ドスケベ・オンライン

Merle

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ヘッズ・ワンダードリーム 1/4

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 このゲームには、魔法の原動力ソースとして【魔力】が設定されている。またそれと同時に、その魔力を供給されて魔法から魔術を出力する発動機エンジンとして【精霊】が設定されている。
 【精霊】は火や風のような属性ごとに設定されていているのだが、そうして属性分けされた後に残った、いわば無属性の精霊は【神霊】ということで一纏めにされていた。
 そんな【神霊】属性の魔術士称号【霊媒師コンジャラー】を持つのが、少年PC・アストリアだ。
 彼はマイナーな神霊系魔術士だということも特徴的だが、それ以上に特徴的なのは、成分無調整の無課金アバターなのに、調整済み課金アバター以上に美少年だというところだ。

「あぁ……僕よ、どうして僕は僕なのだい?」

 今日も今日とて、アストリアはお気に入りスポットの湖畔に座って、水面に映った自分の顔に問いかける。
 陽光を照り返す銀髪ショートカットは、ふわふわの巻き毛で綿菓子のよう。鼻筋が細く見えるのは、きっと青色の瞳がくりっくりだから。なお当然のように、卵形の輪郭を描く頬には艶やかな薄紅が刷かれていて、唇は瑞々しい桃色をしている。
 着ているものは半袖半ズボンのセーラー服で、完璧に見た目重視の装備だった。

「はぁ……」

 湖面を覗き込んで、何度目かの深い溜め息を吐くアストリア。
 憂いげに伏せられた長い睫は、それもまたアストリアの美貌を際立たせている。というよりも、悲しもうが嬉しがろうが、彼に似合わない顔はないだろう。
 そう、彼は自他共に認める美少年だ。だからこそ、彼は憂鬱なのだ。

「あぁ……こんなに可愛い僕と付き合えないなんて、僕はなんて可哀相なんだ……!」

 アストリアは自分で自分を抱き締めて、血を吐くような思いで呻く。
 でも、いくら両腕に力を込めて、違うのだ。自分で自分を抱き締めるのでは、世界一美しいひとを抱き締めることにはならないのだ。

「不幸とは、自分より美しいひとと出会うことができないことだ――あぁ!」

 空しい抱擁を止めた手は、湖面に映る己自身の顔へと伸びる。だが、その指が世界一美しい少年の頬に触れることはない。触れた途端に、波紋が走って少年の美しい顔を掻き消してしまう。

「……でも、もう少しだ」

 波紋に揺さぶられて苦しんでいる自分へと、アストリアは語りかける。

「もう少しで出会えるから。だから……あぁ、だからどうか、悲しまないで待っていておくれ」

 次第に消えていく波紋の向こうから再び現れた美少年は、夜の砂漠を往く旅人が北極星を見上げるときのように、希望に輝く瞳をしていた。


    ●    ●    ●


 南部大陸の北方に位置して、大森林を北に見据えるエルフ森王国。
 大陸南端に広がる大内海を擁する一大国家、カナン帝国。
 その中間にあって、両者の交通を東西に迂回させている大山脈がある。そこはただ踏破困難な難所というだけでなく、高レベルモンスターの棲息地として知られている。この山脈に入っていくのは、魔物狩り大好きな高レベルPCくらいだ。死ぬと本当に死んでしまう可能性が高いNPCは、ほとんど近づかない。
 そんな危険地帯を東回りと西回りに迂回する二本の南北交易路には、それぞれ道なりに幾つかの宿場町や、東西から延びてきた他の街道との交点になる交易都市が点在している。
 天然美少年霊媒師PC・アストリアがいるのは、そんな交易都市のうちのひとつだった。

 アストリアは街外れの奴隷商店に入る。
 奴隷商の店は他にもあって、基本的に街の中心地、すなわち貴族や富豪の居宅に近いところにある店のほうが品格も高くなる。また、そういう店ほど、奴隷の売値も高くなる。
 だが、一芸特化タイプの変態であるアストリアに、お金稼ぎに興味も才能もない。そのため、一番安い奴隷商のところにしか行けなかった。
 とはいえ、奴隷商の品格が必ずしも、商品どれいの質と直結するわけではない。品格の高低は、扱う奴隷の教養や美醜に強く関わってくる要素で、例えば戦闘力だとかにはあまり影響してこないものだ。なので、アストリアが苦手な戦闘を代わりにやらせるための奴隷を欲しているのであったなら、街外れの奴隷商を訪うのは正しい選択だったと言えよう。
 だが、アストリアが奴隷を欲した目的は、そういうことではなかった。
 ただ女が欲しかっただけだ。よっぽどの肥満体や年増、性病持ちなどでなければ、どんな女でも良かった。

 ――ということで、買った。
 場末の奴隷としては極々普通の見た目で、能力的にもぱっとしなくて、何の取り柄も特徴もない少女を一人買い入れた。

「……」

 アストリアに買われた奴隷――人間少女のNPCは、先に立って歩くアストリアの後を無言で追いかけている。
 奴隷であることを示す首輪などはしていない。そういう契約を交わしたことはシステムに記録されるので、名前を見るのと同じ要領で確認できるのだ。
 それに、契約の程度レベルにもよるが、奴隷は逃げたり逆らったりすることができなくなるので、首輪も鎖もなしに後ろを歩かせていても平気なのだ。
 まあもっとも、かりに上手く逃げることができたとしても、何の取り柄も元手もない少女が生活するのは辛いだけだ。だからそもそも、逃げる必然性がないのだった。

 少女を連れたアストリアは、街の中程にある中級クラスの宿に入る。奴隷を連れていることについては、何も言われなかった。
 取った部屋に入ったところで、アストリアは少女を寝台に寝かせた。
 ここまで、少女は一言も喋らず、また首を横に振ることもなく、諾々と従っている。その顔に、これといった表情は浮かんでいない。これから自分が何をされるのか、想像がつかないわけでもなかろうに、呼吸を乱すことも頬を上気させることもない。淡々としたものだ。

「そのまま待っているように」

 アストリアは奴隷少女にそう告げると、もうひとつのベッドに自分も横たわる。この部屋は二人部屋なので、ベッドもふたつ並んでいるのだ。

「できるだけ心を無にしていてくれ」
「……はい」

 奴隷少女が蚊の鳴くような声で返事をすると、アストリアは目を瞑って意識を集中――脳裏に映したメニューを焦点操作して、その魔術スキルを使用。数秒の待機時間キャストの後、発動する。
 ふわっ、と浮き上がる感覚を受けて、アストリアは目を開ける。天井が少しだけ近づいていて、海というか塩湖に浮かんでいるような浮遊感がする。
 身体の上下をくるりと反転させると、眼下には自分の身体が目を閉じて寝ている。つまり、アストリアの知覚が身体アバターから分離して浮かび上がったのだ。
 これが神霊魔術【幽体離脱アウトオブボディ】の効果だった。
 幽体離脱に成功したアストリアは、隣のベッドで仰向けに寝そべって天井をぼんやり見上げている奴隷少女に近づいていった。ふわふわと浮いている意識は、泳ぐ真似をする必要さえなく、そちらに進むことを意識しただけで、すぅっと流れていく。
 意識だけで浮遊しているアストリアは、少女を頭上から見下ろす。少女はそれが見えておらず、アストリアを通りこして天井を眺めているままだ。
 そんなぼんやりしている少女の身体を目がけて、アストリアの意識はと落っこちていった。

「あっ」

 少女の身体が、心臓に電気ショックを受けたように大きく一度、跳ねた。
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