はい!こちら、中学生パトロール隊です!!

華ノ月

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第一章 赤い炎は優しい雨に打たれる

第15話&エピローグ

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 トラックが大きな音を立てて、二人を弾き飛ばした。二人の体は宙に飛び地面に叩きつけられる。鈍い音が響いた。

「兄さん!!三和子さん!!」

 その後を追っていた拓哉が大きな声を出しながら二人に駆け寄る。

 そして、救急車が到着すると二人は急いで病院に運ばれた……。





「――――だが、二人とも病院で息を引き取ったよ……」

 拓哉は話し終えると、悲しそうに空を見上げた。

「あの時、私が三和子さんを抱き締めるだけでもしていればこんな悲劇にはならなかったんじゃないかと今でも思う……。でも、私にはできなかったんだ……。兄さんは私にとって親代わりであり、ずっと尊敬していたからね……」

 拓哉の目には涙がにじんでいるように見えた。

「じゃあ、俺を引き取ったのはあんな悲劇を自分のせいで引き起こしたかもしれないっていう罪を償うために……?」

「いや……、それは違う……。私は……これ以上失うのが嫌だったんだ……」

 そして、拓哉は静也を引き取った理由を話し始めた。

「私たち兄弟は割と早くに両親を失っていてね、兄弟で助け合いながら生きてきたんだ。兄さんは私にとって親代わりのような存在でもあった。正義感の強い兄でね、口癖でよく言っていたのが『拓哉のことは俺が守ってやるからな!』と言う言葉だった。そんな兄が私はとても自慢だったし尊敬もしていた。私にとって唯一の身内だったからね。だから、事故で兄を失い、残された兄のたった一つの宝でもある静也を自分が引き取り、尊敬していた兄の代わりに沢山の愛情をもって育てようと決めたんだ。償いとかで引き取ったんじゃない……。私は、これ以上大切な人を失うことをしたくなかったんだ……」

「父さん……」

「私は静也の成長が毎日楽しくて仕方ないんだよ……。正義感が強いところも兄に似ていて、とても嬉しく思った。本当の親子じゃないにしても私には本当の息子も同様だ。本当の父親ではないとはいえ、私は静也の父親であり続けたい……」



 そう言うと、静也を強く抱き締めた。



「静也は、私の何よりも大切な宝だ……」



 拓哉の瞳から涙が溢れて流れる。

「父さん……」

 赤い憎しみの炎が消える……。



 優しい愛に満ちた涙という雨によって赤い炎は消えていった……。





 次の日、颯希は元気よく教室の扉を開いた。

「おっはよー!!」

「おはよう、颯希ちゃん」
「はよー、颯希。相変わらず元気だねぇ~」

 美優と亜里沙がいつもの調子で声を掛ける。

「颯希ちゃん、何かいいことあったの?とても顔が嬉しそうだよ?」

 美優に言われて、颯希は「えへへ」と、笑う。

「実はね、静也くんのことが解決したのですよ!」

 颯希が満面の笑顔で昨日の出来事を話した。

「へぇ、じゃあなんちゃってヤンキーは卒業できたのね」

「良かったね!斎藤くんが元に戻って」

「うん!もう学校にもいつものように来ていると思うのですよ!あっ!ちょっと一組に行ってきますね!」

 颯希はそう言って、教室を出ると一組の教室に向かう。すると、廊下に来斗と雄太の姿が見えて声を掛けた。

「来斗くん!雄太くん!」

 颯希の声に二人が振り向く。

「おはよう、結城さん」
「うーっす、結城。昨日はありがとな!」

 声を掛けた颯希に二人が昨日のことでお礼を言う。

「ところで、静也くんは来ていますか?」

 静也が二人と一緒にいないので心配になって聞いてみる。

「静也くんなら職員室に行ってるよ。先生に謝ってくるって」

「静也の奴、変なところで真面目だからな。学校に着くなり真っ先に職員室に行って心配かけたことをお詫びしてくるってさ」

「……あっ!戻ってきたよ!」

 遠くから静也がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。

「静也くん!!」

 颯希が静也に駆け寄る。

「げっ!説教女!!」
「酷いです!私には結城颯希というちゃんとした名前があるのですよ!」
「俺から見たら口うるさい説教女だよ!」
「なんちゃってヤンキーくんのくせにー!!」
「なんちゃっては余計だ!それにもうヤンキーじゃねぇよ!」

 二人で漫才のようなコントのような展開を広げる。

 静也はあの後、髪の色を戻していた。

「でも、良かったです。静也くんがちゃんと戻ってくれて……」

 颯希が優しい声で言葉を綴る。

「あ……あぁ………」

 颯希の言葉に毒毛を抜かれたのか、静也が少し顔を赤らめる。

「あれあれ~?静也ちゃんの恋の始まりかなぁ~?」

「そうかもね。静也くん、あれから結城さんの話になると少し顔を赤くしてたから」

 いつの間にか近くまで来ていた来斗と雄太に挟まれながら静也が二人にいじられる。

「べ……別にそんなんじゃねぇよ!こんな説教女、俺は願い下げだー!!」

 茹でタコみたいに顔を真っ赤にしながら静也が喚く。

「ねぇねぇ、静也くん。良かったら一緒にパトロールしましょうよ!」

「……は?」

 突然の颯希のお誘いに静也はあんぐりと口を開ける。

「な……なんで俺がお前とパトロールしなきゃなんねぇんだよ……」

「いいじゃん、静也も警察官になりたいっていう夢があるんだからさ!二人で仲良~くパトロールして親密になるといいよ!なっ!し・ず・や・ちゃん♪」

「だ……、誰がこんな女とパトロールするかよ!!」

「だめ……ですか?」

 叱られた犬のように颯希の顔がしゅーんと悲しそうな顔になる。

「あ……えっと……だから……」

 颯希の悲しそうな顔に静也は言葉がうまく出ない。

「ダメ……?」

 颯希が更に悲しそうな顔で言う。

 その表情に静也は声を震わせると、大声で叫んだ。

「だーっ!!分かったよ!やってやるよ!パトロール!だから…………そんな顔すんじゃねぇ!!!」


「ありがとう!静也くん!よろしくね!!」



~エピローグ~

 日曜日、颯希は制服に身を包み、バッジを付け、笛をぶら下げて、腰にピコピコハンマーをセットすると、元気に家を飛び出していった。いつもなら右手に虫眼鏡を持つのだが、静也に「探偵じゃないんだからそれは必要ない」と言われてしまったので、虫眼鏡は持たないことにした。

 静也とは出会った公園で待ち合わせている。

 公園に着くと静也は先に到着していた。

「おはよう!静也くん!」
「おはよー、颯希」

 あれから、静也は颯希の希望もあり、それぞれ名前でお互いを呼ぶことになった。

 そして、今日は二人揃っての初の活動日である。二人で町の清掃も行いながらパトロールを行っていく。

「颯希、ゴミは分別した方がいいぞ。全部一緒にすると後で仕分けなきゃならないからな」

「そうですね!そこまでは考えてなかったのです」

「まぁ、ゴミ捨ては俺が担当しているからな。大体の分別は分かるよ」

「流石ですね!静也くん、凄いのです!」

 そんな会話をしながら二人でパトロールをしていた。



 そんな二人を一つの影がじっと見つめていた……。



 
 (第二章に続く)
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