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後宮妃・二の妃の裁き編
42.宝玉の采配と二の妃のその後
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「……やり直す? ふふっ、おかしなことを言うのね?」
ーーそうね、そうできたら、どんなにいいことか……。
だが、罪人・氷翠には、それが無理なことは分かっている。何よりも、皇帝・王炫がそれを「赦さない」だろうことも……。
皇帝陛下の伴侶となる後宮妃・宝玉に不敬を働いたのだ。知らなかったこととはいえ、赦されるものではない。
「おそらくは無理な話でしょう。今の私は何の身分もないただの罪人でしかありません。裁きを待つだけ……」
宝玉の前に鎮座しながら、そう返事を返す罪人・氷翠。
「何が無理だと言うのでしょう?」
「あなた自身がよくお分かりのはずでは?」
はて? と眉を寄せては首を傾げる宝玉。
ーーこの娘は自分の存在価値を知らないのね。無邪気で愛らしく、他の後宮妃のような欲深さもない。眼差しには賢明ささえ宿っている。
ああっ、だから皇帝陛下はこの娘を寵愛しているのだ。
ようやく理解する罪人・氷翠。
深くため息をつく罪人・氷翠は一呼吸おけば、一気に言葉を並べ立てる。
「あなたはご自分の存在価値を認識した方がよろしいわ」
「私の存在価値は微塵ほどもありません」
よく言うわ……その刹那、高笑いをしてみせる罪人・氷翠。
「ならば、教えて差し上げましょう。あなたは皇帝陛下自らが召し上げた後宮妃でしょう?」
――正確に言えば、私が自ら望んだのですが……。
内心ではつっこみを入れる宝玉。
「あなたのことは次期皇后ともまで聞かされた以上、私が助かる道はなきに等しいわ。皇后に望まれる後宮妃が、まさか侍女の姿で過ごしていると誰が思うの? まんまと騙されたわ」
「ですが、実際に今の私は麗香お姉様付きの侍女ですから……」
まあ、いいわ……と先を続ける。
「その後宮妃に対し、不敬行為を犯した者が赦されるはずがありません。帝家への叛意ありと見なされ、裁かれることになるのは当然の成り行きだと誰でも分かることよ」
すでに近衛兵からは、林家の当主夫妻への裁きと末路を伝え聞く罪人・氷翠は、己の運命も同じだと悟っている。
「私への罪状が覆ることはないわ」
「それならば……私が覆します。皇帝陛下からは『おまえの采配に任せる』と仰せつかっておりますので……それに嫌なのです」
――采配を任せるとは……皇帝陛下は、それほどにこの娘に心を許し、寵愛している。
即ち、始まる前から勝敗は決まっていたといえる。
「何が嫌だというのかしら?」
宝玉は隣で涙を貯める宮女・美玉を視界に捉えながらハッキリと告げる。
「大好きな美玉ちゃんが泣くのも嫌です。それに、心から後悔している“二の妃”様が命を落とすのも見たくはありません。本当に裁かれるべき人が既に罪を贖った以上……あなた様が命を差し出す必要はないと思います。美玉ちゃんから聞きましたが、あなた方姉妹は間違えただけなのです。間違えたのならやり直せばいいのです」
そして宝玉は続ける。
実は宮女・美玉も母・美玲が作った鴛鴦の手巾を持っていることを……母・美玲が義姉・氷翠にも贈っていることを教えてくれたのだ。
だから、宮女・美玉は宝玉へと言ったのだ。
『今でもお義姉様が大切に持っていると願わずにはいられません。それに賭けてみたいと思います。もしかしたらですが……私たち義姉妹はやり直せるかもしれません』
そして宮女・美玉は聞いたのだ。
義姉・氷翠の心からの告白と懺悔を耳にした。
その瞬間、母・美玲が過去に告げた言葉が、宮女・美玉の脳裏にはまざまざと蘇る。
『半分でも血が繋がっているのだから、誰が何を言おうとも私たちは家族だわ。氷翠様は美玉には唯一人のお姉様なのよ。本当は優しい方なのよ。ねぇ、美玉……雪が春になれば溶けるように、きっといつかあなたたち義姉妹にも春は訪れるわ。母様がそう願っていることを忘れないで……』
「そう……そのようなことを……お優しい美玲様らしいわ。私の大好きな美玲様……」
そしてポロポロと涙を流す罪人・氷翠。
頭を地面へと擦り付け、ふっ、うぅ……と嗚咽を始める。
そして初めて人前で号泣を見せたのだ。
◇
のちに、宝玉は罪人・氷翠の号泣する姿を思い出し、彼女の弱さを垣間見たことについて、こう語っている。
「氷翠様は……まるで幼な子のようでした。その姿を見ていると……とても胸が締め付けられました。宝玉は心が痛かったです」
皇帝・王炫からの返答は「おまえこそ、まだまだ幼な子のようではないか? 色恋に疎いにも程がある」と苦言を呈される。
ぐうの音も出ない宝玉。
それはさておき。
宝玉は罪人・氷翠へと、最後にこのように言葉をかけている。
「“二の妃“様、過去に戻ることはできません。ですが、未来に進むことはできます。その未来を新たに始めればいいのです。新たに本当の義姉妹として……家族として始めればいいのです」
宝玉の言葉に何度もうなずく罪人・氷翠がいる。
「……ありがとうございます……」
小さな声で感謝の意を表した罪人・氷翠の瞳には、もはや翳りは見当たらない。澄んでいた。
◇
その後。
罪人・氷翠は罪を許され、退宮し、今では心を入れ替え、人生の再出発を果たしている。
自ら望んで市井へと下り、ただの町娘として生きることを選んだ元後宮妃・“二の妃”。
それというのも、「炫様に一生のお願いがあります」と宝玉からの立っての願いで皇帝・王炫が動いたのだ。
「おまえは一生の願いが一生ありそうだな?」
「炫様……笑えませんね。戯言はよしてください」
後にも先にも大国の皇帝・王炫を動かせるのは、彼の最後の後宮妃・宝玉ぐらいだろう。
林家により店仕舞いに追い込まれた商家は名誉を挽回され、そこへと三男の嫁として輿入れした氷翠。
高慢であったかつての自分を恥じ、林家の当主夫妻がしたであろう仕打ちを心から詫び、悔いる意味でも自らの長い髪さえ切り落としたのだ。
優しい商家の人々が恨むはずもない。
「お嬢様のせいではありません。運が悪かっただけのことです。今では店も再興し、終わり良ければ全て良しではありませんか……しかも、お嬢様のような器量良しの方が、息子の元へとお嫁に来てくださり、我が家は春爛漫です」
やがて子宝にも恵まれる氷翠。
今では義妹・美玉とも仲直りをし、手紙のやり取りをするまでに仲を深め、本当の家族としての関係を築いている。
◇
余談。
「炫様もお人が悪いです。そもそも今の私は侍女です。皇后ではありません。不敬罪に問うほうがおかしいのです。こうして指輪も見つかったではありませんか? それにもかかわらず、命まで奪い取るのは鬼畜の所業です。宝玉の目覚めが悪くなります」
「宝玉、おまえは何もわかっていないのだな? おまえは今や余のれっきとした後宮妃。しかも、その指輪には深い意味があるのだぞ。良いか、宝玉? その指輪は……」
「そんなことより炫様! 宝玉はお腹が空きました」
案の定、「ぐーきゅるきゅる……!」と腹の虫が鳴いている宝玉。鳴いているというよりは、騒いでいると言ったほうが正しい。
「おまえらしい……」
小さく吐息を吐きながらも皇帝・王炫が手を叩けば、豪華な食事の数々が運び込まれる。
今では『恩人の優しい武人のお兄さん』と判明した皇帝・王炫に心を許す宝玉。
一日おきに〈帝宮〉と〈温宮〉を行き来し、今も皇帝・王炫の膝に乗せられ、見事なまでに餌付けされている有り様だ。
「ひゃー! 見ていられません!」
そういう近衛の李暁明も大概。
一目惚れした宮女・美玉を口説く毎日だが、「私は宝玉様命です!」と袖にされている感が否めない。
◇
さて。
宝玉の野菜を踏み付けた愚かな侍女の末路だが、彼女は常に主人の威光を傘に着て、元々横暴だったことが判明。
「反省もしない。食べ物のありがたみもわからない人は、この〈後宮〉には相応しくありません」
宝玉の鶴の一言により、着の身着のまま〈後宮〉から追い出された侍女は「ちくしょう!」と暴言まで吐く有り様。
ここまで来ると救いようがない。
身寄りのない侍女だけに、物乞いになって初めて物のありがたみを知る。「食べられること」の大切さをようやく身に染みる。
だが、今さら誰も助けてはくれない。
もはや、後の祭り。
その後は行方知れずに……。
ーーそうね、そうできたら、どんなにいいことか……。
だが、罪人・氷翠には、それが無理なことは分かっている。何よりも、皇帝・王炫がそれを「赦さない」だろうことも……。
皇帝陛下の伴侶となる後宮妃・宝玉に不敬を働いたのだ。知らなかったこととはいえ、赦されるものではない。
「おそらくは無理な話でしょう。今の私は何の身分もないただの罪人でしかありません。裁きを待つだけ……」
宝玉の前に鎮座しながら、そう返事を返す罪人・氷翠。
「何が無理だと言うのでしょう?」
「あなた自身がよくお分かりのはずでは?」
はて? と眉を寄せては首を傾げる宝玉。
ーーこの娘は自分の存在価値を知らないのね。無邪気で愛らしく、他の後宮妃のような欲深さもない。眼差しには賢明ささえ宿っている。
ああっ、だから皇帝陛下はこの娘を寵愛しているのだ。
ようやく理解する罪人・氷翠。
深くため息をつく罪人・氷翠は一呼吸おけば、一気に言葉を並べ立てる。
「あなたはご自分の存在価値を認識した方がよろしいわ」
「私の存在価値は微塵ほどもありません」
よく言うわ……その刹那、高笑いをしてみせる罪人・氷翠。
「ならば、教えて差し上げましょう。あなたは皇帝陛下自らが召し上げた後宮妃でしょう?」
――正確に言えば、私が自ら望んだのですが……。
内心ではつっこみを入れる宝玉。
「あなたのことは次期皇后ともまで聞かされた以上、私が助かる道はなきに等しいわ。皇后に望まれる後宮妃が、まさか侍女の姿で過ごしていると誰が思うの? まんまと騙されたわ」
「ですが、実際に今の私は麗香お姉様付きの侍女ですから……」
まあ、いいわ……と先を続ける。
「その後宮妃に対し、不敬行為を犯した者が赦されるはずがありません。帝家への叛意ありと見なされ、裁かれることになるのは当然の成り行きだと誰でも分かることよ」
すでに近衛兵からは、林家の当主夫妻への裁きと末路を伝え聞く罪人・氷翠は、己の運命も同じだと悟っている。
「私への罪状が覆ることはないわ」
「それならば……私が覆します。皇帝陛下からは『おまえの采配に任せる』と仰せつかっておりますので……それに嫌なのです」
――采配を任せるとは……皇帝陛下は、それほどにこの娘に心を許し、寵愛している。
即ち、始まる前から勝敗は決まっていたといえる。
「何が嫌だというのかしら?」
宝玉は隣で涙を貯める宮女・美玉を視界に捉えながらハッキリと告げる。
「大好きな美玉ちゃんが泣くのも嫌です。それに、心から後悔している“二の妃”様が命を落とすのも見たくはありません。本当に裁かれるべき人が既に罪を贖った以上……あなた様が命を差し出す必要はないと思います。美玉ちゃんから聞きましたが、あなた方姉妹は間違えただけなのです。間違えたのならやり直せばいいのです」
そして宝玉は続ける。
実は宮女・美玉も母・美玲が作った鴛鴦の手巾を持っていることを……母・美玲が義姉・氷翠にも贈っていることを教えてくれたのだ。
だから、宮女・美玉は宝玉へと言ったのだ。
『今でもお義姉様が大切に持っていると願わずにはいられません。それに賭けてみたいと思います。もしかしたらですが……私たち義姉妹はやり直せるかもしれません』
そして宮女・美玉は聞いたのだ。
義姉・氷翠の心からの告白と懺悔を耳にした。
その瞬間、母・美玲が過去に告げた言葉が、宮女・美玉の脳裏にはまざまざと蘇る。
『半分でも血が繋がっているのだから、誰が何を言おうとも私たちは家族だわ。氷翠様は美玉には唯一人のお姉様なのよ。本当は優しい方なのよ。ねぇ、美玉……雪が春になれば溶けるように、きっといつかあなたたち義姉妹にも春は訪れるわ。母様がそう願っていることを忘れないで……』
「そう……そのようなことを……お優しい美玲様らしいわ。私の大好きな美玲様……」
そしてポロポロと涙を流す罪人・氷翠。
頭を地面へと擦り付け、ふっ、うぅ……と嗚咽を始める。
そして初めて人前で号泣を見せたのだ。
◇
のちに、宝玉は罪人・氷翠の号泣する姿を思い出し、彼女の弱さを垣間見たことについて、こう語っている。
「氷翠様は……まるで幼な子のようでした。その姿を見ていると……とても胸が締め付けられました。宝玉は心が痛かったです」
皇帝・王炫からの返答は「おまえこそ、まだまだ幼な子のようではないか? 色恋に疎いにも程がある」と苦言を呈される。
ぐうの音も出ない宝玉。
それはさておき。
宝玉は罪人・氷翠へと、最後にこのように言葉をかけている。
「“二の妃“様、過去に戻ることはできません。ですが、未来に進むことはできます。その未来を新たに始めればいいのです。新たに本当の義姉妹として……家族として始めればいいのです」
宝玉の言葉に何度もうなずく罪人・氷翠がいる。
「……ありがとうございます……」
小さな声で感謝の意を表した罪人・氷翠の瞳には、もはや翳りは見当たらない。澄んでいた。
◇
その後。
罪人・氷翠は罪を許され、退宮し、今では心を入れ替え、人生の再出発を果たしている。
自ら望んで市井へと下り、ただの町娘として生きることを選んだ元後宮妃・“二の妃”。
それというのも、「炫様に一生のお願いがあります」と宝玉からの立っての願いで皇帝・王炫が動いたのだ。
「おまえは一生の願いが一生ありそうだな?」
「炫様……笑えませんね。戯言はよしてください」
後にも先にも大国の皇帝・王炫を動かせるのは、彼の最後の後宮妃・宝玉ぐらいだろう。
林家により店仕舞いに追い込まれた商家は名誉を挽回され、そこへと三男の嫁として輿入れした氷翠。
高慢であったかつての自分を恥じ、林家の当主夫妻がしたであろう仕打ちを心から詫び、悔いる意味でも自らの長い髪さえ切り落としたのだ。
優しい商家の人々が恨むはずもない。
「お嬢様のせいではありません。運が悪かっただけのことです。今では店も再興し、終わり良ければ全て良しではありませんか……しかも、お嬢様のような器量良しの方が、息子の元へとお嫁に来てくださり、我が家は春爛漫です」
やがて子宝にも恵まれる氷翠。
今では義妹・美玉とも仲直りをし、手紙のやり取りをするまでに仲を深め、本当の家族としての関係を築いている。
◇
余談。
「炫様もお人が悪いです。そもそも今の私は侍女です。皇后ではありません。不敬罪に問うほうがおかしいのです。こうして指輪も見つかったではありませんか? それにもかかわらず、命まで奪い取るのは鬼畜の所業です。宝玉の目覚めが悪くなります」
「宝玉、おまえは何もわかっていないのだな? おまえは今や余のれっきとした後宮妃。しかも、その指輪には深い意味があるのだぞ。良いか、宝玉? その指輪は……」
「そんなことより炫様! 宝玉はお腹が空きました」
案の定、「ぐーきゅるきゅる……!」と腹の虫が鳴いている宝玉。鳴いているというよりは、騒いでいると言ったほうが正しい。
「おまえらしい……」
小さく吐息を吐きながらも皇帝・王炫が手を叩けば、豪華な食事の数々が運び込まれる。
今では『恩人の優しい武人のお兄さん』と判明した皇帝・王炫に心を許す宝玉。
一日おきに〈帝宮〉と〈温宮〉を行き来し、今も皇帝・王炫の膝に乗せられ、見事なまでに餌付けされている有り様だ。
「ひゃー! 見ていられません!」
そういう近衛の李暁明も大概。
一目惚れした宮女・美玉を口説く毎日だが、「私は宝玉様命です!」と袖にされている感が否めない。
◇
さて。
宝玉の野菜を踏み付けた愚かな侍女の末路だが、彼女は常に主人の威光を傘に着て、元々横暴だったことが判明。
「反省もしない。食べ物のありがたみもわからない人は、この〈後宮〉には相応しくありません」
宝玉の鶴の一言により、着の身着のまま〈後宮〉から追い出された侍女は「ちくしょう!」と暴言まで吐く有り様。
ここまで来ると救いようがない。
身寄りのない侍女だけに、物乞いになって初めて物のありがたみを知る。「食べられること」の大切さをようやく身に染みる。
だが、今さら誰も助けてはくれない。
もはや、後の祭り。
その後は行方知れずに……。
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