田舎娘は後宮妃になりました。

ゆきむらさり

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後宮妃・一の妃編

44.皇帝の寵妃と禁色

 この程、皇帝・王炫は後宮妃・“二の妃”の騒動の件もあり、自らが寵愛する後宮妃・宝玉の存在を明らかにした。

 他の後宮妃たちへは宦官を通じて文書で通達。

『余の寵妃・宝玉を傷つける者があれば、を受けることになる』

 皇帝の玉璽ぎょく(※正統な帝権を示す印)まで押印されているとなれば、皇帝・王炫の本気も窺える。

 後宮妃の中から初めて『寵妃』と呼べる者が出たのだ。

 これには「羨ましい」と思いながらも、本音を言えば「小憎たらしい」との思いにも駆られる後宮妃たち。

 だが、それを表立って見せることはしない。

 後宮妃・“二の妃”が投獄された経緯も知る以上、下手に騒げば皇帝・王炫は文書に示した通り、報復に出ることは必至。

 大人しくしているほうが身のためと息を潜め、これまでと変わらない〈後宮〉暮らしを送るのだ。


 ◇

 
 皇帝・王炫のために用意された後宮妃の全ては、彼が望んだわけではない。ほとんどが周囲のお膳立てであり、加え、臣下たちの欲望の成せる技。

 皇帝・王炫が望んでもいない、一方的な後宮妃の押し付けは、ただ弊害をもたらすだけで、臣下が望むような結果にはならず、後宮妃たちも相手にはされない。

 そして、相手にされないまま今日に至る。

 おかげで新たな後宮妃が皇帝・王炫の寵愛を得ていることに驚きながらも「晴天の霹靂」とはならない。

 〈後宮〉の主たる後宮妃ゆえに、すでに宦官や侍女たちからは色々な情報を仕入れている。

 もはや、今更な話なのだ。


 ◇


 こうして皇帝・王炫の「寵妃発言」により、宝玉の侍女生活も終わりを告げることになった。それにより、宝玉は後宮妃・麗香付きの侍女から、後宮妃・宝玉として身分を確立した。

「そういうわけだから……」

「どういうわけですか、麗香お姉様? それにこのド派手な衣装は何ですか? いったい何枚重ね着をすれば気が済むのですか? 非常に重たいのですが……これでは畑仕事ができません」

「そうは言われますが宝玉様……とてもよくお似合いです! 仙女のようにお美しいですわ」

 ほうっと感嘆する宮女・美玉。着付けを手伝っているのだ。

 小間使いの小鈴も「綺麗! 綺麗!」と飛び跳ねる。

 女官長は感慨深い様子で後宮妃・宝玉を見つめる。

 ――寵妃たる宝玉様が、皇帝陛下の御子を身籠られる日が待ち遠しい。

 切実に世継ぎを待ち望む女官長。そんな彼女の切実な想いを、宝玉は知ってか知らずか、不満を漏らす。

「侍女の衣装の方が身軽で動きやすかったのに……」

「まぁ、素敵ね! よく似合うわ、宝玉ちゃん! 炫も思い切ったわね? 黄金色の衣装を中に着せるなんて……ふふっ、すでに先を見越しているのね。これなら周囲への牽制にもなるわ」

「どうしてでしょうか?」

 色々と勉強にも勤しむ宝玉なだけに、黄金色の衣装の持つ意味は知っている。ただ、「まさか……それはあり得ないでしょう」と冗談だと事実には蓋をする。

 皇帝・王炫が「恩人の武人のお兄さん」だとわかってからは、ずっと会いたかったこともあり、少し意識するようになった宝玉がいることは確か。

 しかも、共寝までするようになったのだ。

 美貌の皇帝・王炫だけに、起き抜けの姿は艶っぽい。その皇帝・王炫のしどけなさと、妙な色香にあてられる宝玉がいる。

 実は内心ではドキドキなのだ。

 ーーそんなこと言えないよ。恥ずかしいもん!

 初心な宝玉には、それが恋心の芽生えだとは分からない。

 「宝玉……おまえは鈍いにもほどがある」

 そう皇帝・王炫がぼやくのも仕方がない。

 方や、まるで百面相のようにコロコロと表情を変える宝玉に、「あらあら……」と嬉しそうな後宮妃・麗香は笑い声を立てる。


 ◇


 黄金色の衣装は“禁色”。

 「皇帝位を戴く者」と「皇后位を拝命する者」のみが着用を許される色。その“禁色”を中に忍ばせるように着用させるからには、宝玉が「次代の皇后」であることを仄めかしているようなもの。

「一層のこと初夜を済ませてしまえば良いのに……今では二人で共寝もしている仲なのよ」

公主ひめ様……皇帝陛下にもお考えがあるのでしょう。ですが、私もそうなっても良いとは思います」

 やはり、世継ぎを待ち望む女官長なだけに本音がぽろり。

 賑やかな〈皇后宮〉。

 
 そこへ、取り次ぎを願い出る侍女が現れる。

「畏れ多くも皇帝陛下の寵妃様にご挨拶を申し上げたく、お取り次ぎをお願いいたします」

 後宮妃・宝玉へと挨拶伺いに訪れる者がいる。

 後宮妃・“一の妃”だ。
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