男装騎士と好色王子の私設団

浅見 景

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第十四話

混濁②

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「はぁ……っ、はぁ……っ、イジドア、さ……も……ムリ……嫌、です……っ」

一本の蝋燭の焔だけが鈍く灯る室内は薄暗く、月明かりが朧気に照らす簡素な寝台の上で、折り重なる二つの影。

「ふ……ふふ、あんなにも強気だった貴方が、もう音を上げるんですか……?」

無惨に引き裂かれた純白のドレスに身を包むヴェロニカを、見下ろすイジドアは嘲笑を浮かべては、馬鞭の先端を彼女のコルセットへと滑らせる。

「ぁ……っ、ぁッ!やだやだやだやだ…っ!本当にもうだめ…っ、来る……!き、ちゃう、からぁ……っ!!」

独房に置いてある様なベッドの四隅に拘束された四肢。彼女の涙声と共に響く鎖の摩擦音。
ヴェロニカの上で這いずる雄は、彼女のレース越しの胸元を先の割れた舌でチロりと舐め上げると、ふいに面を上げては首筋へと荒い息を吹き掛けた。

「ひ……ッ!!たすけっ、……!!」

短い悲鳴の後に余りの恐怖心から咄嗟に浮かんだのは、彼女が誰よりも信じてやまない父、ブライアン────ではなく、何時だってヴェロニカの心を波立たせる美貌の男。

縋りそうになって、縋りたくなくて、不意に現実へと引き戻されたヴェロニカの上から落ちる、恍惚とした嘆息。

「あぁ……っ!素晴らしい……!!私が思い描いていた通りの反応!!いえ、それ以上だ……!!やはり貴方の美貌は恐怖に歪んでこそ壮絶な色香を纏い私の望む完成系へと近付く……!!貴方は私が長年追い求めていた芸術!!美の集大成です…!!」

ヴェロニカの前では決して外す事の無かった紳士の仮面を剥ぎ取り、狂おしい程に欲情しきった男は陶酔したように早口で詩を紡ぐと。

「さぁ、今です…!!この刹那的背徳の美を永遠の物として寸分の狂いもなく額に収めなさい…!!」

血走った眼球をこぼれ落ちてしまいそうな程に大きく見開きながら────ヴェロニカ達のすぐ側のロッキングチェアーに腰を下ろす老婦人へ、イジドアは何時になく居丈高に命じた。

「はいはい。言われなくても描いてるよ、全く」

面倒な客だ、という態度を隠しもせずに嘆息を吐きながら、淡い黄色の高価な紙面の上を迷いなく婦人の持つ筆が滑る。

「……アンタも可哀想にねぇ。こんな悪趣味な男に見初められちまって」

寝台の上の少年(少女)への哀れみを口にしながらも、その手は止まることなく。

「しかし綺麗な子だね。貧相な身体が残念だけど、こんだけ美人なら春画にしたら良い値がつくだろうねぇ……」

(しゅ、しゅんがって、あの春画……?!)

嗄れた声でそんな事を言い出す腰の曲がった小さな画家の姿にヴェロニカは今以上の危険を感じ、断固拒否の姿勢を示そうとしたものの、イジドアの馬鞭によってそれは叶わなかった。

ヴェロニカの耳朶をチロチロと舌先で擽っていた彼の分身の様な白蛇を、馬鞭を滑らせ誘導し────嫌だ、と喚きかけた少女の口腔へ、猿轡の如く咬ませたのだ。

「ぃ……んぐぅ……ッ?!!」

よく手入れされているのか意外にも無臭ではあったが、そんな事を冷静に理解するよりも初めて含んだ爬虫類のザラりとした感触に、今にも舌を噛み付かれてしまいそうな恐怖心に、彼女の口腔内を味わおうとする割れた舌が歯列をなぞる動きに、ヴェロニカの頭はパンクしそうになる。

(やだやだやだやだやだ、気持ち悪い…!!)

涙目になりながら、嘔吐きそうになりながら、それでも拘束された四肢を力の限りに捩れば、拘束具による裂傷はやがて抉れた様な傷になり、シーツの四隅を血で汚し始めた事に。

「春画ですか。ふ……ふふふ、それは名案…………あぁ、貴方の美しい肌に傷がついてしまいましたね」

気付いたイジドアは瞳孔の開ききっていた橄欖石へと不意に憂いを浮かべ細めては、彼女の口を塞ぐ其れの首根を掴み、唐突に引き抜き。

「……ッ?!」

腰に穿いていた短剣で容赦なく白蛇の脳天を突き刺しては、彼の分身かと思われた其れをぞんざいに床へと放った。

「私のレオンハルトが失礼致しました」

レオンハルト、と呼ばれ、打ち捨てられた白蛇は剣が貫通した口を大きく開けたまま、ピクリとも動かない。

「蛇は、貴方様の口に合わなかったようですね」

先程までの狂った男の欲情など無かったかのように、ゆっくりと詩を紡ぐイジドアはズレた謝罪を口にしながら、飴と鞭だと言わんばかりにヴェロニカの乱れた髪を其の青白い指で撫で付ける。

(……訳が、分からない)

イジドアの急変により唐突に終わりを告げた狂った時間。
身体に巻き付けて飼うくらいには愛玩していた癖に、自分でヴェロニカの口元へ誘導した癖に気分で白蛇を害した男。
イジドアのちぐはぐな態度に、常人とは異なる其の思考回路に、眼前の男の底知れなさに、ヴェロニカは何度目か分からない恐怖を感じた。

(口に合うとか合わないとか以前に、普通人の口に無理矢理そんなもの突っ込む方がどうかしてるわ)

冷静に頭の中で男の普通じゃない感覚を痛烈に批判しながらも、度重なる疲労感からか、動けなくなったヴェロニカの身体は拘束具を外されて行くのをただひたすら、ぼやけた視界で認めながらも従順に待ってしまった。

「私の趣味にこうして……ボロボロになるまで真摯に付き合って下さったのですから、私も私の知りうる全ての情報を、貴方に白状致しましょう」

男は目の前にいるのに、何故か声が遠くに聞こえる。

「ふ……ふふ……」

つい数秒前まで、ズレているにしても心からの謝罪のようなものを口にしていた男が、また唐突に唇を歪め始めた。

「やはり、思っていた通りです」

貴方の血は甘い。

手首から伝う鮮血に吸い寄せられるように唇を落とした男が、無遠慮に舌を這わせては、そんな事を言った。
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感想 6

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みんなの感想(6件)

まんまるたまご
ネタバレ含む
解除
ゆきんこ
2019.10.14 ゆきんこ

更新楽しみにしてます!
面白いです♪♪

解除
遥陽
2018.08.30 遥陽

更新お待ちしておりました( *¯ㅿ¯*)
続きが楽しみです!
何回も読み返してます♪

2018.08.31 浅見 景

こんばんは!ご感想をありがとうございます!

私生活の方がゴタゴタしている内に……暫く、本当に長い間、更新出来ていませんでしたね……(✽´ཫ`✽)
本当に申し訳ございません!そして待っていて下さり、私には勿体ないお言葉までかけて下さり、本当に本当にありがとうございます…!!

もう忘れられちゃってるんじゃないかな〜なんて思いながらも、久しぶりに更新させて頂きました。と言いましても、実は今回アップさせて頂いたお話、他のサイトさんでは既に公開していたものだったり……(٭°̧̧̧ω°̧̧̧٭)

私も久しぶりにお話を全て読み返しまして、「あぁ、そういえば殿下はこーいう男だったわ!」なんて、自分で書いた癖に腹立たしくも懐かしい気持ちにさせられました。笑

色々……再認識して、また続きを書き始めたので、次のお話までもう少しお待ち頂けると幸いです!

解除

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