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拗らせ聖女とパンしゃぶ天使 1/3
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【神官】の称号を持つ女性PC・ナナカセは、称号【聖女】の取得を目指していた。
その称号は天使を召喚して契約を結ぶことができれば得られるのだが、その天使たちは乙女ゲーム路線のイケメンばかりなのだ。
非実在性イケメンと契約してイチャイチャえろえろしたい! ――それが、実年齢は二十代半ばの女性、ナナカセPLの望みだった。
でも、その望みは未だに叶っていない。
【召喚:天使】の使用には、【召喚:悪魔】と違って触媒がなくてもいい代わりに、大量のMPが必要になる。そのため、せっかく召喚技能を覚えても、MPが足りなくて使えませんでした、というのはよくある話だ。そしてナナカセの現状は、当にそのよくある話なのだった。
「MP上げる用装備とか秘薬とかが必要だけど、それを買うお金がないから、稼がないといけないのだけど、面倒すぎる……」
溜め息がばかりが口を突いて、ソロ狩りに向かない支援職の身の上を嘆くばかりの日々が続いていた。野良PTに入ることもあるけれど、【聖女】を目指しているというと、「それ、ぼっち職じゃん。支援なら支援特化ビルドよろww」という感じで言われることが間々あるので、非常に気疲れするのだ。
なら、友達を誘って狩りに行けばいいじゃない、というのは持てる者の発想。それができたら、こうして溜め息を吐いてはいないわけで。
「や、わたしにだって友達はいる。いるわよ、もちろん。ええ、もちろん。……でも、レベルやプレイスタイルが合わないのよね……というか、まあ、はっきり言うと……下手なのよね、わたし」
ナナカセが支援職の代名詞である称号【神官】を冠しながら固定の狩り仲間を持たない理由は、彼女がとってもゲーム下手だからだった。
彼女はこれが初めてのVRゲームで、初めてすぐの頃にたまたま拾われて入ったチームが、このゲームにしては珍しくガチな武闘派チームだった。
雨の日の不良の気紛れで拾われた仔猫よろしく加入したナナカセは、そのチームでしばらく頑張って揉まれてみたけれど、最終的にはかなり直裁に脱退を促されて、それに従った。そうして彼女が手にしたたったひとつの収穫は、どうやら自分は下手くそらしい、と分かったことだった。
以来、ナナカセはチームに入ったり固定の仲間を作ったりすることなく、適性レベルよりも一段低い狩り場で地道にソロ狩りしたり、野良パーティに混ざることでここまでキャラを育ててきた。そして、ようやっとのことで【召喚:天使】を修得したというのに、さらにMP増強の手段を用立てなくてはならないという――。
「心が折れるわ……」
ナナカセは狩りに出る気力も湧かずに、街の中央広場に設えられたベンチに腰掛けて、ぎとぎとに甘いシュークリームで自分を慰めていた。
そこに個人チャットが飛んでくる。
『ナナちん、おひさー。いま時間あるー?』
間延びした口調で話しかけてきたのは、数少ない友人の一人だった。
「アイナ、ひさぶり。いま大丈夫よ。どうしたの?」
視界の正面にぱっと開いた小窓に映る相手の顔を見ながら、ナナカセは挨拶を返す。このモニターはカメラにもなっていて、アイナのほうにもナナカセの顔が見えているはずだ。
『ナナちん、確かさ、天使召喚したがってたよね?』
「ええ。でも、MPが全然足りないことに気づいて、いまちょっと途方に暮れていたところよ」
『それはなんとタイミングばっちしー』
「え?」
『あのね……あたし、この前、MPがすっごく増える装備をゲットしたの。で、そうえいばナナちんが覚えるって言ってた天使召喚って、MP特化の構成じゃないとまともに使えないって話だけど、この装備を欲しがるかなーって思って、いま連絡したんだけど……どぉ?』
「欲しいッ!! 売ってッ!!」
ナナカセはモニターに齧りつく勢いで答えた。
『わぉ、食いつきすごっ』
モニターの向こうで、アイナが笑いながら仰け反る。
「そりゃ食いつくわよ……あっ、でも……」
『お高いんでしょう、って?』
「うん……」
『なら、お金はいいよ。今度、狩りに付き合ってくれればさー』
「えっ」
アイナの狩りはだいたい、エッチなことだ。
彼女が相方と二人で、ゴブリンからミノタウロスから歩く磯巾着から、とにかく倒すついでにエッチしてまわっていることを、ナナカセは本人の口から何度となく聞いていた。それだからこそ、気心の知れた友人なのに、一緒に狩りをすることがないのだった。
「……考えておくわ」
『え、本当? やったー!』
「でっ、でも、不定形とか虫系とか絶対なしだから!」
『分かってるってー。初心者向けの人型からにするから♥』
「お手柔らかにお願いします……」
『じゃ、売買契約は成立ってことでー……はい、ぽちっと操作完了』
ぴろりん、と通知音がして、モニターの横に封筒のアイコンが表示される。アイナからアイテムが送付されたことのお知らせだった。
「アイナ、ありがとう!」
『気にしないでいいよー。んじゃ、あたしは落ちるね。おやすみー』
「ええ、おやすみ」
アイナが手を振ったのを最後に、モニターがぷつんと消えた。そして、視界の端に移動した封筒のアイコンだけが残る。
「どれどれ……」
などと呟きながら、ナナカセは封筒に視線を向けながら、右手の親指と人差し指をくっつけて離す仕草。
封筒が開封されて、アイテムの画像が表示された。
「……えー」
見た瞬間、ナナカセはなんとも言えない顔になった。
アイナがくれたMP増強アイテムは、その名も「古代のパンツ」という、穿き古されて黄ばんだ女性下着だった。
黄ばみパンツの画像を見ていると、説明文が浮かび上がってくる。
・古代のパンツ
古の時代の巫女が愛用していた下着。巫女の魔力をたっぷりと吸い込んでいる。
装備時能力: MP増強(大)、【召喚:天使】以外の技能に負補正
特記事項: これを装備して天使を召喚すると……?
「あ……これ、あれね」
ナナカセは説明文を見て思い出した。
これは自分のような下手くそやエンジョイ勢でも、とりあえず天使召喚を使えるMPが確保できますよ、という救済措置みたいな形で追加されていた装備だ――と。
ナナカセも攻略サイトを見たとき目にしていたはずの情報なのに、すっかり忘れていた。
「とにかく、これがあれば天使を呼べる……!」
このパンツで増強されるMPと、すぐにでも買える一時的にMP増強できる秘薬とを併せれば、必要なMPは確保できる。
ついに、ようやく、天使を呼び出せるのだ――その思いに、ナナカセの胸は高鳴った。
「天使……やっと……やっと、あのイケメンをぺろぺろできる!」
ナナカセが支援特化の【司祭】ではなく、契約した天使に戦ってもらうソロ寄りの称号【聖女】を目指そうと思った理由――それは、天使たちが乙女ゲーム路線の非実在性男子だからだった。
仕事の疲れを癒す偶像が、女には必要なのだ。その偶像が実在性か非実在性かは人によるけれど、ナナカセは断然、後者の人だった。
「手段が手に入ったのなら、善は急げね。今夜は徹夜確定よ……ふふ、ぐふふっ♥」
ナナカセは欲望に目を濁らせて、ぐふぐふ笑う。
中央広場のベンチでシュークリームを握り潰しながらそんな顔をしているものだから、行き交うひとに可哀相なひとを見る目で見られるのだった。
その称号は天使を召喚して契約を結ぶことができれば得られるのだが、その天使たちは乙女ゲーム路線のイケメンばかりなのだ。
非実在性イケメンと契約してイチャイチャえろえろしたい! ――それが、実年齢は二十代半ばの女性、ナナカセPLの望みだった。
でも、その望みは未だに叶っていない。
【召喚:天使】の使用には、【召喚:悪魔】と違って触媒がなくてもいい代わりに、大量のMPが必要になる。そのため、せっかく召喚技能を覚えても、MPが足りなくて使えませんでした、というのはよくある話だ。そしてナナカセの現状は、当にそのよくある話なのだった。
「MP上げる用装備とか秘薬とかが必要だけど、それを買うお金がないから、稼がないといけないのだけど、面倒すぎる……」
溜め息がばかりが口を突いて、ソロ狩りに向かない支援職の身の上を嘆くばかりの日々が続いていた。野良PTに入ることもあるけれど、【聖女】を目指しているというと、「それ、ぼっち職じゃん。支援なら支援特化ビルドよろww」という感じで言われることが間々あるので、非常に気疲れするのだ。
なら、友達を誘って狩りに行けばいいじゃない、というのは持てる者の発想。それができたら、こうして溜め息を吐いてはいないわけで。
「や、わたしにだって友達はいる。いるわよ、もちろん。ええ、もちろん。……でも、レベルやプレイスタイルが合わないのよね……というか、まあ、はっきり言うと……下手なのよね、わたし」
ナナカセが支援職の代名詞である称号【神官】を冠しながら固定の狩り仲間を持たない理由は、彼女がとってもゲーム下手だからだった。
彼女はこれが初めてのVRゲームで、初めてすぐの頃にたまたま拾われて入ったチームが、このゲームにしては珍しくガチな武闘派チームだった。
雨の日の不良の気紛れで拾われた仔猫よろしく加入したナナカセは、そのチームでしばらく頑張って揉まれてみたけれど、最終的にはかなり直裁に脱退を促されて、それに従った。そうして彼女が手にしたたったひとつの収穫は、どうやら自分は下手くそらしい、と分かったことだった。
以来、ナナカセはチームに入ったり固定の仲間を作ったりすることなく、適性レベルよりも一段低い狩り場で地道にソロ狩りしたり、野良パーティに混ざることでここまでキャラを育ててきた。そして、ようやっとのことで【召喚:天使】を修得したというのに、さらにMP増強の手段を用立てなくてはならないという――。
「心が折れるわ……」
ナナカセは狩りに出る気力も湧かずに、街の中央広場に設えられたベンチに腰掛けて、ぎとぎとに甘いシュークリームで自分を慰めていた。
そこに個人チャットが飛んでくる。
『ナナちん、おひさー。いま時間あるー?』
間延びした口調で話しかけてきたのは、数少ない友人の一人だった。
「アイナ、ひさぶり。いま大丈夫よ。どうしたの?」
視界の正面にぱっと開いた小窓に映る相手の顔を見ながら、ナナカセは挨拶を返す。このモニターはカメラにもなっていて、アイナのほうにもナナカセの顔が見えているはずだ。
『ナナちん、確かさ、天使召喚したがってたよね?』
「ええ。でも、MPが全然足りないことに気づいて、いまちょっと途方に暮れていたところよ」
『それはなんとタイミングばっちしー』
「え?」
『あのね……あたし、この前、MPがすっごく増える装備をゲットしたの。で、そうえいばナナちんが覚えるって言ってた天使召喚って、MP特化の構成じゃないとまともに使えないって話だけど、この装備を欲しがるかなーって思って、いま連絡したんだけど……どぉ?』
「欲しいッ!! 売ってッ!!」
ナナカセはモニターに齧りつく勢いで答えた。
『わぉ、食いつきすごっ』
モニターの向こうで、アイナが笑いながら仰け反る。
「そりゃ食いつくわよ……あっ、でも……」
『お高いんでしょう、って?』
「うん……」
『なら、お金はいいよ。今度、狩りに付き合ってくれればさー』
「えっ」
アイナの狩りはだいたい、エッチなことだ。
彼女が相方と二人で、ゴブリンからミノタウロスから歩く磯巾着から、とにかく倒すついでにエッチしてまわっていることを、ナナカセは本人の口から何度となく聞いていた。それだからこそ、気心の知れた友人なのに、一緒に狩りをすることがないのだった。
「……考えておくわ」
『え、本当? やったー!』
「でっ、でも、不定形とか虫系とか絶対なしだから!」
『分かってるってー。初心者向けの人型からにするから♥』
「お手柔らかにお願いします……」
『じゃ、売買契約は成立ってことでー……はい、ぽちっと操作完了』
ぴろりん、と通知音がして、モニターの横に封筒のアイコンが表示される。アイナからアイテムが送付されたことのお知らせだった。
「アイナ、ありがとう!」
『気にしないでいいよー。んじゃ、あたしは落ちるね。おやすみー』
「ええ、おやすみ」
アイナが手を振ったのを最後に、モニターがぷつんと消えた。そして、視界の端に移動した封筒のアイコンだけが残る。
「どれどれ……」
などと呟きながら、ナナカセは封筒に視線を向けながら、右手の親指と人差し指をくっつけて離す仕草。
封筒が開封されて、アイテムの画像が表示された。
「……えー」
見た瞬間、ナナカセはなんとも言えない顔になった。
アイナがくれたMP増強アイテムは、その名も「古代のパンツ」という、穿き古されて黄ばんだ女性下着だった。
黄ばみパンツの画像を見ていると、説明文が浮かび上がってくる。
・古代のパンツ
古の時代の巫女が愛用していた下着。巫女の魔力をたっぷりと吸い込んでいる。
装備時能力: MP増強(大)、【召喚:天使】以外の技能に負補正
特記事項: これを装備して天使を召喚すると……?
「あ……これ、あれね」
ナナカセは説明文を見て思い出した。
これは自分のような下手くそやエンジョイ勢でも、とりあえず天使召喚を使えるMPが確保できますよ、という救済措置みたいな形で追加されていた装備だ――と。
ナナカセも攻略サイトを見たとき目にしていたはずの情報なのに、すっかり忘れていた。
「とにかく、これがあれば天使を呼べる……!」
このパンツで増強されるMPと、すぐにでも買える一時的にMP増強できる秘薬とを併せれば、必要なMPは確保できる。
ついに、ようやく、天使を呼び出せるのだ――その思いに、ナナカセの胸は高鳴った。
「天使……やっと……やっと、あのイケメンをぺろぺろできる!」
ナナカセが支援特化の【司祭】ではなく、契約した天使に戦ってもらうソロ寄りの称号【聖女】を目指そうと思った理由――それは、天使たちが乙女ゲーム路線の非実在性男子だからだった。
仕事の疲れを癒す偶像が、女には必要なのだ。その偶像が実在性か非実在性かは人によるけれど、ナナカセは断然、後者の人だった。
「手段が手に入ったのなら、善は急げね。今夜は徹夜確定よ……ふふ、ぐふふっ♥」
ナナカセは欲望に目を濁らせて、ぐふぐふ笑う。
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