ファクト ~真実~

華ノ月

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討伐編 前幕 獣に牙を向ける鳥たち

37.

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 梓がそう言って奏の近くまで行き、奏の肩を抱く。

「奏の事をどこまで本気なのか見せて貰ういい機会だと思ってな!」

「「「はい???」」」

 梓のドヤ顔で語るその言葉にその場にいる透たちがポカンとした顔で言う。

「君が何処まで奏に本気で、本当に奏の事を守れる男なのか見せて貰おう」

 梓が奏を自分の胸に引き寄せながら宣戦布告とも取れる発言をする。

「これで、奏を守ることが出来なかったら、奏は私が頂こう!」

「「えぇぇぇぇぇ!!!」」

 梓の語る言葉にその場にいる奏たちが揃えて声を出す。その状況に興味が特に無い透と槙はその様子をただ見ているだけで、特に何も口を挟まない。

「どうする?」

 梓が奏を引き寄せたまま広斗に向き合いながらそう声を発する。

「……分かりました」

 その言葉に広斗が真剣な顔をしてそう答える。

「決まりだな」

 梓がその言葉にニヤリと笑う。

「では、作戦の最終仕上げに失敗は許されない。今から決行日の確認等を行う!」

 梓が奏を解放してそう声高らかにそう言葉を発する。

 そして、奏たちは最終確認を行う。

「……では、明日に向けて今日はしっかり休んでくれ。失敗は許されないからな」

「「「はい!!!」」」

 梓の言葉に奏たちが力強く返事をする。そして、各々部屋に戻っていった。



「……いよいよ明日だな」

 静也が颯希の部屋で静かにそう口を開く。

「そうですね……」

 颯希が静也の肩にもたれかかりながら小さく呟く。

 颯希と静也は並んでベッドを背に腰掛けていた。二人の表情は何処か浮かない。

「明日は大きな転換期なのです……」

 颯希が静かな声でそう言葉を綴る。

「そうだな……。怖いか?」

 静也がさつきの肩を自分に引き寄せながらそう声を発する。

「怖くないと言えばウソになりますね……。でも、これは沢山の人たちを救う為です……。泣き言は言っていられないのです……」

 颯希がそう言葉を綴りながら静かに目を閉じる。

「絶対大丈夫だ……。颯希には俺が付いてるからな……」

 静也がそう言葉を綴りながら颯希を自分の胸に更に引き寄せる。

「一緒に頑張ろうぜ……」

「はい……」

 静也の言葉に颯希が静かに返事をした。


「……芹香せりかか?」

 透は部屋に戻ると幼馴染でもあり、恋人でもある芹香に電話を掛けていた。そして、内容は伏せた状態で明日は大事な件がある事を話していく。

「……その作戦で場合によっては、俺は死ぬかもしれない……。でも、それでも俺に後悔は無い。もし、俺が死んでも悲しまないで欲しい。むしろ、褒めて欲しいかな……」

 透が電話越しに静かにそう言葉を綴る。

『……大丈夫だよ。透は死なない。だって透だもん!私はきっとその作戦が成功して透も無事な事を信じているから!』

 芹香が電話越しにそう言葉を綴る。

「……一体、その自信は何処から来るんだろうな」

 透がそう言いながら苦笑いをする。

「ありがとな、芹香」

 何処か重くのしかかっていた気持ちがほぐれたのか、透が柔らかな声でそう声を発する。

 そして、その後は他愛無い話をしながら時間を過ごしていった。


「とうとう明日だな~。なんか緊張するような楽しみなような、複雑な気分だぜ」

 槙の部屋にやって来た紅蓮が缶ビールを片手にそう言葉を綴る。

「明日は大きな転換期でもあり、大きな大混乱も起きるだろうな。だが、それを恐れていたら何も進まない」

 槙がレモンチューハイの缶を飲みながらそう言葉を綴る。

「下手したら死ぬかもしれないからな……。死にたくないけど……」

 紅蓮がため息を吐きながらしみじみとそう言葉を綴る。

「安心しろ。お前が死んだら俺はもっといい相棒を付けてもらうだけだ」

 槙がレモンチューハイを飲みながら淡々と答える。

「相棒が酷いわ!アタシが死んでもいいっていうの?!」

 紅蓮がハンカチを噛み締めながら久々のオネェ言葉を発する。

「うっとおしいぞ」

 槙が冷ややかな目で紅蓮を見ながらバッサリとそう言葉を切り捨てる。

 その後も、いつものやり取りが続きながら夜が更けていった。


「……大丈夫?」

 奏の部屋に来ている広斗が奏の頭を撫でながらそう声を出す。

 奏は広斗に膝枕をしてもらっていた。その表情は何処か沈んでいる。明日の事の緊張なのか、それとも……。

「ごめんなさい……」

 奏が急にそう声を発する。

「何が??」

 広斗がその言葉の意味が分からなくてそう尋ねる。

「広斗さんを巻き込んでしまったから……。広斗さんの命を危険に晒してしまう事になっちゃった……から……」

 奏がそう言葉を綴りながら瞳に涙を溜める。

「ごめんなさい……広斗さん……ごめんね……」

 奏がそう言葉を綴りながらポロポロと涙を流す。その涙が広斗のズボンに落ちて染み込んでいく。

「僕の方こそ勝手に来てしまってごめんね……。奏をこんな気持ちにしてしまって本当にごめん……」

 広斗が顔を手で覆いながらそう言葉を綴る。

「明日……、一緒に頑張ろう……。奏は僕が必ず守るから……」

 広斗はそう言葉を綴ると、奏を起き上がらせて、力強く抱き締めた。


「……いよいよ、この時が来ましたね……」

「あぁ……。ようやっと奴らに制裁を加えられる時が来たな……」

 リビングにワインとチーズを運んできた佐和子が窓際に立っている梓にそう声を掛ける。

「ようやっと……ようやっとこの時が来た……」

 梓が佐和子からワイングラスを受け取り、ワインを注いでもらいながらそう言葉を綴る。

「頑張ってください。きっと、成功しますよ」

「あぁ……。そうだな」

 梓はそう言うと、ワイングラスに入っているワインを一気に飲み干した。


 最後の幕が開こうとしている……。

 静かに……。

 ゆっくりと……。



 そして、決行当日の朝を迎えた。



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