上 下
10 / 16

10*ウソがバレて

しおりを挟む
 「お祭りの時『どうしたら元の世界に帰れるか』って小松が聞いてた時、方法聞いたのか?」

「……」

「小松、『戻る方法分からない』って俺に言ってたけど『難しい、ムリ!』ってあのお兄さんに答えてたよな? なんか不自然だったんだよなあの時……」

 よりによって、宮野くんがそこを覚えていたなんて……。

 その時の私が言った言葉、そこまで細かく覚えていたんだ。ウソついたのバレバレ。
 わたしは何も答えられなくて、うつむいた。

「ウソついたってことか?」

 宮野くんは冷たい口調。

 そうだよね、ウソついちゃったんだから。一緒に頑張ってたのに、急に裏切ってしまった感じ。

 ごめんねって気持ちが私の心の中で溢れてきていっぱいになる。

「……ごめん。本当にごめんなさい」

 謝ったけれど、宮野くんは何も返事をしてくれない。心がずしんと重くなる。
 どんよりした気まずい空気がふたりの間に流れてる。



 その時だった。

「うわっ! ハードモードってこういうこと?」
「そうそう」

 葵ちゃんが突然叫び、新井くんはうなずく。

「これって、これからは自分でアイテム作ったり、食べるもの育てたりどこかで交換とかするってこと?」

「そうだよ! でも大丈夫。今まで出したアイテムは残ってるから」

「これ、設定する前に言ってよ! 色々アイテム出しておきたかったよ。前住んでた場所に服とか色々そのまま置いてきちゃった! ちょっとあそこ遠いしなぁ……」

 私もタブレットを覗いてみた。

 私の場合は、今住んでる場所に色々置いてあるし、普段着る服とかも大丈夫かな?

「葵ちゃん、私の服、着る?」
「いいの? どのくらいある?」

 色々なものをとりあえず置いてある部屋に案内した。

「わっ! いっぱいあるね!」
「着てみたい可愛い服が沢山あって、どんどんタブレットから出していって、全身鏡の前で合わせてたらこんなことに……」

 ぱっと改めて確認してみると、軽く20着以上はある。

「着ていいの? 助かるよ! でも普段、私が着ないような可愛いのばっかりだね、似合うかな?」

 わたしは葵ちゃんに可愛い花のついたピンク色のワンピースを合わせて、全身鏡の前まで誘導した。

「似合うよ! 可愛い! これ、今着てみて?」

 私は小柄だけど、葵ちゃんはすらっと手足も長くて、身長も高い。美人だし。私よりも服を着こなしていた。

「スカートとか、慣れないなぁ」
「わたしの服、嫌だ? 新井くん、この葵ちゃんの姿、好きそう」
「そうかな? 結芽の服、一緒に着させてもらおうかな?」
「うん、いいよ」

 新井くんの話を出したら、葵ちゃんは可愛い系の服を着るのも乗り気になった。




 葵ちゃんと一緒にリビングへ。

「この格好、似合わないかな? 変?」
 葵ちゃんが新井くんに聞く。

「可愛いんじゃない?」

 ほんのり顔が赤くなる葵ちゃん。
 それを見て嬉しくなる。

 新井くん、私じゃなくて、葵ちゃんのこと好きになればいいのに。

 でも心って、そんなに簡単に変われるものじゃないよね。

 宮野くんはキッチンで食器を片付けていた。

「私も、一緒に片付けるよ」
「ひとりで片付けれるから、しなくて大丈夫だよ」

 目を合わさずに宮野くんは言った。

 いつも一緒に片付けていたのに……。
 目を合わせて話してくれていたのに。

「うん、分かった」

 しょんぼりしながらリビングに戻る。

 宮野くんと私の間に、見えない壁が出来てしまった気がする。でもそれは、私が隠しごとをしたせいで。




「小松さん、花好き?」

 落ち込んでいたら、新井くんに質問された。

「花、大好きだよ!」
「これ、見て?」

 新井くんが花の種が入った小さな袋をテーブルに並べた。8種類ある。

「わっ! 花も育てられるの?」
「うん。しかも天気の良い日に種まきして、水をあげると次の日にはもう成長して花が咲くんだ。もう畑、隣に出来てるから、そこで育てよう。好きな花、選んだら畑に行こうか?」

「畑? この辺、砂浜だよ!」
「大丈夫。とりあえず選んで?」
「うん、分かった」

 どうしよう。
 花の種類が沢山ある。

「アリッサムがいい!」

 私はアリッサムの小さな種を出すと、なくさないように大切に持って、新井くんと一緒に外に出た。

「わっ! 別世界!」

 もうここに来てから驚きの連続。
 
 だって、目の前には海がなくて、砂浜もない。いつの間にか緑の世界になっていて。

 今見えるのは、木や、草原、川もある。

「場所も変えてみた」
「すごいね、新井くん。こんなことも出来るんだ!」
「あのね、お願いがあるんだけど」

 突然新井くんの声が小さくなる。

「何?」

「まだ宮野には告白しないでほしい」

「えっ?」

「いや、小松さんと、ここでまだ一緒に過ごしていたくて……」

「告白なんて、出来ないよ。それに告白しても、相手からも好きって言われないと、元の世界に帰れないんでしょ? どっちにしても帰れない」

「帰りたくなったら、いつでも僕に好きって言って?」

「でも……わたし、好きな人にしか好きって言えない……」

「だよね、ごめん。今言ったこと、気にしないで! とりあえず、畑見てみて?」



 家の前には想像していたよりも大きな畑があった。
 野菜もすでに植えられていて。

 人参や大根やピーマン、ほうれん草、あと、トマトとキュウリ、キャベツ……。いつの間にこんなに!

「この辺に種まいていいよ!」

 この種が一日で花になるのすごいな。ちなみにアリッサムは、小さなお花が沢山仲良さそうにくっついて、にぎやかで可愛いお花。

 お母さんが大好きで、白やピンクを庭に沢山植えていた。

 お母さんたちに会いたいなぁ。

 種をまきながらわたしは新井くんに聞いてみた。

「ねぇ、新井くんはあっちの世界に帰りたいって気持ちとか、ないの?」

「どうなんだろう。あっちに行っても、友達もいないし、親も仕事でいないし、ずっとひとりでゲームばかりしてからなぁ。どっちでもいいかな? 小松さんは?」

「わたしは……帰りたい気持ちもあるけど、ここも楽しいな。ていうか、元の世界に帰る条件満たせないし、一生ここにいるかも」

「帰りたくなったら、本当にいつでも僕に言ってね? 一緒に帰ろう」

「う、うん……」

 宮野くんには嫌われた感じだし。
 もしも帰るとしたら、新井くんと帰るのかな? 

 でも、葵ちゃんは新井くんのことが好き。だから、私ではなくて葵ちゃんに『好き』って言ってほしいし……。

 考えるほど頭の中がぐちゃぐちゃになってくる。


 結局ずっと、宮野くんに話しかけれなかった。

 宮野くんは自分の家にいて、私も顔を合わすのが気まずかったから自分の家にいた。

 葵ちゃんも私の家にいてくれて、新井くんは宮野くんの家に。

 いつも一緒に食べていたご飯も別々で。

 葵ちゃんがいてくれてよかったけれど、宮野くんと別の家で過ごすのは、すごくすごく寂しかった。
しおりを挟む

処理中です...