世界が平和になり、子育て最強チートを手に入れた俺はモフモフっ子らにタジタジしている魔王と一緒に子育てします。

立坂雪花

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16.温泉旅行

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 温泉旅行の日がやってきた!

 いつもより慌ただしく賑やかに朝の時間は過ぎていく。各自、一週間分の準備を終えた順に魔王城のエントランスホールに集まるよう指示を出した。

自分の準備を進めながら、一生懸命準備をしている子らの様子も観察した。おもちゃやぬいぐるみ、そして本など持っていくものを選んでいる。ピンクは旅行が決まった日から自分の宝物であるシマエナガのぬいぐるみも連れていくとはりきっていたな。

「みんな、忘れ物はないか?」
「な~い!」

 俺の質問に対し全員が自信満々に答えるも、きっと誰かは何かを忘れていそうだな。

 準備を終えるとエントランスホールに行く。全体を見渡すと、さっそく黄色いリボンのついた皮のショルダーバッグが落ちていたのを発見した。

「イエロー、イエローはどこだ?」
「イエローは走って外に行ったよ」

 俺が問うとレッドが答えた。

「もう外に行ったのか!」

 ショルダーバッグを手に持ち、外に出ると走り回って遊んでいるイエローにバッグを渡す。ちなみに子らのショルダーバッグは、今日の旅行のために大人たちが夜中に作った。全員気に入ってくれて、家の中でもずっと身につけている子もいた。

 全員外に出たのだが、動き回ってなかなか集まらない。
  
 今、目の前にはユニコーンが引っ張る空飛ぶ馬車が三台並んでいる。その前に大人たちが並んだ。その時ふと気がついた。魔王は今日、変装をしていない――。俺の中では大きな出来事だ。気持ちに何か変化があったのか、今すぐに聞きたかったがその気持ちを抑えた。今は全員をまとめる時間だ。

「はい、魔王、執事、そして俺、勇者のチーム。どのチームが一番に集まるかな? よーい、どん!」

 魔法にかかったかのように、一斉に急いで集まり出す。きっと急いで集まる理由も『負けたくないから』『チームに迷惑かけたくないから』『ただ楽しいから』……と、様々なんだろうな。

 先日、誰が誰と馬車に乗るのか、大人ひとりずつと子らをバランスよく分けていた。

魔王チームには護衛として隣にいたいと自ら立候補したブラック。あとはブルーとスカイ、そしてギルバードが。執事のところにはグリーンとオレンジとイエロー、そしてホワイト。俺のところにはバイオレットとレッド、ピンクが乗ることに決まった。全チームが並ぶと、それぞれの場所に乗った。

 空を飛んだ馬車は地上から離れていく。

「レッド、ピンク、見てみて! 魔王城が小さくなっていくよ」

 窓から見下ろすと、地上が小さくなっていった。魔王城だけが他の街から離れていて孤独に見える風景は、少し寂しくも感じた。

「魔王城だけ他の街から離れてて、なんだか特別な場所みたい」
「魔王城は広いしカッコイイし、最高だ!」
「おうちが一番キレイ」

 バイオレットが呟くとレッド、ピンクも反応した。
 そんな捉え方もあるのだなと、感心する。

 休憩を多めに挟み、スピードもゆっくり進む予定だから着くのは夕暮れ時になるのか。しばらく暇だなと思いながらウトウトしかけていたが、三人はしばらく目を輝かせながら「雲が隣にある!」などと盛り上がりながら外を見つめていた。



「みんな起きろ、着いたぞ!」

 仲良く寄り添って眠っていた三人を起こす。

 和国をイメージした温泉宿に着いた。とても大きくて立派な建物は、全体が木材で作られている。扉の上に『幸運夢(こううんゆめ)の宿』と書いてある看板が飾られていた。庭には直接初めて見る竹や石などの置物や池があり、赤い花も咲いている。夕陽の背景が、元々美しい建物をさらに際立たせていて、まるで本当に異国に来たと思わせるような雰囲気だった。

 子らも建物を眺めながら、感嘆の声を漏らしていた。

「こちらへどうぞ」と、着物を身に纏う宿の女が泊まる部屋を案内してくれた。泊まる部屋はとても広く、床が畳だった。独特な香りもする。

 子らは走り回ったり、畳を触ってみたり……とにかく、はしゃいでいる。荷物を置いて少し部屋で休むと全員で宿の中を探検してみることにした。

 廊下の幅はそんなに広くないから人の邪魔にならないように、一列に並んだ。扉が開いている部屋をひとつひとつ覗きながら廊下を歩く。そして最後に大浴場と書かれている場所を覗いた。とにかく広かった。お湯の種類がいくつもある。野外にも露天風呂というものがあるらしい。温泉は全員で食後に入る予定だ。魔王はゆっくりしてほしいから、子らが寝静まった後に入ってもらおうか。少しでも魔王の癒しになれば良いなと考えながら中を眺めた。

 部屋に戻る時、少し違和感を覚えた。一通り歩いたが、客とすれ違わなかった。そして宿の中はずっと静かだった。

 ちょうど部屋に着くと夕食の時間になった。宿の男が部屋まで迎えに来て、案内してくれた。低いテーブルと座椅子という低い椅子がずらっと並べられてある和室に通された。

 全員が席に着くと、廊下から聞き覚えのある声がした。声の主たちは部屋に入ってきた。


「久しぶりだな!」

 俺は部屋に入ってきた三人に手を振った。

今、部屋に入ってきたのは、共に旅をしたメンバーだった。岩も砕ける程の強い腕力を得た戦士ゼロス、有能占い師として街で大活躍している魔法使いエウリュ、そして今回の旅行の計画をほぼ全て考えてくれた、金持ちな僧侶ウェスタ。

 偶然まだ誰も温泉チケットを使っていなかったらしく、魔王を休ませつつ子らも楽しませるには人手が多い方が良いからと、ウェスタの計らいでゼロスとエウリュも来てもらえることになったのだ。ちなみに気まずくならないよう、事前に魔王には来ることを伝えてある。そんな魔王はというと、数人の子らの背筋を伸ばさせて行儀の良い座り方を教えていた。

「本当にたくさんの子供がいるのですね。可愛い!」
「後で遊ぼうな!」

 子供が好きな魔法使いエウリュと戦士ゼロスはすぐに子らと仲良くなり、馴染んだ。

「ウェスタ、今日子供は一緒じゃないのか?」
「旦那と一緒に家にいるわ」
「そういえば、旅の時はいつも旦那に子供まかせていたよな」
「そうね、とてもふたりは仲が良いし。ありがたいわね」
「そうだな」

 話していると和食料理が次々と運ばれてきたから、今来た三人も入口辺りの空いている席に並んで座った。全ての料理が揃った。

「いただきま~す!」

 幼子らの前には、大人が食べるものとは別の、食べやすい料理が並べられていた。花の形の白い皿に、蒸した赤い魚と星の形をした色鮮やかな野菜が盛られていて「美味しい」「可愛い」と楽しみながら幼子らは食している。食べ終わるとあんこの乗ったアイスクリームも来るらしい。大人の料理も、刺身というものや味噌で味付けされたスープなど初めて味わう料理が次々出され、どれも美味しく、料理を堪能した。

 食べ終えたら温泉だ。男湯と女湯に分かれていて、魔法使いエウリュと僧侶ウェスタが女湯の方で女の子チームと一緒に入ってくれることになった。

「バイオレットとオレンジとピンクは女湯だな」
「こちらの赤ちゃんはどちらに?」
「あっ、ホワイトも女の子だ!」
「ホワイトちゃん抱いてみたいです。おいで」

 魔法使いエウリュは執事からホワイトを受け取ると、優しく抱いた。

「わっ、ふわふわしてて、可愛い!」

 エウリュが微笑みかけるとホワイトは声を出して笑った。良い雰囲気で、大切な子らを安心して任せられそうだな。

「それじゃ、男の子チームは俺についてこい!」

 俺はギルバードを抱き上げて歩く。男の子チームと戦士ゼロス、執事と魔王もついてきた。
 
「魔王も今入るのか?」
「あぁ、そうだ」

 魔王、ゆっくりはできないか――?

 脱衣所で元気よく服を脱いだスカイとイエローは勢いよく走り出して浴室の中へ入ろうとする。

「走るのダメ! 他に人がいたらぶつかって怪我するだろ?」と、強めに言うと注意された子らは素直に歩いた。浴室に入るとそれぞれが体を洗う。そして全員でまずは一番広い湯船に入り、湯の中に一斉に体を沈めた。しんみりとした温かさが体全体を巡り、気持ちが良い。少し経つと子らはそれぞれ目の届く場所で、遊んだり他の湯船に入ってぼんやりしたりしながら、好きなように過ごしていた。大人チームは子らを見守りながら並んで湯に浸かった。

「そういえば、俺ら以外誰も客いなくないか?」
「そのようですね。わたくしも少し気にかかっておりました」
「だよな。今もここには俺ら以外はいないし……後で計画立ててくれたウェスタに聞いてみようか」
「そうですね」

 気持ちよさを感じ、ほっと息を吐いた時、レッドがこっちに来た。

「ねぇ、みんなで追いかけっこしたい」
「追いかけっこか……」

 幼子らが集まってきて大人たちを引っ張る。
 お兄さんチームは離れた場所からこっちを見ていた。

「他に人いないし、いいんじゃないか?」とゼロスは言う。

 なかなかない機会だしな。こうやってここに来られるのも、最初で最後かもしれないし――。

「じゃあ、走るのは禁止で、歩く追いかけっこをやろう! 場所は……露天風呂の湯船の中にしようか」

 浴室の奥にある扉を開けると、蒸気と共に広い湯船が見えた。鳥のさえずりが響いている。木でできた仕切りの向こう側からは女の子チームの声も聞こえてきた。

「じゃあ、まずは俺が追いかける!」

 俺が追いかける役になると、追いかけっこが始まった。

 子らはとても楽しそうだった。そして、大人も――。

 しばらく遊んだ後は脱衣所へ。この宿に置いてある浴衣というものに着替えた。イケメンな魔王は浴衣も格好よく着こなすんだろうな。脱衣所の隅にいる魔王をちらっと見るとすでに着替え終えていた。髪をひとつに束ね、浴衣姿でいる魔王の格好良さは予想を超えていた。そんな魔王は座りながら両手を真剣に見つめている。

「魔王、どうした?」
「いや、何もない……」

 何もないわりには首をかしげ、不思議そうな顔をしている。魔王は急に立ち上がると、タオルで全身を拭いていたイエローの元へ。そしてイエローに向かって両手をかざすと、魔王の手から風が出てきた。

「な、なんだ。なんでだ?」

 その場にいた全員が驚いた。
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