裏切られた王妃は王宮に舞い戻る

ゆきむらさり

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本編

7.正夢と蘇る魂 王妃said

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 ーーー夢を見ていた。

 何もない空間に立つ私。

 よく見れば、視線の先には光の玉が浮いている。今にも消そうな鈍い輝きを放っている。

 ーーーあれは……いったい、何?

 一概にも「美しい……」とは言えない光の玉は、みるみると黒く染まり始める。しまいに全てを闇で覆ったような真っ黒な玉となり、永遠に全ての輝きは失われる。

 次の瞬間、パーーーッン!!

 大きな音を立て、真っ黒に変色した光の玉は粉々に砕け散ってしまう。同時に、誰かの絶叫に苦しむ悲鳴が響き、咄嗟に耳を覆う私。

 誰か、ではなく……。

 ーーー先ほどの悲鳴は妹クリスタ?

 真っ黒に染まった光の玉とともに消えた妹クリスタの声。

 入れ替わるように現れたのは、美しい輝きを放つ光の玉。吸い寄せられるように輝く光の玉へと手を伸ばせば、ソレは私の中へと吸い込まれていく。

 ーーー温かい。とても温かいわ。

 
 夢はここまで……それきり、その夢を見ることはなかった。


 ◇


 夢から目覚めた私は、ゆっくりと瞼を開ける。

 朧げながらも見知らぬ天井が視界に入る。背中に感じる柔らかな敷布から寝台の上にいることがわかる。

 ーーー眠っていたのね?

 ここは、いったい……。

 戸惑う私。ちょうど寝台を覆う天蓋が開かれる。待ち構えたように侍女が声を掛ける。

「お目覚めでございますか、殿?」

「……王弟妃殿下? あなたは何を言っているの?」

 ーーー私はよ。

 その言葉を口にする前に「王妃」という言葉を咄嗟に呑み込む私。何故か躊躇われる。

「……まさかっ?!」

 そして一気に目が覚めた私は、寝台から転げる落ちるように姿見鏡の前へと倒れ込む。

 鏡に映るのは紛れもなく美貌の妹クリスタ。

 「では、あの夢に現れた光の玉は……まさかっ?!」

 ーーー魂?

 それは私が亡くなったことを意味している。しかも遅効性の毒まで盛られ、殺された私。

 ーーー思い出した。

 身を切られるような辛い現実を受け止めなければならない。

「嗚呼っ……どうしてっ!」

 両手で顔を覆う。自然と涙が溢れ出し、頬を伝ってはポタポタ、ポタポタと零れ落ちる。

 心配そうに見つめる侍女もいれば、心許ない王弟妃クリスタの意外な姿に驚愕する侍女もいる。

 いつもとは様子の違うに戸惑いを隠せない侍女は、すぐに王弟レナルドの元へと助けを求めに走る。


 ◇


 後になって知った私。

 オズワルド王国に古くから伝わる伝承。

 時として、伝承には真実が隠されていることもある。それは奇跡さえもたらす可能性も秘めている。

 無垢な魂が無慈悲にも散った時、縁もゆかりもある者が心から希えば、悪い魂は滅び去り、無垢で善良な魂を取り戻せるとか……。

 『魂の入れ替え』又は『生まれ変わり』や『再生』

 ただの伝承だと思っていた私。

 私の魂の転生を心から願った人がいたということ。逆に、妹クリスタは許し難い罪を犯したのだ。

 ーーーだから、あれはただの夢ではなく正夢。

 
 砕け散った真っ暗な玉は妹クリスタの魂。

 美しい光の玉は私の魂。

 妹クリスタの魂が砕け散り、空となった器の中へと蘇る私。

 
 ーーーきっと、その事に意味はあるはず。
















 
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