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Episode0 今世の結末

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走馬灯を知っている人は多いだろう。生死の狭間にたったとき、自分の人生を短い時間で頭の中で思い返すもの。と俺は認識している。


俺の名前は影人(あきと)。ただ名前を語ったところでその「俺」が今まさにこの世から去る寸前になっていた。


代わり映えもなく、かと言えば社会的に見れば喜ばれはしない「廃人ゲーマー」として学校生活を送っていた俺は朝起きて、否、起きずして事態は起きた。一週間に渡るイベントをほぼ不眠で制した俺は集中力がゼロに近い状態に陥っていた。そんな人間が道路をふらふらしながら登校した時、考えられるパターンはそう多くないと思う。つまづき、車道に出た俺を迎えたのは大型のトラックだった。

「危ねぇ!」

運転手の男性が叫んだときは手遅れだった。俺はトラックに轢かれ、この世を去ろうとしていた。


鈍い痛みとともに、俺は今日の朝からこの事態までを寝不足だったはずの、驚くほど冴えた意識で回想していた。だがそれも一瞬で、意識は薄れ始め、死を実感する中、俺は「それ」を見た。


頭の中に記憶が流れる。俺自身も忘れていたような小さい頃の思い出がゆっくり感じる時間と薄れた意識によって夢のように語られていく。そしてやがて17年間の俺が語られ終わる。

そして一人で過ごした文化祭を見た後、俺を違和感が襲った。見ている光景がいきなり変わったのだ。


正確には「俺」視点ではなくなったのだろうか?まず俺の町には城なんてものは存在しない。今や近代化が進み、田舎だと思っていた俺の住んでいた町も、いや国全体にビルやマンションが建ち並び、風情を感じるものは無かったはずだ。そして次に視点となっていた人物、先程までは制服を着た俺だったが軽鎧を着た男となっていた。少なくとも俺は着たことはないし、着ている奴も見たことがない。


これがただの夢、または妄想だとしても俺はこの光景に釘付けになっていた。ゲームばかりやっていた俺はこのような世界に憧れを抱くことも少なくなかった。鎧を着た彼の人生は輝いて見えた。


(夢や妄想なら俺の頭にしては最期に良いもの作ってくれるじゃないか)

彼がモンスターを倒すたびに感動するほど、このままずっとこれを見続けたいと思うほど充実していた。彼がラスボスらしき何かを倒した時、俺は苦痛に襲われた。どうやらこれで終わりらしい。


眠るように意識を失い、どれ程時間が経ったのだろうか?俺は「目覚め」てベッドに腰かけた。窓にはあの夢で見た城を中心に街の景色が写っている。

「え?」

俺はすっとんきょうに声をあげ、その場で固まっていた…。

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