はい!こちら、中学生パトロール隊です!!

華ノ月

文字の大きさ
1 / 128
第一章 赤い炎は優しい雨に打たれる

第1話

しおりを挟む
~プロローグ~



「……なんだよ……これ……」

 少年が仲の良い父親と一緒にあるものを見ながらまたお喋りをしようと思い、リビングに備え付けてある物入れから一つのあるものを取り出した。そのあるものには沢山の懐かしいものがある。

 そうやってそれを見ている時だった。その中の一つに目がいった。テープが剥がれかけていて、そのものの裏に何か紙のようなものが挟まっている。少年は不思議に思い、隠すように挟まっている紙を引き出した。

 紙は四つ折りに畳まれていたので、それを広げる。最初に父親の名前が記されていて、どうやら手紙のようだった。

 それを読んでいく内に少年の顔からみるみると血の気が引いていく……。

 その手紙のような紙には少年にとって信じがたいことが書かれてあった。



 そして、その日を境に少年は髪に赤のメッシュを入れて、「ヤンキー」と呼ばれる者になってしまう……。




1.

「フン♪フフフーン♪♪」

 制服に身を包み、姿見の大きな鏡の前で中学二年生の結城ゆいしろ 颯希さつきは鼻歌を歌いながら髪をポニーテールにセットしていた。

 ポニーテールが出来上がり、胸に父がプレゼントしてくれたバッジを付け、腰に手のひらサイズのピコピコハンマーをセットする。そして、首から笛をぶら下げると一呼吸した。

「……よし!!」

「じゃあ、お母さん!行ってくるね!」

 キッチンにいる母に声を掛けて、玄関で靴を履く。右手には大きな虫眼鏡を持ち、元気な声をあげる。


「中学生パトロール隊員!結城颯希!いざ出動なのです!!」


 玄関まで出てきた母親の佳澄かすみに敬礼のポーズをする。

「いってらっしゃい。気を付けてね」

「いってきます!!」

 颯希はそう言うと元気よく家を飛び出していった。

 日曜日にもかかわらず、制服に身を包むのは中学生にとって制服が正式な服装だからである。

 そして、颯希は日曜日になるとパトロール隊員になって町の安全のために近所をパトロールしていた。

 父親が警察署の署長をしており、いつしか警察官の父に憧れて自分も「将来は警察官になりたい!」という夢を持つようになっていく。亡くなった祖父も優秀な警察官で、犯人を特定するための考察に優れた才能を持っていたという話だ。兄である透とおるが、そんな祖父に憧れて趣味が考察になったと知った時、自分も何か警察官になるための訓練ができないと考えたところ、思い付いたのがパトロールだった。

 そして、今に至る……。

 鼻歌を歌いながら颯希は近所を練り歩いていた。時々、落ちている空き缶を見つけると近くのごみ箱に捨てたりして清掃活動も行っている。近くにゴミ箱がない時は、ポケットに忍ばせてあるビニール袋にゴミを入れている。お陰でご近所さんからは『ボランティア活動をしている珍しい子』として、ちょっとした有名人になっていた。

「あら!颯希ちゃん!今日もパトロール?」

 庭に咲いている花に水をやっているちょっと年配の女性が颯希に声を掛けた。

「こんにちは!おばちゃん!町の平和は私が守るのです!」

 颯希はそう言って、笑顔で啓礼のポーズをする。

「頑張ってね!おばちゃん、応援しているよ!……あっ、そうだわ!」

 おばちゃんと呼ばれた女性が家に入る。しばらくすると、小さなお菓子を手にいくつか持って出てきた。

「良かったら、お腹が空いた時にでも食べてね」

 そう言って、女性はキャラメルを颯希に渡した。持ちやすいように巾着に入れてくれる。颯希はお礼を言って受け取った。

 空が晴れ渡り、心地よい風が吹いている。近所にある公園に入り、ちょっと休憩することにした。

 ベンチに腰を掛けて一息つく。するとちょっと離れたところに見えるあるものが颯希の目を捕えた。

「……煙?」

 でも、火事が起きた時の煙ではない。「なんだろう?」と思い、その煙の方に行ってみる。

 煙が出ている所の近くまで来ると、人の気配がした。低木からそっと覗き込むように見てみると、そこには髪に赤いメッシュを入れた一人の少年がタバコを吹かしていた。しばらく様子を見ていると、一口吸う度に咳き込んでいる。どうみても、吸いなれている様子ではない。

 颯希は気付かれないように近くまで行くと、首から下げている笛を手にした。


 ピイィィィィーーー!!


「うわぁ!!」

 突然の笛の音に少年が驚いて声をあげる。

「な……なんだぁ?!」

 笛のした方向に少年が顔を向けると、そこには仁王立ちした颯希の姿があった。

「未成年のタバコは違反なのです!!」

 颯希は少年が吸っていたタバコを取り上げると、足で踏み潰した。そして、丁寧にその吸殻を持っていたビニール袋の中に入れる。

 あまりの突然のことに少年はしばらく呆然としていたが、我に返るといきり立って言葉を発した。

「なんだよ!お前!!」

 怒り顔で颯希に乱暴な言葉をぶつける。

「中学生パトロール隊員、結城颯希!違反は見逃さないのです!!」

 敬礼のポーズをしながら、颯希が笑顔で自己紹介をする。少年はその颯希の態度に口をあんぐりさせてしまい、言葉が発せない。

「未成年のタバコは法律で禁止されているのです。だから吸っちゃダメなのですよ!」

 颯希が少年に顔を近付け、人差し指を立てながら少年を叱る。

「お……お前には関係ないだろ!!」

 ようやく少年の口から絞り出すように言葉を発した。

「違反は違反なのです。代わりに……はい!」

 颯希はそう言うと巾着から出したお菓子を少年に渡す。 

「これ、一つあげるのです!」

 少年が掌を見るとそこには『甘~いキャラメル♪』と印字されているお菓子があった。

「……なんだよ、コレ」
「キャラメル!」
「見りゃ分かるわ!」
「すごいであろう!!」
「なんちゃって漫才をしてんじゃねーよ!!」
「あるがたく受け取るとよい!少年A!」
「俺は犯罪者じゃねーよ!!」

 いかにも「えっへん!」という感じでキャラメルであることを伝えた颯希に少年が突っ込みのようなものを入れる。漫才かコントか分からないようなものを繰り広げていると、颯希が真面目な顔で言葉を発した。

「君さ、なんの意味でタバコ吸っているのですか?」

「……お前には関係ないだろ」

 少年がプイっとそっぽを向く。

「違反だって知っているでしょう?」

 颯希がそう言うと、少年がくるっと颯希に顔を向けてポケットからタバコの箱を取り出す。そして、タバコを掲げながら言葉を綴る。

「ヤンキーといえばタバコ。そして、隠れて吸うのがヤンキーのタバコを吸う定義だ!」

「古っ!」

「うるせー!!」

 少年の良く分からない不良の定義に颯希は思わず突っ込んでしまう。というか、「本当のヤンキーなら堂々とタバコを吸っていると思うのだが……」と思いつつ、あえてそこは突っ込まない。

「……もしかして、誰かへの当てつけ?」

 颯希の言葉に少年の目が見開き、表情が強張っていく。そして、苦々しい口調で少年が言葉を発する。

「……お前なんかに分かるかよ!」


 ―――パシッ!!


 少年はそう吐き捨てると、持っていたタバコの箱を颯希に向けて投げ捨て走り去っていった。


 しかし、この出会いがあんな出来事になるとは誰も予想ができなかった……。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

悲報 スライムに転生するつもりがゴブリンに転生しました

ぽこぺん
ファンタジー
転生の間で人間以外の種族も選べることに気付いた主人公 某人気小説のようにスライムに転生して無双しようとするも手違いでゴブリンに転生 さらにスキルボーナスで身に着けた聖魔法は魔物の体には相性が悪くダメージが入ることが判明 これは不遇な生い立ちにめげず強く前向き生きる一匹のゴブリンの物語 (基本的に戦闘はありません、誰かが不幸になることもありません)

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

処理中です...