はい!こちら、中学生パトロール隊です!!

華ノ月

文字の大きさ
21 / 128
第二章 籠の中の鳥は優しい光を浴びる

第6話

しおりを挟む
 颯希は家に帰ると、透の部屋に行った。透にお見舞いにいった時のことや、なぜ犯人に狙われたのか理由が分からないことを話す。学校でも問題がなく明るい子だったことを話していく。そして、いじめられている子を助けた話もした。

 その時だった。透がいじめられていた子を助けた話を聞いて声を出す。

「……もしかして、その子が関係しているんじゃないか?」

「どういうことですか?」

 透の意図が分からなくて颯希が疑問の声をあげる。透はゆっくりと話しだした。

「まぁ、大半はいじめられている子がいじめた子に復讐するために事件を起こすことがよくあるパターンだけど、別のケースも考えられる。もしかしたら、そのいじめられていた子を助けたことによって逆に恨まれているかもしれないっていうことだよ」

「えっと……、助けてくれたのになんで恨まれるのですか?」

「これは俺の考察だけど、助けてもらったことにより更に酷いいじめを受けたケース。もう一つは……」

 透がもう一つのケースを話す。颯希はその内容に驚きを隠せない。

「そんな……」

「まぁ、これはあくまで俺の考察だから本当かどうかは分からない。もしかしたら、ただの通り魔の可能性だって十分あるわけだからな」

 透の言葉に颯希は悲しい表情になる。

 透の二つ目の考えられるケースが今回の事件を引き起こしたのだとしたら、なんて悲しい事件なのだろう……。それが本当だとしたら、犯人は今でも苦しんでいるということになる。

(もしそうだとしたら、助けてあげたいのです……)

 颯希が心の中で呟く。

 悲しい気持ちになり、颯希はなんとかして事件を解明したいと強く願った。




 理恵は近所のコンビニに来ていた。ネットで注文した荷物を近所のコンビニに指定してあったからだ。なぜ、自宅に届けてもらうのではなくコンビニを指定したかというと、理由は簡単だった。

 家に理恵宛で荷物が届いた場合、今の状況では母親に勝手に開封される恐れがある。これを勝手に開封されたら何を言われるか分からない。なので、安全を考えてコンビニを指定配達場所に設定した。

 コンビニで荷物を受け取ると、理恵はそれを持っていた鞄に忍ばせる。しかし、箱のままで家に持って帰ると、母親に何を注文したのか問いただされる可能性がある。理恵はちょっと考えると、コンビニ近くにある公園に行った。

 公園に着くと、箱を開けて中身のものを確認する。その「もの」を鞄に入れると、自分の名前と住所が書いてあるラベルを剥がし、公園にあるトイレに流す。箱は潰して設置してあるごみ箱に捨てる。

 こうやって、あたかも自分に宅配物がなかったように隠ぺい工作を行っていった。



 理恵が夜の七時頃に家に着くと、家の中は真っ暗だった。母親が夜の仕事に行ったのだろう。キッチンには夕飯用であるカップラーメンが机に置かれている。

 実は、父親からの仕送りは止まっていた。前は家に帰らなくても仕送りをしていたのだが、最近はその仕送りが減っていき、最終的には仕送りが無くなっていった。そのことで母親が父親に電話して問い詰めているのを聞いたことがある。

「なんでお金を振り込まないのよ!あなたは私たちを見捨てる気なの?!」

「……は?私のせい?愛人作って出ていったのはあなたでしょう?!」

「……とにかく!今すぐにお金を振り込んで頂戴!じゃないと世間様に面子が立たないわ!私に恥をかかせないでよね!」

 その時、未だにこんな状態になっても世間体を気にする母親に理恵は吐き気が込み上げてきた。

(世間体、世間体って言ってただ単に自分が馬鹿にされるのが嫌なだけじゃない!)

 恐らく、父親もそんな母親の性格に嫌気がさして家を出ていったのだろう。近所には長期の出張と説明しているが、多分、近所の人も父親が家を出ていったということにうすうす感づいているはずだ。夜に派手な格好をして出掛けて行き夜中に帰ってくる。その時間帯に出かけて夜中に帰ってくるのは水商売関係くらいのものだ。

(あんな母親、死んでしまえばいいんだ……)

 心の中で呪いながら、カップラーメンを食べ終えると部屋に戻っていく。そして、パソコンを開くと、あるサイトを開く。そのサイトにはこう書かれていた。


『市販のもので作る毒の作り方』



 日曜日になり、颯希はパトロールのために静也と待ち合わせている公園に行った。

 公園に着くと先に静也が到着している。静也も今日は制服だった。颯希が「パトロールするなら正装!」と言い出し、静也は最初、反対したのだが、颯希が悲しそうな顔で「ダメ?」と言ったので、渋々了承する羽目になったのだった。拓哉にもこれからのパトロールで制服を着ていくことになったことを伝えると、拓哉はちょっと頬を染める。

「いやぁ~、制服デートかぁ~。初々しいねぇ~♪」
「だからデートじゃねぇって言ってるだろ!」
「結婚式の服装は制服をモチーフにしたタキシードとドレスっていうのも良いかもしれないね♪」
「するかよ!!」
「結婚式が楽しみだねぇ~♪」
「いい加減にしろぉぉぉ~!!」

 という、拓哉の妄想が広がり静也は顔を真っ赤にしながら抗議するという親子漫才のような光景が繰り広げられており、最終的には静也が拓哉にハリセンをお見舞いして親子漫才は終了した。



「おはよう、静也くん」

「おはよー、颯希。……何かあったのか?」 

 颯希の様子がいつもと違うことに気付き、静也が声を掛ける。

「そ……そんなことないのですよ!さぁ!今日も町のためにパトロール頑張りましょう!」

 颯希が笑顔で言うが、その表情はどこか影があるように見える。

「……今日のパトロール、中止するか?」

「だ……大丈夫なのですよ!さぁ!行きましょう!」

 颯希が先頭を切って歩きだす。

 いつものように清掃活動を行いながら、町をパトロールしていく。

 その時、颯希が急に後ろを振り返った。

「またなのです……」

 強い憎しみの視線を感じ、振り向くが、通行人はいるものの知っている人はいない。

「颯希、もしかしてまた視線を感じたのか……?」

 静也が心配そうに声を出す。

「はい……、気のせいだとは思うのですが、最近時々視線を感じるのですよ。その、なんというか、憎しみのような感じの視線で、気のせいだとは思っているのですが、その頻度が多いので気にはなっているのです……」

「憎しみの視線、ねぇ……」

 颯希の言葉に静也が呟くように答える。


 その後は、特にその視線を感じることなく、パトロールは終了した。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

悲報 スライムに転生するつもりがゴブリンに転生しました

ぽこぺん
ファンタジー
転生の間で人間以外の種族も選べることに気付いた主人公 某人気小説のようにスライムに転生して無双しようとするも手違いでゴブリンに転生 さらにスキルボーナスで身に着けた聖魔法は魔物の体には相性が悪くダメージが入ることが判明 これは不遇な生い立ちにめげず強く前向き生きる一匹のゴブリンの物語 (基本的に戦闘はありません、誰かが不幸になることもありません)

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

処理中です...