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第二章 沼に足を取られた鳥は愛を知る
第19話
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そう言って、政明は絵梨佳と出会った日の事を話しだした。
回想。
「うぅ……今日は冷えるな~……」
政明が体を縮こませながら噴水の広場にやってきた。バイトが終わり、たまにお気に入りの場所であるこの噴水の広場に来てはベンチに腰を掛けぼんやりとする。
政明にとってこの場所は母親との思い出がある場所だった。
「……はぁ……」
ベンチに座りながら深くため息を吐く。母親が亡くなってもう一年が経とうとしていた。叔父である新形が時々様子を見に来て生活費を置いてくれることもあるが、なるべく自分で稼ごうと思い、バイトの日々を送っている。本当は定職にきちんと就きたかったが、父親の起こした事件のせいで何処にも正規で仕事は雇ってもらえなかった。
「……誰かこの苦しみを分かってもらえる人がいたらいいなぁ~……」
そう小さく呟く。
誰かこの心のぽっかりと空いた部分を埋めてくれるような人……。政明はそんな人をどこかで求めていた。
その時だった。
「……良かったら飲む?」
急に女性の声が聞こえて政明が驚いて顔を上げる。そこにいたのは、短いスカートに胸元が開いている、いかにもそういう仕事をしているという雰囲気を漂わせた女性だった。
「なんか寒そうだからさ。熱燗で良かったら飲む?」
女性がそう言ってコンビニで買ってきたであろう缶タイプの熱燗を政明に差し出す。
「あ……ありがと……」
政明が差し出された熱燗を受け取り、底についているボタンのようなものを押して熱燗がじわりじわり手の中で熱くなっていくのを感じながら、その温かさに感謝する。
「あったか~……」
掌も冷えていたので温かい熱燗が嬉しくて顔がほころぶ。
「あははっ!よっぽど寒かったんだね!」
女性が笑いながらそう言葉を綴る。
「ねぇ!せっかくだし良かったら乾杯しよ!あたし、絵梨佳って言うんだ!」
絵梨佳がそう言ってコンビニの袋から熱燗を取り出す。そして、底のボタンを押して温かくなると、二人でその熱燗の蓋を外して乾杯した。
「名前、なんて言うの?」
絵梨佳がそう話しかけてくる。
「ま……政明……だけど……」
「じゃあ、マサだね!」
それが、政明と絵梨佳の出会いだった。
それから、政明と絵梨佳はたまにこの噴水前の広場で会うようになり、いろんな話をした。その時、お互いの家庭の事情を自然と話すようになり、偶然にも境遇が似ていたことに二人とも驚きを隠せなかった。
「……じゃあ、マサのところはお父さんがそういう事しちゃったんだ」
「うん……。絵梨佳のとこはお母さんだよね?」
「そうだよ……。親がそういう事したからってさ、子供には関係ないじゃんって思うけど、世の中って親がそういう事すると、子供もまともじゃないって思われるんだよね……。おかげでまともな仕事にもつけなくてさ……。こうする以外他になかったんだよね……」
絵梨佳がそう言って遠い目をする。政明がその表情を見て、やり切れない思いに駆られる。
絵梨佳が『売り』をしているというのは本人から聞いていた。政明はそれを聞いたとき、最初は自分も金目当てなのではないかと思い、絵梨佳に聞いたところ、絵梨佳は笑いながら否定した。
「あははっ!ただ単に寒そうだったから声掛けただけだよ!こんなことしていて金払ってくれる男はどちらかというとキモイおっさんくらいだよ!」
絵梨佳は笑いながらそう言った。それを聞いて政明は安心した気持ちと同時に複雑な気持ちにもなった。親切心で声を掛けてくれた絵梨佳が、なぜこんなことでしか金を稼げないのだろうか……と、世の中に対して憎い気持ちが膨れ上がってくる。
「じゃあ、あたしはそろそろ行くね!」
絵梨佳がいつものように二人で飲んだ空き缶を袋に入れて席を立つ。
(また今日も稼ぐためにあんなことをするのかな……?)
政明が心の中で悲しみを纏いながら呟く。
「あ……あのさ……!」
去って行こうとする絵梨佳に政明は思い切って声を掛けた。
「その……よかったら今日は俺のアパートに来るといいよ。その……狭いけど、もう一人くらいなら寝るスペースも作れるしさ!」
政明の言葉に絵梨佳が呆然とする。
「だ……ダメかな……?」
政明が「何かまずかったかな?」と不安になりながらそう言葉を綴る。
「……じゃあ、そうしようかな……」
絵梨佳はちょっと考えると、そう返事をした。
「……で、その日を境に絵梨佳と一緒に住むようになったんだ。絵梨佳にはその仕事は止めるように言ったけど、自分がお金を稼ぐ方法はこれしかないし、生活費を全部俺に出させるわけにはいかないからって言って、その仕事は止めてくれなかった。だから、その代わりに遅くなってもいいから必ずこの部屋には帰ってくるように言ったんだ……」
政明が話し終えて、深く息を吐く。
「絵梨佳さんを誰よりも愛していたのですね……」
政明の話を聞いて奏がそう言葉を綴る。
「……だから、もうあんなことをやめて欲しかったし……ずっと傍にいて欲しかったんだ……どんな形でもいいから……」
嗚咽を漏らしながら政明が言葉を綴る。
「絵梨佳……ごめんな……ごめん……ごめん……ごめん…………」
涙を流しながら絵梨佳に謝る。
何度も……何度も……謝罪の言葉を繰り返した。
「……じゃあ、お前は佐崎の本気を見るためにそれを渡したってことなのか?」
「あぁ……」
取調室で本山は神明に何故徳二に麻薬を渡したのかを問いただして、返ってきた言葉に本山はどういっていいか分からなくなった。
回想。
「うぅ……今日は冷えるな~……」
政明が体を縮こませながら噴水の広場にやってきた。バイトが終わり、たまにお気に入りの場所であるこの噴水の広場に来てはベンチに腰を掛けぼんやりとする。
政明にとってこの場所は母親との思い出がある場所だった。
「……はぁ……」
ベンチに座りながら深くため息を吐く。母親が亡くなってもう一年が経とうとしていた。叔父である新形が時々様子を見に来て生活費を置いてくれることもあるが、なるべく自分で稼ごうと思い、バイトの日々を送っている。本当は定職にきちんと就きたかったが、父親の起こした事件のせいで何処にも正規で仕事は雇ってもらえなかった。
「……誰かこの苦しみを分かってもらえる人がいたらいいなぁ~……」
そう小さく呟く。
誰かこの心のぽっかりと空いた部分を埋めてくれるような人……。政明はそんな人をどこかで求めていた。
その時だった。
「……良かったら飲む?」
急に女性の声が聞こえて政明が驚いて顔を上げる。そこにいたのは、短いスカートに胸元が開いている、いかにもそういう仕事をしているという雰囲気を漂わせた女性だった。
「なんか寒そうだからさ。熱燗で良かったら飲む?」
女性がそう言ってコンビニで買ってきたであろう缶タイプの熱燗を政明に差し出す。
「あ……ありがと……」
政明が差し出された熱燗を受け取り、底についているボタンのようなものを押して熱燗がじわりじわり手の中で熱くなっていくのを感じながら、その温かさに感謝する。
「あったか~……」
掌も冷えていたので温かい熱燗が嬉しくて顔がほころぶ。
「あははっ!よっぽど寒かったんだね!」
女性が笑いながらそう言葉を綴る。
「ねぇ!せっかくだし良かったら乾杯しよ!あたし、絵梨佳って言うんだ!」
絵梨佳がそう言ってコンビニの袋から熱燗を取り出す。そして、底のボタンを押して温かくなると、二人でその熱燗の蓋を外して乾杯した。
「名前、なんて言うの?」
絵梨佳がそう話しかけてくる。
「ま……政明……だけど……」
「じゃあ、マサだね!」
それが、政明と絵梨佳の出会いだった。
それから、政明と絵梨佳はたまにこの噴水前の広場で会うようになり、いろんな話をした。その時、お互いの家庭の事情を自然と話すようになり、偶然にも境遇が似ていたことに二人とも驚きを隠せなかった。
「……じゃあ、マサのところはお父さんがそういう事しちゃったんだ」
「うん……。絵梨佳のとこはお母さんだよね?」
「そうだよ……。親がそういう事したからってさ、子供には関係ないじゃんって思うけど、世の中って親がそういう事すると、子供もまともじゃないって思われるんだよね……。おかげでまともな仕事にもつけなくてさ……。こうする以外他になかったんだよね……」
絵梨佳がそう言って遠い目をする。政明がその表情を見て、やり切れない思いに駆られる。
絵梨佳が『売り』をしているというのは本人から聞いていた。政明はそれを聞いたとき、最初は自分も金目当てなのではないかと思い、絵梨佳に聞いたところ、絵梨佳は笑いながら否定した。
「あははっ!ただ単に寒そうだったから声掛けただけだよ!こんなことしていて金払ってくれる男はどちらかというとキモイおっさんくらいだよ!」
絵梨佳は笑いながらそう言った。それを聞いて政明は安心した気持ちと同時に複雑な気持ちにもなった。親切心で声を掛けてくれた絵梨佳が、なぜこんなことでしか金を稼げないのだろうか……と、世の中に対して憎い気持ちが膨れ上がってくる。
「じゃあ、あたしはそろそろ行くね!」
絵梨佳がいつものように二人で飲んだ空き缶を袋に入れて席を立つ。
(また今日も稼ぐためにあんなことをするのかな……?)
政明が心の中で悲しみを纏いながら呟く。
「あ……あのさ……!」
去って行こうとする絵梨佳に政明は思い切って声を掛けた。
「その……よかったら今日は俺のアパートに来るといいよ。その……狭いけど、もう一人くらいなら寝るスペースも作れるしさ!」
政明の言葉に絵梨佳が呆然とする。
「だ……ダメかな……?」
政明が「何かまずかったかな?」と不安になりながらそう言葉を綴る。
「……じゃあ、そうしようかな……」
絵梨佳はちょっと考えると、そう返事をした。
「……で、その日を境に絵梨佳と一緒に住むようになったんだ。絵梨佳にはその仕事は止めるように言ったけど、自分がお金を稼ぐ方法はこれしかないし、生活費を全部俺に出させるわけにはいかないからって言って、その仕事は止めてくれなかった。だから、その代わりに遅くなってもいいから必ずこの部屋には帰ってくるように言ったんだ……」
政明が話し終えて、深く息を吐く。
「絵梨佳さんを誰よりも愛していたのですね……」
政明の話を聞いて奏がそう言葉を綴る。
「……だから、もうあんなことをやめて欲しかったし……ずっと傍にいて欲しかったんだ……どんな形でもいいから……」
嗚咽を漏らしながら政明が言葉を綴る。
「絵梨佳……ごめんな……ごめん……ごめん……ごめん…………」
涙を流しながら絵梨佳に謝る。
何度も……何度も……謝罪の言葉を繰り返した。
「……じゃあ、お前は佐崎の本気を見るためにそれを渡したってことなのか?」
「あぁ……」
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