫌われる、軽蔑される。お師匠様とすでにしたことがあるなんてばれたら…!
 涙がひとりでに外へ溢れ、図々しくもみんなの先生を独り占めしようとした罰だ、と思いました。力の入らない腕で先生を押し退けようとしますが、その身体はビクともしません。それに先生はますます笑顔になりました。

「どうした…誰がお前にそんな顔をさせるんだ」
 先生は僕を抱きしめ、瞼に口付けを落としました。どうかおやめになって…傲慢な僕はそれで舞い上がってしまうのですから。
「僕は…先生が思っているほど利口な人間ではないのです…っ…」
「…へぇ?その美しさで一体どれほどの人間を惑わせてきたのか」

 僕は目を開けられませんでした。涙がとめどなく溢れ、死すら覚悟しました。
「ははは…いけない子だなぁ ボムギュは。俺じゃなきゃ満足出来ないような身体にしてやらないと…もう我慢の限界だ」

 そう耳元に囁かれ、「ぁっ、」と僕が言うのが先か後か。先生は僕の唇を、首を、肩を、胸を、お腹を…そうして恥ずかしいところまでを情熱的に愛して下さいました。僕は涙が流れてゆきます…先生の愛を受け止める幸せと喜びで、崖のその下、またその下、海の中にも御浄土は存在するのだと。
 やがて日が昇る頃には、僕の身体は先生のものへと生まれ変わっておりました。
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