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4章
63-2. 偽りの巫女 ロイド
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背後から、ちゃぷり、と水音がする。
俺はいま、なだらかな山間にひっそりと掘られたような泉の傍で、そちらに背中を向けて座っていた。
繁茂する木々に囲まれた十畳間くらいの小さな泉で、水質は澄んでいた。ということは水の流れがあるわけだから、たぶん伏流水の一部が地表に顔を出しているとか、そんな感じなのだろう。俺たちが普段お世話になっている川とも、地下で関係しているのかもしれない。まあ、想像でしかないが。
「……迷惑かけたわ」
茂みを挟んだ背中の向こう――泉のほうからルピスが声を掛けてきた。彼女はいま、水浴びをしているところだった。
なお、俺も後で水浴びさせてもらうつもりなので、背中が濡れてしまった上着を先に脱いでいた。
「迷惑? 役得の間違いかな」
「馬鹿!」
――ふむ。
背中越しに、肌を水滴で飾っただけの全裸であろう可愛い子から恥じらい混じりの罵声をかけられる――。
「悪くないな」
「は?」
「いや、こっちの話。それより、俺もそろそろ水浴びをさせてもらいたいんだけど」
「あら、それならべつに、とっくに入ってきていてもよかったのだけど」
「えっ、なんだよ。先に言ってくれよ」
ルピスはいつの間にか水浴びを終わらせ、着替えまで済ませていたらしい。それならもっと早く言っておいて欲しかった……と思いながら立ち上がって振り返り、腰の高さの茂みを乗り越え――ようとして、時が止まった。
ルピスが一糸まとわぬ姿で立っていた。高い位置でお団子ふたつにまとめられた髪も解かれていて、そのくすんだ銀色が背中のほうに下ろされていた。
胸がわりとあった……いやいや、そうじゃない。そこじゃない。いや、そこは大事だけど、大事なことはもっと他にあって、つまり――
「――なんで裸!?」
「水浴びをしていたからです」
淡々と返された。
「そ――」
そういうことじゃないだろ、と言い返そうとして視線を上げたら、ルピスは顔を真っ赤にしていた。運良く声が震えなかっただけで、ルピスも十分に動揺していたようだった。
「って、そうじゃなく! 着て、服、早く!」
「無理よ。服も洗ってしまったから」
慌てて首を背けながら捲し立てても、返ってきたのはまたしても淡泊な声音。
「いや、なんで洗うんだ。ああ、いや、洗うか……って、洗う必要があるのはズボンだけだろ。上着だけでも着られるだろ」
「大丈夫よ、上着も洗ってしまったから」
「何が大丈夫!?」
叫んだついでに向き直ったら、ルピスの全裸が視界いっぱいに飛び込んでくる。で、また思わず首を真横に逸らす。
俺は女性の裸なんてとっくに見慣れたつもりでいたけれど、案外そうでもなかったらしい。いまさら、ただちょっと初対面の可愛い子の水浴び直後の輝くような濡れた裸体を正面一メートルほどの距離で直視しただけで心臓がこんなにもバクバク鳴るなんて。
「従者様」
「うん……なんだよ」
横向きからさらにぐるりと背中向きになりつつ、答える。
「こっちを向いて」
「いや、向かないよ」
「いいから――お願い」
ルピスの声には切実な響きがあった。少なくとも、俺をからかうために言っているわけではないようだ。だから、俺は恐る恐る、彼女のほうに向き直った。
「え……ドラゴン……」
ルピスはこちらに背を向けて立っていた。長い銀髪は右肩から胸のほうに流されていて、頸部から臀部にかけての背中全部がよく見えていた。そこに、ドラゴンがいた。正確に言うなら、ルピスの背中には竜の形をした巨大な痣が刻まれていた。皺を作りながら歪に盛り上がった皮膚の内側に、赤黒い染料で刺青したようだった。
長い尻尾、膨れた胴体、長い首、厳つい角を生やした頭部、そして蝙蝠のような翼を具えた姿は、東洋的な蛇に似た竜ではなく、西洋的な竜――即ち、今し方、鼻先一メートルの距離で見てきた竜とよく似た形をしている。
赤黒い竜はルピスの背中で大きく翼を広げ、右肩に向かって威嚇するように顎を開け、長い尻尾を左の太腿に絡みつかせていた。
「……五歳の時、カーテンに巻かれて遊んでいたの。どうしてそんなことをして遊んでいたのかは覚えていないわ。火の気なんてなかったと思うのに、気がついたら……燃えていたわ」
ルピスは背を向けたまま語り始める。俺は黙って耳を傾ける。
「確か、足下のほうからだったわ。身体に巻いていた布が見る見るうちに燃えていくの。わたしは怖くて動けなかった。足が竦んで逃げられないのに、なぜか頽れることもできなくて、ただ立ち尽くしていたわ。ただ……立ったまま、燃えていたの……」
どうしてそうなったのかは覚えていないのだという。燃える布に巻きつかれたという恐怖と痛みが強すぎたせいで、前後の事情が記憶から飛んでしまったのだと思う――ルピスはそう言い足して、目を伏せた。
「召使いとか、周りに誰もいなかったのか? ほら、女王様……ああ、その当時はお姫様か。とにかく、一人で放っておかれる身分じゃなかったんだろ」
「……使用人なり乳母なりが近くにいたはずよ。でも、私が火に包まれたことで動転したのでしょうね。火を消すよりも先に、人を呼びに行ってしまったのだと思うわ。もっとも、記憶が曖昧だから、乳母の目を盗んで最初から一人で火遊びしていたのかもしれないけれど」
「理由はともかく、そのときの火傷の痕がそれってことか」
「ええ、そうよ」
ルピスは後ろ姿のまま、自分の背中を見下ろすようにして頷き、自嘲する。
「神の悪戯というのかしらね……見ての通り、火傷の痕はまるで竜が翼を広げているかのような形になったわ。そのせいで、わたしは竜の巫女なんて呼ばれるようになったのよ。……竜の巫女などと、そんなものが過去に存在していたという記録はどこにもなかったわ。皆は一体、どういうものだと思って竜の巫女なんて言葉を口にしていたのかしらね」
ルピスは肩を揺らして嗤笑した。
火傷が竜の形になったことをただの偶然なのだとするならば、幼いルピスが火傷したことの責任を、いかなるときもルピスの傍に侍っていなければならないはずの乳母や使用人が取らなければならなくなる。
だが、この火傷が、ルピスが竜の巫女に選ばれたことの徴であるとしたらどうか? ――その場合、誰かが責任を取るような話ではなくなる。
だから、そういうことになった。責任を取らされるかもしれないと思った誰もが、口裏を合わせる必要すらなく、「これは間違いなく竜の徴です。吉兆です!」と声高に言い立てた。また、「そんなわけない。それはただの醜い火傷痕だ」と言うことは姫を侮辱することになってしまう。そのために結局、ルピスは「五歳の時に竜の徴を得た巫女」として育ってきたのだった。
「つまり、お姫様は裸でした、ってことか」
俺も皮肉を口にして少し笑った。
処罰を恐れて「王様は裸です」と誰も指摘しなかったように、「お姫様は火傷です」と指摘する者がいなかったというわけだ。
……我ながら上手いことを言ったと思ったのだけど、なぜかルピスから肩越しに睨まれた。
「確かに今、裸ですが……それを今、敢えて今更、指摘した意味とは?」
「あ……いや、そういう意味で言ったつもりじゃなくて、比喩とか引喩とかそういうやつで――」
「どんな意味?」
「いや、まあ……腫れ物扱いされていたんだなぁ、と」
「腫れ物……」
「あ、腫れ物扱いって言わない?」
「いえ、言います。言いますよ。言いますけれど、面と向かって言われたことはなかったので胸が痛んでいるだけですよ」
「……ごめん」
なんにせよ女性に言うことではなかった、と反省して俯いた俺の頭を、軽やかな笑い声が撫でる。
「誰か一人でも、そうやって正面から言ってくれる者がいたら、こんなことになっていなかったのでしょうね。でも……現実は、こう」
ルピスは竜の巫女という実体のない肩書きを押しつけられた末に、王太子と王が相次いで急逝したことで降って湧いた後継者争いに御輿として担ぎ出された。だけど、後継者としての地固めをしてこなかった彼女では、急逝した王太子の陣営を取り仕切ってきた叔父(伯父? どちらにせよ、実際には兄か)に勝てるわけがなかった。
そもそも、この世界の王様や女王様というのは、王家という巫覡家系の当主を指す。当主は自分以下の一族に対して巫術の使用許可を自在に切り替えることができるから、その座が王甥アードラーの手に転がり込んだ時点で、もう勝負はついている話だった。ルピスの武器は背中に負った竜の徴だけで、そんなものは王統巫術の絶対的必要性と比べたら芥も同然だったのだから。
かくして後継者争いに負けたルピスは「竜の巫女を名乗って人心を乱した罪」を被せられて、処刑されることになった。
「殿下は竜に愛されし巫女に御座います――昨日までそう言っていた者が、その日から手の平を返して、わたしは騙されていたのだ。あれはただの醜く焼け爛れた火傷痕ではないか――口々にそう言うの。そんなの最初から知っていたくせに。竜の巫女なんて信じていなかったくせに」
「だけど、まだ信じているひともいるじゃないか」
笑いを吐き捨てるルピスに、俺はついつい反論めいたことを言ったけれど、皮肉にしかならない言葉だ。
「そうね、ええそう。フッカーたちはまだ信じているわ。だって、今更事実を受け入れても戻れる場所がないもの。フッカーたちはこの火傷痕が特別なものだと信じているのではないわ。信じているのだと、自分を騙しているだけよ」
それはその通りだろうな。
フッカー卿とか呼ばれていた、あの爺さん。あの御仁はさすがにやり過ぎだった。あそこまで芝居がかった言動をされてしまったら、自分の役どころに酔っているのがバレバレだ。で、そんな自分大好き劇場を押しつけるように見せられたこっちは辟易だ。
「……でも、それでもきみは、あの爺さんたちと一緒にいる」
辟易しているのはルピスも同じだ。それはいまの話を聞くまでもなく、最初に見たときから感じていたことだ。それなのに、ルピスはどうして彼らと行動を共にしているのか……?
「だって、他に居場所なんてなかったもの」
諦めと皮肉を込めた自嘲だった。さっきからそんな笑いばかりを見せられているな。
……と思ったら、ルピスはふわりと花が綻ぶように破顔した。
「ふふっ、どうして従者様がそんな顔するのよ」
「そんな話を聞かされたら、誰だってこんな顔するだろ」
「じゃあ、悪いのは私ね。ごめんなさい」
「いや、べつに……謝れと言ったわけじゃ……」
「……ふふっ」
言い負かされた気分で目を逸らしたら、また笑われた。でも、可愛い女子にそういう顔で笑われるのは全然、嫌な気分にならない。ご褒美です、というやつだ。
「でも本当に、ごめんなさい。急にこんな話を聞かせてしまって」
「いや……まぁ……」
返事に困った俺の、意味を為さない返答。ルピスは気にしたふうもなく、こちらに振り返った。
全裸だ。
身につけているものはなく、右肩から回り込むようにして下ろされた鈍い銀色の長髪が右側の乳房を隠しているだけだ。左側の膨らみは丸出しなので、否応なく俺の目はそこへ向いてしまう。
大きすぎず、然りとて小さすぎることもなく……俺の手の平にちょうどぎりぎり収まるか収まらないかの大きさだ。
「……!」
咄嗟に目を逸らそうとしたけれど、気持ちとは裏腹に、目線は粘るようにそこから離れてくれない。
目線を剥がそうとしたら、気持ちが二つに裂けた。見つめたい気持ちと、紳士でいたい気持ちとに分れて喧嘩を始める。それはほんの数秒程度のことだったけれど、膨らみの麓から桜色の頂に至るまでの全てが余すところなく俺の網膜に焼き付いてしまった。目を逸らした後も、その映像が目の奥にちらついて、心臓を小突いてくる。
女子の裸なんて散々見慣れたはずなのに、なんだこの為体は……。
「従者様……」
ルピスは小さく笑っていた。
「べつにいいのに。見せているのだから」
「えっ」
その言葉に目を瞠って振り返ったら、喉を鳴らして笑われた。
「ふふっ、可笑しいの。先ほどは剣を向けられても平然としていたのに……ふふっ、ひょっとして女の裸を見るのは初めてなのかしら?」
「い、いや、違う」
動揺しているせいで、うっかり正直に答えてしまった。途端、ルピスは驚いたように目を瞠り、次いで不機嫌そうに眉根を寄せる。
「そう……見たことがあるのね、女の裸を」
「え」
「さすがは竜の従者様でありますこと。きっと毎晩、裸の女を取っかえ引っかえなのでしょうねぇ」
「なんだそれ。ないぞ、そんなこと」
険のある言い草に、少しムッとしながら言い返す。
「言い訳は不要よ。殿方はそういう性だと、知っているわ。それに……」
ルピスは数秒前の不機嫌さを吹き消すように微笑すると、上目遣いに俺を見上げて言った。
「……それに、女が初めての場合は、女に慣れている男とのほうが、面倒が少なくて良い、とも」
「それは――」
誘っているのか、などと言葉にして問いかけるのは無理だった。気がつけば体温が上がっていて、その熱を逃がそうとして呼吸しているうちに、喉と唇が乾いてしまっていたせいだった。
全裸の美少女に上目遣いで囁かれている、という状況に俺は興奮していた。
確かに女性の裸には見慣れてしまっているけれど、そこには情緒もへったくれもない。ペットの犬猫が服を着ずにじゃれ合っているのを見ても特に何とも思わないのと同じだ。
でも、ルピスは違う。俺の中の「こいつらは裸でいるのが普通」というカテゴリに入っていない、とても普通な少女だ。初対面の男にいきなり全裸を見せていいカテゴリに属していない。
つまるところ――俺はとても興奮していた。
「女王――ルピス」
敢えて名前で言い直すことで、ルピスに俺を対等な相手として意識させる。
足下は既にズボンを捲り上げてた裸足になっていたから、そのまま泉に入っていく。ルピスに手が届くところまで近づくと彼女の肩に両手をまわして、少しだけ抱き寄せた。
ルピスは全裸で、俺も上半身は裸だから、服を着ているときよりもずっと、縮まる距離を強く感じる。
「あ……」
視線が近づく。身体を揺らされた反射で、ルピスの両目は瞼を閉じようとする。その隙を突いて、顔をさらに近づけていき、
「ん――」
口付けをした。
数秒ほど触れ合った唇と唇が、瑞々しい弾力の余韻を残して、そっと離れていく。
「従者様……」
「ロイドだ。あ、俺の名前な」
「ロイド……どこか変わった響き。らしいと言えば、らしいのかしら」
吐息のかかる距離だから、ルピスは潜めた声で微笑する。でも、俺は答えず、もう一度キスをする。会話よりもキスを、という意思表示だ。
「……うん」
ルピスは分ってくれた。一声だけ呟くと、目を閉じ、顎を上げて、唇を差し出してくれた。
「……」
微かな吐息だけが交わるなか、唇同士がまた触れ合う。でも、今度は唇だけでは終わらせない。ルピスをもっと引き寄せて、肌と肌とも触れ合わせる。水浴びをしたばかりの瑞々しい柔らかさが、俺の胸板にぎゅうと押しつけられて柔らかく拉げる。
あ……この感触をこうして味わっているだけで幸せになれる……。
胸と胸、唇と唇で触れ合う。背中を抱き締めている。息遣いが交わり、視線で睫を擽り合う。
声は出さない。目と目で語る。鼻先がこつんと挨拶をする。睫と睫が囁き合う。
「ん……」
どちらのものか分らない吐息。普段なら聞こえないほどのそれも、いまは鈴の音よりも蠱惑的に耳孔を転がり落ちてくる。
鼓膜がぞわりと心地好い。肌の内側を擽られている。それに、さっきからやけに唇が幸せを訴えていると思ったら、ずっとキスしていた。ルピスの唇はぷるぷるのゼリー、いやタピオカ? 寒天? とにかく甘さ控え目のデザートみたいだ。上唇をぷるんと啄み、下唇をぷるんと啄む。それから上唇を啄んで、そしたら下唇を啄んで……唇の裏側を満たす耽美な食感に、いつまでも啄んでいられる。というか、啄んでいたい。いや、啄む。
「っ、んっ……ッ……」
「は……ん、ぁ……」
どちらからともなく零れる吐息を啜り、リップ音を舐め取る。
ルピスの唇を余すところなく味わうために、舌も使う。啄んだ唇の裏側を、伸ばした舌先で舐る。粘膜のしっとり吸い付く舌触りと、歯列のカチンと鳴るような舌触り。唇の表裏を押してくる硬軟二種の感触に、ぞくっと甘い痺れが泡立つ。その痺れは舌先から舌根、顎へと落ちたところで延髄を蹴り上げて脳天に当たって弾け、意識の水面が官能で沸き立つ。
鼓膜の奥で、理性の溶ける味がした。
「っ……ルピ……ルピ、ぅ……」
「ロイ……っ、ど……ぉ……」
キスが忙しくて、お互いの名前を呼び合うこともできない。それだけがキスの、唯一の難点だ。でも、そんなことはどうでもいいか。どうでもいい。気持ちいい。どうでもいい。
ただ――唯々、キスが終わらない。
でも終わる。
頭蓋の内側で沸騰していた血と体温が一転、一気に下半身へ流入したからだ。
「んぁ――」
唇を離すなり、ルピスの唇から溢れた哀切が追い縋ってくる。
分っている。そんな声を出すな。俺だって切ない。すぐに戻るから! ――実際、俺は水面を蹴立ててズボンと下着を脱ぎ捨てるとすぐ、ルピスを今一度抱き締めて唇を奪った。
「ん、ぅ……あっ……熱いの、これ……」
俺に唇を食まれるルピスが、下腹部にぐいぐいと押しつけられている熱くて硬くて大きくて長いものに気づいたようだ。吐息を恥じらいに惑わせている。
だから、俺は男根をもっと押しつけてやった。ルピスの滑らかな腹に、ぐりぐり、と。それはもう、ぐりぐりぐりっ、と。
「え、あ、ぅ……ロイド、これ、ど、したら……?」
「どうしたらいいと思う?」
顔を真っ赤に茹だらせて上目遣いで訴えてこられたら、ついつい意地悪な言い方をしてしまう。
「……むぅ」
ぷにっと頬を膨らませた顔で睨まれた。
そんな可愛い顔を見せられたので、またキスしていた。
「あ、ん……ん、んんっ!? ロイド、お臍に……んぁ!」
俯いて唇を重ねたことで、ずれた肉棒の切っ先がずるっと滑って、ルピスの臍を擽ったらしい。彼女がびくっと身を捩るものだから、俺は彼女を引き寄せるみたいに強く抱き締めて逃げられなくする。
「っ……あ、あぁ!?」
ルピスが急に嬌声を上げるから、なんだと思ったら……彼女の背中にまわした俺の両手が、臀部の丸みをがしりと揉んでいた。というか、揉みしだいていた。
みっちりとした、乳房よりも弾力的な手応え。指が沈むのではなく、指を弾いてくる。小振りなのに生意気な尻だ。がしがし揉んで、お仕置きしなければ。
「あっ、あっ! お尻、やだっ……あ、ひんッ!?」
お尻をぎゅうっと掴んだら、ルピスは可愛い悲鳴を上げて、びくんっと跳ねる。その声も、その仕草も可愛いのだから、俺がもっと大胆に尻肉を鷲掴みにして、もっともっと可愛く鳴かせて身悶えさせたくなるのは仕方ないことなのだ。
「やっ、ひんッ……ん、ん、ロイド、ぉ……やだ、恥ずかし――んぅ」
可愛らしく尖らされた唇を、唇で塞ぐ。抗議の言葉を紡ごうとしていた舌も、口腔内に押し込んだ舌先で絡め取って黙らせた。
くちゅ、くちゃ……という粘着質な水音を鼓膜の内側で聞きながら、ルピスの柔らかな乳房に自身の胸板を押しつけ、下腹にいきり立った男根の裏側を擦りつける。両手では瑞々しい尻を鷲掴みにしていて、食い合うように繋がった唇の合わせ目からは混ざり合った唾液が彼女の顎を伝い落ちている。
「ルピス……」
「ん……」
唇を重ねたまま、名前を呟く。その微かな一言に込めた想いを、ルピスは正確に受け止めて、頷いてくれた。
そうして――山間の森に小さく開かれた泉に、俺とルピスが抱き合いながら水遊びする涼しげな音が小一時間ほど響いた。
ルピスは初めてだった。
全部終わった後で、先導役をしてくれていた忍者ゴブリンのことを思い出した。
彼は少し離れたところで火を熾して、俺とルピスの濡れた服を乾かしてくれていた。俺たちが互いのことに没頭している間、咳ひとつ立てずに空気を読んでくれていたのだった。
俺はいま、なだらかな山間にひっそりと掘られたような泉の傍で、そちらに背中を向けて座っていた。
繁茂する木々に囲まれた十畳間くらいの小さな泉で、水質は澄んでいた。ということは水の流れがあるわけだから、たぶん伏流水の一部が地表に顔を出しているとか、そんな感じなのだろう。俺たちが普段お世話になっている川とも、地下で関係しているのかもしれない。まあ、想像でしかないが。
「……迷惑かけたわ」
茂みを挟んだ背中の向こう――泉のほうからルピスが声を掛けてきた。彼女はいま、水浴びをしているところだった。
なお、俺も後で水浴びさせてもらうつもりなので、背中が濡れてしまった上着を先に脱いでいた。
「迷惑? 役得の間違いかな」
「馬鹿!」
――ふむ。
背中越しに、肌を水滴で飾っただけの全裸であろう可愛い子から恥じらい混じりの罵声をかけられる――。
「悪くないな」
「は?」
「いや、こっちの話。それより、俺もそろそろ水浴びをさせてもらいたいんだけど」
「あら、それならべつに、とっくに入ってきていてもよかったのだけど」
「えっ、なんだよ。先に言ってくれよ」
ルピスはいつの間にか水浴びを終わらせ、着替えまで済ませていたらしい。それならもっと早く言っておいて欲しかった……と思いながら立ち上がって振り返り、腰の高さの茂みを乗り越え――ようとして、時が止まった。
ルピスが一糸まとわぬ姿で立っていた。高い位置でお団子ふたつにまとめられた髪も解かれていて、そのくすんだ銀色が背中のほうに下ろされていた。
胸がわりとあった……いやいや、そうじゃない。そこじゃない。いや、そこは大事だけど、大事なことはもっと他にあって、つまり――
「――なんで裸!?」
「水浴びをしていたからです」
淡々と返された。
「そ――」
そういうことじゃないだろ、と言い返そうとして視線を上げたら、ルピスは顔を真っ赤にしていた。運良く声が震えなかっただけで、ルピスも十分に動揺していたようだった。
「って、そうじゃなく! 着て、服、早く!」
「無理よ。服も洗ってしまったから」
慌てて首を背けながら捲し立てても、返ってきたのはまたしても淡泊な声音。
「いや、なんで洗うんだ。ああ、いや、洗うか……って、洗う必要があるのはズボンだけだろ。上着だけでも着られるだろ」
「大丈夫よ、上着も洗ってしまったから」
「何が大丈夫!?」
叫んだついでに向き直ったら、ルピスの全裸が視界いっぱいに飛び込んでくる。で、また思わず首を真横に逸らす。
俺は女性の裸なんてとっくに見慣れたつもりでいたけれど、案外そうでもなかったらしい。いまさら、ただちょっと初対面の可愛い子の水浴び直後の輝くような濡れた裸体を正面一メートルほどの距離で直視しただけで心臓がこんなにもバクバク鳴るなんて。
「従者様」
「うん……なんだよ」
横向きからさらにぐるりと背中向きになりつつ、答える。
「こっちを向いて」
「いや、向かないよ」
「いいから――お願い」
ルピスの声には切実な響きがあった。少なくとも、俺をからかうために言っているわけではないようだ。だから、俺は恐る恐る、彼女のほうに向き直った。
「え……ドラゴン……」
ルピスはこちらに背を向けて立っていた。長い銀髪は右肩から胸のほうに流されていて、頸部から臀部にかけての背中全部がよく見えていた。そこに、ドラゴンがいた。正確に言うなら、ルピスの背中には竜の形をした巨大な痣が刻まれていた。皺を作りながら歪に盛り上がった皮膚の内側に、赤黒い染料で刺青したようだった。
長い尻尾、膨れた胴体、長い首、厳つい角を生やした頭部、そして蝙蝠のような翼を具えた姿は、東洋的な蛇に似た竜ではなく、西洋的な竜――即ち、今し方、鼻先一メートルの距離で見てきた竜とよく似た形をしている。
赤黒い竜はルピスの背中で大きく翼を広げ、右肩に向かって威嚇するように顎を開け、長い尻尾を左の太腿に絡みつかせていた。
「……五歳の時、カーテンに巻かれて遊んでいたの。どうしてそんなことをして遊んでいたのかは覚えていないわ。火の気なんてなかったと思うのに、気がついたら……燃えていたわ」
ルピスは背を向けたまま語り始める。俺は黙って耳を傾ける。
「確か、足下のほうからだったわ。身体に巻いていた布が見る見るうちに燃えていくの。わたしは怖くて動けなかった。足が竦んで逃げられないのに、なぜか頽れることもできなくて、ただ立ち尽くしていたわ。ただ……立ったまま、燃えていたの……」
どうしてそうなったのかは覚えていないのだという。燃える布に巻きつかれたという恐怖と痛みが強すぎたせいで、前後の事情が記憶から飛んでしまったのだと思う――ルピスはそう言い足して、目を伏せた。
「召使いとか、周りに誰もいなかったのか? ほら、女王様……ああ、その当時はお姫様か。とにかく、一人で放っておかれる身分じゃなかったんだろ」
「……使用人なり乳母なりが近くにいたはずよ。でも、私が火に包まれたことで動転したのでしょうね。火を消すよりも先に、人を呼びに行ってしまったのだと思うわ。もっとも、記憶が曖昧だから、乳母の目を盗んで最初から一人で火遊びしていたのかもしれないけれど」
「理由はともかく、そのときの火傷の痕がそれってことか」
「ええ、そうよ」
ルピスは後ろ姿のまま、自分の背中を見下ろすようにして頷き、自嘲する。
「神の悪戯というのかしらね……見ての通り、火傷の痕はまるで竜が翼を広げているかのような形になったわ。そのせいで、わたしは竜の巫女なんて呼ばれるようになったのよ。……竜の巫女などと、そんなものが過去に存在していたという記録はどこにもなかったわ。皆は一体、どういうものだと思って竜の巫女なんて言葉を口にしていたのかしらね」
ルピスは肩を揺らして嗤笑した。
火傷が竜の形になったことをただの偶然なのだとするならば、幼いルピスが火傷したことの責任を、いかなるときもルピスの傍に侍っていなければならないはずの乳母や使用人が取らなければならなくなる。
だが、この火傷が、ルピスが竜の巫女に選ばれたことの徴であるとしたらどうか? ――その場合、誰かが責任を取るような話ではなくなる。
だから、そういうことになった。責任を取らされるかもしれないと思った誰もが、口裏を合わせる必要すらなく、「これは間違いなく竜の徴です。吉兆です!」と声高に言い立てた。また、「そんなわけない。それはただの醜い火傷痕だ」と言うことは姫を侮辱することになってしまう。そのために結局、ルピスは「五歳の時に竜の徴を得た巫女」として育ってきたのだった。
「つまり、お姫様は裸でした、ってことか」
俺も皮肉を口にして少し笑った。
処罰を恐れて「王様は裸です」と誰も指摘しなかったように、「お姫様は火傷です」と指摘する者がいなかったというわけだ。
……我ながら上手いことを言ったと思ったのだけど、なぜかルピスから肩越しに睨まれた。
「確かに今、裸ですが……それを今、敢えて今更、指摘した意味とは?」
「あ……いや、そういう意味で言ったつもりじゃなくて、比喩とか引喩とかそういうやつで――」
「どんな意味?」
「いや、まあ……腫れ物扱いされていたんだなぁ、と」
「腫れ物……」
「あ、腫れ物扱いって言わない?」
「いえ、言います。言いますよ。言いますけれど、面と向かって言われたことはなかったので胸が痛んでいるだけですよ」
「……ごめん」
なんにせよ女性に言うことではなかった、と反省して俯いた俺の頭を、軽やかな笑い声が撫でる。
「誰か一人でも、そうやって正面から言ってくれる者がいたら、こんなことになっていなかったのでしょうね。でも……現実は、こう」
ルピスは竜の巫女という実体のない肩書きを押しつけられた末に、王太子と王が相次いで急逝したことで降って湧いた後継者争いに御輿として担ぎ出された。だけど、後継者としての地固めをしてこなかった彼女では、急逝した王太子の陣営を取り仕切ってきた叔父(伯父? どちらにせよ、実際には兄か)に勝てるわけがなかった。
そもそも、この世界の王様や女王様というのは、王家という巫覡家系の当主を指す。当主は自分以下の一族に対して巫術の使用許可を自在に切り替えることができるから、その座が王甥アードラーの手に転がり込んだ時点で、もう勝負はついている話だった。ルピスの武器は背中に負った竜の徴だけで、そんなものは王統巫術の絶対的必要性と比べたら芥も同然だったのだから。
かくして後継者争いに負けたルピスは「竜の巫女を名乗って人心を乱した罪」を被せられて、処刑されることになった。
「殿下は竜に愛されし巫女に御座います――昨日までそう言っていた者が、その日から手の平を返して、わたしは騙されていたのだ。あれはただの醜く焼け爛れた火傷痕ではないか――口々にそう言うの。そんなの最初から知っていたくせに。竜の巫女なんて信じていなかったくせに」
「だけど、まだ信じているひともいるじゃないか」
笑いを吐き捨てるルピスに、俺はついつい反論めいたことを言ったけれど、皮肉にしかならない言葉だ。
「そうね、ええそう。フッカーたちはまだ信じているわ。だって、今更事実を受け入れても戻れる場所がないもの。フッカーたちはこの火傷痕が特別なものだと信じているのではないわ。信じているのだと、自分を騙しているだけよ」
それはその通りだろうな。
フッカー卿とか呼ばれていた、あの爺さん。あの御仁はさすがにやり過ぎだった。あそこまで芝居がかった言動をされてしまったら、自分の役どころに酔っているのがバレバレだ。で、そんな自分大好き劇場を押しつけるように見せられたこっちは辟易だ。
「……でも、それでもきみは、あの爺さんたちと一緒にいる」
辟易しているのはルピスも同じだ。それはいまの話を聞くまでもなく、最初に見たときから感じていたことだ。それなのに、ルピスはどうして彼らと行動を共にしているのか……?
「だって、他に居場所なんてなかったもの」
諦めと皮肉を込めた自嘲だった。さっきからそんな笑いばかりを見せられているな。
……と思ったら、ルピスはふわりと花が綻ぶように破顔した。
「ふふっ、どうして従者様がそんな顔するのよ」
「そんな話を聞かされたら、誰だってこんな顔するだろ」
「じゃあ、悪いのは私ね。ごめんなさい」
「いや、べつに……謝れと言ったわけじゃ……」
「……ふふっ」
言い負かされた気分で目を逸らしたら、また笑われた。でも、可愛い女子にそういう顔で笑われるのは全然、嫌な気分にならない。ご褒美です、というやつだ。
「でも本当に、ごめんなさい。急にこんな話を聞かせてしまって」
「いや……まぁ……」
返事に困った俺の、意味を為さない返答。ルピスは気にしたふうもなく、こちらに振り返った。
全裸だ。
身につけているものはなく、右肩から回り込むようにして下ろされた鈍い銀色の長髪が右側の乳房を隠しているだけだ。左側の膨らみは丸出しなので、否応なく俺の目はそこへ向いてしまう。
大きすぎず、然りとて小さすぎることもなく……俺の手の平にちょうどぎりぎり収まるか収まらないかの大きさだ。
「……!」
咄嗟に目を逸らそうとしたけれど、気持ちとは裏腹に、目線は粘るようにそこから離れてくれない。
目線を剥がそうとしたら、気持ちが二つに裂けた。見つめたい気持ちと、紳士でいたい気持ちとに分れて喧嘩を始める。それはほんの数秒程度のことだったけれど、膨らみの麓から桜色の頂に至るまでの全てが余すところなく俺の網膜に焼き付いてしまった。目を逸らした後も、その映像が目の奥にちらついて、心臓を小突いてくる。
女子の裸なんて散々見慣れたはずなのに、なんだこの為体は……。
「従者様……」
ルピスは小さく笑っていた。
「べつにいいのに。見せているのだから」
「えっ」
その言葉に目を瞠って振り返ったら、喉を鳴らして笑われた。
「ふふっ、可笑しいの。先ほどは剣を向けられても平然としていたのに……ふふっ、ひょっとして女の裸を見るのは初めてなのかしら?」
「い、いや、違う」
動揺しているせいで、うっかり正直に答えてしまった。途端、ルピスは驚いたように目を瞠り、次いで不機嫌そうに眉根を寄せる。
「そう……見たことがあるのね、女の裸を」
「え」
「さすがは竜の従者様でありますこと。きっと毎晩、裸の女を取っかえ引っかえなのでしょうねぇ」
「なんだそれ。ないぞ、そんなこと」
険のある言い草に、少しムッとしながら言い返す。
「言い訳は不要よ。殿方はそういう性だと、知っているわ。それに……」
ルピスは数秒前の不機嫌さを吹き消すように微笑すると、上目遣いに俺を見上げて言った。
「……それに、女が初めての場合は、女に慣れている男とのほうが、面倒が少なくて良い、とも」
「それは――」
誘っているのか、などと言葉にして問いかけるのは無理だった。気がつけば体温が上がっていて、その熱を逃がそうとして呼吸しているうちに、喉と唇が乾いてしまっていたせいだった。
全裸の美少女に上目遣いで囁かれている、という状況に俺は興奮していた。
確かに女性の裸には見慣れてしまっているけれど、そこには情緒もへったくれもない。ペットの犬猫が服を着ずにじゃれ合っているのを見ても特に何とも思わないのと同じだ。
でも、ルピスは違う。俺の中の「こいつらは裸でいるのが普通」というカテゴリに入っていない、とても普通な少女だ。初対面の男にいきなり全裸を見せていいカテゴリに属していない。
つまるところ――俺はとても興奮していた。
「女王――ルピス」
敢えて名前で言い直すことで、ルピスに俺を対等な相手として意識させる。
足下は既にズボンを捲り上げてた裸足になっていたから、そのまま泉に入っていく。ルピスに手が届くところまで近づくと彼女の肩に両手をまわして、少しだけ抱き寄せた。
ルピスは全裸で、俺も上半身は裸だから、服を着ているときよりもずっと、縮まる距離を強く感じる。
「あ……」
視線が近づく。身体を揺らされた反射で、ルピスの両目は瞼を閉じようとする。その隙を突いて、顔をさらに近づけていき、
「ん――」
口付けをした。
数秒ほど触れ合った唇と唇が、瑞々しい弾力の余韻を残して、そっと離れていく。
「従者様……」
「ロイドだ。あ、俺の名前な」
「ロイド……どこか変わった響き。らしいと言えば、らしいのかしら」
吐息のかかる距離だから、ルピスは潜めた声で微笑する。でも、俺は答えず、もう一度キスをする。会話よりもキスを、という意思表示だ。
「……うん」
ルピスは分ってくれた。一声だけ呟くと、目を閉じ、顎を上げて、唇を差し出してくれた。
「……」
微かな吐息だけが交わるなか、唇同士がまた触れ合う。でも、今度は唇だけでは終わらせない。ルピスをもっと引き寄せて、肌と肌とも触れ合わせる。水浴びをしたばかりの瑞々しい柔らかさが、俺の胸板にぎゅうと押しつけられて柔らかく拉げる。
あ……この感触をこうして味わっているだけで幸せになれる……。
胸と胸、唇と唇で触れ合う。背中を抱き締めている。息遣いが交わり、視線で睫を擽り合う。
声は出さない。目と目で語る。鼻先がこつんと挨拶をする。睫と睫が囁き合う。
「ん……」
どちらのものか分らない吐息。普段なら聞こえないほどのそれも、いまは鈴の音よりも蠱惑的に耳孔を転がり落ちてくる。
鼓膜がぞわりと心地好い。肌の内側を擽られている。それに、さっきからやけに唇が幸せを訴えていると思ったら、ずっとキスしていた。ルピスの唇はぷるぷるのゼリー、いやタピオカ? 寒天? とにかく甘さ控え目のデザートみたいだ。上唇をぷるんと啄み、下唇をぷるんと啄む。それから上唇を啄んで、そしたら下唇を啄んで……唇の裏側を満たす耽美な食感に、いつまでも啄んでいられる。というか、啄んでいたい。いや、啄む。
「っ、んっ……ッ……」
「は……ん、ぁ……」
どちらからともなく零れる吐息を啜り、リップ音を舐め取る。
ルピスの唇を余すところなく味わうために、舌も使う。啄んだ唇の裏側を、伸ばした舌先で舐る。粘膜のしっとり吸い付く舌触りと、歯列のカチンと鳴るような舌触り。唇の表裏を押してくる硬軟二種の感触に、ぞくっと甘い痺れが泡立つ。その痺れは舌先から舌根、顎へと落ちたところで延髄を蹴り上げて脳天に当たって弾け、意識の水面が官能で沸き立つ。
鼓膜の奥で、理性の溶ける味がした。
「っ……ルピ……ルピ、ぅ……」
「ロイ……っ、ど……ぉ……」
キスが忙しくて、お互いの名前を呼び合うこともできない。それだけがキスの、唯一の難点だ。でも、そんなことはどうでもいいか。どうでもいい。気持ちいい。どうでもいい。
ただ――唯々、キスが終わらない。
でも終わる。
頭蓋の内側で沸騰していた血と体温が一転、一気に下半身へ流入したからだ。
「んぁ――」
唇を離すなり、ルピスの唇から溢れた哀切が追い縋ってくる。
分っている。そんな声を出すな。俺だって切ない。すぐに戻るから! ――実際、俺は水面を蹴立ててズボンと下着を脱ぎ捨てるとすぐ、ルピスを今一度抱き締めて唇を奪った。
「ん、ぅ……あっ……熱いの、これ……」
俺に唇を食まれるルピスが、下腹部にぐいぐいと押しつけられている熱くて硬くて大きくて長いものに気づいたようだ。吐息を恥じらいに惑わせている。
だから、俺は男根をもっと押しつけてやった。ルピスの滑らかな腹に、ぐりぐり、と。それはもう、ぐりぐりぐりっ、と。
「え、あ、ぅ……ロイド、これ、ど、したら……?」
「どうしたらいいと思う?」
顔を真っ赤に茹だらせて上目遣いで訴えてこられたら、ついつい意地悪な言い方をしてしまう。
「……むぅ」
ぷにっと頬を膨らませた顔で睨まれた。
そんな可愛い顔を見せられたので、またキスしていた。
「あ、ん……ん、んんっ!? ロイド、お臍に……んぁ!」
俯いて唇を重ねたことで、ずれた肉棒の切っ先がずるっと滑って、ルピスの臍を擽ったらしい。彼女がびくっと身を捩るものだから、俺は彼女を引き寄せるみたいに強く抱き締めて逃げられなくする。
「っ……あ、あぁ!?」
ルピスが急に嬌声を上げるから、なんだと思ったら……彼女の背中にまわした俺の両手が、臀部の丸みをがしりと揉んでいた。というか、揉みしだいていた。
みっちりとした、乳房よりも弾力的な手応え。指が沈むのではなく、指を弾いてくる。小振りなのに生意気な尻だ。がしがし揉んで、お仕置きしなければ。
「あっ、あっ! お尻、やだっ……あ、ひんッ!?」
お尻をぎゅうっと掴んだら、ルピスは可愛い悲鳴を上げて、びくんっと跳ねる。その声も、その仕草も可愛いのだから、俺がもっと大胆に尻肉を鷲掴みにして、もっともっと可愛く鳴かせて身悶えさせたくなるのは仕方ないことなのだ。
「やっ、ひんッ……ん、ん、ロイド、ぉ……やだ、恥ずかし――んぅ」
可愛らしく尖らされた唇を、唇で塞ぐ。抗議の言葉を紡ごうとしていた舌も、口腔内に押し込んだ舌先で絡め取って黙らせた。
くちゅ、くちゃ……という粘着質な水音を鼓膜の内側で聞きながら、ルピスの柔らかな乳房に自身の胸板を押しつけ、下腹にいきり立った男根の裏側を擦りつける。両手では瑞々しい尻を鷲掴みにしていて、食い合うように繋がった唇の合わせ目からは混ざり合った唾液が彼女の顎を伝い落ちている。
「ルピス……」
「ん……」
唇を重ねたまま、名前を呟く。その微かな一言に込めた想いを、ルピスは正確に受け止めて、頷いてくれた。
そうして――山間の森に小さく開かれた泉に、俺とルピスが抱き合いながら水遊びする涼しげな音が小一時間ほど響いた。
ルピスは初めてだった。
全部終わった後で、先導役をしてくれていた忍者ゴブリンのことを思い出した。
彼は少し離れたところで火を熾して、俺とルピスの濡れた服を乾かしてくれていた。俺たちが互いのことに没頭している間、咳ひとつ立てずに空気を読んでくれていたのだった。
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