ファクト ~真実~

華ノ月

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特別編 雨に打たれた鳥たちは光を目指す

21.

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 奏がふいに立ち止まり、そう口を開く。

「奏?」
「奏ちゃん?急にどうしたの?」

 奏の口から出た言葉に透たちが立ち止まり、不思議そうに奏を見つめる。

「急にどうしたんだ?最後の別れの言い方みたいだが……」

 透がいつもの落ち着いた口調でそう言葉を綴る。

「……はっ!もしや奏ちゃん、特殊捜査員を辞めちゃうの?!」

 紅蓮がそう感じ慌てた様子で早口にそう言葉を発する。

 二人の言葉に奏は何も言葉を発しない。

 その時、槙が奏に近寄り口を開く。

「奏……、お前は今から何をしようとしている?」

 慎の言葉に奏が驚きの顔をする。「なぜ分かったの?」とでも言いたそうな表情だ。

「とりあえず、場所を移動しよう」

 槙がそう言って前を歩きだす。奏たちもその後に無言で付いて行く。

 近くの喫茶店に入り、それぞれ飲み物を注文する。そして、その飲み物が運ばれてくると槙が口を開いた。

「……福田を連れて部屋を出ようとした時、奏が志摩に言っていた絶対許さないという言葉が気になっていたんだ。もしかして、奏は何かをしでかすつもりではないのか?と感じていた。これは俺の推測だが、奏はその何かをしでかすのに警察官と言う立場のままでは、冴子さんや俺たちに迷惑が掛かると思い、警察官を辞めて何かをしようとしているんじゃないのか?ってな」

 槙が淡々とコーヒーを啜りながらそう言葉を綴る。

「そうなのか?奏」

 槙の言葉に透がそう口を開く。

「奏ちゃんがしようとしていることって??」

 紅蓮もそれが何か気になるのか奏にそう尋ねる。

 奏はしばらく押し黙ったまま口を開かない。そのままアイスミルクティーをストローで一口飲み、深く息を吐く。

 そして、観念したのか奏が口を開いた。

「……まさか、槙さんにそこまで見破られているとは予想外ですね。確かに私はある事をしようとしています。志摩大臣がしたことをどうしても許せることが出来ないので……」

 奏が力強い瞳でそう言葉を綴る。

「なら奏ちゃん!俺にも協力させてくれよ!」

 紅蓮が陽気な声でそう言葉を発する。

「え……?ですが……」

 奏がその言葉に戸惑う。

 槙の言う通り、奏がしようとしていることは警察官としては好ましくないことだ。警察官も国が管理している。場合によっては紅蓮も警察官を辞めなくてはならない。

「……奏ちゃん、多分奏ちゃんの性格上、俺が協力したら俺まで警察官を辞めることにもなるかもしれないという心配があると思う。でも、きっと奏ちゃんがしようとしていることは沢山の人たちを救う事なんじゃないかな?」

「紅蓮さん……」

 紅蓮の言葉に奏がそう声を発する。奏の顔はどこか嬉しいような申し訳ないような複雑な顔だ。

「な~に♪これで警察官を辞めることになっても俺は構わないさ♪」

 紅蓮がブイサインを出しながら満面の笑顔でそう言葉を綴る。

「奏、とりあえず何をしようとしているか話してくれないか?」

 透がそう言葉を発する。

「実は……」

 奏がそう言って鞄から紙の束を取り出す。

「「「これは?!!!」」」

 奏が持っていた紙の束を見て透たちが驚く。

 それは、福田の家に行った時に見つけた志摩大臣が私利私欲のために原発を稼働したというような事が書かれてある例の資料だった。

「私はこれを大量にコピーして沢山の人に配ろうと思っています」

「「「?!」」」

 その言葉に透たちが驚きの顔をする。

「今でもその原発事故で苦しんでいる人たちが沢山います……。この資料を沢山の人が見れば歩美さんと玲樹さんが行っている署名活動も名前が集まるかもしれません。そしたら、裁判は有利になるかもしれません。ですが、自分が警察官のままでは難しいものがあると思い、警察官を辞めて、何としてでもあの原発事故で国に責任を取ってもらうために、私も協力しようと思っているんです」

 奏が半分泣きそうな目をしながら必死の思いでそう言葉を綴る。


 苦しんでいる人を放っておけない……。

 それは時に自分の仕事を失うことにもなりかねない……。

 それでも、何もしないという事も出来ない……。

 自分は苦しんでいる人を救いたくて警察官になったのだから……。


 奏の中でいろいろな感情が沸き上がる。特殊捜査員に任命されたきっかけも、放っておくことが出来なくて、自分の命を失うかもしれない状況だったのに、それでも犯人の凍てついた心を溶かし、罪を償って貰った。その時も、犯人がある女性にされたことの話を聞いて放っておくことが出来なくて、助けに来た警察官に対してあんな発言をした。

 全ては苦しんでいる人に少しでも優しい光を見てもらうため……。



「……成程な。だから、苦しむ人たちの為に仕事を失ってもいいからあの原発事故を有罪にするために戦おうという訳か……」

「はい」

 透の言葉に奏が力強く返事をする。

「奏、その資料をもう一度見せてくれ」

 槙がそう言って奏から資料を受け取る。

 それをじっと凝視しながら読んでいく。

「……やはり、これでは弱いな」

 槙がその資料に目を落としながらそう口開く。

「どういうことだ?」

 紅蓮がそう尋ねる。

「この資料だけではいくら沢山の人に読んでもらっても署名が集まるか微妙なところだ。そうだな……」

 槙がそう言って何かを考えだす。

「……みんな、今から俺の家に来てくれるか?」

「「「え???」」」

 槙の言葉に奏たちが頭にはてなマークを浮かべる。

「勿論、強制じゃない。警察官を辞めさせられる覚悟がある奴だけでいい」

 槙が何かを覚悟したかのようにそう口を開く。

「私は行きます!」

 奏がそう口を開く。

「……よし!乗りかかった舟だ!俺も行くぜ!!」

 紅蓮が叫ぶようにそう声を発する。

「やれやれ、こうなったら覚悟して俺も行くよ」

 透が半分呆れかえりながらそう口を開く。

「決まりだな。なら善は急げだ」

 槙がそう口を開き、奏達は慎の家に行くためにその喫茶店を後にした。



 最後の幕が上がる……。

 奏たちの想いを掛けたこの事件の最後の戦いが……。



「……よし!行くぞ!!」

「「「はい!!!」」」

 透の言葉に奏たちが力強く返事をする。

 あれから数日後、奏たちはある事を計画し、その準備が完成すると大きなバンに必要なものを入れてその車に乗り込み、ある場所に向かう。

 その場所に着いて奏たちが車を降りる。

「覚悟は良いな?これで警察官を辞めることになっても文句なしだ」

 透がそう言葉を発する。

「はい!これで苦しむ人を救えるなら私は後悔ありません」

 奏がそう言葉を綴る。

「俺もこれで警察官を辞めることになっても自分がしたことは誇りが持てる」

 紅蓮が笑顔を見せながらそう言葉を発する。

「あぁ。俺も全く異論はない」

 槙がいつものような淡々とした口調でそう言葉を発する。


「よし!じゃあ、戦闘開始だ!」


 透の言葉に奏たちはそれぞれ用意を始めた。


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