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第三章 小花は大きな葉に包まれる
第11話
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トゥルル……トゥルル……。
携帯電話が響き、茂明は電話に出た。
「もしもし、茂明さん?」
電話の相手は恵美子だった。茂明は突然のコンタクトに驚き、すぐに言葉が出なかった。
「小春に会ったみたいね……。酷い人ね。私に連絡くれてもいいじゃない……。それとも、こんな私のことはやっぱり嫌いなの?」
電話越しに聞こえる恵美子の声はどこか淡々としていた。もしかしたら、茂明に対する「好き」と言う感情は本当にないのかもしれないと感じるほどの淡々とした口調……。その口調に茂明は心が締め付けられる思いに駆られる。
「恵美子……、すまなかった……。あんな酷いことを言ってしまって本当にすまない……。今は本当に反省している。もう二度とあんなことは言わないし、償いにならないかもしれないが、これからは恵美子と小春のために精いっぱい働いて、二人が少しでも幸せに暮らせるように頑張るよ……。だから……、頼む……恵美子……、もう一度三人で暮らさせてくれ……」
茂明が懇願するように言葉を綴る。
「明日、夜八時によく三人で行った公園に来て……」
恵美子がそう告げると、電話は唐突に切れた。
ツーツーツーと言う音だけが茂明の耳に響き渡る。
「母親を病院に……ですか?」
颯希の持っていた紙を元にその住所に向かう。四人で歩きながらその場所を目指す。哲司は自転車を引きながら歩いている。その道中、精神的に不安定になっていると判断した工藤は恵美子に病院を紹介して、薬物療法を受けていることを話した。
「最近になってきて、やっと薬物治療の効果が出てきたのか、今は最初の頃と比べるとだいぶ落ち着いてきたんですよ。でも、彼女には支えてくれる人が必要です。私ではできることが限られていますからね。それに、彼女の口から今でも旦那さんのことが好きだということは聞いています。酷いことを言われたそうですが、それでも旦那さんを愛している、とね」
ただ、恵美子に何を言われたか聞いたのだが、恵美子は答えてくれなかったという。茂明の言った言葉をあまり知られたくないのか、もしくは茂明のことを社会的に守ろうとしているのか……、それは恵美子本人しか分からない答えだった。
「なので、花島さんと連絡を取ろうとして会社の方にも電話をしたのですが、退職されていたので連絡の取りようがなかったのですよ。それがまさかこんな形で花島さんに会えることになるとは思っていませんでしたがね……」
工藤はそう言いながら苦笑いをする。どうやって連絡を取ればいいのか悩んでいたので、それが一気に解決して内心ホッとしている。後は、茂明が二人の元に戻ることができれば今回の事案はとりあえず解決となる。しばらくは、様子を見に伺うことにはなるがそれが仕事でもあるので特に問題はない。
そして、四人は茂明がいるアパートの前に到着した。
――――ピンポーン……。
相当古いアパートなのだろうか……。インターフォンではなくて、昔ながらの小さなベル式のチャイムが各部屋に備え付けてあるだけだった。それを鳴らし、茂明がいるかどうかを確認する。
しばらくすると、茂明がドアを開けた。
「颯希ちゃんに静也くん……。それに……警察の方ですか?」
哲司が警察官の格好なので隣にいる工藤も警察官だと勘違いする。
「突然押しかけて申し訳ありません。私、役所の生活安全課に在籍しております、工藤と申します」
工藤が名刺を差し出しながら丁寧にお辞儀をする。
「あの……それで、警察の方まで来てますが、私に何の用事でしょうか?」
警察官が来ているというので、茂明が不安そうな声で問う。その問いに哲司が慌てて声を発する。
「あっ!私はただ一緒に付いてきただけですので事件ではありません。不安にさせてしまい申し訳ない」
哲司の言葉に安心して、茂明は心を撫でおろした。そして、工藤から話があるということで部屋に上がってもらう。
部屋は食べた後のごみで散乱していた。無理やりみんなが座れるようなスペースを作り、腰を下ろす。そして、工藤が話し始めた。
「では、本題に入ります。恵美子さんと小春ちゃんのことですが――――」
そう言って工藤は話し始めた。
恵美子の住んでいる同じアパートの住人からの通報で、よく何かが割れるような音が響いているという事や、小春を虐待している恐れがある事、恵美子が精神的に病んでいる様子だったので病院に行き、薬を処方されていること。
そして、恵美子は今でも茂明のことを愛しているということ……。
「――――という事がありまして、あなたのことを探していたのです。でも、何も手掛かりがなくて途方に暮れていたのですがひょんな事からあなたの居場所が分かり、こうしてお伺い致しました」
工藤の言葉を茂明は唖然とした表情で聞いている。颯希たちからも聞いていたが、それが本当なのだと分かり、言葉が出ない。一番驚いたのは、恵美子が病院に通っているという事だった。自分の行動がそこまで恵美子を追い詰めていたのだと分かりやりきれない気持ちになる。
「花島さん、一度恵美子さんと会ってみてはいかがでしょうか?」
工藤の提案に茂明は先程、恵美子から電話があり、明日の夜八時に公園に来るように言われたことを話した。
「では、恵美子さんと話し合いをするのですね?」
「はい、私も恵美子と小春の三人でもう一度暮らしたいと思っています……」
「失礼ですが、なぜ別居なさっているのですか?」
工藤の言葉に茂明は表情を暗くさせながら、小さな声で話し始めた。
「私が浮気をしたのです……。成り行きですがね……。それが恵美子にばれた時に酷いことを言ってしまって……」
「酷いこと……?」
「はい……」
「もし、差し支えなければ教えて頂いても宜しいですか?」
工藤の問いに茂明は苦しそうな顔をした後、呻くように言った。
「……子供産んで腹がダルダルになった女に興味なんかねぇよ!と……」
茂明の言葉は確かに酷い言葉だった……。こんな言葉を言われたら、大半の女性は茂明を軽蔑するだろう。それでも、恵美子はまだ茂明のことを愛しているという。
「……恵美子はどこか脆く儚いところがある人でした。でも、とても純粋な人なんです。だから、俺が守らなきゃいけないと思い結婚しました。小春のこともとても可愛がっていて、あんなことになるまではよく公園にピクニックがてら遊びに行っていました……」
ポツリポツリと茂明が話す。
「全部、俺のせいなんです……。やり直せるならやり直したい……」
茂明はそう言いながら手で頭を抱えるように項垂れた。
今は、自分の過ちをすごく反省している様子が伝わってくる。きっと、茂明も勢いで言ってしまっただけで、恵美子のことは今でも愛しているのだろう。
「では、恵美子さんとのお話が終わりましたら、どうなったのかまたご連絡ください」
工藤がそう言うと、茂明は「分かりました」と言い、颯希たちはその場を後にした。
帰り道の途中で哲司と工藤と別れ、静也と一緒に帰路に着く。颯希はその間も何かを考えていた。そして、静也に向っておもむろに言葉を発した。
「……静也くん、良かったらうちに少し寄りませんか?」
携帯電話が響き、茂明は電話に出た。
「もしもし、茂明さん?」
電話の相手は恵美子だった。茂明は突然のコンタクトに驚き、すぐに言葉が出なかった。
「小春に会ったみたいね……。酷い人ね。私に連絡くれてもいいじゃない……。それとも、こんな私のことはやっぱり嫌いなの?」
電話越しに聞こえる恵美子の声はどこか淡々としていた。もしかしたら、茂明に対する「好き」と言う感情は本当にないのかもしれないと感じるほどの淡々とした口調……。その口調に茂明は心が締め付けられる思いに駆られる。
「恵美子……、すまなかった……。あんな酷いことを言ってしまって本当にすまない……。今は本当に反省している。もう二度とあんなことは言わないし、償いにならないかもしれないが、これからは恵美子と小春のために精いっぱい働いて、二人が少しでも幸せに暮らせるように頑張るよ……。だから……、頼む……恵美子……、もう一度三人で暮らさせてくれ……」
茂明が懇願するように言葉を綴る。
「明日、夜八時によく三人で行った公園に来て……」
恵美子がそう告げると、電話は唐突に切れた。
ツーツーツーと言う音だけが茂明の耳に響き渡る。
「母親を病院に……ですか?」
颯希の持っていた紙を元にその住所に向かう。四人で歩きながらその場所を目指す。哲司は自転車を引きながら歩いている。その道中、精神的に不安定になっていると判断した工藤は恵美子に病院を紹介して、薬物療法を受けていることを話した。
「最近になってきて、やっと薬物治療の効果が出てきたのか、今は最初の頃と比べるとだいぶ落ち着いてきたんですよ。でも、彼女には支えてくれる人が必要です。私ではできることが限られていますからね。それに、彼女の口から今でも旦那さんのことが好きだということは聞いています。酷いことを言われたそうですが、それでも旦那さんを愛している、とね」
ただ、恵美子に何を言われたか聞いたのだが、恵美子は答えてくれなかったという。茂明の言った言葉をあまり知られたくないのか、もしくは茂明のことを社会的に守ろうとしているのか……、それは恵美子本人しか分からない答えだった。
「なので、花島さんと連絡を取ろうとして会社の方にも電話をしたのですが、退職されていたので連絡の取りようがなかったのですよ。それがまさかこんな形で花島さんに会えることになるとは思っていませんでしたがね……」
工藤はそう言いながら苦笑いをする。どうやって連絡を取ればいいのか悩んでいたので、それが一気に解決して内心ホッとしている。後は、茂明が二人の元に戻ることができれば今回の事案はとりあえず解決となる。しばらくは、様子を見に伺うことにはなるがそれが仕事でもあるので特に問題はない。
そして、四人は茂明がいるアパートの前に到着した。
――――ピンポーン……。
相当古いアパートなのだろうか……。インターフォンではなくて、昔ながらの小さなベル式のチャイムが各部屋に備え付けてあるだけだった。それを鳴らし、茂明がいるかどうかを確認する。
しばらくすると、茂明がドアを開けた。
「颯希ちゃんに静也くん……。それに……警察の方ですか?」
哲司が警察官の格好なので隣にいる工藤も警察官だと勘違いする。
「突然押しかけて申し訳ありません。私、役所の生活安全課に在籍しております、工藤と申します」
工藤が名刺を差し出しながら丁寧にお辞儀をする。
「あの……それで、警察の方まで来てますが、私に何の用事でしょうか?」
警察官が来ているというので、茂明が不安そうな声で問う。その問いに哲司が慌てて声を発する。
「あっ!私はただ一緒に付いてきただけですので事件ではありません。不安にさせてしまい申し訳ない」
哲司の言葉に安心して、茂明は心を撫でおろした。そして、工藤から話があるということで部屋に上がってもらう。
部屋は食べた後のごみで散乱していた。無理やりみんなが座れるようなスペースを作り、腰を下ろす。そして、工藤が話し始めた。
「では、本題に入ります。恵美子さんと小春ちゃんのことですが――――」
そう言って工藤は話し始めた。
恵美子の住んでいる同じアパートの住人からの通報で、よく何かが割れるような音が響いているという事や、小春を虐待している恐れがある事、恵美子が精神的に病んでいる様子だったので病院に行き、薬を処方されていること。
そして、恵美子は今でも茂明のことを愛しているということ……。
「――――という事がありまして、あなたのことを探していたのです。でも、何も手掛かりがなくて途方に暮れていたのですがひょんな事からあなたの居場所が分かり、こうしてお伺い致しました」
工藤の言葉を茂明は唖然とした表情で聞いている。颯希たちからも聞いていたが、それが本当なのだと分かり、言葉が出ない。一番驚いたのは、恵美子が病院に通っているという事だった。自分の行動がそこまで恵美子を追い詰めていたのだと分かりやりきれない気持ちになる。
「花島さん、一度恵美子さんと会ってみてはいかがでしょうか?」
工藤の提案に茂明は先程、恵美子から電話があり、明日の夜八時に公園に来るように言われたことを話した。
「では、恵美子さんと話し合いをするのですね?」
「はい、私も恵美子と小春の三人でもう一度暮らしたいと思っています……」
「失礼ですが、なぜ別居なさっているのですか?」
工藤の言葉に茂明は表情を暗くさせながら、小さな声で話し始めた。
「私が浮気をしたのです……。成り行きですがね……。それが恵美子にばれた時に酷いことを言ってしまって……」
「酷いこと……?」
「はい……」
「もし、差し支えなければ教えて頂いても宜しいですか?」
工藤の問いに茂明は苦しそうな顔をした後、呻くように言った。
「……子供産んで腹がダルダルになった女に興味なんかねぇよ!と……」
茂明の言葉は確かに酷い言葉だった……。こんな言葉を言われたら、大半の女性は茂明を軽蔑するだろう。それでも、恵美子はまだ茂明のことを愛しているという。
「……恵美子はどこか脆く儚いところがある人でした。でも、とても純粋な人なんです。だから、俺が守らなきゃいけないと思い結婚しました。小春のこともとても可愛がっていて、あんなことになるまではよく公園にピクニックがてら遊びに行っていました……」
ポツリポツリと茂明が話す。
「全部、俺のせいなんです……。やり直せるならやり直したい……」
茂明はそう言いながら手で頭を抱えるように項垂れた。
今は、自分の過ちをすごく反省している様子が伝わってくる。きっと、茂明も勢いで言ってしまっただけで、恵美子のことは今でも愛しているのだろう。
「では、恵美子さんとのお話が終わりましたら、どうなったのかまたご連絡ください」
工藤がそう言うと、茂明は「分かりました」と言い、颯希たちはその場を後にした。
帰り道の途中で哲司と工藤と別れ、静也と一緒に帰路に着く。颯希はその間も何かを考えていた。そして、静也に向っておもむろに言葉を発した。
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