義妹ビッチと異世界召喚

Merle

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1章

19-1. 初めて同士 ロイド

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 村から運んできた荷物の整理が終わってから程なくして、河原に行っていた有瓜たち三人が帰ってきた。神官と忍者一人が同行していたから心配していなかったけれど、違う意味で驚かされた。
 三人は綺麗になっていた。顔形が変わったわけではないのに、髪や全身にこびり付いていた汚れが落ちただけで見違えるくらい綺麗になっていた。

「どうです、義兄さん」

 自慢げな笑顔で髪をさらりと掻き上げた有瓜に、俺は素直に脱帽した。

「髪は女の命って、本当だったんだな」
「その通りです。ふふふっ」

 有瓜は得意げにもう一度、髪を掻き上げる。

「……二度見ると、思ったよりもさらさらじゃなかったな」
「そりゃあ、シャンプーと言っても蜂蜜入りの麦粥ですからね。それにドライヤーもないですしー」
「ああ、悪かった。俺が余計なことを言った。ごめん」

 膨れっ面になった有瓜に、俺は慌てて謝った。

「分かればいいんです、分かれば」

 鷹揚に返事した有瓜には肩を竦めただけで答えて、俺は視線を有瓜の後ろ――シャーリーとアンの姉妹ではなく、そのさらに後ろで荷物持ちをしている神官に向けて、労いの言葉をかけた。

「おまえもご苦労様。任せてしまって悪かったな」
「なんもなんも。むすろ、わしだけ楽ばさすてもろぅて申し訳ねぇすだ」
「いいんじゃないか。魔法が必要なときは、顔が青くなるまで頑張ってもらうんだから」
「そりゃ、おっかねぇこってすだ」

 俺と神官は他愛ない冗談を言い合って、笑顔を交わす。

「ちょっとちょっと、おかしいですよ?」

 有瓜がずいっと身体ごと割り込んできて、俺の顔を正面から見据えてきた。その目は驚愕に見開かれている。

「おかしいって何がだよ」
「洗い立ての美少女が三人もいるのに、どうして神官さんとトークする選択肢を選びますかね!?」
「そう言われても……」
「言い訳は後でいいので――はい、こっち向いて!」

 有瓜の両手が俺の肩をむんずと掴んで、身体をぐるっと方向転換させた。そうして向き直らされた先には、シャーリーが立っていた。その隣にはアンもいたけれど、彼女は俺が向き直ったのと同時に、さっと一歩、脇に退ける。

「あ、ちょ……アン? あたい、まだ心の準備が……」

 シャーリーは不安げにアンを見やったけれど、アンは笑顔で首を横に振った。

「アン!?」
「お姉ちゃん、頑張って!」

 アンはそれだけ言うと、ささっと姉から離れていった。俺の目はついアンを追いかけようとしたけれど、シャーリーの真剣な眼差しがそれを許さなかった。
 シャーリーは真っ赤に茹だらせた顔から湯気を噴き上げている。俺をじっと見て何か言おうとしているのは分かるけれど、口元がわなわな震えるばかりで、言葉はひとつも出てこない。

「え……と――」

 俺が声をかけようとしたとき、やっとシャーリーが声を発した。

「ロイド! あっ、あたいの初めてをもらってくれ!!」

 ……聞き間違えようもないほどの大声だった。だけど、それでも聞き返さずにいられなかった。

「……え」

 いや、これは“聞き返した”とは言えない。ただの呻き声だ。
 い、いや、けど、でも、だって――仕方ないじゃないか! こんなこといきなり言われて冷静に対応できるような経験値、俺にはないんだ。俺は有瓜と違うんだから!
 あ、いや、有瓜の生き方を批難しているわけじゃない。ただ、有瓜ならきっとこんな状況にいきなり放り込まれたとしても、こうして自分の思考に逃げ込んで固まってしまう俺とは違って飄々と対処するのだろうな、と思っただけで。

「あ、お……おい、返事を、その……できれば早く……うぅ!」

 はっと気がつけば、シャーリーがいまにも泣きそうな顔になっていた。眉間に寄った皺も、噛み締められた唇も小刻みに震えている。その顔を見れば、彼女が冗談で言ったわけではないと分かる。でも、だけど――だからこそ、返答に窮してしまうのだ。

「……いや、まず確認させてくれ。初めてって、その……そういう意味でのことか?」

 ようやく声にできたのは、我ながらデリカシー皆無の言葉だ。けど、シャーリーは“初めて”としか言っていない。いかに顔が真っ赤だと言っても、もしかしたらではないかもしれないじゃないか。ま、まずはそれを確認しなければ――

「そっ、そういう意味だよ。あ、あたいの、しょ……処女をくれてやるって意味だよ。他の意味じゃねえから!」

 ……はっきりと言われてしまった。聞き間違いようのない断言だった。

「あ、ああ……そうか。うん、分かった。理解した……」

 俺は間抜けな顔で意味もなく頷く。俺の一歩後ろに俺を見ている俺がいて、俺の間抜けで格好悪い姿に呆れ果てている。仕方ないだろっ、と背後の俺の言い返すと、背後の俺は、いいから彼女に答えろよ。彼女は答えを待っているんだ。早く答えろ――と俺を急かす。
 シャーリーの待っている答え――つまり、シャーリーを抱くか抱かないか、イエスかノーか、だ。

 そんなのノーに決まっている。
 いや正直、滅茶苦茶に欲情している。すっかり着古した制服シャツの裾を、ズボンの入れずに出しておいてよかったと心底思っている。そうでなかったら、股間がぱんぱんに張っていることに気がつかれていただろう。
 俺だって年頃の男子だ。二ヶ月以上も女っ気のない生活(有瓜は対象外)をしてきたところに、洗い立ての女子だ。赤土を被ったようだった髪は、食べ頃に色付いた果実のようにしっとり艶々しているし、顔だって同じくらい赤くて瑞々しくて、ああヤバい。こうして考えてしまっただけでも、彼女の火照った肢体に噛みつきたくって仕方なくなる。
 噛みつく? 噛みつくってなんだ!? ……ヤバい。ついさっきまでそんなつもりはまったく無かったが、長い禁欲生活は俺の性欲をヤバすぎるくらいヤバくしているようだ。語彙がヤバくなるくらい、理性がヤバいことになっている。

 ――ヤバい。このままじゃ俺は性欲の赴くままに、シャーリーをってしまう。
 違う、違うぞ。俺はそんなつもりで彼女の妹アンを助けたのではないし、彼女がここへ来るしかないように仕向けたわけでもない。俺は、俺は――

「――そ、そうだよな。あたいみたいなのを抱けって言われても、そりゃ、め、迷惑だよな……」

 気がつくと、シャーリーの両目から零れ落ちた涙が頬を伝い落ちていた。涙に冷やされたのか、その頬から火照りが抜けていく。

わりぃ、変なこと言って。忘れてくれ……ははっ」

 シャーリーは笑ったつもりのようだが、全然笑えていない。そもそも、自分が泣いていることに気がついていないらしく、涙を拭ってもいないのだから、全然まったく笑顔に見えるはずがない。

「シャーリー!」

 俺は弾かれたように手を伸ばし、シャーリーの手首を掴んでいた。彼女がいまにも走り去りそうな気がしたからだ。
 その直感が当たっていたのか、それとも俺に掴まれたことで拒絶感が誘発されたのか、彼女は俺の手を振り解こうとする。

「離して……」
「嫌だ」

 考えるより先に口が言っていた。言葉のついでに心臓までもが、その口から飛び出しそうに跳ねている。

「離せよ……アンを残して逃げたりしねぇから、いまくらい一人にさせろよ……」

 シャーリーは顔をくしゃりと歪めて自嘲した。俺がそんな顔をさせたのだ――その事実に胸が締めつけられた。

「……痛っ」

 痛がったのはシャーリーだ。彼女の手首を掴んでいた手に、知らぬ間に力が入ってしまっていたのだ。

「ごめ――」

 ごめん、と言って手を離そうとしたはずなのに、言葉は途中で途切れるし、握った手もそのままだ。

「……分かったよ。逃げねぇから、手、力抜いてくれよ」
「……うん」

 シャーリーの声は少し落ち着きを取り戻していて、だから俺も、今度はゆっくりと手を離していくことができた。
 シャーリーの手首には赤い痣ができていた。俺は自分で思っていた以上に力を込めてしまっていたようだ。

「ごめん、そんな強く握るつもりじゃなかったんだ」
「いいよ」
「でも、痕が残ったら――」
「残ったほうがいい」

 シャーリーは輪のような痣がついた手首を反対の手で包むように握って、自分の胸に押しつけた。
 大切なものを胸に抱くようなその仕草に、否応なく、俺の股間は煮えたぎる。

「……!」

 込み上げる気持ちを抑えられなかった。俺は衝動のまま、シャーリーを抱き締めていた。
 そこに性欲以外の、せめてもう少しくらいは綺麗でマシな感情があるのかどうかなんて分からない。ただとにかく、目の前で寂しげに頬笑んでいる女性をどこにもやりたくなくて、身体を擦りつけたくて、必死に抱きつくことしか考えられなかった。

「あっ……」

 シャーリーの苦しげな吐息に、俺の胸にほんの少しだけ理性が灯る。

「あ、悪い。また――」

 俺は反射的に、彼女の背に回していた両腕を緩めた。けれども彼女は、俺の腕のなかで胸元に額を擦りつけるように頭を振った。

「いいんだ。ちょっと苦しいくらいのほうが、気持ち、伝わってくるって感じがして……なんか、いいし」

 シャーリーはそう言いながら、おずおずと俺の背中に両手をまわしてくる。シャツにしがみつくような辿々しい抱擁だったけれども、童貞にはそれで十分だった。

「うぁ――」

 ――ビリッ
 理性の薄皮に裂け目が走る。限界ギリギリを越えて、少し漏れている。
 そうだというのに、シャーリーは俺の胸の中から潤んだ瞳の上目遣いで言ってくるのだ。

「ロイド……あたいにもっと深いきず、つけてくれ」
「――ああぁ!!」

 堪えられるか馬鹿野郎!
 俺は噛みつくようにして、シャーリーの唇を奪った。初めてのキスだったけれど、その感慨に耽るような余裕もなく、一心に唇を貪った。

「んっ……ん、ん……」

 シャーリーの唇と唾液は、甘い蜂蜜の味だった。
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