フットサル、しよ♪

本郷むつみ

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伝説、作ります♪

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「ほら、いつまで落ち込んでいるんだ。さっさと学校に行くぞ」

 そう言って理沙が志保の後ろ襟を掴み、引きずりながら学校へ向かう。

「わ~ん、私、学校、変えるの~。もう1回入試する。転校するの~」

 理沙に引きずられながら志保が駄々をこねる。

「馬鹿な事を言ってないで学校に向かうぞ! 入学式に遅刻なんて、私が側にいてそんな事は絶対に許さない!」

「私は帰る~」

「はいはい、早く行くぞ」

 志保を引きずる理沙の手が急に重くなる。何かあったかと思わず理沙が振り向くと、電柱にしがみついた志保の姿がそこにあった。
(こ、この展開は予想できなかった)
 まさか漫画のように電柱にしがみつき、駄々をこねる高校生を見るとは理沙は夢にも思わなかった。もはや、ため息しか出ない理沙。

「嫌だ~。サッカーの無い高校生活なんて、キャベツの千切りがないトンカツみたいじゃん~」

「意味の分からないこと言ってないで、さっさと離れろ~」

 力を込めて引っ張る理沙に対して、必死で電柱にしがみつく志保。
 お互いの力は均衡し、勝敗が決まる気配はない。一息ついた理沙が落ち着きを取り戻し、冷静に考えてみた。
 その間も全力で電柱にしがみつく志保。この状態になった志保は力づくでは動かない。
 保育園でも小学校でも中学校でもよくある出来事だった。

(こういう時は……)

 保育園からの付き合いで、幼馴染の志保の扱いには自信がある理沙。

「じゃあさ、志保。サッカー部が無いなら自分で作ればいい」

「そんな事、出来るわけない~」

 頭が取れそうなぐらい首を横に振り、今まで以上に力を入れて電柱にしがみつく志保。

「でもさ、出来たら志保は初代部長だぞ」

 理沙の悪魔の囁きに志保がピクリと反応する。

(相変わらず志保は分かりやすい)
 
 理沙は心の中で微笑んだ。そして続けて

「私の親友が初代部長。そんな事になったら私はみんなに自慢出来るな。入学早々偉業を達成し、そして全国へ。岡家高校の伝説になる。うん、間違いなく」

 と、理沙が言い終わらないうちに志保は立ち上がり、ダッシュで学校へ駆け出した。

「ほら、理沙。行くよ。入学式に遅れちゃうよ。伝説を作る私が、こんなところで汚名は残したくない。汚名挽回~」

「それ、違っているぞ!」

 理沙がツッコむ間もなく志保の姿はどんどん遠くなっていく。そして志保を追うように理沙も学校へと走り出した。
 理沙の前を走る戸崎志保(とさき しほ)は頭の後ろで束ねたポニーテールを揺らしながらどんどん加速していった。
 元サッカー部でエースだった志保。速さとスタミナは歴然だった。そのため、前を走る志保と理沙との距離はどんどん開いていった。
 いつも元気一杯で天然な志保を理沙は大好きだった。
 トレードマークのポニーテールがとてもよく似合い、大きな瞳がより一層彼女の魅力を引き立たせる。
 調子に乗るとどこまでも駆けていったり、胸が小さい事にコンプレックスを持ったり、裏表が無く誰とでもすぐに仲良くなれる性格。
 サッカーが大好きで小学校から男子に混ざってボールを追っかける姿は、理沙の憧れだった。さっきは照れがあって上手く言えなかったが、志保と一緒の高校に行ける事を理沙は誰よりも心から喜んでいた。
 理沙が息を切らし学校に到着すると、校門の前で志保が両手を挙げ、ピースサインをして待ち構えていた。

「やったよ、理沙~。同じクラスだよ~」

 最高の笑顔で迎えてくれた志保に理沙は駆け寄って抱きしめる。理沙がこういう風に態度や行動で気持ちを表す事はほとんどない。

 志保はかなり驚いた。が、すぐに

「これからまた1年間、よろしく」

 と、理沙を抱き締め返した。


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