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1. 兄さんが帰ってきた
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今日は兄さんが帰ってくる日だ。兄さんはオレの八つ上、22歳。オレと違って頭が良く、人も良い。
周りの期待を一身に背負って、国内で確か一番とか二番とかいう有名大学に飛び込んで行った。
てっきりそこでそのまま、と思っていたけど、地元に就職したらしく、こうして我が家へと戻ってきてくれることになったのだ。オレがこの日を、どれだけ心待ちにしていたことか。
だって、兄さんってのはすごく優しい。いっつもオレの面倒をみてくれたんだもん。
昔のオレは身体が丈夫じゃなく、しょっちゅう学校を休んでいた。そうした日は血相を変えて、『俺も休みます。チャユの看病をするんだ』って、オレの手を離そうとしなかった気がする。
『看病は母さんがしてくれる。カヌは学校に行きなさい』
そのたびに、父さんは兄さんのことを呆れたように諭して、オレの方をチラッと冷たい目で見てきた。これは幼心にこたえた。
オレは父さんがどうも苦手だ。オレに興味がないみたいで、怒られることはないけど、褒められることもなかった。
というか、そもそも会話らしい会話をしたことがない。兄さんとはよく難しそうな話をしていたから、たぶんオレにはガッカリしているんだろうな。
『カヌ、チャユのことは母さんに任せてちょうだい。大丈夫よ、チャユって結構しぶといんだから』
ふふふっ。母さんはそう笑い、オレのおでこと兄さんの肩を優しく撫でてくれた。
本当にそっくりだな…チャユと母さんは。これは兄さんの口癖だった。それくらい、オレと母さんは顔がよく似ている。その笑顔を見るたびに、母さん一人でオレが出来上がったんじゃないかって、密かに怪しんでいた。
「遅くなってすみません…ただいま戻りました」
重そうな手荷物を片手に、兄さんは帰ってきた。「兄さんっ!」とオレは飛び跳ねていって、四年ぶりの兄の姿をまじまじと見つめる。がっちりとして、オレより頭一つ分は背の高い。父さん譲りの整った容姿は健在だ。
早速その手荷物をひったくろうと、持ち手をぐいーっと引っ張ってみる。けれど、「おいおい、そんなに引っ張るな チャユ。いいよ、自分で持っていくから。ありがとな」と腕をぽんぽんと叩かれてしまった。
「いやいや、遠慮すんなって。疲れてるだろ?オレが運んでってやる」
「ふぅん?しばらく見ないうちに、随分頼もしくなったもんだな。背もだいぶ伸びて……しっかり食べてるか?」
「もちろんっ!もりもり食ってるぞ」
シシシってめいっぱい笑ってやると、「そっか、偉いな」って。兄さんに褒められた…!
「嘘おっしゃいな、チャユ。あなたったら野菜と果物ばっかりで、他はぜーんぜんじゃないの。だから、いつまでたってもそんな痩せっぽっちなのよ」
うぐっ。得意気なオレの鼻を折ったのは、母さんだった。振り向くと、ジトーっと目を細めている母さんと、不機嫌そうな顔をした父さんが立っていた。
父さんがこうなのは、兄さんの就職先への不満からだろう。なんで地元の企業なんかに……母さんがこっそり教えてくれた。
「おやぁ、チャユの偏食は四年経っても治ってなかったのか」
「そうなのよ。あんなに美味しいお肉が嫌いなんて…ねぇ」
ぐぬぬ…な、なんだよ。厚みのある兄さんの身体をバシバシ叩いてやったら、「でっかくなったけど、あんまり変わってないのな」と振り払うでもなく、ただただ受け入れるばかりだった。
やっぱり、兄さんは変わってない。出て行く前とおんなじ、オレは嬉しくて仕方がなかった。
周りの期待を一身に背負って、国内で確か一番とか二番とかいう有名大学に飛び込んで行った。
てっきりそこでそのまま、と思っていたけど、地元に就職したらしく、こうして我が家へと戻ってきてくれることになったのだ。オレがこの日を、どれだけ心待ちにしていたことか。
だって、兄さんってのはすごく優しい。いっつもオレの面倒をみてくれたんだもん。
昔のオレは身体が丈夫じゃなく、しょっちゅう学校を休んでいた。そうした日は血相を変えて、『俺も休みます。チャユの看病をするんだ』って、オレの手を離そうとしなかった気がする。
『看病は母さんがしてくれる。カヌは学校に行きなさい』
そのたびに、父さんは兄さんのことを呆れたように諭して、オレの方をチラッと冷たい目で見てきた。これは幼心にこたえた。
オレは父さんがどうも苦手だ。オレに興味がないみたいで、怒られることはないけど、褒められることもなかった。
というか、そもそも会話らしい会話をしたことがない。兄さんとはよく難しそうな話をしていたから、たぶんオレにはガッカリしているんだろうな。
『カヌ、チャユのことは母さんに任せてちょうだい。大丈夫よ、チャユって結構しぶといんだから』
ふふふっ。母さんはそう笑い、オレのおでこと兄さんの肩を優しく撫でてくれた。
本当にそっくりだな…チャユと母さんは。これは兄さんの口癖だった。それくらい、オレと母さんは顔がよく似ている。その笑顔を見るたびに、母さん一人でオレが出来上がったんじゃないかって、密かに怪しんでいた。
「遅くなってすみません…ただいま戻りました」
重そうな手荷物を片手に、兄さんは帰ってきた。「兄さんっ!」とオレは飛び跳ねていって、四年ぶりの兄の姿をまじまじと見つめる。がっちりとして、オレより頭一つ分は背の高い。父さん譲りの整った容姿は健在だ。
早速その手荷物をひったくろうと、持ち手をぐいーっと引っ張ってみる。けれど、「おいおい、そんなに引っ張るな チャユ。いいよ、自分で持っていくから。ありがとな」と腕をぽんぽんと叩かれてしまった。
「いやいや、遠慮すんなって。疲れてるだろ?オレが運んでってやる」
「ふぅん?しばらく見ないうちに、随分頼もしくなったもんだな。背もだいぶ伸びて……しっかり食べてるか?」
「もちろんっ!もりもり食ってるぞ」
シシシってめいっぱい笑ってやると、「そっか、偉いな」って。兄さんに褒められた…!
「嘘おっしゃいな、チャユ。あなたったら野菜と果物ばっかりで、他はぜーんぜんじゃないの。だから、いつまでたってもそんな痩せっぽっちなのよ」
うぐっ。得意気なオレの鼻を折ったのは、母さんだった。振り向くと、ジトーっと目を細めている母さんと、不機嫌そうな顔をした父さんが立っていた。
父さんがこうなのは、兄さんの就職先への不満からだろう。なんで地元の企業なんかに……母さんがこっそり教えてくれた。
「おやぁ、チャユの偏食は四年経っても治ってなかったのか」
「そうなのよ。あんなに美味しいお肉が嫌いなんて…ねぇ」
ぐぬぬ…な、なんだよ。厚みのある兄さんの身体をバシバシ叩いてやったら、「でっかくなったけど、あんまり変わってないのな」と振り払うでもなく、ただただ受け入れるばかりだった。
やっぱり、兄さんは変わってない。出て行く前とおんなじ、オレは嬉しくて仕方がなかった。
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