ファクト ~真実~

華ノ月

文字の大きさ
134 / 252
最終章 愛されていた鳥

第16話

しおりを挟む
 朝、目を覚ました賀川がそう小さく呟く。

 包丁を持ち出して、喉にまで当てたが、やはり死ぬことが出来なかった。その後、少しでも気を紛らわすために近くのコンビニに走り、いくつかビールとつまみを買い込んでそれを喉に流し込んだ。そして、気が付くといつの間にか寝ていたらしく、朝になってぼんやりと目を覚ました。

「あ……頭イテェ……」

 昨日の飲み過ぎが効いているのか、頭がガンガンと痛む。

「とりあえず……水……」

 そう呟き、コップに水を入れて喉に流し込む。

「今日からどうしようかな……」

 そうポツリと呟く。

 仕事を見つけないと、生活は出来なくなる。このままではアパートを追い出されて野垂れ死ぬ可能性だってある。でも、仕事を探しに行こうという気力が無い。

「このまま餓死した方が楽かな……」

 そう呟きながら目に涙を溜める。

(……助けて……)

 そう心で呟き、その場に項垂れた。



「あ……来てる……」

 男がパソコンを開き、小説投稿サイトのホームを開くと、メッセージが来ていることを確認する。そのメッセージを開き、読み始める。


『レン様

 メッセージ、ありがとうございます。
 とても嬉しいです!!
 近い内に作品を投稿できると思うので投稿した際にはまたお読みくださると嬉しいです。

 後、アドバイスもありがとうございます。
 はい、気を付けますね!!
 お気遣いいただきありがとうございます!

 これからも宜しくお願い致します!      結音』


 男がメッセージを読んで微笑む。

 そして、例のサイト「女神たちの集い」にアクセスして、新たな投稿がないかを確認する。しかし、あれから投稿はされていなくて、男はホッと胸を撫で下ろした。

(もしかしたら、奏を狙うのを諦めたかもしれないな……)

 そう心で呟き、パソコンを閉じる。

(暇だな……)

 特にすることが無く、ぼんやりとベッドに横になりながらタバコを吹かす。

「……そうだ……、久々に……」

 男が何かを思いついてパソコンのスイッチを再度入れた。



「……例の方法で捜査……ということでいいわね?」

 冴子の言葉に奏たちが頷く。

「じゃあ、まずその賀川の住んでいる場所を調べましょう」

 冴子がそう言って槙に賀川の住んでいる場所を調べてもらう。

「奏ちゃん、この前、賀川とお茶をした時、彼がどこに住んでいるとか言う話は無かった?」

「え……えっと……」

 冴子の言葉に奏がその時のことを思い出そうと頭をフル回転させる。

「確か、阿倉川の方って言っていたはずです。近くに川が流れているという事も話していました」

 奏がそう言葉を綴る。

「ちなみに奴は家族と同居しているのか一人暮らしか分かるか?」

 槙がそう尋ねる。

「一人暮らしだって言っていました」

「となると、アパート暮らしの可能性が高いな……。後、川か……」

 槙がそう言いながらパソコンで何かを捜査し始める。


 ――――カタカタカタカタ……カタカタカタカタ……。


「分かりそうか?」

 隣でその様子を見ている紅蓮がそう声を掛ける。

「もう少し待て」

 槙がそう言う。


 ――――カタカタカタカタ……カタカタカタカタ……タンっ!!


「出たぞ」

 槙がそう声を上げる。

「アパートで独り暮らしとなると部屋はそんなに広くないはずだ。そして、近くに川が流れていることから、該当するアパートはこの『コーポ上地うえち』になるだろう」

 槙がそう言ってそのアパートの画像を見せる。そのアパートは洗濯機が外に設置するタイプのアパートで築年数は六十年と書かれてある。

「……多分間違いないと思います。カフェで話した時に洗濯機が外にあるから雨の日とかが大変だと言っていましたし……」

 奏がアパートの画像を見てそう言葉を綴る。

「じゃあ、とりあえずそのアパートに行ってみるか?」

 透がそう口を開く。

「そうね……。じゃあ、透と紅蓮、槙の三人でそのアパートに言って頂戴」

「「「分かりました」」」

 冴子の言葉に透たちがそう返事をすると、捜査しに行くための準備に取り掛かる。そして、準備が出来ると、目的地に向かうために捜査室を出て行った。

「あ……あの……私はどうしたら……?」

 奏は作戦の関係でそのアパートに行くことが出来ないので、ここで待機するのだが、その間、何をしていいのかが分からなくて冴子にそう尋ねる。

「そうねぇ~……。とりあえず、書類整理をしてもらおうかしらね♪」

 冴子がそう言って奏のデスクに書類の束を置く。

「分かりました」

 奏はそう返事をすると、書類一つ一つに目を通していく。

「あの……冴子さん……」

「何?」

 奏の発した言葉に冴子が返事をする。

「例の作戦……、場合によっては賀川さんが危険に晒されるんじゃないでしょうか……?」

 奏が苦しそうな表情でそう言葉を綴る。

「まぁ……、可能性はあるけど……」

「犯人を捕まえるためとはいえ、そんな方法を取っていいのですか……?」

 冴子の言葉に奏がそう言葉を綴る。

「まっ♪今は透たちの連絡を待ちましょう♪」

 冴子が軽快な口調でそう言葉を綴る。

 その言葉に奏はどことなく不安だが、今は他に方法が無いと自分に言い聞かせて、書類整理を再開した。



「……女神に会いたい……」

 賀川がポツリと呟く。

「会いたい……会いたい……会いたい……」

 そう呟き続ける。

 そして、朝だというのに昨日の残りのビール缶を開けて喉を鳴らしながら飲む。

 その表情は暗く、深い闇のような顔をしていた。

 絶望的な黒……。

 沈んでいくような深海の闇……。

 苦しみの感情がグルグルと渦巻き、闇に飲まれていく……。

 そして、窓から外を見て「何をやっているんだろう……」と、自分を責める。

 その時、賀川がある人影を見つけた。

「なんであいつらがここに?!」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...