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Merle

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遅漏剣叢々 3/3

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「……今日、ダンジョンでセックスしなかったの、どうしてなんですか?」

 食後のデザートにしては甘すぎたキスに満足した頃、ユリアナがぽつりと問いかけた。

「む……?」

 ギンジは眉根を寄せる。

「さっきの話です。ほら、怪魚宮で女装のPCひとに誘われたけれど断ったって、ギンジさん、言ったじゃないですか」
「ああ、それか」
「それです」

 質問の意味を理解したギンジに、ユリアナは小さく頷く。それから、僅かな躊躇い挟んで、言った。

「……その二人が女性だったら断りませんでした?」
「む……」

 ギンジの眉根がさらに寄る。元々強面なのがいっそう凶相になるけれど、ユリアナは目を逸らさない。ギンジの内心を見透かそうとするように見つめたまま、答えのないギンジになおも問う。

「ギンジさんは狩りの後に昂ぶるんですよね。わたしを呼ぶの、いつも、狩りの後ですもんね。……でも、だったらおかしいですよね。そのタイミングでセックスに誘われて断るなんて。その誘い、渡りに船でしたよね。それなのに断ったのは、その二人が男性だったからですか? 相手が男だと、ギンジさんはセックスできませんか?」
「……なぜ、お手前が斯様かようなことを聞きたがるのかが分からぬが――」

 と前置きをして、ギンジは左下を見ながら続けた。

「件の二人が男だから同衾しなかった――というわけでは、ない。それはまず断言できる。なぜならば、某は件の二人に迫られ、性器を弄られて、果てたからだ。確かに、あの二人の股間に逸物がいきり立っているのを見たときは戸惑ったが、それだけだ。生理的に無理なのならば、性器を触られて勃起、まして射精などしようはずがあるまい」
「だったら尚更、セックスしなかったのはおかしくないですか? 矛盾してません?」

 ユリアナはギンジの言葉に納得しかねたらしく、なおも食い下がってくる。いつになく執拗な様子に、ギンジもさすがに訝しんだけれど、答えには迷わなかった。

「矛盾しておらぬ。某は、狩り場ダンジョンでは射精せぬと決めているのだ」

 そう言って、ギンジは空間収納インベントリから得物の小太刀を取り出してみせた。

「この刀は妖刀叢々むらむらという。知っているかもしれんが、妖刀カテゴリの刀は須く不利な付加効果がある呪われている。叢々の場合は、この刀で攻撃するたび性欲が刺激されるのだ。そして、この効果中に射精してしまうと攻撃力がゼロになってしまうのだ」
「……狩りの前に射精しヌいておくのは駄目なんですか?」
「駄目なのだ。性欲が溜まらない状態だと、やはり攻撃力がゼロになるのだ」
「そうなんですか……」

 ユリアナは納得しかけたが、はたと気がつく。

「って、それなら尚のこと、狩りが終わった後はセックスしたくなるということですよね。ナンパを断ったのは矛盾するじゃないですか」
「まあ、聞け」

 逸るユリアナを苦笑で抑えて、ギンジは続きを話す。

「この妖刀叢々を使いこなすために、某の逸物には遅漏の紋が刻まれているのだ」
「……淫紋」

 遅漏淫紋。それを刻印された男性器は、性的興奮を滞留プールすることができるようになる。性感を無効にするものではないため、妖刀叢々が攻撃不可になることはない。

「それ故、この紋を励起している間、某は勃起できんのだ。それが、某が件の二人と交合らなんだ理由だ。納得めされたか?」

 だが、ユリアナはまだそれでも納得しなかった。

「でもギンジさん、今日はわたしを呼ぶ前に射精してましたよね? 勃起できないのに、どうしてですか? それとも、その淫紋は自由に解除できるんですか?」
「……説明が足りなかった。まず、遅漏紋は一度発動させたら限度を超えるまで切ることはできない。それ故、普段はそうなる前に余裕を持って狩りを切り上げている。今日もそのつもりだったのだが、件の二人に嬲られて、予定よりもずっと早く限界を迎えて……射精してしまった、という次第だ」
「なるほど……」

 ユリアナは頷きながら、ギンジの言葉を咀嚼している。そこへ、ギンジは噛んで含めるように告げる。

「某は件の二人に欲情した。であればこそ、某は射精したのだ。……だから、某が二人の誘いを断ったのは、相手が男だったからではない」

 そこで言葉を切ってしまったギンジに、ユリアナは小首を傾げる。

「……なら、断ったのはどうしてですか?」

 その問いに、ギンジは視線を忙しなく泳がせたものの、最後には白状した。

「某は狩り場では射精せぬと決めているから……つまり、その、宿に戻ってユリアナ殿と致すまで射精せぬと決めているから、で……ござる……!」

 言っている途中から、ギンジの顔は真っ赤になっていた。熟れた林檎みたいになったその顔を、キスのできる距離で見つめているユリアナの顔にあるのは――悪戯っぽい微笑みだった。

「ふぅん、へぇ……そうですか。ギンジさん、そうだったんですか」
「むっ……連日のようにお手前を指名しているのだ。そのくらい、お手前も察しているであろうに……!」

 【召喚:淫魔】の技能を持たずとも淫魔召喚できるようになる使い捨て課金アイテムの、さらに高額版を使わなければ指名召喚はできない。それを何度も使うというのは即ち、そういう意思表示だ。少なくとも、それを匂わせるに足る行為だ。

「まあ、そうですけど……いまの話で大事なのは、そこじゃないんです」
「む……?」

 ユリアナにからかわれたと思って目つきを険しくしていたギンジだが、頬笑んでいるユリアナの瞳に真剣さを見出して表情を改める。

「ギンジさん……わたし、嬉しいです。ギンジさんが男性相手でもいける口だと分かって♥」

 そう言ったユリアナの顔に浮かんでいるのは、大輪の花がいま咲いたかのような笑顔だった。

「む……ユリアナ殿、それはどういう意味か――」
「いまはまだ秘密です♥」
「――むっ」

 ギンジは納得しかねる様子だったけれど、ユリアナにキスで唇を塞がれると、眉間に薄ら刻まれていた皺も緩んでいく。くちゅくちゅ、と舌同士を絡ませる快楽に、すぐに他のことはどうでもよくなってしまう。

「む、ん、んぅ……」
「ふぁ、あっ……あっ……わっ♥ ギンジさんのおちんぽ、また硬くなって……もう一回、します?」

 キスの合間に、唇を触れ合わせながらささやかれる蠱惑的な提案。
 ギンジに否やがあろうはずもなかった。
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