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第十三話
忍び寄る影②
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青白い肌の色が一層の不気味さを醸し出す男の、頬に掛かる長めの前髪は中央で分けられ、肩よりも長い髪は確かに白く、声も出ない程驚くヴェロニカに。
「どうされました?幽霊か何かでも見る様な顔をして……ふふ、やはり貴方の美貌は恐怖に歪んでこそ其の美しさが際立つ。私の思った通りです。ねぇ?クリストファー=リーデルくん」
橄欖石の神秘的な瞳を細め、ゾッとする程恍惚とした表情を浮かべる男は、そう言ってヴェロニカへ微笑み掛けながらも心を見透かそうと彼女の反応を窺う。
時が止まった様な一瞬の静寂の後に───。
「失礼ですが、何処かでお会いした事が?」
何で僕の名前を。そう問い質したい気持ちを必死で抑えて、痛いくらいに早鐘を打つ心臓の音には気付かない振りをしながら、ヴェロニカは努めて冷静に切り返した。
イザベラについて、延いては必然的に魔女狩りについて嗅ぎ回ってる事に気付かれたのだろうか。だが、それにしては早過ぎる。白髪の男の情報をヴェロニカが知ったのはついさっきだ。
とあれば、彼は元々ヴェロニカを、『第二王子付第一師団のクリストファー=リーデル』を知っていたのだと考える方が自然だろう。
王宮に出入りしている貴族が、魔女狩りの実行犯と噂される男が目の前の白髪の男だとしたら、ヴェロニカを王宮の何処かで見掛けていても不思議ではない。
それに、イザベラの事を探している事を誰にも知らせなかった様に、この男にだって知られている筈も無いのだから、必要以上に警戒して見せるのは得策ではないと判断し、だが、見知らぬ男へ声を掛けられたという当たり前の不信感を僅かに乗せたヴェロニカへ。
「あぁ、名乗りもせずに大変失礼致しました。こんな場所でまさか貴方に会えるとは思ってもみなかったものですから……嬉しさの余りに気が急いてしまったのです」
申し訳なさそうに苦笑を浮かべては恭しく頭を下げる男は、言葉の端々から彼女への敬意を覗かせる。そんなものを払われる覚えの無いヴェロニカにとっては、其の畏まった態度が酷く異様に映ってならない。
「申し遅れましたが、私はイジドア=マヘルと申します。大きな声では言えませんが、一応、王太子殿下の侍従長を務めさせて頂いている者です」
得体の知れない空恐ろしさを纏う男は、紳士然とした仕草で胸元へと手を遣りながら、声を潜めてさらりと告げられた身分を、直ぐには理解出来ずにいたヴェロニカだったが。
「お、王太子殿下って…」
「えぇ、この国の第一王子であらせられる、ドゥーガルド=ローゼンクロイツ様、其の人ですよ」
この国の第一王子であるドゥーガルド=ローゼンクロイツ。その方はヴェロニカが仕えるオースティンの異母兄であり、この国の王位継承権第一順位にあたる人物である。
というくらいにしかヴェロニカは第一王子について多くを知らないのだが。
(ちょっと待って、じゃあやっぱり……)
魔女狩りの実行犯とされる人物の特徴によく似たイジドア。イジドアの主の第一王子。魔女狩りが王命にて行われているのではないか、とイザベラは疑っていたが、其の可能性がより深まり、思わず思案に耽って黙り込むヴェロニカに。
「業務内容としましては、ドゥーガルド様の護衛に、身の回りのお世話から───と、失礼します」
相変わらずのゾッとする様な白々しい笑みを浮かべた儘、イジドアの手が不意にヴェロニカの頭へと伸ばされ。
「…っ」
何をされるのかとビクリと身を竦める彼女の髪に触れた指が、ひょいと何かをつまみ上げた。
「ふふ……兵役適性試験の日に初めてお見掛けした時にも感じましたが、貴方は其の繊細な美貌からは想像もつかない程、お転婆な様ですね」
森を抜けて来たからか、知れず頭へ乗せていたらしい、小指の第一関節分くらいの小さな葉を、警戒しているのが申し訳なくなってしまう様な気安さで見せて来るイジドア。
「あ、りがとう、ございます」
毒気を抜かれて辛うじて絞り出した感謝の言葉に、いえいえ、と首を振った男は、自分のフロックコートのポケットに其の葉を入れると、ヴェロニカへ向かって手を差し伸べる。
「立ち話もなんですから、座りましょうか?」
女性を相手に、エスコートするみたいに差し出された手に戸惑いながらも重ねたヴェロニカは、初めに抱いた警戒心を僅かに解きつつ、すぐ側のテーブル席の椅子を引いてくれたイジドアに促されるが儘に腰を下ろし、対面席に座る男を待つ。
(何だか変な事になっちゃったけど……この人が本当に魔女狩りの実行犯だとしても、これだけ人目があるんだから下手な事は出来ないだろうし)
元々白髪の男を探して、其の男の情報を得る為に劇場まで来たのだ。当人かも知れない男に直接問い質すチャンスだと思えば、この機会を逃す手はない。
どれだけの危険が待ち受けているかは分からないが、今すぐに消されるなり実力行使に出られる事はまず無いだろう。
其れに黙って殺されてやるつもりも無いヴェロニカは、イザベラを追うだけでなく魔女狩り事件の全貌に立ち向かう覚悟を決めて、劇場のスタッフにドリンクをオーダーしてから腰を下ろすイジドアを真正面から見据えた。
「葡萄酒で宜しかったですか?」
「はい、有難うございます。───イジドアさんは王太子殿下の侍従長を務めてらっしゃるんですよね?今、ここにいるのもお仕事で?」
世間話をするみたいにニコリと笑みながら、単刀直入に、だが一先ずは探りを入れてみる。
魔女狩りに関係する事で、仕事で此処に居るのだとしても恐らくは本当の事を話さないだろう。だが過剰に反応でもしてくれたら儲けものだ。それくらいの軽い気持ちで相手の出方を窺うヴェロニカだったが。
「今は業務時間外ですよ。単純に美しい女性の裸体が見たくて此処に通っているんです。完全に私の趣味です」
平然と『女の裸が見たい』と言っているにも関わらず嫌らしさを感じないのは、余りに堂々と言い切られたからだろう。性の匂いを感じない、というのもある。
たがそんな風に切り返されると思わなかったヴェロニカは、想定外過ぎて。
「女性の裸……お好きなんですか?」
男にそんな事を聞くだなんて愚問だが、何て返して良いか分からず、気付けばそんな実のない質問を口にしてしまっていた。
聞かずとも、彼は男なのだから好きに決まっている。
「えぇ、私も男ですからね。美しい女性の身体を飽きる程に堪能したい───という卑欲を人並みに抱いています。ふふ……そういう貴方は何故此処へ?」
恥ずかしげもなく微笑みながらやはり言い切る男は、温厚そうな紳士にしか見えないのに、本気か冗談か、俗っぽいことばかり口にする。だが、こうして話していても常に別の事を考えているような、心ここに在らず、と感じさせるイジドアの雰囲気に真意が読めず。
「僕は、瑪瑙館のイザベラを探しに来たんです」
目の前の男が例の男なのか。そうだとしたらどう取り繕うのか。運ばれて来た葡萄酒の入ったグラスを口元へ運ぶイジドアの表情に注視しながら、ヴェロニカも彼と同様、ワイングラスを手に取る。
「あぁ、そういえば彼女は君の友人であるブロワー卿の恋人でしたね」
その言葉に傾けていたグラスを一瞬止めて、直ぐに傾ける。
(デイヴが友達だって事まで知ってるの?)
ヴェロニカの方は面識が無いのに、入団したばかりの自分をイジドアは随分と気にかけているらしい。
(ううん、そんな事より)
やはりイジドアはイザベラの事を知っているのだ。デイヴの恋人である事まで知っているとあれば、最早『瑪瑙館のイザベラ』なんて贔屓にしている客の体を装う必要は無くなった。
友人の名前を出してしまうのも気が引けると思ってその体を装ったヴェロニカだったが、デイヴとイザベラの関係をイジドアに知られているだけでなく、ヴェロニカの友人である事まで把握しているのだから、シンプルに「行方不明になった友人の恋人を探している」という理由で良い。
「彼女が、一昨日此処へ来たそうで」
葡萄酒を飲み干し、グラスをテーブルへ置いたヴェロニカは、イジドアの顔色を窺いながらそう切り出すと。
「えぇ、私に会う為にこちらにいらしたんですよ」
「貴方に?」
余りにあっさりと認められ、何か裏があるのではと警戒するヴェロニカを他所に。
「はい。私と彼女は協力関係にあります」
にこりと笑みながら、テーブルの上で組んでいたヴェロニカの手に、青白く血管の浮き出た、しかし意外と節榑だった男っぽい手を伸ばし、重ねるイジドア。
「…っ」
女性を口説くみたいに、ヴェロニカの指の形をなぞるように滑る意外と大きな其の手がすっぽりと自身の両手を覆うのを、振り払うべきか否や逡巡していると。
「ふふ……オースティン様のご命令で、私を探れと?」
イジドアの橄欖石の瞳の奥に仄暗い何かが燈った。
「…ッ、違います!殿下は僕に命令なんてしません!」
幾ら主に対して憤っていたとしても、これはまずい。反射的に手を振り払って否定をしながら、続けてどうするべきか瞬時に思考を巡らせるヴェロニカ。
(あぁもう、私のバカ…!殿下の足引っ張ってどーすんのよ…?!)
在らぬ疑いを、一番かけられては行けない人へと向けられてしまった。静かに事件を追っていた主に迷惑を掛けたい訳じゃないヴェロニカは、自身の軽はずみな行動を今更ながら悔やむ。
(何がなんでも殿下の命令なんかじゃないって信じて貰わなくちゃ。あの人は関係ないって、私の独断だって……でも、ちょっと待って。イジドアは殿下の命令で探られる覚えがあるって事よね?)
ともすれば、やはり実行犯と噂される男がイジドアだという確信にも繋がるのではないだろうか。
「殿下は、僕に何も話してくれませんから。僕が勝手に……イザベラさんについて調べて、それで貴方らしき男と此処に入って行ったって、聞いたんです」
下手に取り繕おうとすれば恐らく目の前の男に見透かされてしまうだろう。悔しいけれど、相手はヴェロニカより一枚も二枚も上手だ。こういった状況に慣れている。
追及されても全く面に出さないどころか、柔和な笑みを浮かべながら相手の急所を的確に突いているのだから。
「貴方を……例の事件の実行犯かも知れないって、正直疑っています」
自身の身の危険よりも、殿下の足を引っ張りたくない。ヴェロニカはその一心から、敢えてハッキリと言い切った。
これが例え任務であったとして、疑っている相手に「疑っています」なんて言ってしまう様な考えなしの木偶を、オースティンは密偵になんて使わない。
だから彼の命令で動いている訳ではないのだと、そんなバカな自身にオースティンが大役を任せる筈が無いのだと、目の前の男に自嘲気味に仄めかして、やっと気付いた。
(だから、だから私には何も話せないんだわ)
そうと思ったら突っ走る節のある直上型のヴェロニカの事を信用出来る筈がない。
こんな状況に陥って、足を引っ張って、初めて、ヴェロニカは自身が考えなしに起こした行動が殿下だけでなく師団全体を巻き込む事になるかも知れない、如何に浅はかな愚行であったかを思い知らされた。
(私が、子供だから)
組織の一員であるという自覚が足りなかった。役に立ちたいと言いながらも認められたい、そればかりで、自身の感情ばかりが先立って、深く考える事をしなかった。
悔やんでも悔やみきれない失態に自責の念に駆られながらも、殿下が無関係である事だけは何が何でも信じて貰わなければならない。
そんなヴェロニカの焦燥を知ってか知らずか、イジドアは彼女の全てを見透かす様にじっと見詰めていたかと思えば、不意に口元へと手をやり───堪え切れないとでもいうような笑声を漏らし始めた。
「ふ……ふふ……っ、正直疑っている、ですか。そんな事を面と向かって言われたのは初めてです」
血迷ったとでも思っているのだろうか。上品な其の面の下で目の前のヴェロニカを殺す算段でも調えているのだろうか。
相変わらず読めない微笑を湛えるばかりの男が、乾いた喉を葡萄酒でちびちびと潤し、テーブルの上で知れず力の入っていたヴェロニカの拳を、包み込む様に再度重ねては。
「貴方の実直さに倣って、私も正直に申しましょう。例の事件の実行犯であると疑われても仕方ない立ち位置に居る事は確かですが、私はオースティン様の味方でもあるのですよ」
「ど、ういう」
「ふふ……潜入捜査、と言えばご理解頂けますか?私は私の主であるドゥーガルド様の命により、例の事件を秘密裏に追っています。これはオースティン様も知らない事実です」
(王太子殿下の命で…?)
味方ではあるものの、探られては困る腹も抱えているのだと。イジドアの話を何処まで信じて良いものか、計り兼ねるヴェロニカの手を、節榑立った男の指が慈しむように撫でる。
「美しい貴方の為ならば、私の全てを曝け出す事を誓いましょう。ですが、そうするには貴方がオースティン様の命で動いていないという確証が欲しい。あの方は私を疑っておいでですから」
完全にオースティンの味方という訳ではないが、敵でもない。そしてヴェロニカの知りたい事を全て教えてくれるのだと、謳う様な独特なテンポで甘言を吐き続けるイジドア。
「事件の全貌を、イザベラ=バーチの居場所を知りたいのでしょう?」
ぴくり。思わずその言葉に反応してしまったヴェロニカは、繕う様に固く握りしめていた拳から意識的に力を抜いた。すかさずするりと絡めらとられた指に掌を擽られ、促されるが儘に伸びた指先。
「そして貴方はオースティン様のご不興を……いいえ、ご不興を買う事よりも、それ以前にあの方の首枷に為りたくはない、そう思っている。───違いますか?」
顔色を窺いながら、彼女の心を見透かすみたいに言い連ねる男の橄欖石の瞳から目が逸らせないヴェロニカは、取られた儘の手を再度振り払う気にはなれなかった。
(結局の所、この人は敵なの?味方なの?)
イジドアの真意が読めない。相変わらず何を考えているのか分からない。
魔女狩りを行う組織の一員である事を認めたイジドア。だがそれは王太子殿下から下された任務であり、捜査の一環だと言う。
危険を侵して敵の懐に飛び込んでいるのだから、事件を追う側であるという認識で良いのだろうが、殿下の味方だと宣う一方で、オースティンには知られたくない何かがある事も確かなのだ。
そして何故か、どうみても下っ端のヴェロニカを懐柔しようとしている風な現状も理解し難い。
(要するに、事件について知りたければ私には特別に教えてあげるけど、殿下に知られちゃ困る内容もあるから内緒にしてね、って事よね?)
怪しい事この上ない話だ。
そんでもって殿下に迷惑を掛けたくないんでしょう?って、本気でヴェロニカをスパイか何かだと思っている訳でもないだろうに、遠回しにそう聞かれているようなものなのだから、その特別な情報をくれる代わりに何を要求されるのか、と考えるだけで胃が痛くなる思いだった。(実際に胃が痛くなったりする様な繊細さは、生憎、ヴェロニカには持ち合わせていなかったが)
「……僕を脅すおつもりですか?」
オースティンに迷惑を掛けたくないと思っているのならば、もういっその事あっちで好い顔こっちで好い顔な八方美人の内通者紛いの事でもさせるよう、持ち掛けるつもりなのだろうか。
だがヴェロニカの性格上、何を言われたって内通者になんてなる筈が無い。目の前の男だって、聡いのだからそんな事は分かっているだろう。
そもそも、味方だと宣う癖に殿下の事を厭に警戒している。言葉の端々からそうと分かる男の何を信用すれば良いのやら。考えるだけで頭がこんがらがってくる。
「脅すだなんて……私はただ、明日の晩にもう一度この場所で、美しい貴方とゆっくりお話がしたいだけですよ」
だが正直言えばその申し出は魅力的だった。組織の一員である男の口から直接、話を聞ける。
そして、ヴェロニカはイジドアの語る尤もらしい理由を、言葉通りに受け取った振りをする他無いのだ。
オースティンの足手纏いになりたくないのならば、と遠回しに前置きされている以上、端から拒否権なんてない。
自分で撒いた種とは言え、断れば主に迷惑がかかるかも知れないのだ。それだけは避けたいヴェロニカは、現状寝返れだとか殿下を裏切れだとかと持ち掛けられている訳ではないのだから、イジドアの申し出を受けるメリットは多大にある。
「私は貴方のお力になりたいのです」
血色の悪い唇から零れる悪魔の囁きが、ヴェロニカの手の甲へと落とされるのを黙って受け入れる事で、彼の提示した条件を呑んだ事を態度で示せば。
「ふふ……明日が楽しみですね」
心底嬉しそうに微笑むイジドアの姿だけは本心だと、何故か信じられた。
(罠かも知れない。でも罠じゃないかも知れない)
信用なんて勿論していないが、イザベラの事を、魔女狩りの事を知るチャンスでもあるのだ───そう開き直って、いつの間にか劇場内に流れていた音楽が、田舎者のヴェロニカだって知っている有名な楽曲を軽快にアレンジした物に変わっていた事に気付く。
其の音色を認識出来ているのに、何処か遠くで流れているかの様な現実感の無さに違和感を覚えたものの、その違和感の正体が何なのか分からない儘だった。
「どうされました?幽霊か何かでも見る様な顔をして……ふふ、やはり貴方の美貌は恐怖に歪んでこそ其の美しさが際立つ。私の思った通りです。ねぇ?クリストファー=リーデルくん」
橄欖石の神秘的な瞳を細め、ゾッとする程恍惚とした表情を浮かべる男は、そう言ってヴェロニカへ微笑み掛けながらも心を見透かそうと彼女の反応を窺う。
時が止まった様な一瞬の静寂の後に───。
「失礼ですが、何処かでお会いした事が?」
何で僕の名前を。そう問い質したい気持ちを必死で抑えて、痛いくらいに早鐘を打つ心臓の音には気付かない振りをしながら、ヴェロニカは努めて冷静に切り返した。
イザベラについて、延いては必然的に魔女狩りについて嗅ぎ回ってる事に気付かれたのだろうか。だが、それにしては早過ぎる。白髪の男の情報をヴェロニカが知ったのはついさっきだ。
とあれば、彼は元々ヴェロニカを、『第二王子付第一師団のクリストファー=リーデル』を知っていたのだと考える方が自然だろう。
王宮に出入りしている貴族が、魔女狩りの実行犯と噂される男が目の前の白髪の男だとしたら、ヴェロニカを王宮の何処かで見掛けていても不思議ではない。
それに、イザベラの事を探している事を誰にも知らせなかった様に、この男にだって知られている筈も無いのだから、必要以上に警戒して見せるのは得策ではないと判断し、だが、見知らぬ男へ声を掛けられたという当たり前の不信感を僅かに乗せたヴェロニカへ。
「あぁ、名乗りもせずに大変失礼致しました。こんな場所でまさか貴方に会えるとは思ってもみなかったものですから……嬉しさの余りに気が急いてしまったのです」
申し訳なさそうに苦笑を浮かべては恭しく頭を下げる男は、言葉の端々から彼女への敬意を覗かせる。そんなものを払われる覚えの無いヴェロニカにとっては、其の畏まった態度が酷く異様に映ってならない。
「申し遅れましたが、私はイジドア=マヘルと申します。大きな声では言えませんが、一応、王太子殿下の侍従長を務めさせて頂いている者です」
得体の知れない空恐ろしさを纏う男は、紳士然とした仕草で胸元へと手を遣りながら、声を潜めてさらりと告げられた身分を、直ぐには理解出来ずにいたヴェロニカだったが。
「お、王太子殿下って…」
「えぇ、この国の第一王子であらせられる、ドゥーガルド=ローゼンクロイツ様、其の人ですよ」
この国の第一王子であるドゥーガルド=ローゼンクロイツ。その方はヴェロニカが仕えるオースティンの異母兄であり、この国の王位継承権第一順位にあたる人物である。
というくらいにしかヴェロニカは第一王子について多くを知らないのだが。
(ちょっと待って、じゃあやっぱり……)
魔女狩りの実行犯とされる人物の特徴によく似たイジドア。イジドアの主の第一王子。魔女狩りが王命にて行われているのではないか、とイザベラは疑っていたが、其の可能性がより深まり、思わず思案に耽って黙り込むヴェロニカに。
「業務内容としましては、ドゥーガルド様の護衛に、身の回りのお世話から───と、失礼します」
相変わらずのゾッとする様な白々しい笑みを浮かべた儘、イジドアの手が不意にヴェロニカの頭へと伸ばされ。
「…っ」
何をされるのかとビクリと身を竦める彼女の髪に触れた指が、ひょいと何かをつまみ上げた。
「ふふ……兵役適性試験の日に初めてお見掛けした時にも感じましたが、貴方は其の繊細な美貌からは想像もつかない程、お転婆な様ですね」
森を抜けて来たからか、知れず頭へ乗せていたらしい、小指の第一関節分くらいの小さな葉を、警戒しているのが申し訳なくなってしまう様な気安さで見せて来るイジドア。
「あ、りがとう、ございます」
毒気を抜かれて辛うじて絞り出した感謝の言葉に、いえいえ、と首を振った男は、自分のフロックコートのポケットに其の葉を入れると、ヴェロニカへ向かって手を差し伸べる。
「立ち話もなんですから、座りましょうか?」
女性を相手に、エスコートするみたいに差し出された手に戸惑いながらも重ねたヴェロニカは、初めに抱いた警戒心を僅かに解きつつ、すぐ側のテーブル席の椅子を引いてくれたイジドアに促されるが儘に腰を下ろし、対面席に座る男を待つ。
(何だか変な事になっちゃったけど……この人が本当に魔女狩りの実行犯だとしても、これだけ人目があるんだから下手な事は出来ないだろうし)
元々白髪の男を探して、其の男の情報を得る為に劇場まで来たのだ。当人かも知れない男に直接問い質すチャンスだと思えば、この機会を逃す手はない。
どれだけの危険が待ち受けているかは分からないが、今すぐに消されるなり実力行使に出られる事はまず無いだろう。
其れに黙って殺されてやるつもりも無いヴェロニカは、イザベラを追うだけでなく魔女狩り事件の全貌に立ち向かう覚悟を決めて、劇場のスタッフにドリンクをオーダーしてから腰を下ろすイジドアを真正面から見据えた。
「葡萄酒で宜しかったですか?」
「はい、有難うございます。───イジドアさんは王太子殿下の侍従長を務めてらっしゃるんですよね?今、ここにいるのもお仕事で?」
世間話をするみたいにニコリと笑みながら、単刀直入に、だが一先ずは探りを入れてみる。
魔女狩りに関係する事で、仕事で此処に居るのだとしても恐らくは本当の事を話さないだろう。だが過剰に反応でもしてくれたら儲けものだ。それくらいの軽い気持ちで相手の出方を窺うヴェロニカだったが。
「今は業務時間外ですよ。単純に美しい女性の裸体が見たくて此処に通っているんです。完全に私の趣味です」
平然と『女の裸が見たい』と言っているにも関わらず嫌らしさを感じないのは、余りに堂々と言い切られたからだろう。性の匂いを感じない、というのもある。
たがそんな風に切り返されると思わなかったヴェロニカは、想定外過ぎて。
「女性の裸……お好きなんですか?」
男にそんな事を聞くだなんて愚問だが、何て返して良いか分からず、気付けばそんな実のない質問を口にしてしまっていた。
聞かずとも、彼は男なのだから好きに決まっている。
「えぇ、私も男ですからね。美しい女性の身体を飽きる程に堪能したい───という卑欲を人並みに抱いています。ふふ……そういう貴方は何故此処へ?」
恥ずかしげもなく微笑みながらやはり言い切る男は、温厚そうな紳士にしか見えないのに、本気か冗談か、俗っぽいことばかり口にする。だが、こうして話していても常に別の事を考えているような、心ここに在らず、と感じさせるイジドアの雰囲気に真意が読めず。
「僕は、瑪瑙館のイザベラを探しに来たんです」
目の前の男が例の男なのか。そうだとしたらどう取り繕うのか。運ばれて来た葡萄酒の入ったグラスを口元へ運ぶイジドアの表情に注視しながら、ヴェロニカも彼と同様、ワイングラスを手に取る。
「あぁ、そういえば彼女は君の友人であるブロワー卿の恋人でしたね」
その言葉に傾けていたグラスを一瞬止めて、直ぐに傾ける。
(デイヴが友達だって事まで知ってるの?)
ヴェロニカの方は面識が無いのに、入団したばかりの自分をイジドアは随分と気にかけているらしい。
(ううん、そんな事より)
やはりイジドアはイザベラの事を知っているのだ。デイヴの恋人である事まで知っているとあれば、最早『瑪瑙館のイザベラ』なんて贔屓にしている客の体を装う必要は無くなった。
友人の名前を出してしまうのも気が引けると思ってその体を装ったヴェロニカだったが、デイヴとイザベラの関係をイジドアに知られているだけでなく、ヴェロニカの友人である事まで把握しているのだから、シンプルに「行方不明になった友人の恋人を探している」という理由で良い。
「彼女が、一昨日此処へ来たそうで」
葡萄酒を飲み干し、グラスをテーブルへ置いたヴェロニカは、イジドアの顔色を窺いながらそう切り出すと。
「えぇ、私に会う為にこちらにいらしたんですよ」
「貴方に?」
余りにあっさりと認められ、何か裏があるのではと警戒するヴェロニカを他所に。
「はい。私と彼女は協力関係にあります」
にこりと笑みながら、テーブルの上で組んでいたヴェロニカの手に、青白く血管の浮き出た、しかし意外と節榑だった男っぽい手を伸ばし、重ねるイジドア。
「…っ」
女性を口説くみたいに、ヴェロニカの指の形をなぞるように滑る意外と大きな其の手がすっぽりと自身の両手を覆うのを、振り払うべきか否や逡巡していると。
「ふふ……オースティン様のご命令で、私を探れと?」
イジドアの橄欖石の瞳の奥に仄暗い何かが燈った。
「…ッ、違います!殿下は僕に命令なんてしません!」
幾ら主に対して憤っていたとしても、これはまずい。反射的に手を振り払って否定をしながら、続けてどうするべきか瞬時に思考を巡らせるヴェロニカ。
(あぁもう、私のバカ…!殿下の足引っ張ってどーすんのよ…?!)
在らぬ疑いを、一番かけられては行けない人へと向けられてしまった。静かに事件を追っていた主に迷惑を掛けたい訳じゃないヴェロニカは、自身の軽はずみな行動を今更ながら悔やむ。
(何がなんでも殿下の命令なんかじゃないって信じて貰わなくちゃ。あの人は関係ないって、私の独断だって……でも、ちょっと待って。イジドアは殿下の命令で探られる覚えがあるって事よね?)
ともすれば、やはり実行犯と噂される男がイジドアだという確信にも繋がるのではないだろうか。
「殿下は、僕に何も話してくれませんから。僕が勝手に……イザベラさんについて調べて、それで貴方らしき男と此処に入って行ったって、聞いたんです」
下手に取り繕おうとすれば恐らく目の前の男に見透かされてしまうだろう。悔しいけれど、相手はヴェロニカより一枚も二枚も上手だ。こういった状況に慣れている。
追及されても全く面に出さないどころか、柔和な笑みを浮かべながら相手の急所を的確に突いているのだから。
「貴方を……例の事件の実行犯かも知れないって、正直疑っています」
自身の身の危険よりも、殿下の足を引っ張りたくない。ヴェロニカはその一心から、敢えてハッキリと言い切った。
これが例え任務であったとして、疑っている相手に「疑っています」なんて言ってしまう様な考えなしの木偶を、オースティンは密偵になんて使わない。
だから彼の命令で動いている訳ではないのだと、そんなバカな自身にオースティンが大役を任せる筈が無いのだと、目の前の男に自嘲気味に仄めかして、やっと気付いた。
(だから、だから私には何も話せないんだわ)
そうと思ったら突っ走る節のある直上型のヴェロニカの事を信用出来る筈がない。
こんな状況に陥って、足を引っ張って、初めて、ヴェロニカは自身が考えなしに起こした行動が殿下だけでなく師団全体を巻き込む事になるかも知れない、如何に浅はかな愚行であったかを思い知らされた。
(私が、子供だから)
組織の一員であるという自覚が足りなかった。役に立ちたいと言いながらも認められたい、そればかりで、自身の感情ばかりが先立って、深く考える事をしなかった。
悔やんでも悔やみきれない失態に自責の念に駆られながらも、殿下が無関係である事だけは何が何でも信じて貰わなければならない。
そんなヴェロニカの焦燥を知ってか知らずか、イジドアは彼女の全てを見透かす様にじっと見詰めていたかと思えば、不意に口元へと手をやり───堪え切れないとでもいうような笑声を漏らし始めた。
「ふ……ふふ……っ、正直疑っている、ですか。そんな事を面と向かって言われたのは初めてです」
血迷ったとでも思っているのだろうか。上品な其の面の下で目の前のヴェロニカを殺す算段でも調えているのだろうか。
相変わらず読めない微笑を湛えるばかりの男が、乾いた喉を葡萄酒でちびちびと潤し、テーブルの上で知れず力の入っていたヴェロニカの拳を、包み込む様に再度重ねては。
「貴方の実直さに倣って、私も正直に申しましょう。例の事件の実行犯であると疑われても仕方ない立ち位置に居る事は確かですが、私はオースティン様の味方でもあるのですよ」
「ど、ういう」
「ふふ……潜入捜査、と言えばご理解頂けますか?私は私の主であるドゥーガルド様の命により、例の事件を秘密裏に追っています。これはオースティン様も知らない事実です」
(王太子殿下の命で…?)
味方ではあるものの、探られては困る腹も抱えているのだと。イジドアの話を何処まで信じて良いものか、計り兼ねるヴェロニカの手を、節榑立った男の指が慈しむように撫でる。
「美しい貴方の為ならば、私の全てを曝け出す事を誓いましょう。ですが、そうするには貴方がオースティン様の命で動いていないという確証が欲しい。あの方は私を疑っておいでですから」
完全にオースティンの味方という訳ではないが、敵でもない。そしてヴェロニカの知りたい事を全て教えてくれるのだと、謳う様な独特なテンポで甘言を吐き続けるイジドア。
「事件の全貌を、イザベラ=バーチの居場所を知りたいのでしょう?」
ぴくり。思わずその言葉に反応してしまったヴェロニカは、繕う様に固く握りしめていた拳から意識的に力を抜いた。すかさずするりと絡めらとられた指に掌を擽られ、促されるが儘に伸びた指先。
「そして貴方はオースティン様のご不興を……いいえ、ご不興を買う事よりも、それ以前にあの方の首枷に為りたくはない、そう思っている。───違いますか?」
顔色を窺いながら、彼女の心を見透かすみたいに言い連ねる男の橄欖石の瞳から目が逸らせないヴェロニカは、取られた儘の手を再度振り払う気にはなれなかった。
(結局の所、この人は敵なの?味方なの?)
イジドアの真意が読めない。相変わらず何を考えているのか分からない。
魔女狩りを行う組織の一員である事を認めたイジドア。だがそれは王太子殿下から下された任務であり、捜査の一環だと言う。
危険を侵して敵の懐に飛び込んでいるのだから、事件を追う側であるという認識で良いのだろうが、殿下の味方だと宣う一方で、オースティンには知られたくない何かがある事も確かなのだ。
そして何故か、どうみても下っ端のヴェロニカを懐柔しようとしている風な現状も理解し難い。
(要するに、事件について知りたければ私には特別に教えてあげるけど、殿下に知られちゃ困る内容もあるから内緒にしてね、って事よね?)
怪しい事この上ない話だ。
そんでもって殿下に迷惑を掛けたくないんでしょう?って、本気でヴェロニカをスパイか何かだと思っている訳でもないだろうに、遠回しにそう聞かれているようなものなのだから、その特別な情報をくれる代わりに何を要求されるのか、と考えるだけで胃が痛くなる思いだった。(実際に胃が痛くなったりする様な繊細さは、生憎、ヴェロニカには持ち合わせていなかったが)
「……僕を脅すおつもりですか?」
オースティンに迷惑を掛けたくないと思っているのならば、もういっその事あっちで好い顔こっちで好い顔な八方美人の内通者紛いの事でもさせるよう、持ち掛けるつもりなのだろうか。
だがヴェロニカの性格上、何を言われたって内通者になんてなる筈が無い。目の前の男だって、聡いのだからそんな事は分かっているだろう。
そもそも、味方だと宣う癖に殿下の事を厭に警戒している。言葉の端々からそうと分かる男の何を信用すれば良いのやら。考えるだけで頭がこんがらがってくる。
「脅すだなんて……私はただ、明日の晩にもう一度この場所で、美しい貴方とゆっくりお話がしたいだけですよ」
だが正直言えばその申し出は魅力的だった。組織の一員である男の口から直接、話を聞ける。
そして、ヴェロニカはイジドアの語る尤もらしい理由を、言葉通りに受け取った振りをする他無いのだ。
オースティンの足手纏いになりたくないのならば、と遠回しに前置きされている以上、端から拒否権なんてない。
自分で撒いた種とは言え、断れば主に迷惑がかかるかも知れないのだ。それだけは避けたいヴェロニカは、現状寝返れだとか殿下を裏切れだとかと持ち掛けられている訳ではないのだから、イジドアの申し出を受けるメリットは多大にある。
「私は貴方のお力になりたいのです」
血色の悪い唇から零れる悪魔の囁きが、ヴェロニカの手の甲へと落とされるのを黙って受け入れる事で、彼の提示した条件を呑んだ事を態度で示せば。
「ふふ……明日が楽しみですね」
心底嬉しそうに微笑むイジドアの姿だけは本心だと、何故か信じられた。
(罠かも知れない。でも罠じゃないかも知れない)
信用なんて勿論していないが、イザベラの事を、魔女狩りの事を知るチャンスでもあるのだ───そう開き直って、いつの間にか劇場内に流れていた音楽が、田舎者のヴェロニカだって知っている有名な楽曲を軽快にアレンジした物に変わっていた事に気付く。
其の音色を認識出来ているのに、何処か遠くで流れているかの様な現実感の無さに違和感を覚えたものの、その違和感の正体が何なのか分からない儘だった。
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