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ヘッズ・ワンダードリーム 2/4
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「あっ」
少女の身体が、心臓に電気ショックを受けたように大きく一度、跳ねた。
仰け反った背中が、どさっとシーツに落ちる。
「えっ」
直後、隣のベッドで寝ていたアストリア――の身体のほうが目を見開き、驚きの声を上げた。
アストリアの反応とは対照的に、奴隷少女はゆっくりと身体を起こす。
「……ふぅ」
細く長い息を吐きながら、ゆっくりと両手を伸ばして、指を一本ずつ順に閉じては開かせる。それから、自分の顔や身体を撫でまわしていく。それらの行為は、道具に故障がないかを確かめる職人のようでもあった。
「え……わたしが、そこに……?」
アストリアは隣のベッドで自分自身を触診している奴隷少女を見て、円らな瞳をいっそう大きく瞠らせていた。
そんな主人にゆっくり振り向き、奴隷少女はくすりと頬笑む。
「分かるだろう? 魔術で、僕と君の精神を入れ替えたんだ。ああ、寝ていてくれ。その身体に傷がついたら大事だからね」
「……!」
奴隷少女が「寝ていて」と言った途端、アストリアはびくっと身震いした後、また仰向けに寝そべった。
アストリアと奴隷少女は意識と身体を入れ替えたが、奴隷契約の主従関係は意識のほうに準じるのだ。
「なんで……?」
寝ているアストリアの身体が、いまはアストリアのものになっている自分の身体を目だけで見やって呟く。
奴隷商のところで買われたときからずっと諦観を通してきた少女も、主人に身体を乗っ取られるのは予想を超えていて、理由を聞かずにいられなかったようだ。
これが、年老いた醜男に身体を入れ替えられた、というのだったら、少女も納得はできずとも理解はできていたことだろう。だが、アストリアは少女よりもずっと恵まれた容姿の美少年だ。この芸術品のような身体から、自分の貧相でありふれた身体に乗り換えるのでは、損をしているようにしか思えなかった。
――あ、女性になりたいのかな?
少女(見た目はアストリア)がそう思ったとき、まるで心が読めているかのようなタイミングで、アストリア(外身は奴隷少女)は唇を尖らせた。
「言っておくけど、僕はべつに女になりたいわけじゃないから。僕は僕を愛したいだけだから」
「……?」
残念ながら、少女にはアストリアの心どころか、言っていることさえよく理解できなかった。
アストリアのほうでも、べつに分かってもらうつもりはないらしく、少女の返事を待つことなく滔々と語り続ける。
「ああ、僕よ。僕はどうして僕なのか? もし僕が僕でなければ、僕は僕と出会い、僕を抱き締めることができたのに! ――僕は世界一美しいひとと出会うことができない、この世で唯一の、そして最も不幸な人間だ。そのことがずっと、僕を悲しみの淵に追いやっていた。水面に映る僕はいつも泣いていて、なのに僕は、その僕の頬に零れる涙を拭う術すらもたない憐れなピエロだった。けれども、水面の僕は僕に教えてくれた。鏡像に触れることができないのなら、本物に触ればいいのだ、と!」
「……」
奴隷少女の――アストリアの顔は微妙に引き攣っていた。
ここまで無感動、無表情で通してきた少女だが、身体を入れ替えられるという体験に、その外面は剥がされてしまったようだ。
動揺している自分の顔を前にしても、いまは少女のアストリアは気にしたふうもない。ベッドから立ち上がると、自分の身体が寝ているほうのベッドに近づいていく。
「え……」
アストリアの身体をした少女は、寝たまま身動ぎする。「寝ていろ」と命令されているのにも関わらず、反射的に起き上がって逃げようとしたからだ。
逃げることのできない少女は、不安に瞳を潤ませる。
「ああ――」
少女の姿をしたアストリアの口から、官能に蕩けた吐息が零れる。差し伸ばされた手が、美少年の頬に触れる。
「――やっと、触れた……ああ、待たせたね、僕……ああっ」
アストリアは少女の手を使って自分自身の頬を撫で、その感触に身震いをする。その幸せを噛み締める。その頬を感涙が伝っていく。
「あぁ、すべすべの手触り……なんて素敵なんだ……あぁ……!」
「……あ、ぅ……」
何をされるのか緊張していた少女は、頬を撫でられるだけで済んだことに安堵するも、緊張を完全に解きはしない。まだこれから何をされるのか、分かったものではないからだ。
アストリアは少女の緊張に構うことなく、頬を撫で続けている。
「あぁ……すべすべ、あぁ……さらさら……ああぁ!」
「……」
いつまでも飽きずに撫でているアストリアに、緊張に強張っていた少女の顔も呆れたように緩んでいく。そのおかげで頬の撫で心地は一層ぷにぷにになって、アストリアの顔はさらなる至福で蕩かせていく。
いまのアストリアはどこにでもいる平凡な奴隷少女の顔なのだけど、それがここまで魅力的な顔になるものなのかと、アストリアの中の少女は少なからぬ感動を覚えていたりする。
自分がしたことのない表情の自分に見下ろされ、頬を撫でられている不思議な時間――。
少女はだんだん本当に、心を許し始めていた。
だから、アストリアが主人の権限で少女を装備解除させたときも、自分が全裸にされたのだと気づくまでに三秒も要してしまった。
「……、……えっ」
なんで、と目顔で問いかける少女に、アストリアはまだ気づいていない。興奮しててかてかと火照った笑顔で自分も装備全解除して、少女の身体――少女の意思が入った全裸の自分自身に跨がってくる。
「えっ」
今度はもっとはっきり声に出したことで、アストリアも少女の戸惑いに気がついた。が、そんな少女に向けられたのは、赤ん坊をあやすような笑顔だった。
「君は何もしなくていい。全部、僕がするから、君はただ性感を掻き立てられるままに悶え、性欲の赴くままに勃起し、喘いでいるように」
「……えっ」
結局、少女は「えっ」としか言えないのだった。
少女の身体が、心臓に電気ショックを受けたように大きく一度、跳ねた。
仰け反った背中が、どさっとシーツに落ちる。
「えっ」
直後、隣のベッドで寝ていたアストリア――の身体のほうが目を見開き、驚きの声を上げた。
アストリアの反応とは対照的に、奴隷少女はゆっくりと身体を起こす。
「……ふぅ」
細く長い息を吐きながら、ゆっくりと両手を伸ばして、指を一本ずつ順に閉じては開かせる。それから、自分の顔や身体を撫でまわしていく。それらの行為は、道具に故障がないかを確かめる職人のようでもあった。
「え……わたしが、そこに……?」
アストリアは隣のベッドで自分自身を触診している奴隷少女を見て、円らな瞳をいっそう大きく瞠らせていた。
そんな主人にゆっくり振り向き、奴隷少女はくすりと頬笑む。
「分かるだろう? 魔術で、僕と君の精神を入れ替えたんだ。ああ、寝ていてくれ。その身体に傷がついたら大事だからね」
「……!」
奴隷少女が「寝ていて」と言った途端、アストリアはびくっと身震いした後、また仰向けに寝そべった。
アストリアと奴隷少女は意識と身体を入れ替えたが、奴隷契約の主従関係は意識のほうに準じるのだ。
「なんで……?」
寝ているアストリアの身体が、いまはアストリアのものになっている自分の身体を目だけで見やって呟く。
奴隷商のところで買われたときからずっと諦観を通してきた少女も、主人に身体を乗っ取られるのは予想を超えていて、理由を聞かずにいられなかったようだ。
これが、年老いた醜男に身体を入れ替えられた、というのだったら、少女も納得はできずとも理解はできていたことだろう。だが、アストリアは少女よりもずっと恵まれた容姿の美少年だ。この芸術品のような身体から、自分の貧相でありふれた身体に乗り換えるのでは、損をしているようにしか思えなかった。
――あ、女性になりたいのかな?
少女(見た目はアストリア)がそう思ったとき、まるで心が読めているかのようなタイミングで、アストリア(外身は奴隷少女)は唇を尖らせた。
「言っておくけど、僕はべつに女になりたいわけじゃないから。僕は僕を愛したいだけだから」
「……?」
残念ながら、少女にはアストリアの心どころか、言っていることさえよく理解できなかった。
アストリアのほうでも、べつに分かってもらうつもりはないらしく、少女の返事を待つことなく滔々と語り続ける。
「ああ、僕よ。僕はどうして僕なのか? もし僕が僕でなければ、僕は僕と出会い、僕を抱き締めることができたのに! ――僕は世界一美しいひとと出会うことができない、この世で唯一の、そして最も不幸な人間だ。そのことがずっと、僕を悲しみの淵に追いやっていた。水面に映る僕はいつも泣いていて、なのに僕は、その僕の頬に零れる涙を拭う術すらもたない憐れなピエロだった。けれども、水面の僕は僕に教えてくれた。鏡像に触れることができないのなら、本物に触ればいいのだ、と!」
「……」
奴隷少女の――アストリアの顔は微妙に引き攣っていた。
ここまで無感動、無表情で通してきた少女だが、身体を入れ替えられるという体験に、その外面は剥がされてしまったようだ。
動揺している自分の顔を前にしても、いまは少女のアストリアは気にしたふうもない。ベッドから立ち上がると、自分の身体が寝ているほうのベッドに近づいていく。
「え……」
アストリアの身体をした少女は、寝たまま身動ぎする。「寝ていろ」と命令されているのにも関わらず、反射的に起き上がって逃げようとしたからだ。
逃げることのできない少女は、不安に瞳を潤ませる。
「ああ――」
少女の姿をしたアストリアの口から、官能に蕩けた吐息が零れる。差し伸ばされた手が、美少年の頬に触れる。
「――やっと、触れた……ああ、待たせたね、僕……ああっ」
アストリアは少女の手を使って自分自身の頬を撫で、その感触に身震いをする。その幸せを噛み締める。その頬を感涙が伝っていく。
「あぁ、すべすべの手触り……なんて素敵なんだ……あぁ……!」
「……あ、ぅ……」
何をされるのか緊張していた少女は、頬を撫でられるだけで済んだことに安堵するも、緊張を完全に解きはしない。まだこれから何をされるのか、分かったものではないからだ。
アストリアは少女の緊張に構うことなく、頬を撫で続けている。
「あぁ……すべすべ、あぁ……さらさら……ああぁ!」
「……」
いつまでも飽きずに撫でているアストリアに、緊張に強張っていた少女の顔も呆れたように緩んでいく。そのおかげで頬の撫で心地は一層ぷにぷにになって、アストリアの顔はさらなる至福で蕩かせていく。
いまのアストリアはどこにでもいる平凡な奴隷少女の顔なのだけど、それがここまで魅力的な顔になるものなのかと、アストリアの中の少女は少なからぬ感動を覚えていたりする。
自分がしたことのない表情の自分に見下ろされ、頬を撫でられている不思議な時間――。
少女はだんだん本当に、心を許し始めていた。
だから、アストリアが主人の権限で少女を装備解除させたときも、自分が全裸にされたのだと気づくまでに三秒も要してしまった。
「……、……えっ」
なんで、と目顔で問いかける少女に、アストリアはまだ気づいていない。興奮しててかてかと火照った笑顔で自分も装備全解除して、少女の身体――少女の意思が入った全裸の自分自身に跨がってくる。
「えっ」
今度はもっとはっきり声に出したことで、アストリアも少女の戸惑いに気がついた。が、そんな少女に向けられたのは、赤ん坊をあやすような笑顔だった。
「君は何もしなくていい。全部、僕がするから、君はただ性感を掻き立てられるままに悶え、性欲の赴くままに勃起し、喘いでいるように」
「……えっ」
結局、少女は「えっ」としか言えないのだった。
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