ファクト ~真実~

華ノ月

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討伐編 前幕 獣に牙を向ける鳥たち

46.&エピローグ

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「ぐっ……」

 梓の言葉に國賀島が苦々しい顔をする。

「はっ……!それがなんだ?国民が何だって言うんだ?この国の政権を握っているのは我々だ!馬鹿な国民は私たちに従って私たちのために命を捨てとけばいいんだ!!」

 黒い笑い声を出しながら國賀島が叫ぶようにそう言葉を綴る。

「……それが真実だな」

 梓が國賀島の言葉にそう声を発する。

「貴様たちは全て抹消だ!我々は警察も手の内にある!貴様らのしたことは犯罪として立証し、葬ってやるからな!覚悟しろ!!」

 國賀島が勝ち誇った顔でそう叫ぶ。

「そうやってまた罪のない人間を理由を付けて葬るのか?!」

 梓がその言葉に反論する。

「だったらなんだ?!そうやって世の中は今まで成り立ってきたんだ!今更不可能な事は無い!!」

 國賀島が息を荒くしながら叫ぶように言葉を綴る。

「……そうか。それを国民が聞いたらどう思うだろうな?」

 梓が不気味な笑みを浮かべながらそう言葉を発する。

「はっ!この部屋には一切盗聴するようなものは無い!お前たちさえ抹消すればすべて闇に葬れる!」

「……許せません」

 國賀島の言葉に奏が体を震わせながら声を発する。

「あなたみたいな人がこの国の首相だなんて聞いて呆れますね……。国民を自分の利益の道具としか考えてないなんて……。自分さえ良ければそれでいいのですか……?そんなこと……許されるわけないじゃないですか!!」

 奏が震える声で言葉を綴る。しかし、最後の言葉は力強く……瞳に力を宿していた。

 そして、そのまま広斗と部屋の中に設置されている大きな出窓の方に足を進めると、出窓のロックを外す。

 大きな出窓が奏と広斗の手によって開けられる。

「なっ?!!」

 その瞬間、窓の外に繰り広げられている異様な光景に國賀島が唖然と声を出した。


「どういう事だ!!」
「俺たちはお前らの犬じゃないぞ!!」
「犯罪者め!!」
「お前は首相を降りろ!!」

 外には国民たちが押し寄せて口々に罵倒するような言葉を発している。


「私たちを殺す気だったの?!」
「貴様の利益の為に俺たちはいるんじゃないぞ!!」
「どういう事か説明しろ!!」
「お前は首相を辞めろ!!」

「「「辞・め・ろ!辞・め・ろ!辞・め・ろ!……」」」


 国民たちの声が揃ってきて國賀島に首相を辞めるように抗議する。

「な……なんだ……これは……??」

 國賀島が状況を把握できずに困惑した顔を浮かべながら声を発する。

「首相!大変です!!」

 木戸がそう言って自分のスマートフォンを首相に見せる。

「さっきの会話が全て映像と一緒にネットで拡散されています!!」

「なっ……?!!」

 木戸の言葉に國賀島がその映像を確認する。

 その映像には、梓たちの顔にはモザイクが掛かっているが、國賀島たちの方には何も掛かっていない状態で、先程の國賀島が発していた国民を馬鹿にするような言葉も全て入り、そのままネットで拡散されていた。

 ネットの映像を確認すると、全て街頭テレビから流れていた映像を見た人たちがそれを動画に撮り拡散したらしく、ここに集まった国民たちは街頭テレビやネットを見て集まった人たちのようだった。

 人はどんどん増え続けて、収拾がつかなくなっている。ネットでも国民の反発の声がどんどん書き込まれており、今までの方法で制限しようとしても追い付かない。


「さて、どうする?国民はほぼ全てこの真実を知ってしまった。これでは収拾はつかないだろうな……」

「あ……あ……」

 梓の言葉に國賀島がガクンと崩れ落ちる。その場にいる木戸たちも顔面蒼白で呆然と立ち尽くしている。

 外では国民の講義の声が収まらない。

 その時だった。

 その出窓に志々雄と葬られたはずの美雨たちが歩を進める。

 そして、その出窓に並ぶと志々雄が透から渡された拡散機を持って大きな声で口を開いた。

「国民の皆さま!聞いてください!!」

 志々雄が大きな声でそう叫ぶ。

 その声に国民たちが「なんだ?なんだ?」と志々雄の方に顔を向ける。

「あれ?あの人たち死んだ人じゃない?」
「あぁ。不正をしてそれを償うために死んだって……」
「どういうこと??」

 集まっている人たちが美雨たちを見て疑問の声を上げる。

 志々雄は拡散機を使って國賀島たちがやろうとしていたワクチンの事や、それを阻止しようとして美雨たちが葬られた事を話した。

 そして、今の国を動かしている政権を握っている人たちから政権を本当に国民の事を思っている人たちに変えて、国民にとって本当に良い国にしていくという事を話した。

 更に國賀島や木戸たちはこの件だけでなく、今までの不正を全て償って貰うように手配することも伝える。

「――――これが私たちの意向です!」

 志々雄がそう言葉を締め括ると、盛大な拍手が巻き起こる。


 革命ともいえる今回の事件はこうして幕を閉じた。



~エピローグ~

「……え?!梓さんってあの神宮寺じんぐうじ 重三郎じゅうざぶろうの孫なんですか?!」

 あれから数日後、シャアハウスのリビングにみんなが集まって梓が発した言葉に透が驚きながら声を出した。

「あぁ、そうだ」

 その言葉に梓が特に興味なさそうに答える。


 神宮寺 重三郎は梓の祖父であり、昔、首相を務めていた人物だった。国民の事を第一に考える重三郎は、国民からの信頼も厚く、まっとうな人だというのは誰でも知っている。

「……だが、じーさんが亡くなってしばらくしてからかな?自分の利益を中心とした野心家の政治家が出てくるようになり、政治はどんどんとおかしな方向に傾いていった。国民の事を考えて行動しようとしている政治家は排除され、自分の利益しか考えていない政治家がどんどん増えていく……。そして、遂に奴らは決してやってはいけないことまでやろうとした……」

 梓が紅茶を啜りながらそう話す。

「今回の件で殺された人が出てしまったのは辛いですね……」

 奏が辛そうな顔でそう言葉を綴る。

 施設で家にも帰してもらえずにワクチンを大量に作らされていた人たちは全て解放されたが、本間は殺されてしまった。その事だけ悔いが残る……。

「とりあえず、ワクチンの接種は阻止できた。殺された本間さんに関しては救うことが出来なくて辛さはあるが、いつまでもその事を引き摺るわけにもいかない。今度生まれ変わった時は良い人生を歩けるように祈ろう」

「そうですね……」

 梓の言葉に奏がしみじみと答える。

「おーい!そろそろ始まるぜ!」

 テレビを見ている紅蓮が梓たちにそう声を掛ける。

 テレビの臨時ニュースでは新たに首相になった人やそれぞれの政権を誰が担当するかが発表されていた。

 新しい首相には志々雄が任命され、防衛相といった他の政権も葬られた人たちが主に就任した。

「……これで、本当に良い国になるといいですね」

 颯希がテレビを見ながらそう言葉を綴る。

「一つ疑問があるのですが、國賀島たちはなぜあの殺人ワクチンを国民に打たせようとしたんですか?」

 静也がその疑問を梓に問う。

「あぁ、それはな……」

 そして、梓がなぜそのような事になったのかを話し始めた。


 梓の話によるとコンフィルトンワクチンを国民に打つように命じたのはある国が関わっていた。その国に日本をその国の土地に明け渡す関係で日本人が不要だからという。だが、國賀島たちはその事に協力したという事で地位と命の保証があったという事だった。

「……だが、その国は口だけで國賀島たちが用済みになったら処分するつもりだっただろうな」

 梓がしみじみとそう言葉を綴る。

「何だよそれ!日本人の昔からある侍魂は何処に行ったんだ?!」

 紅蓮が大きなため息を吐きながらそう言葉を発する。

「そうだな。そんな人たちは今となっては少ないかもしれないな」

 透がしんみりとした表情でそう言葉を綴る。

「なんだか、悲しい話ですね……」

 奏が寂しそうな表情をしながらそう声を発する。


 日本人が持っていたはずの『侍魂』。

 その侍魂を持っている人たちは今となってはあまりいないのだろうか……?

 人々が助け合っていた『あの頃』は何処に行ってしまったのだろうか……?

 今からでもその頃のような時を取り戻すことが出来るのだろうか……?


「……でも、びっくりだな。あの志々雄って奴が梓さんの従弟だというのは」

 槙がテレビを見ながらそう声を発する。

 志々雄ししお 力也りきやは梓の従弟で祖父は同じ重三郎だった。梓の父親の妹が志々雄の母に当たる。

「まぁ、力也もあのじーさんの遺伝子はしっかり持っているからな。きっと、いい方向に国を動かしてくれるだろう」

 梓がどこか嬉しそうな顔でそう言葉を綴る。

「あの……、ところで僕はいつ解放されるのでしょうか?」

 広斗がしどろもどろにそう声を出す。

「あ?あぁ、そうだったな。もういつでも帰っていいぞ?」

 梓が手をヒラヒラと振りながら「はよ帰れ」と言わんばかりにそう声を出す。

「あっ!そうだ!俺、やってみたいことあったんだよな!」

 紅蓮が急に立ち上がって、意気揚々にそう声を出す。

「奏ちゃん、颯希ちゃん、ちょっとこっちに来てくれる?」

 紅蓮が座っているソファーに腰掛けながら、奏と颯希に声を掛ける。声を掛けられた二人は頭にはてなマークを浮かべながらとりあえず紅蓮の近くまで来た。

「奏ちゃんはこっち。颯希ちゃんはこっち」

 紅蓮に言われるがまま奏と颯希が紅蓮を挟むようにソファーに腰掛ける。

「可憐な俺様の花たち♪」

 紅蓮が両手で二人を自分の方に寄せてそう声を発する。


 ――――ドカッ!!バキッ!!…………プシュ―…………。


 紅蓮の後ろと前から静也と広斗が蹴りを入れたりげんこつをして、紅蓮がノックアウトされる。

「「奏(颯希)は僕(俺)のだ!!」」

 広斗と静也がそれぞれ大切な彼女を悪魔から奪い返し、しっかりと守りながらそう返す。

「いや……、ちょっと違うな」

 その様子を見ていた梓が奏と広斗の間に割り込む。

「奏は私が頂こうではないか」

 梓が奏の手を取りながらそう言葉を綴る。

「だ……ダメです!!」

 広斗が慌てて間に割って入る。

「奏は僕のですから!!ちゃんとあの場で奏を守ったでしょう?!」

 広斗が奏を抱き締めながらそう声を発する。

「そうだな。まさかあんな動きが出来るとは意外だったぞ」

 梓がニッコリと微笑みながらそう言葉を発する。

「でも、あの動きは何処で覚えたの??」

 奏があの時の広斗の動きを思い出してそう口を開く。

「その……、海外は場所によっては危険だから、ある程度自分の身を守れるようにテコンドー習ってたんだよ」

 広斗が照れ笑いしながらそう言葉を綴る。

「成程な。それが役に立ったという訳か」

 梓が感心しながらそう言葉を発する。

「だが、あれくらいで奏を渡すとは言っていないぞ?」

「「えぇ?!」」

 梓の言葉に奏と広斗が声を上げる。

 それからは奏でを取り合ったやり取りが続く。

 透たちはその様子を特に何か言う訳でもなくどこか楽しそうに傍観していた。




「……くくっ。その平和をぶち壊したらどんな顔をするだろうな……」

 一人の男が不気味な笑みを浮かべながらそう呟く。

 男はニュースを見ていた。今回の奏たちが起こした出来事は世界のいたるところでニュースになっており、注目されている。

「さて……、攻撃開始しようじゃないか……」

 男が不気味に笑う。

 この男は何者なのか……?

 そして、何が起ころうとしているのか……?

 奏たちはまだ何も知らない……。

 自分たちがあんな出来事に巻き込まれることになるのを……。




(第二幕に続く)
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