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無敵NPCvsバグ利用 1/2
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エルフ森王国の首都は、北の大地との境界にもなっている「精霊の森」の南端に接するようにして築かれている。その理由は、エルフの国は精霊の森を監視するための砦から始まったからなのだが――細かい設定はべつに知らなくてもいい。
実際、一部の考察マニア以外は、城や国の成り立ちに設定が用意されていることさえ知らないだろう。むしろ、その設定が十分に活かされているのかが問われるところだ。
例えば、エルフに種族変更するための【緑化】クエストに登場する超大樹が生えているのは、大昔に大禍で死んだハイエルフたちを葬った墓地だった場所である……とか、現存しているエルフは全て【緑化】によって人間から変じた者で、純血たる貴種エルフは一人を残して滅びているとか……。
まあそんなことは二の次で三の次で、プレイヤーが望むのは楽しいセックス、面白いセックスばかりなのがこのゲームだ。
廃課金プレイヤーのユータもまた、そうした大多数の一人だった。
「ほほう、よくぞここまで来たものだ。いやはや、なんとも暇なのだな」
色鮮やかな薄衣で幾重にも包まれた童女が見た目通りの幼い声で、見た目とは裏腹な爺むさい言いまわしで話しかけてくるのを、ユータはちょっとした感慨を噛み締めながら聞いていた。
「長かった……!」
ユータを出迎えたのは、銀に近い金色プラチナブロンドの長い髪を左右に分けて、つんと尖った両耳の上でくるくるとお団子ふたつに丸めた童女だ。
童女らしいふくよかさを残した愛らしい頬をしているのに、左右で色の違う瞳には深い水底のような静けさが湛えられている。
右目は紫水晶、左目は翠玉。さらに右目の虹彩には、二角多い星形の七芒星が刻まれていると攻略サイト情報には書いてあったが、ユータにはそこまで確認できなかった。
なぜなら、ユータは例え相手が仮想だろうと、見るからに幼い容姿だろうと、女性の目を見つめるなどという蛮勇を持ち合わせていなかったからだ。
童女の出迎えに感慨深そうな態度を取っていたのも、そうしてれば少し俯いて視線を外していても不自然にならないからだった。
「さて……妾が暇に飽かせて組み上げた試練を越えてきたのだ。もてなしの用意はないが、なんぞ苦労に見合ったものをくれてやらねば、貴種たる者の度量が疑われよう。知識か、武具か、宝物か――望むものを言うがよい」
幼さの欠片もない翠紫異彩の瞳がユータを見据える。
その静謐な眼光に、ユータは向けた視線をまたすぐに逸らしてしまった。
「あ、あぁ……そ、そうだな、うん……そうだ、うん」
ユータは明後日のほうを見ながら、無駄に頷く。益体のない言葉をごにょごにょ並べつつ、所狭しと積まれ、崩れた本の山を眺めて気を落ち着かせた。
ここは「精霊の森ダンジョン」の深部から、ボス部屋に向かうのとは別の袋小路を進んだ先にある隠し階層だ。
一見すると袋小路になっている突き当たりから、事前に別クエストでフラグを立てておくことで進入できる、仕掛けと謎解きと嫌らしい敵MOB満載の隠し階層。そこを抜けた先にある長閑けき聖森「鹿棲郷」――の片隅にでんと構えた大きな庵が、いま、ユータが童女と対面している場所だ。
豪華でも何でもない、ただ大きなだけの古民家といった家屋には、いま二人がいる書斎だか応接間だか分からない場所のみならず、玄関からその部屋に行くまでの廊下にまで本や巻物が溢れ出ている本屋敷だった。庵なのに本屋敷とはこれ如何に。
そんな本だらけの家の主である金髪の童女は、ユータが入ってきたときに読書を止めて彼の前に立っていたのだが、反応の鈍いユータに焦れてきたようだ。ふん、と鼻を鳴らして胡乱げに目を細める。
「何も要らぬというのなら無理強いはせん。もてなしはせんが、好きに休んでから帰られよ」
「あー……ま、待てよ、せっかちだな。年寄りが生き急ぐなって」
「……なんだと?」
ようやく口を開いたかと思えば、唇を引き攣らせるような嫌らしい笑いと無礼な言葉。
初対面の、しかも招かれざる客からそのような態度を取られれば、何百年と生きてきたハイエルフの姫だろうと柳眉が逆立つ。けれど、少年はその気色悪い笑みを引っ込めるどころか、ますます深くさせた。
「そ、そんな顔したって怖くないんだぜ。こっちには切り札があるんだからな」
「……何の話だ?」
金髪お団子ヘアのハイエルフ童女からしてみれば、自分が招いたわけでもないけれど、わざわざ難儀な迷宮を越えてまでやって来たのに手ぶらで帰るのも体面が立たなかろうと気を遣ってやっているのに、相手はなぜか、切り札がどうたらと言い出している。意味が分からない――
……いや、わりと分かっていた。
「久しいな、この展開も。一頃はよくあったのだが……」
溜め息混じりに呟いた童女は、睨むでもなくユータを見上げる。
重課金プレイヤーのユータは、生身の立体走査情報を微調整しただけの無課金アバターとはひと味違う、一から創り上げられた課金アバターだ。
男の精悍さを感じさせない、あどけなさ十割で出来た紅顔の美少年。実在していたら、そういう系アイドル事務所が放っておかない美少年。身長160cm台前半の、女装させても違和感のない美少年――それがユータだ。
そんな美少年と、ハイエルフの美少女NPCが見つめ合っている。とても絵になる情景のはずなのに、いまいち心が沸き立たない絵面になっているのは、美少年の立ち振る舞いが絵にならないからだ。
見た目は百人が百人とも振り返る美少年なのに、猫背になって首を斜めに俯けて、自分より10センチは低い相手を上目遣いで斜めにちらちら見ながら話す姿勢が、まったく噛み合っていない。はにかみ屋の少年に見えてもいいはずなのに、気色悪さが先に立ってしまう。それはきっと、話し方のせいだ。
まるで物語の主人公みたいな台詞で喋るくせに、その喋り方は独り言のような早口だ。しかも、台詞の最初が必ずと言っていいほど、どもる。真っ直ぐ相手を見ない視線と相俟って、話し相手を煽っているようにしか思えない態度なのだ。
仮想知能にも感情は実装されているが、それ以前の話として、無礼な態度を取られれば友好値が下がるのは当然の仕様だ。
「妾はもこのところ、読書ばかりで少々飽いていたところだ――許す、妾の暇を毛ほどでも潰してみせよ」
童女が、いつの間にか手にしていた身の丈よりも長い木の枝で床をとんと突いた。その瞬間、きん、と鋼線を弾いたような硬い音が響いた。それ以外に何の変化もないように見えたけれど、ユータには、いま結果が張られたのだと分かっていた。これまた攻略情報で予習していたからだ。
彼女はただの美幼女ではない。ハイエルフ最後の生き残り、純血の姫だ。NPC専用の超強力な技能、才能を付与された撃破不能の無敵属性NPCだ。PCには絶対に使用不可能な最上位の結界を、フロア全体に一瞬で展開させることくらい、わけもないのだ。
「ふっ……そ、その傲慢な態度が、貴様の命取りになるのさ。こ、後悔するがいい」
少年が白いマントをばさりと翻して、インベントリから取り出した剣を片手に構える。その剣は、課金で入手できる中では最高位のものだ。
しかし、童女の余裕は崩れない。
「させてもらいたいものだな、後悔とやらを」
「ふっ……ほざいていろ!」
言い放つや、ユータは童女に斬りかかった。
童女は避けようともせず、刃をその身で受け止めた。
「ふむ、防御無視属性か」
面白くもなさそうに呟く童女。ユータの剣は確かに童女を袈裟懸けに斬ったのに、童女にはダメージが通っていなかった。
いや、少し違う。
剣は確かに童女を斬ったし、身につけている薄衣の束も切り裂いた。でも、剣が通り過ぎたそばから修復されたのだ。
それに、属性相性などで攻撃無効になったときの演出もなかった。だから、攻撃は通ったし、ダメージも与えたのだけど、その直後に一瞬で自動回復されたのだろう。
「で……まさか、これで終わりではあるまいな?」
「ふ、ふ……余裕か。だがそれが、貴様の命取りだ」
ユータは攻撃が効かなかったことに動じず、空いていた左手に毒々しい色の宝石を出現させる。
「差し詰め、即死効果の呪具か。ダメージを蓄積させられぬのなら一撃死を、と誰もが考えるようだ」
童女もまた、ユータの出した宝石が即死効果の攻撃アイテムだと看破して尚、動じることがない。
「ほれ、避けんぞ。やってみるがいい」
木の枝を持っていないほうの手で、掌を上に向けて指をくいくい、と手招きの挑発をしてみせる。
「お……愚かな!」
ユータは猫背で俯き、童女を斜めに見上げて毒突くと、呪具の宝石をひょいと投げる。宙に投げられた呪具は自分の意思で飛ぶかのように風を切り、童女の胸に着弾した。
変化は劇的で一瞬だった。
童女の全身から血が迸ったかと思うと、そこから節足動物で作った活け花みたいな禍々しい物体が爆ぜるように花を開かせ、本当に爆ぜたのだ。
どおっ、と爆音が轟いて、童女が黒い炎で包まれる。結界が張られていなければ、山積する本の類も燃えていただろ。
粘つくような黒い炎は、けれど、一瞬で消えた。そして現れたのは、無傷の童女だった。
「いまのは妾の知らぬ呪具だ……なるほど、妾より後に実装されたものでなら、妾を害せると考えたのか」
童女は、今度は少しばかり興味深げな顔をしていたが、その唇をにぃっと意地悪く歪ませる。
「よくぞ知恵を絞った、と褒めてやりたいところだが……浅はかだったな。妾の絶対性は理によって定められたもの。いくら祈りを捧げようと、ひとでは絶対に冒せんのよ」
かっかっ、と歯を見せて哄笑する童女。じつに負けイベを強いる者の風格を漲らせている。
だが、ユータの顔にもまた笑みが浮かんでいた。斜めに俯いて横目の上目遣いで相手を見て、唇の片端を引き攣らせる笑い方は、天使の紅顔を台無しにする卑屈さ満点ではあったけれど、狼狽えた者のする笑顔ではなかった。獲物を前にして舌舐めずりする顔だった。
「ふっ……お、愚かなロリババアよ。い、いまのは貴様の絶対性とやらの正体を見極めるための一手だ。ただの布石だ。そ、それも分からんとは、やはりロリはロリでもババアだな」
「……そろそろ不快だ。座興は終いよ」
童女が柳眉を顰める。右手に持った木の枝を揺らすと、何か魔法的な発光エフェクトが現れて、大技を使いそうな気配を漂わせ始める。
「し……終いか。それには同意だ」
ユータの左手に、またしても妖しく光る宝石が現れる。だが、今度はひとつではなく何十個も、だ。
「無駄なことを」
童女は薄ら光る杖を揺らしながら、もはや眉を寄せる価値もないとばかりの呆れ顔で嘲る。ユータはユータで勝利を確信しているのか、不敵にして卑屈な笑みに唇をいっそう引き攣らせると、宝石の山を投げつけた。
「――食らうがいい!」
「……」
童女は避けもしない。木の枝で防御することもなく、機関銃のようにばらまかれた宝石をその身に受けた。
全身を打ち据えた宝石が次々に砕けて、内側に閉じ込められていた魔法陣を展開させるのを見下ろしても、つまらなそうに嘆息するだけだ。
「これは封印の呪具か。殺せないなら封じようというのは分からんでもないが、無駄よ、無駄。妾には――」
「貴様は封印の解除条件を一瞬で達成する――そ、そうなんだろ?」
「……分かっていて、なぜ?」
童女は左右異彩の双眸が、初めて警戒に色を見せる。
「い、言ったろ。さっきので見極めたって」
「お主、何を――」
最後まで言うことはできなかった。
魔法陣の幾つかが瞬間的に輝きながら巨大化し、童女の身体を一瞬で包み込んだ。
「――ぁあああぁああッ♥♥」
魔法陣は直後、そのまま光になって消えた。
後に残ったのは、目から口から顔じゅうの穴を大きく開けて絶叫、というかイき声を張り上げながら全身を痙攣させる童女の姿だった。
実際、一部の考察マニア以外は、城や国の成り立ちに設定が用意されていることさえ知らないだろう。むしろ、その設定が十分に活かされているのかが問われるところだ。
例えば、エルフに種族変更するための【緑化】クエストに登場する超大樹が生えているのは、大昔に大禍で死んだハイエルフたちを葬った墓地だった場所である……とか、現存しているエルフは全て【緑化】によって人間から変じた者で、純血たる貴種エルフは一人を残して滅びているとか……。
まあそんなことは二の次で三の次で、プレイヤーが望むのは楽しいセックス、面白いセックスばかりなのがこのゲームだ。
廃課金プレイヤーのユータもまた、そうした大多数の一人だった。
「ほほう、よくぞここまで来たものだ。いやはや、なんとも暇なのだな」
色鮮やかな薄衣で幾重にも包まれた童女が見た目通りの幼い声で、見た目とは裏腹な爺むさい言いまわしで話しかけてくるのを、ユータはちょっとした感慨を噛み締めながら聞いていた。
「長かった……!」
ユータを出迎えたのは、銀に近い金色プラチナブロンドの長い髪を左右に分けて、つんと尖った両耳の上でくるくるとお団子ふたつに丸めた童女だ。
童女らしいふくよかさを残した愛らしい頬をしているのに、左右で色の違う瞳には深い水底のような静けさが湛えられている。
右目は紫水晶、左目は翠玉。さらに右目の虹彩には、二角多い星形の七芒星が刻まれていると攻略サイト情報には書いてあったが、ユータにはそこまで確認できなかった。
なぜなら、ユータは例え相手が仮想だろうと、見るからに幼い容姿だろうと、女性の目を見つめるなどという蛮勇を持ち合わせていなかったからだ。
童女の出迎えに感慨深そうな態度を取っていたのも、そうしてれば少し俯いて視線を外していても不自然にならないからだった。
「さて……妾が暇に飽かせて組み上げた試練を越えてきたのだ。もてなしの用意はないが、なんぞ苦労に見合ったものをくれてやらねば、貴種たる者の度量が疑われよう。知識か、武具か、宝物か――望むものを言うがよい」
幼さの欠片もない翠紫異彩の瞳がユータを見据える。
その静謐な眼光に、ユータは向けた視線をまたすぐに逸らしてしまった。
「あ、あぁ……そ、そうだな、うん……そうだ、うん」
ユータは明後日のほうを見ながら、無駄に頷く。益体のない言葉をごにょごにょ並べつつ、所狭しと積まれ、崩れた本の山を眺めて気を落ち着かせた。
ここは「精霊の森ダンジョン」の深部から、ボス部屋に向かうのとは別の袋小路を進んだ先にある隠し階層だ。
一見すると袋小路になっている突き当たりから、事前に別クエストでフラグを立てておくことで進入できる、仕掛けと謎解きと嫌らしい敵MOB満載の隠し階層。そこを抜けた先にある長閑けき聖森「鹿棲郷」――の片隅にでんと構えた大きな庵が、いま、ユータが童女と対面している場所だ。
豪華でも何でもない、ただ大きなだけの古民家といった家屋には、いま二人がいる書斎だか応接間だか分からない場所のみならず、玄関からその部屋に行くまでの廊下にまで本や巻物が溢れ出ている本屋敷だった。庵なのに本屋敷とはこれ如何に。
そんな本だらけの家の主である金髪の童女は、ユータが入ってきたときに読書を止めて彼の前に立っていたのだが、反応の鈍いユータに焦れてきたようだ。ふん、と鼻を鳴らして胡乱げに目を細める。
「何も要らぬというのなら無理強いはせん。もてなしはせんが、好きに休んでから帰られよ」
「あー……ま、待てよ、せっかちだな。年寄りが生き急ぐなって」
「……なんだと?」
ようやく口を開いたかと思えば、唇を引き攣らせるような嫌らしい笑いと無礼な言葉。
初対面の、しかも招かれざる客からそのような態度を取られれば、何百年と生きてきたハイエルフの姫だろうと柳眉が逆立つ。けれど、少年はその気色悪い笑みを引っ込めるどころか、ますます深くさせた。
「そ、そんな顔したって怖くないんだぜ。こっちには切り札があるんだからな」
「……何の話だ?」
金髪お団子ヘアのハイエルフ童女からしてみれば、自分が招いたわけでもないけれど、わざわざ難儀な迷宮を越えてまでやって来たのに手ぶらで帰るのも体面が立たなかろうと気を遣ってやっているのに、相手はなぜか、切り札がどうたらと言い出している。意味が分からない――
……いや、わりと分かっていた。
「久しいな、この展開も。一頃はよくあったのだが……」
溜め息混じりに呟いた童女は、睨むでもなくユータを見上げる。
重課金プレイヤーのユータは、生身の立体走査情報を微調整しただけの無課金アバターとはひと味違う、一から創り上げられた課金アバターだ。
男の精悍さを感じさせない、あどけなさ十割で出来た紅顔の美少年。実在していたら、そういう系アイドル事務所が放っておかない美少年。身長160cm台前半の、女装させても違和感のない美少年――それがユータだ。
そんな美少年と、ハイエルフの美少女NPCが見つめ合っている。とても絵になる情景のはずなのに、いまいち心が沸き立たない絵面になっているのは、美少年の立ち振る舞いが絵にならないからだ。
見た目は百人が百人とも振り返る美少年なのに、猫背になって首を斜めに俯けて、自分より10センチは低い相手を上目遣いで斜めにちらちら見ながら話す姿勢が、まったく噛み合っていない。はにかみ屋の少年に見えてもいいはずなのに、気色悪さが先に立ってしまう。それはきっと、話し方のせいだ。
まるで物語の主人公みたいな台詞で喋るくせに、その喋り方は独り言のような早口だ。しかも、台詞の最初が必ずと言っていいほど、どもる。真っ直ぐ相手を見ない視線と相俟って、話し相手を煽っているようにしか思えない態度なのだ。
仮想知能にも感情は実装されているが、それ以前の話として、無礼な態度を取られれば友好値が下がるのは当然の仕様だ。
「妾はもこのところ、読書ばかりで少々飽いていたところだ――許す、妾の暇を毛ほどでも潰してみせよ」
童女が、いつの間にか手にしていた身の丈よりも長い木の枝で床をとんと突いた。その瞬間、きん、と鋼線を弾いたような硬い音が響いた。それ以外に何の変化もないように見えたけれど、ユータには、いま結果が張られたのだと分かっていた。これまた攻略情報で予習していたからだ。
彼女はただの美幼女ではない。ハイエルフ最後の生き残り、純血の姫だ。NPC専用の超強力な技能、才能を付与された撃破不能の無敵属性NPCだ。PCには絶対に使用不可能な最上位の結界を、フロア全体に一瞬で展開させることくらい、わけもないのだ。
「ふっ……そ、その傲慢な態度が、貴様の命取りになるのさ。こ、後悔するがいい」
少年が白いマントをばさりと翻して、インベントリから取り出した剣を片手に構える。その剣は、課金で入手できる中では最高位のものだ。
しかし、童女の余裕は崩れない。
「させてもらいたいものだな、後悔とやらを」
「ふっ……ほざいていろ!」
言い放つや、ユータは童女に斬りかかった。
童女は避けようともせず、刃をその身で受け止めた。
「ふむ、防御無視属性か」
面白くもなさそうに呟く童女。ユータの剣は確かに童女を袈裟懸けに斬ったのに、童女にはダメージが通っていなかった。
いや、少し違う。
剣は確かに童女を斬ったし、身につけている薄衣の束も切り裂いた。でも、剣が通り過ぎたそばから修復されたのだ。
それに、属性相性などで攻撃無効になったときの演出もなかった。だから、攻撃は通ったし、ダメージも与えたのだけど、その直後に一瞬で自動回復されたのだろう。
「で……まさか、これで終わりではあるまいな?」
「ふ、ふ……余裕か。だがそれが、貴様の命取りだ」
ユータは攻撃が効かなかったことに動じず、空いていた左手に毒々しい色の宝石を出現させる。
「差し詰め、即死効果の呪具か。ダメージを蓄積させられぬのなら一撃死を、と誰もが考えるようだ」
童女もまた、ユータの出した宝石が即死効果の攻撃アイテムだと看破して尚、動じることがない。
「ほれ、避けんぞ。やってみるがいい」
木の枝を持っていないほうの手で、掌を上に向けて指をくいくい、と手招きの挑発をしてみせる。
「お……愚かな!」
ユータは猫背で俯き、童女を斜めに見上げて毒突くと、呪具の宝石をひょいと投げる。宙に投げられた呪具は自分の意思で飛ぶかのように風を切り、童女の胸に着弾した。
変化は劇的で一瞬だった。
童女の全身から血が迸ったかと思うと、そこから節足動物で作った活け花みたいな禍々しい物体が爆ぜるように花を開かせ、本当に爆ぜたのだ。
どおっ、と爆音が轟いて、童女が黒い炎で包まれる。結界が張られていなければ、山積する本の類も燃えていただろ。
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かっかっ、と歯を見せて哄笑する童女。じつに負けイベを強いる者の風格を漲らせている。
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「……そろそろ不快だ。座興は終いよ」
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「し……終いか。それには同意だ」
ユータの左手に、またしても妖しく光る宝石が現れる。だが、今度はひとつではなく何十個も、だ。
「無駄なことを」
童女は薄ら光る杖を揺らしながら、もはや眉を寄せる価値もないとばかりの呆れ顔で嘲る。ユータはユータで勝利を確信しているのか、不敵にして卑屈な笑みに唇をいっそう引き攣らせると、宝石の山を投げつけた。
「――食らうがいい!」
「……」
童女は避けもしない。木の枝で防御することもなく、機関銃のようにばらまかれた宝石をその身に受けた。
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「……分かっていて、なぜ?」
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「お主、何を――」
最後まで言うことはできなかった。
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「――ぁあああぁああッ♥♥」
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