59 / 252
第三章 愛を欲しがった悲しみの鳥
第14話
しおりを挟む
「美玖……」
病院のベッドの上で横になっている美玖に祐樹が声を掛ける。しかし、返事はない。一命は取り留めたが、未だに美玖は目を覚まさずに、生と死の狭間を彷徨っている状態だった。
「なんで……美玖がこんな目に……」
祐樹が美玖の手を取り、涙を流しながら美玖が目を覚ますのをひたすら待ち続ける。
その時だった。
「……ん……」
美玖の口から微かに声が響く。
「美玖!」
祐樹がその声に気付き、声を上げる。
「ゆう……き……?」
美玖がぼんやりと目を開くとゆっくりと祐樹の方に顔を向ける。
「目を覚ましたんだね!」
「わた……し……?」
美玖は何が起こったのか分からないのか、意識はまだ朦朧としている様子だ。
「先生を呼んでくるね!」
祐樹はそう言って、病室を出ていった。
「ここで……敦成に出会ったんだよね……」
茉理は車を降りると、目の前にある噴水の広場に足を運び、ベンチに腰掛ける。
そして、敦成と出会った時の事をぼんやりと思い出していた。
「……じゃあ、茉理さんは美玖さんの事を本当は憎んでいたということですか?」
奏の言葉に女性が頷く。
茉理の事を調べていくと、茉理に幼馴染がいることが分かり、奏たちはその女性にコンタクトを取った。そして、女性の家の近くにあるカフェで会うことになり、女性は茉理の事を話してくれた。
「はい……。茉理は美玖の事を表面上は仲良くしているけど、本当は憎んでいたんだと思います。私によく言っていました。『なんで美玖ばかり好かれるの?』『なんで美玖はあんなにも愛されるの?』って、憎しみを露わにしてそう言っていたんです……」
「あなたは美玖さんと会ったことはあるのでしょうか?」
女性の言葉に奏がそう尋ねる。
「私も同じ高校だったので美玖の事も知っています。茉理は、家族にも愛されて育った美玖の事が憎くて憎くて仕方なかったと思います……」
女性がそう言葉を綴る。
「憎いのに何で茉理さんは美玖さんと一緒にいたのですか?」
奏の言葉に女性がどう返答しようか悩むそぶりを見せる。
「その……、美玖の傍にいたら自分も注目を浴びることが出来るかもって思っていたみたいです……」
「どういうことですか?」
女性の言葉の意味がよく分からなくて奏が尋ねる。
「美玖は周りから慕われていたし、好かれていました……。アイドルとか言うのではなく、なんて言うか……その場にいると空気が和む……と言う感じですかね?美玖はよく笑う子で、美玖の周りは人がよく集まっていましたよ。明るくて優しい美玖は、周りの子たちから見て『癒し』のような存在だったんです……。だから、美玖と一番の仲良しになれば自分も注目されるような存在になれると思ったんじゃないでしょうか……?茉理は昔、『アイドルになりたい!』って言っていたくらいだったんで……」
「ちなみに、美玖さんは茉理さんのそういうところに気が付いていたのでしょうか?」
女性の話を聞いて、奏がそう問い掛ける。
「いえ……、多分、気付いてなかったと思います……。美玖は元々人を疑うことをまずしないし、自分がそういった癒しの存在になっていることも知らなかったと思います……。だからこそ、そんな純粋な美玖の事がみんな好きだったんだと思います……」
女性の話を聞いて、美玖がどんな人なのかが想像できる。明るくてとても純粋な人なのだということが分かる。家族に愛されて育ち、周りからも好かれていた美玖……。
「ちなみに、茉理さんはご両親との仲はどうだったのでしょうか?」
奏がそう尋ねると、女性は困った顔をしながらどう話そうか思案しているそぶりを見せる。
「ご両親が離婚していることは知っています。その……、母親とはどうだったのかをお聞きしたいのです……」
「……っ!!」
奏の口から「母親」と言う言葉が出て、女性がその言葉に反応する。
「……もしかして、何かあるのでしょうか?」
女性の様子から何かあると感じて奏がそう言葉を綴る。
「その……、茉理のお母さんは茉理の行動を異常なぐらい監視していたんです……。子供の頃、茉理と遊びに行っている途中で何度も茉理のスマートフォンに連絡があって『いつになったら戻ってくるの?』とか『ロクな友達と遊びに行くな。すぐ帰ってきなさい』ということがあって、茉理はその度に泣いていました……」
女性が悲痛な表情でそう語る。
「どうしてお母さんはそこまで茉理さんを……?」
奏がそう尋ねる。
「茉理のお父さんに見捨てられて、茉理だけでも自分の手の中に閉じ込めたかったのだと思います……。何が何でも離れていかないように必死だったんじゃないでしょうか……?私が茉理の家に遊びに行った時、茉理のお母さんが『茉理には私がいればいいの!茉理を私からもっていかないでちょうだい!!』って、すごく激怒されたことがあるんです……」
女性の話に奏は唖然とする。娘を自分から離れないように束縛して、自由を奪い、何処にも行かせないようにする……。それは紛れもなく異常な行動ではないだろうか……?
母親である淳子を刺したのは、束縛する母親から逃げる為だったのかも知れない。でも、敦成も茉理に暴力を振るっている。
「お話してくださり、ありがとうございます」
奏が女性に微笑みながらお礼の言葉を述べた。
「刺された母親にあの時何があったか聞いてみた方がいいかもな……」
透がそう言葉を綴る。
奏たちは淳子に、あの日にいったい何があったのかを聞きに行くためにいったん署に戻り、本山に淳子の容態を聞きに行くことにした。
「……あそこに座っているのって……」
一人の人物がベンチに座る茉理を見て声を発する。
そして、急いで茉理のいる場所に駆け出していった。
病院のベッドの上で横になっている美玖に祐樹が声を掛ける。しかし、返事はない。一命は取り留めたが、未だに美玖は目を覚まさずに、生と死の狭間を彷徨っている状態だった。
「なんで……美玖がこんな目に……」
祐樹が美玖の手を取り、涙を流しながら美玖が目を覚ますのをひたすら待ち続ける。
その時だった。
「……ん……」
美玖の口から微かに声が響く。
「美玖!」
祐樹がその声に気付き、声を上げる。
「ゆう……き……?」
美玖がぼんやりと目を開くとゆっくりと祐樹の方に顔を向ける。
「目を覚ましたんだね!」
「わた……し……?」
美玖は何が起こったのか分からないのか、意識はまだ朦朧としている様子だ。
「先生を呼んでくるね!」
祐樹はそう言って、病室を出ていった。
「ここで……敦成に出会ったんだよね……」
茉理は車を降りると、目の前にある噴水の広場に足を運び、ベンチに腰掛ける。
そして、敦成と出会った時の事をぼんやりと思い出していた。
「……じゃあ、茉理さんは美玖さんの事を本当は憎んでいたということですか?」
奏の言葉に女性が頷く。
茉理の事を調べていくと、茉理に幼馴染がいることが分かり、奏たちはその女性にコンタクトを取った。そして、女性の家の近くにあるカフェで会うことになり、女性は茉理の事を話してくれた。
「はい……。茉理は美玖の事を表面上は仲良くしているけど、本当は憎んでいたんだと思います。私によく言っていました。『なんで美玖ばかり好かれるの?』『なんで美玖はあんなにも愛されるの?』って、憎しみを露わにしてそう言っていたんです……」
「あなたは美玖さんと会ったことはあるのでしょうか?」
女性の言葉に奏がそう尋ねる。
「私も同じ高校だったので美玖の事も知っています。茉理は、家族にも愛されて育った美玖の事が憎くて憎くて仕方なかったと思います……」
女性がそう言葉を綴る。
「憎いのに何で茉理さんは美玖さんと一緒にいたのですか?」
奏の言葉に女性がどう返答しようか悩むそぶりを見せる。
「その……、美玖の傍にいたら自分も注目を浴びることが出来るかもって思っていたみたいです……」
「どういうことですか?」
女性の言葉の意味がよく分からなくて奏が尋ねる。
「美玖は周りから慕われていたし、好かれていました……。アイドルとか言うのではなく、なんて言うか……その場にいると空気が和む……と言う感じですかね?美玖はよく笑う子で、美玖の周りは人がよく集まっていましたよ。明るくて優しい美玖は、周りの子たちから見て『癒し』のような存在だったんです……。だから、美玖と一番の仲良しになれば自分も注目されるような存在になれると思ったんじゃないでしょうか……?茉理は昔、『アイドルになりたい!』って言っていたくらいだったんで……」
「ちなみに、美玖さんは茉理さんのそういうところに気が付いていたのでしょうか?」
女性の話を聞いて、奏がそう問い掛ける。
「いえ……、多分、気付いてなかったと思います……。美玖は元々人を疑うことをまずしないし、自分がそういった癒しの存在になっていることも知らなかったと思います……。だからこそ、そんな純粋な美玖の事がみんな好きだったんだと思います……」
女性の話を聞いて、美玖がどんな人なのかが想像できる。明るくてとても純粋な人なのだということが分かる。家族に愛されて育ち、周りからも好かれていた美玖……。
「ちなみに、茉理さんはご両親との仲はどうだったのでしょうか?」
奏がそう尋ねると、女性は困った顔をしながらどう話そうか思案しているそぶりを見せる。
「ご両親が離婚していることは知っています。その……、母親とはどうだったのかをお聞きしたいのです……」
「……っ!!」
奏の口から「母親」と言う言葉が出て、女性がその言葉に反応する。
「……もしかして、何かあるのでしょうか?」
女性の様子から何かあると感じて奏がそう言葉を綴る。
「その……、茉理のお母さんは茉理の行動を異常なぐらい監視していたんです……。子供の頃、茉理と遊びに行っている途中で何度も茉理のスマートフォンに連絡があって『いつになったら戻ってくるの?』とか『ロクな友達と遊びに行くな。すぐ帰ってきなさい』ということがあって、茉理はその度に泣いていました……」
女性が悲痛な表情でそう語る。
「どうしてお母さんはそこまで茉理さんを……?」
奏がそう尋ねる。
「茉理のお父さんに見捨てられて、茉理だけでも自分の手の中に閉じ込めたかったのだと思います……。何が何でも離れていかないように必死だったんじゃないでしょうか……?私が茉理の家に遊びに行った時、茉理のお母さんが『茉理には私がいればいいの!茉理を私からもっていかないでちょうだい!!』って、すごく激怒されたことがあるんです……」
女性の話に奏は唖然とする。娘を自分から離れないように束縛して、自由を奪い、何処にも行かせないようにする……。それは紛れもなく異常な行動ではないだろうか……?
母親である淳子を刺したのは、束縛する母親から逃げる為だったのかも知れない。でも、敦成も茉理に暴力を振るっている。
「お話してくださり、ありがとうございます」
奏が女性に微笑みながらお礼の言葉を述べた。
「刺された母親にあの時何があったか聞いてみた方がいいかもな……」
透がそう言葉を綴る。
奏たちは淳子に、あの日にいったい何があったのかを聞きに行くためにいったん署に戻り、本山に淳子の容態を聞きに行くことにした。
「……あそこに座っているのって……」
一人の人物がベンチに座る茉理を見て声を発する。
そして、急いで茉理のいる場所に駆け出していった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語
kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。
率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。
一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。
己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。
が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。
志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。
遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。
その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。
しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる