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君を愛することはない系 1-9

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「皆、下がっていてくれ」
「シリウス様!?」
「大丈夫、俺はあいつを倒せる力を持っている」

 多分。婚約者が教えてくれた俺のプロフィールが本当なら、この状況をどうにか出来るのは俺のみ。
 ……あれ、それってちょっとかっこよくない?誰か後で俺の婚約者に雄姿を語ってね!いや、やっぱなしで、俺の婚約者に話しかけるなど許さん!

 俺は剣を抜き放ち、切っ先を少女に向けた。

「俺の名はシリウス・アストレイア、王家の血に連なる者にして、王太子の盾となる者!」

 決まった!! でもなんかこう、制服じゃなくて正装で言いたかったかな。

「な、なにを言って……」

 よし、動揺を誘うことに成功、このままいくぜ!

「嘘よね、君はわたしのことすきだから、きをひきたくてそんなこというんだよね?」
「根の腐った花畑を持つ者よ、お前の問いに一つだけ答えるならば、俺が君を愛することはない!!」

 頭がお花畑な奴を好きになるのは同じお花畑な奴だけですよ!

「我が国民に害をなす者よ、貴様の所業、もはや国民とは呼べぬ!!王家として断罪する!」
「!!」
「殿下、我らの力もお使いください!」
「みな、ありがとう!くらえ!セイクリッドセイバー!!」
「ぎゃああぁぁぁ!!」

 ヒドインが光となって消えていく。

「……」
「……」
「……」
「……あの、委員長、今更だけどセリフくさすぎない?」
「僕もそう思います……」
「セイクリッドセイバーってなんですか」
「あれはもうノリと勢いの世界だから」
「……そうですね」

 こうして、俺たちは平和を取り戻した。
 教室はボロボロ、ガラスの破片が飛び散っているけど、怪我人はゼロ! これも全て俺の活躍のおかげだね!

 でも安心して欲しい、これ幻影だから。
 ほら、教室の端から世界が戻ってきている。はー疲れた。

「大丈夫か?」
「はい、助けていただき、本当にありがとうございました」
「気にするな、当然のことをしたまでだ」
「まあ素敵!」
「さすが王子だな!」
「格好よかった!」
「惚れ直したわ!」
「っよ、さすが王太子の盾!」
「お前らなぁ」

 苦難を共に乗り越えたおかげでクラスメイトとの親密度がアップしました。
 委員長が呆れ顔してるけど、君も内心ではそう思ってるよね?ね?

「あれ、そこに倒れてるの……?」
「盾の人、桃色が倒れています!」
「良かった死んではないようだね、さぁ縛り上げよう」
「はい!」

 魔封じとかあると便利なんだけどなぁ。思いながら縛るものがなかったので、男子からネクタイを集めて皆でぐるぐるしました。目も隠しておこうか、魅了系だったら面倒だし。

「おいこいつ泣いてないか?」
「怖い思いをしたのは俺らなのに」
「トラウマになったよな」
「そうだな」
「……(コク)」
「よし、これでOK、先生が来るのを待とう」
「はい!」

 さて、今回の一件で分かったことが一つあります。
 それは、この学園には、危険な奴がいるということです。筆頭は目の前でぐるぐる巻きにされて転がっているピンクだけどね!

 私がヒロインなのに!とか叫んでるけどここは現実ですので、あしからず。
 あと俺、婚約者いるから。

 ちなみに婚約者のいなかった委員長。
 騒ぎを聞きつけて駆け付けた婚約者にクラス代表として紹介したら、婚約者の護衛をしてしている影とそのまま婚約まで突き進みました。どこに驚けばいいのかもう分からないよ。

 後日、ピンク髪の少女はどこかの辺境に送られることになりました。

「どうして私がこんな目にあわなくちゃいけないの!ここはヒロインである私のためにある世界じゃないの!?」
「おい、口輪がずれてるぞ!」
「もういい、面倒だからサイレンの魔法かけておけ!!」
「――!!」
「……なんかすごい叫び声聞こえません?」
「聞かなかったことにしよう」
「そうですね」
「うんうん」

 その後、学園内では不思議な噂が流れ始めた。
 曰く、『異世界転生して乙女ゲームの世界だと思ったらホラー世界だった!』と。

「ねぇ、その話詳しく聞かせてもらえる?」

 そして物語はループする。


END
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