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可愛い子には旅をさせよ

第269話

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 僕の手元には数通の手紙がある。

 今日の仕事はこれを読む事と、返事を書く事だなって言いながら刀雲は仕事に行った。
 読むためのリラックススペースはもちろん、紅茶とお菓子、返信用のペンと紙も机の上に用意されている。

 いつのならシャムスが膝の上に座ってお手紙読んでくれたり、アー君がこっそりお菓子を食べようとしたり賑やかだから、この静けさがちょっと寂しい。

『ちーずどりあ美味かった』

 これは白ちゃん。
 うねうねして文字として成り立ってないけど、そこは言語翻訳が仕事をしてくれている。

 白ちゃんの手紙とともに届いた手紙がもう一つ。
 こちらはお嫁さん、幼いけど丁寧な文字でレシピやお土産などへの感謝が綴られた前半、作った料理は多少焦げてしまったのも含めて、全て白ちゃんが「美味しい」と平らげてくれたと惚気が延々と書かれた後半。

 隙あらば惚気合う二人はとても似合いの夫婦だと思う。
 さすが騎士様が選んだ伴侶。

『母様のお陰で両想いになりました』

 キチッとした綺麗な文字は鬼羅、邪神親子とのやり取りでお互いに想いを自覚し、想いを伝えあって無事恋人になったようだ。
 最後の所に刀羅の文字で『タルト忘れないでね』と走り書きが、鬼羅が封をする直前に追記したと推測。
 
 学生食堂に出すタルト、種類が絞り切れないんだよね。
 神薙さんはどれも目を輝かせて食べるからあまり参考にはならないのが困りもの、うーんどうしようかな、季節のフルーツとかあれば使ってみたい。
 安易に大量入荷出来る食材がいいよね、いや待てよ、安易に手に入らないなら栽培してしまえばいいじゃない、いざとなったらマシュー君の所にお願いしよう。

『求、おやつの追加』

 これはアー君から。
 魔力で作った鳥が今朝届けてくれました。

 ……帰って来ようよ、幾らでも作ってあげるから。

『母よ、ラセンが孕まない』

 武将のようなゴツイ字はタイガ、なぜわざわざ手紙にしたのか……。

『今日の夕食後のデザートにフルーツ選んでおいてね、母様が採りに行っていいけれど一人で行かないように。つまずかないように足元に注意して、ゆっくり歩く事、それから――』

 後半、延々と注意事項が書いてあるのはアカーシャ、どちらが親か分からない。

『イネスの子を宿しました。今度流産したら命が本格的にやばいので、食事お世話になります。イネスの奴、前回の件よりによって母上に密告しやがった!』

 震える文字で書かれたこちらはラーシャから、もう一枚肉球スタンプがされた紙が入っていたけれどそちらはイネスだろう、読めないけど。

 ああ、そうか、僕が寂しがっているから慰めるために手紙くれたんだ。

「ふふ……夕食は腕を揮わないとね」

 そして最後の一通。

 三枚に渡り肉球スタンプがぎっしり。

「シャムス……」

 もしや肉球スタンプなこれは獣族の言語なのだろうか、シャムス、イネス、アー君……僕、これ読めない。
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