義妹ビッチと異世界召喚

Merle

文字の大きさ
80 / 150
3章

44-2. 騎士との遭遇 ロイド

しおりを挟む
 最初に騎士たちの接近に気づいたのは、ギルバートが来た日の翌日朝方、周辺の警戒をしていた忍者たちだった。
 騎士たちが帰ったとの報告を受けるまでは遠出しないように、とゴブリンたちに伝えてあったが、忍者たちは周辺の警戒を止めなかった。森に隠れ潜んで行動する彼らが気づかれることはないだろうと高を括っていたのは認める。それに、もしも何らかの手段で見つかってしまったときは、洞窟ではない方向へ逃げて撒くように言ってあった。
 実際、近づいてきた五名の騎士が、彼らを目視で捉えている忍者たちに気づいている様子はなかったという。それなのに、彼らはまるで道が分かっているかのように、村から洞窟へと通じている道なき道をまっすぐに進んでくるのだという。

「魔術か、これ。やっぱり、そういうのがあるのか!」

 忍者たちが入れ替わりで持ってくる報告の中に、彼らが何らかの道具を使っている様子はないけれど、先頭に立って歩く騎士がときどき立ち止まっては妙な素振りをしている――というのがあった。そのというのが、魔術を使うための詠唱スペルとか印契シジルとか、そういうやつなのだろう。
 とにかく、騎士たちは着々とこちらに近づきつつある。

 俺たちは洞窟に隠れることにした。
 洞窟前の広場に広げてあった敷物や椅子などは洞窟内に運び入れ、竈などの動かせないものは勿体ないけれど崩した上で、広場一帯に土砂や枝葉をばらまいて、ただの荒れ地に見えるよう偽装工作をする。できるなら洞窟の出入り口にも偽装を施したかったのだけど、なまじ大きく口を開けているために、不自然さを出さずに隠すことは不可能だった。普段は大柄な戦士たちも悠々通れる広さと高さであることに感謝していたけれど、こんなときばかりは恨めしい。

「ばれるかな? ……ばれるかな」

 最初のは疑問で、次のは確認だ。付加疑問文だ。

「ばれると思っているのなら、森の中に散らばって隠れたほうが良かったんじゃないですかねぇ?」

 有瓜が不服げに言ってくる。
 森の中で警戒網を敷いている忍者たち以外のゴブリンも全員が洞窟内に入っているので、なんとなく暑苦しい。満員電車を思い出す。有瓜が不愉快そうなのは、そのせいだろう。
 といっても、この洞窟は奥行きがあるし、奥まで行ってしまえば大広間になっている。それなのに満員電車状態なのは、みんな洞窟の外が気になるせいで奥まで行かずに溜まっているせいだった。つまり自業自得だった。

「ねえ、義兄さん。やっぱり、いまからでも外に出て隠れ直しません?」
「手遅れだ。いまからじゃ鉢合わせするかもしれない」
「じゃあ、もっと奥に行きましょうよ。というか、奥に行きます!」

 有瓜は宣言すると、洞窟の奥へと歩いていく。ゴブリンたちもすぐさま、それを追いかけた。

「あっ、わっわっ!?」
「姐さんたち、ゆっくりで頼みます!」

 俺たちの中でアンとシャーリーだけは暗視能力がないため、それぞれ戦士にお姫様抱っこされている。なので暗闇の中を動いて転んだりすることはないのだけど、ただ運ばれているだけでもかなり怖いみたいだ。あまり騒ぐべきではないと分かっているはずだろうに、それでも声を出して互いが近くにいることを確認し合わずにはいられないのだろう。
 そんなこんなで、俺たちは洞窟最深部の広間へと入った。壁、床、天井の材質が洞窟内とは一変している、明らかに人の手が入っていると分かる大広間だ。ここまで来てしまうと、洞窟外の状況を把握するのは完全に不可能になる。何事もなく騎士たちが帰っていったのなら、それを確認した忍者がここまで来て報告してくれるはずだ。俺たちはここでじっと、その報告が届けられるのを待てばいい。

 ――だけど、そう思い通りに物事は運んでくれないのだ。
 洞窟奥の祭壇とも呼んでいる広場に着いて間もなく、入り口のほうから明りが近づいてきた。微妙に揺らめくそれは、松明の明りだった。

「入ってきたんだ……」

 アンの呟きが耳に入る。それくらい、俺たちは息を潜めていた。だけど、松明の明りが引き返す素振りはない。このまま確実に、広間で見つかるだろう。

 ……やるしかないか。
 俺は予め決めていたサインを手振りで示して、全員に指示を出した。戦士たちは広間の奥側で待機して、忍者たちは音もなく左右に散開する。
 松明の光と足音、それに押し殺してはいるけれど数名の話し声が届くようになる。そのすぐ後、松明を掲げる人影が広間の入り口に姿を現した。

 ――まだだ。
 仕掛けるのは、彼らが広間の中央まで入ってきてからだ。

「おぉ……」
「なんだ、ここは……」

 そんな声が聞こえてきて、松明の火が左右に大きく動かされる。
 この広間は松明数本で照らしきれるほど狭くはないから、普通なら壁際に身を潜めた忍者たちが照らし出されることはない。だが、彼らは何らかの超常的な手段でこの洞窟にやって来た。そうである以上、明りが届かないからと言って油断はできない――これ以上、後手に回るべきではない。
 広間の奥で戦士たちと一緒に息を殺していた俺は、鞘に入ったままの剣を右手で振りかぶって、左手の盾に勢いよく叩きつけた。

 ガァン、と鉄同士がぶつかる甲高い音が広間に響く。

「なんだ!?」
「敵だ!」

 動揺する騎士たちのうち、先頭に立っていた一人がすぐさま吠えて、正面に立つ俺たちのほうに松明を向けてきた。俺と戦士たちは隠れることなく、その火が照らす中に姿を晒した。

「うっ、うわ! なんだ、この化物は!?」
「ゴブリンなのではなかったのか!?」

 騎士たちが戦士ゴブリンを見て、口々に叫んでいる。暗くとも見える俺の目には、騎士たちが恐怖漫画の登場人物よろしく両目を丸々と見開かせた形相で驚愕している顔がはっきりと見えていた。
 騎士たちの驚きようを見て、そういえばそうだった、と俺は苦笑してしまう。
 もうすっかり馴染んでいて気にすることもなくなっていたけれど、ゴブリンは元々、俺や有瓜よりも小柄だった。戦士たちは、ゴブリンの中では大柄だったけれど、それでもいま驚いている騎士たちに比べれば、頭の位置は一回り以上低かった。
 ところが、いまの戦士ゴブリンたちの上背と肉付きは、驚いている騎士たちと同じか、あるいは一回りほども上回っている。松明しか明りのないところで出会ってしまえば、ゴブリンだと思えないのも当然だった。

「話が違うぞ、ラヴィニエ!」
「だから、私は言ったではないか! ゴブリンのようだがおかしい、と。それを無視したのはどちらだ!?」
「あれのどこが、ゴブリンなのだ! 人より大きなゴブリンがいるか!」

 この状況下で責任の押しつけ合いをしている豪胆な騎士たちに、俺たちは剣や棍棒を構えて躙り寄っていく。

「くっ……言い合いは後だ! 全員、逃げるぞ!」

 先ほどラヴィニエと呼ばれていた、松明のひとつを持って先頭に立っていた騎士が号令を出す。言い合いの様子からして他の騎士とも同格の立場のようだったが、他の騎士たちもこの号令に異論を唱える者はなく、すぐに後退りを始める。さすがにいきなり背を向けるような無様は晒さなかったけれど、どちらにせよ、もう遅い。
 先頭の騎士と、逃げ腰になっていたもう一人の騎士が持っていた松明二本が、同時にふっと火を消した。
 神官ゴブリンの魔術だ。戦士や忍者が身体能力を上げているのと同じように、神官も魔術の技量や出力を上げていた。さらには、この世界でも物理法則は地球と通じているようで、俺が教えた自然科学の知識を利用することで、魔術の応用力は飛躍的に上がっていた。高校レベルの知識でも馬鹿にできないものだ。
 火を消した方法は、松明の火の周りから空気を移動させて真空にしただけだ。現代知識チートというほどのことでもないけれど、騎士たちを混乱させるのには十分だった。

「なんだ!?」
「みっ、見えない……うわぁ!!」

 光源を失った騎士たちの悲鳴が、広間の壁や高い天井に響く。

「狼狽えるな! すぐに明りを出す!」

 暗闇の中、先頭に立っていた騎士が消えた松明を投げ捨てながら叫ぶ。そして、胸の前で両手を握って動きを止める。それは、神官が魔術を使うときの仕草とよく似ていた。

 ――魔術で光を作るつもりか!?

 一瞬、ひやりとしたけれど、それも杞憂に終わった。
 神官が松明の火を消したのと同時に動き出した忍者たちが、騎士たちの左右から速やかに襲いかかり、棍棒で臑を打って蹲ったところを、あるいは膝を裏から叩いて転ばせたところを頭部へ一撃して抵抗力を奪っていった。
 頭部への一撃で意識を失った者も、朦朧としただけで済んだ者も、どちらもお構いなしに、丈夫な蔦で編んだ縄を使って縛り上げていく。
 ちなみにこの縄、有瓜がなぜか欲しがって、ゴブリンたちが何本も撚ったものだ。騎士たちを後ろ手に縛っていく手際の良さも、これまた有瓜がなぜか知っていた縛り方を、ゴブリンたちが情熱的な学習意欲で学び取っていたからだった。
 五分の条件で戦った場合、騎士というのがどれだけ強いのかは知らないけれど、暗闇の中では戦いとも呼べないほど一方的な展開になった。俺と一緒に控えていた戦士たちは出番がなかったこと、不服げに鼻息を鳴らしていた。

「くっ……貴様たち、ゴブリンではないな!?」

 おそらく魔術の明りを作ろうとしていたのだろう騎士が、後ろ手に縛れて寝かされた姿勢で、朦朧とした頭を振りつつ吠える。俺たちに言っているのだろうが、暗さのために視線は辺りを空しく彷徨っている。
 だがそんなことよりも、殴られた弾みで脱げた兜の内から露わになった顔と髪に、俺は目を奪われていた。

 兜から露わになった、ショートカットながらもさらさらの金髪と、繊細な目鼻立ち。
 中性的な美青年と言われたら、そう思ったかもしれない。だけど、俺はこいつの声を――声変わり前の少年みたいな声だなと思っていた声を、聞いていた。だから、分かってしまった。

 こいつは女だ、と。
 女騎士だ、と。
 ゴブリンの住処で捕えられた女騎士だ、と。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...